判例全文 line
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【事件名】DV本の共同著作事件
【年月日】平成16年2月18日
 東京地裁 平成14年(ワ)第27550号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成15年11月17日)

判決
原告 X
訴訟代理人弁護士 正野嘉人
被告 NことY1
被告 株式会社早稲田出版
被告 Y2
被告 Y3


主文
1 被告Y1は、原告に対し、金115万2258円及びこれに対する平成14年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社早稲田出版は、原告に対し、金13万6000円及びこれに対する平成14年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の100分の1と被告株式会社早稲田出版に生じた費用の20分の1を被告株式会社早稲田出版の、原告に生じた費用の10分の1と被告Y1に生じた費用の5分の1を被告Y1の、原告と被告らに生じたその余の費用のすべてを原告の、それぞれ負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して金300万円及びこれに対する平成14年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社早稲田出版及び被告Y1は、連帯して朝日新聞、毎日新聞及び読売新聞の各全国版に別紙記載の謝罪広告を別紙記載の条件で各1回掲載せよ。
3 被告Y1は、原告に対し、金115万2258円及びこれに対する平成14年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは、原告に対し、連帯して、金68万円及びこれに対する別紙書物目録記載の書籍販売の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、あらかじめ原告の書面による明示の承諾がある場合を除き、別紙書物目録記載の書物につき、一切の補訂、改訂又は増刷等及び販売、頒布をしてはならない。
6 被告らは、原告に対し、連帯してその所持ないし保管する(在庫・返品・執筆者贈与分等の態様のいかんを問わない。)別紙書物目録記載の書物をすべて廃棄せよ。
7 被告Y1は、あらかじめ原告の書面による明示の承諾がある場合を除き、別紙接触禁止者リスト記載のいずれの者に対しても、一切の接触を図ってはならない。
第2 事案の概要
1 概要
(1) 著作権侵害に基づく損害賠償請求等
 原告は、別紙書物目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を単独、又は被告Y1(以下「被告Y1」という。)と共同で創作したとして、本件書籍を出版する被告らの行為が、原告の著作権及び著作者人格権を侵害する旨を主張して、被告らに対し、損害賠償の支払、謝罪広告の掲載及び本件書籍の発行差止等を求めた。
(2) 契約に基づく立替金支払請求等
 原告が、被告Y1との契約に基づいて、@被告Y1に対して、本件書籍の執筆に当たり取材旅行をした際の立替金の支払及び別紙接触禁止者リスト記載の者に対する接触の禁止を、A被告らに対して、本件書籍の原稿料の支払をそれぞれ求めた。
2 争いがない事実等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、女性問題や家庭内暴力等の問題等に係る活動を行ってきた者である(甲42、54)。
イ 被告ら
(ア) 被告Y1は、「N」のペンネームで、作家等の活動をする者である(乙1)。
(イ) 被告株式会社早稲田出版(以下「被告会社」という。)は、書籍・雑誌等の出版及び販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。被告Y2は、被告会社の代表取締役であり、被告Y3は、被告会社の編集主幹である。被告会社は、本件書籍を販売した。
(2) 原告、被告Y1間の覚書(甲2)の締結
 原告と被告Y1は、平成13年1月1日、以下の内容を含む覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。
ア 原告の被告Y1の営業活動支援業務に関する合意(第1条)
 原告は、被告Y1の単行本出版・販売等の活動を支援し、事業を開発する。被告Y1は、原告にその事業支援及び開発を依頼する。
イ 業務内容(第2条)
 女性に関わる諸問題の提言企画・製作等及び家庭内暴力・幼児虐待・その他女性保護等の具体的な取材、研究等の業務をテーマとする。
ウ 業務指揮(第3条)
(ア) 原告が被告Y1のために開発した業務については、被告Y1は、原告の指示がない限り直接原告(甲2では被告Y1と記載されているが、明らかな誤記と認められる。)の開発した顧客に接触してはならない。
(イ) 原告が開発した事業の波及効果により生まれた仕事で、被告Y1の知らない第三者から直接被告Y1に仕事の相談及び依頼があったときは、被告Y1は直ちに原告に連絡し、前記第三者には、被告Y1の代理人が原告であることを伝え、原告(甲2では被告Y1と記載されているが、明らかな誤記である。)を通じて仕事を進める旨を伝えなければならない。
エ 業務委託料(第4条)
(ア) 原告が被告Y1のために開発した業務に関しては、原告(甲2では被告Y1と記載されているが、明らかな誤記である。)が顧客からの支払の窓口になり、被告Y1は、原告の許可なく、直接顧客と金銭の授受をしてはならない。
(イ) 原告は、顧客から受け取った金銭の中から20パーセントを差し引いた金額を、顧客から受け取った翌日に被告Y1に支払う。
オ 業務に係る費用(第5条)
 原告及び被告Y1は、すべての経費をお互いの自己負担とする。
(3) 取材旅行の実施及び原告による費用の支払
 原告及び被告Y1は、本件書籍の執筆に関し、オーストラリア、トルコ及び中国に取材旅行(以下オーストラリア、トルコ及び中国への取材旅行をそれぞれ「オーストラリア取材旅行」、「トルコ取材旅行」及び「中国取材旅行」ということがある。また、これらをあわせて「本件取材旅行」ということがある。)をした。原告は、取材旅行の費用のすべてを支払い、被告Y1の負担分についても、立て替えて支払った(なお、本件取材旅行と支出の関連性、必要性については争いがある。)。
(4) 本件書籍の販売
 被告会社は、平成14年2月25日ころ、本件書籍の販売を開始した(丙6)。
(5) 本件書籍の構成(甲7の1)
 本件書籍は、第1章ないし第5章及び巻末資料から構成されている。各章の表題は、以下のとおりである。
ア 第1章「ドメスティック・バイオレンス−私自身が味わったこと−」
イ 第2章「苦しんでいるのはあなただけではない−私が扱った相談例から−」
ウ 第3章「男はなぜ妻を殴るのか−DVの本質−」
エ 第4章「女性たちよ、アクションを起こそう−諸外国に見るDV対策−」
オ 第5章「現代の「駆け込み寺」として−DV撲滅への私の願い−」
3 争点
(1) 著作権侵害に基づく損害賠償請求等
ア 原告は、単独又は被告Y1と共に、本件書籍を創作したか。
イ 被告らの本件書籍の販売行為は、原告に対する著作権侵害に当たるか。
ウ 原告の被った損害額は幾らか。また、謝罪広告は必要か。
(2) 契約に基づく立替金支払請求等
ア 本件取材旅行に当たり原告が支出した費用のうち被告Y1が負担すべき額は幾らか。
イ 被告らが、原告に対し、本件書籍の原稿料を支払う義務を負うか。また、その額は幾らか。
ウ 原告は、被告Y1に対し、本件覚書に基づき、別紙接触禁止者リスト記載の者への接触禁止を求めることができるか。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(本件書籍の著作権者)について     
(原告の主張)
 原告は、以下のとおり、単独で、又は被告Y1と共同で、本件書籍を創作した。
ア 企画
 原告は、以前から、家庭内暴力やその被害者となりがちな女性の地位向上等のテーマに興味を抱き、先進各国の制度、仕組みや現実の対策等を研究して、一般に紹介し啓発を図りたいという基本的思想・意図を有していた。そのために、原告は、最も進んでいたオーストラリアやその他の外国の実情を調査・研究し、その成果を書物等にまとめ、啓発するという計画を立てた。
 そして、原告は、DV関連の書物の執筆者として被告Y1を選定し、同被告の文章力を利用して、原告自身の基本的思想・意図を実現するという方針に基づき本件書籍の発行を企画した。
イ 取材先の選定、文献・資料の提供等
 本件書籍の発行に至る企画、執筆者の選定、取材先、取材内容の決定、本件取材旅行の企画、取材先の選定、事前準備、交通機関・ホテルの手配等はすべて原告が行った。また、原告は、被告Y1に対し、前記の原告の基本思想等を理解させるべく、様々な文献や資料を提供し、本件取材旅行に役立てるために各国の制度についてのレジュメを作成して被告Y1に送付する等した。
 本件書籍は、その主要部分において、先進国の進んだ制度・施策や現実の状況等を紹介して一般の啓発を図るという、原告が有していた思想・意図に立脚している。
ウ 原告による加筆、修正点の指摘
 被告Y1は、本件書籍の原稿を執筆したが、同原稿は、想像に基づくものであり、各国の制度・仕組みの紹介も不正確な内容が多かった。そこで、原告は、被告Y1に対して、教示したり、説得したりして、原告の基本的思想・意図に沿うように、何回も原稿を書き直させたほか、原告自身、被告Y1の執筆した原稿のうち本件書籍の本質部分に少なくとも2回大幅な加筆、修正をした。
 原告が指摘したことにより、被告Y1の原稿が加筆、修正された部分として、以下の箇所がある。
(ア) 夫が妻への家庭内暴力に及ぶ原因・意識について加筆した部分(甲37の2)
(イ) オーストラリアを取材した理由について訂正させた部分(甲38の2)
(ウ) オーストラリアの制度の仕組みを正確に伝えさせた部分(甲38の5、13)
(エ) トルコの家庭内暴力に関する制度の整備の歴史について訂正させた部分(甲38の14)
(オ) 家庭内暴力に対する事後的な刑罰の重さだけを強調している被告Y1に対して、視点の拡大を促した部分(甲38の20、21)
(カ) 日本の役所の対応の不十分さ・無理解を加筆した部分(甲47の1)
(キ) 家庭内暴力被害者への手助けを、今後の自分の人生の重要な目標の1つとして、強く宣言する内容を加筆した部分(甲47の2)
(被告らの反論)
 本件書籍は、すべて被告Y1が執筆したものであるから、本件書籍を創作した者は被告Y1である。
 原告は、本件書籍の本質部分に加筆修正を加えた旨主張するが、そのような事実はない。
(2) 争点(1)イ(被告らによる著作権侵害の有無等)
(原告の主張)
ア 被告らは、著作者である原告の本件書籍の内容についての訂正要求を無視し、本件書籍を発行した。被告らの本件書籍の販売行為は、原告が本件書籍について有する著作権及び著作者人格権(公表権・同一性保持権等)を侵害する。
イ 被告Y1の上記著作権等侵害の行為は故意に基づく。被告Y2及び被告Y3は、被告Y1の著作権等侵害行為に加担した。被告会社も同様に不法行為責任を負う。 
(被告らの反論)
 争う。
(3) 争点(1)ウ(損害額及び謝罪広告の要否)
(原告の主張)
ア 損害額
(ア) 著作権侵害による損害賠償
 著作権法114条2項により、著作権侵害者の受けた利益の額をもって、被侵害者の損害と推定される。
a 被告会社 136万円
 本件書籍の定価は1700円、発行部数は4000部であり、被告会社の粗利益は少なくとも2割であるから、被告会社の受けた利益は、少なくとも136万円(1700円×4000部×0.2=136万円)である。
b 被告Y1 54万4000円
 被告会社における原稿料は10パーセントであるから、その額は、68万円となる(1700円×4000部×0.1=68万円)。そして、被告Y1の受ける利益はその8割であるから、その額は54万4000円(68万円×0.8=54万4000円)となる。
c まとめ
 よって、著作権侵害による原告の損害は、被告Y1との関係では54万4000円、被告会社、被告Y3及び被告Y2との関係では136万円である。被告らは、54万4000円の範囲で連帯債務を負う。
(イ) 慰謝料 200万円
 原告は、自らの基本思想を実現するための企画の一環として本件書籍の刊行を準備し、そのためにばくだいな費用と時間を費やしたにもかかわらず、被告らの不法行為により、本件書籍を不十分なものにされ、精神的苦痛を受けた。
 この精神的損害を金銭で慰謝するには200万円を下らない。
(ウ) 弁護士費用 100万円
 原告は、本件のような著作権に関わる専門的訴訟を自ら追行することができず、原告訴訟代理人にその追行を委任せざるを得なかった。
 その弁護士費用は、100万円を下らない。
(エ) 一部請求
 以上のとおり、原告が被告らの不法行為により被った損害は、被告Y1との関係では、354万4000円、被告会社、被告Y3及び被告Y2との関係では436万円となり、両者は354万4000円の範囲で連帯債務となる。
 本件では、原告は、被告らに対し、その一部である300万円を請求する。
イ 謝罪広告の要否
 被告らによる原告の著作者人格権の侵害行為により低下した原告の名誉・声望を回復するためには、請求の趣旨記載のとおりの謝罪広告の掲載が必要である。
(被告らの反論)
 原告の主張は争う。
 被告会社には、平成15年3月31日の時点で、本件書籍の販売により3万2179円の損失が生じた。
(4) 争点(2)ア(被告Y1が原告に対して支払うべき本件取材旅行費用の額)について
(原告の主張)
 原告は、被告Y1に代わり、以下の被告Y1が支払うべき費用を立て替えて支払った。
ア オーストラリア取材旅行分 合計56万0934円
(ア) ホテル代
 原告は、旅行当初の2日間の被告Y1の宿泊費用として、6、000円を立て替えた(甲14の2の1、2)。
 原告は、メルボルン(グランドハイヤットホテル)での被告Y1の宿泊費用として、3泊分900オーストラリアドルを立て替えた(甲21の1)。
 甲21の1の領収証の日付である平成13年1月29日の交換レートは、1オーストラリアドル=76.52円(甲22の1)であったから、900オーストラリアドルは、76.52×900=6万8868円となる。
 よって、被告Y1の負担すべきホテル代は、合計7万4868円となる。
(イ) 通訳・アレンジ費用 
 原告は、渡航前のアレンジ・取材交渉手数料として20万円(甲14の1)、渡航後の通訳及びアレンジ費用として29万円(甲14の2の1、2)を、それぞれ支払った。
 よって、合計49万円の半額24万5、000円は、被告Y1が負担分すべきである。
(ウ) 航空運賃及び同行通訳者の航空運賃負担分
 原告は、被告Y1分の航空運賃(ETAS緊急登録料分含)として、13万9540円を支払った(甲14の3)。
 原告は、同行通訳者のメルボルン、キャンベラ間航空運賃として、536.80オーストラリアドル(甲14の5の1、2)を支払った。なお、領収日である平成13年1月24日のレートは、1オーストラリアドル=76.99円であるから(甲22の2)、76.99×536.80=4万1328円となる。
 よって、この半額の2万0664円は、被告Y1が負担すべきである。
(エ) 土産代 
 原告は、取材先(訪問先)への土産品として、合計4万6200円+3万2000円+5万5650円+7875円=14万1725円(甲14の4の1、2)を支払った。
 よって、この半額の7万0862円は、被告Y1が負担すべきである。
(オ) 食事代等
 領収証のほとんどがないため、残っている1万円(甲14の2の1・2)のみ請求する。
イ トルコ取材旅行分 合計54万6807円
(ア) ホテル代
 原告は、平成13年7月14、15日のイスタンブール2泊分の宿泊費として、1人280米ドルを立て替えた(甲15の2)。支払日である同月16日の交換レートは、1ドル125.05+2.8=127.85円(甲22の3)である。よって、127.85×280=3万5798円となる。
 原告は、同月16ないし18日の3泊分(アンカラのシェラトンホテル)の宿泊費(事務連絡用の電話代も含む)として、2名分の合計16億6732万0964トルコリラを支払った(甲15の1の1)。アンカラのシェラトンホテルで換金した時のレートが、1万円で1億0642万トルコリラであるから(甲15の6の2)、16億6732万0964トルコリラ×1万円÷1億0642万トルコリラ=15万6673円となる。
 よって、この半額の7万8336円は、被告Y1が負担すべきである。
 したがって、合計は3万5798円+7万8336円=11万4134円である。
(イ) 通訳・アレンジ費用
 原告は、アレンジ及び同行通訳・翻訳料として10万円(甲23の1の1)、その通訳へのお礼の品の購入費として4075万トルコリラ(甲23の1の2)を、それぞれ支払った。
 4075万トルコリラ×1万円÷1億0642万トルコリラ=3829円となる。
 よって、(10万円+3829円)÷2=5万1914円は、被告Y1が負担すべきである。
(ウ) 航空運賃
 原告は、航空運賃として、2人分合計46万7680円を支払った(甲15の3の1)。
 よって、この半額の23万3840円は、被告Y1が負担すべきである。
(エ) リムジンバス費用
 原告は、1人片道2900円(往路のみ利用)を立て替えた。よって、2900円(甲15の4の下半分)は、被告Y1が負担すべきである。
(オ) 帰路タクシー代等
 原告が支出した2万3380円(甲15の5の1)及び高速料金合計2350円(甲15の5の2)の半額は、被告Y1が負担すべきである。その額は、(2万3380円+2350円)÷2=1万2865円である。
(カ) その他移動交通費
 原告は、アンカラ、イスタンブール間のバス料金として、1人分2400万トルコリラを立て替えた。
 原告は、トルコ国内で様々な移動に使用したタクシー料金として、合計700万トルコリラ+225万トルコリラ+265万トルコリラ (以上、甲15の9の4)+1250万トルコリラ+2050万トルコリラ+250万トルコリラ(以上、甲23の6の1)+3200万トルコリラ+1300万トルコリラ+450万トルコリラ(以上、甲23の6の2)+1000万トルコリラ(甲15の9の2の右下)=1億0690万トルコリラを支払った。よって、半額の5345万トルコリラは、被告Y1が負担分すべきである。
 日本円に換算すると、(2400万トルコリラ+5345万トルコリラ)×1万円÷1億0642万トルコリラ=7277円となる。
(キ) 土産代
 原告は、訪問先・取材先への土産購入費として、合計4万2845円(1万0815円(甲15の7の1)+6300円(甲15の4の左上)+2万5730円(甲15の5の2の右下)=4万2845円)を支払った。
 また、原告は、準備で世話になった日本の事務所への土産代として、7000万トルコリラ(甲15の9の3の左下)を支払った。同支払額は、日本円に換算すると、7000万トルコリラ×1万円÷1億0642万トルコリラ=6577円である。
 よって、4万2845円+6577円=4万9422円の半額の2万4711円は、被告Y1の負担分である。
(ク) 食事代等
 原告は、食事代や喫茶等の料金として、合計3億0790万5000トルコリラ(420万トルコリラ+1670万トルコリラ(以上、甲15の8の2)+1605万トルコリラ+1億9700万トルコリラ(以上、甲15の9の2の上段の左側2つ)+605万トルコリラ(甲15の8の3の左下)+4295万5000トルコリラ(甲15の8の1の上段左)+260万トルコリラ+1605万トルコリラ(以上、甲15の8の5)+630万トルコリラ(甲15の8の4)=3億0790万5000トルコリラ)を支払った。
 よって、3億0790万5000トルコリラ×1万円÷1億0642トルコリラ=2万8933円の半額である1万4466円は、被告Y1が負担すべきである。
(ケ) 電話代等諸雑費
 原告は、電話代等として、2700万トルコリラ(甲15の9の1)+2700万トルコリラ(甲15の9の2の上段右端)+5億トルコリラ+1億トルコリラ+5億トルコリラ+2252万0964トルコリラ(以上、15の1の2)+900万トルコリラ×4+475万トルコリラ(以上、甲23の9の1)+5億5350万トルコリラ(甲15の9の5の1、2)+700万トルコリラ×2(人分)+400万トルコリラ×2+500万トルコリラ×2(以上、甲15の9の6。トプカピ宮殿等の入場料)=18億0277万0964トルコリラを支払った。
 よって、この半額の9億0138万5482トルコリラは、被告Y1の負担分であり、日本円に換算すると、9億0138万5482トルコリラ×1万円÷1億0642万トルコリラ=8万4700円となる。
ウ 中国取材旅行分 63万4597円(正しくは63万4097円であり、違算があるが、主張どおり記載した。)
(ア) ホテル代及び同行通訳者のホテル代負担分
 原告は、同行通訳を含め3名で4.5泊分の宿泊料金として、合計33万7500円を支払った(甲16の1の1・2)。
 よって、この3分の1の11万2500円は、被告Y1が負担すべきである。また、同行通訳者のホテル代の半額5万6250円も、被告Y1が負担すべきである。
(イ) 同行通訳者の日当
 日本から同行した通訳であるSの日当分15万円(甲16の1の1、2及び16の2)の半額である7万5000円は、被告Y1が負担すべきである。
(ウ) アレンジ費用
 現地の案内人のアポイントメント等手数料32万円(甲16の1の1、2及び16の3の1)、並びに、その他の手配費用157元(甲16の11の6。電話代)+557元(甲16の11の7。取材先との会合費)+154元(甲16の11の8。同会合費)及びアレンジ者が移動等に使ったタクシー代の合計306元(甲16の11の9ないし14)の全合計の半額は、被告Y1が負担すべきである。
 交換レートは、2万円が1383.3元(甲16の8の2の下段)であるから、日本円に換算すると、(157元+557元+154元+306元)×2万円÷1383.3元=1万6973円となる。
 したがって、被告Y1の負担分は、(32万円+1万6973円)÷2=16万8486円である。
(エ) 航空運賃(保険料含)及び航空運賃(通訳)負担分
 同行通訳者を含めて3名分の往復航空券代が、21万6120円(甲16の4の1)であるから、その3分の1の被告Y1分7万2040円と、被告Y1分の旅行傷害保険の保険料8570円(甲16の4の2)及び中国民航の空港サービスの管理費90元(90元×2万円÷1383.3元=1301円。甲16の8の4の左下)並びにビザ取得費(2名分)6000円の半額の3000円の総合計8万4911円は、被告Y1が負担すべき費用である。
 同行通訳者の航空運賃7万2040円と中国空港サービス管理費90元(1、301円。甲16の11の3)の合計額の半額の3万6670円も、被告Y1が負担すべきである。
(オ) リムジンバス往復費用及び同行通訳者のリムジンバス往復費用負担分
 被告Y1本人分が片道2900円、往復で5800円(甲16の5の1、2)である。
 通訳者については、リムジンバス費用が片道3000円、往復で6000円(甲16の3の3)であり、自宅からリムジンバス乗り場までのタクシー代が900円(甲16の11の4、甲16の3の2)であるから、その半額の3450円は、被告Y1が負担すべきである。
(カ) その他移動交通費
 原告は、往復とも、被告Y1を、バス乗り場と自宅間をタクシーで送っている。往路分の浅草駅から被告Y1宅までの660円と、被告Y1宅から箱崎までの2340円(甲16の6)は、全部被告Y1が負担すべきである。
 復路は、箱崎から被告Y1を送ってから新宿まで行っている(4900円。甲16の6)ので、この半額を被告Y1が負担すべきである。
 その額は、660円+2340円+2450円=5450円である
(キ) 土産代
 原告は、訪問先への土産代として、4万7250円+1万5750円+4095円=6万7095円を支払った(甲16の7の1)。
 よって、この半額の3万3547円は、被告Y1が負担すべきである。
(ク) 見学料、食事代等
 原告は、故宮博物館参観料として40元(甲16の8の2の上段)、食事代として4515円(甲16の8の1)及び2047円(甲16の8の3)を支払った。
 原告は、現地のコーディネーター3名のアレンジ打合せ会合費として、227元(甲16の8の4の右下)を支払った。その半額は被告Y1の負担すべきものである。
 上記のうち元建てのものを日本円に換算すると、(40元+227元÷2)×2万円÷1383.3元=2219円となる。
 よって、(4515円+2047円)÷2+2219円=5500円は、被告Y1の負担である。
(ケ) フィルム代
 原告は、フィルム代として、8966円(甲16の9)を支払った。よって、その半額の4483円は、被告Y1が負担すべきである。
(コ) 返礼晩餐会等
 訪問した時に相手側が人民大会堂で歓迎晩餐会を開催したので、その返礼晩餐会をするのが中国での礼儀であり、その費用が5272元(甲16の10の1の下)である。
 その際の送迎車両の運転手へのチップが250元(甲16の10の2の上段。領収書はもらえないので、原告がその食事会場のメモ用紙に当日メモしておいたものである。)である。
 これらを日本円に換算すると、(5272元+250元)×2万円÷1383.3元=7万9838円となり、その半額の3万9919円は、被告Y1の負担である。
(サ) 電話代等諸雑費
 原告は、被告Y1個人が使ったミニバー代の合計90元(甲16の11の1)を立て替えた。これは全額被告Y1の負担である。 
 原告は、手配のために使用した電話代89.91元(甲16の8の5)及びFAX代24.90元(甲16の11の2)の合計114.81元を支払った。その半額は、被告Y1が負担すべきである。
 これらを日本円に換算すると、(90元+114.81元÷2)×2万円÷1383.3元=2131円となる。
エ 相殺その他
(ア) 被告Y1が原告に対して支払うべき金額は上記アないしウのとおりであり、その合計は174万2338円である。
(イ) 相殺
 一方、原告は、被告Y1に対し、本件覚書に基づき原告がいったん受領した被告Y1の講演等の報酬債務4万6080円を負担しているので、原告は、上記の費用支払請求権と上記報酬債務とを対当額で相殺する。
 したがって、被告Y1が原告に支払うべき金額は、169万6258円となる。
(ウ) 原稿料の被告Y1の取り分の控除
 原告は、被告Y1に対し、上記金額から、後記(5)のとおり、原告が受領する本件書籍の原稿料のうち被告Y1分の取り分である54万4000円を控除した115万2258円の支払を求める。
(エ) 遅延損害金の起算日
 原告及び被告Y1は、これらの立替金につき、被告Y1が受けるべき原稿料及び講演料等から返済することで合意していたから、被告Y1が原告に対して負う立替金支払債務は期限の定めのない債務であった。しかし、原告は、平成14年1月30日に被告Y1に到達した書面により全額の支払の請求をしたから、被告Y1は、同日から、立替金支払債務につき、遅滞に陥った。
(被告Y1の認否、反論)
ア オーストラリア取材旅行分
(ア) ホテル代
 認める。
(イ) 通訳・アレンジ費用
 否認する。渡航前のアレンジ費用については、原告がオーストラリア在住の原告の友人を訪問した費用にすぎない。また、通訳とされるTは、原告の友人にすぎず、費用を支払う必要はない。
(ウ) 航空運賃及び同行通訳者の航空運賃負担分
 被告Y1の航空運賃は認め、その余は否認する。同行通訳者とされるTは、原告の友人にすぎず、費用を支払う必要はない。
(エ) 土産代
 否認する。原告の個人的な土産代である。
(オ) 食事代
 否認する。前記のとおり、Tに費用を支払う必要はない。
イ トルコ取材旅行分
(ア) ホテル代
 認める。
(イ) 通訳・アレンジ費用
 否認する。原告が通訳者であるとかコーディネーターであると主張する者は、原告の友人にすぎず、通訳やコーディネートをできるような人物ではない。
(ウ) 航空運賃
 認める。
(エ) リムジンバス費用
 認める。
(オ) 帰路タクシー代等
 否認する。原告に誘われたので乗車したにすぎない。
(カ) その他移動交通費
 認める。
(キ) 土産代 
 否認する。原告が、誰に対し、どのような目的で土産品を購入したのか明らかではないし、被告Y1は、土産品に関し、何の関与もしていない。
(ク) 食事代等
 認める。
(ケ) 電話代等諸経費
 被告Y1分は認め、その余は否認する。電話代は原告の私用によるものであると考えられる。
ウ 中国取材旅行分
(ア) ホテル代及び同行通訳者のホテル代負担分
 被告Y1の宿泊費は認める。通訳負担分は否認する。
(イ) 同行通訳者の日当
 否認する。Sは、通訳ができるほどの日本語の語学力はなく、また、被告Y1らの通訳のみをしていたわけではなかった。したがって、その費用を負担する義務はない。
(ウ) アレンジ費用
 否認する。
(エ) 航空運賃(保険料含)及び同行通訳者の航空運賃航負担分
 被告Y1の航空運賃は認め、同行通訳者の負担分は否認する。理由は前記のとおりである。
(オ) リムジンバス往復費用及び同行通訳者のリムジンバス往復費用負担分
 被告Y1の分は認め、同行通訳者の負担分は否認する。理由は前記のとおりである。
(カ) その他移動交通費
 認める。
(キ) 土産代
 否認する。
(ク) 見学料、食事代等
 被告Y1の分は認める。
(ケ) フィルム代
 否認する。
(コ) 返礼晩餐会等
 認める。
(サ) 電話代等諸雑費
 否認する。
(5) 争点(2)イ(被告らの原告に対する本件書籍の原稿料の支払義務の有無)について
(原告の主張)
 被告会社、被告Y3及び被告Y2は、本件書籍の原稿料を、いったん原告に支払う旨同意していたから、原告に対し、原稿料68万円を支払う義務を負う。
 被告Y1は、自らの原稿料を原告を通じて受領することに同意していた。
 よって、被告らは原告に対し、原稿料68万円を連帯して支払う義務がある。
(被告らの反論)
ア 被告会社は原告に対し、原告と被告Y1の間で合意された本件書籍に関する原稿料のうち原告の取り分である13万6000円の範囲で、支払義務があることを認める。
イ 被告会社は、平成14年4月15日、被告Y1に対し、原稿料のうち被告Y1の取り分である54万4000円を支払った。
(6) 争点(2)ウ(本件覚書に基づく接触禁止請求の可否)について
(原告の主張)
 原告は、被告Y1に対し、本件覚書第3条に基づき、別紙接触禁止者リスト記載の者への接触禁止を求める。
(被告Y1の反論)
 争う。
 別紙接触禁止者リストには被告Y1の個人的な知人も含まれており、原告は、被告に対し、本件覚書に基づき別紙接触禁止者リスト記載の者への接触禁止を求めることはできない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告は、本件書籍を創作したか。)について
(1) 事実認定
 前記争いのない事実等、証拠(甲1、3ないし7の2、甲17の1ないし甲20の3、甲24の1の1ないし甲28の2、甲32の1ないし甲47の2、甲49ないし54、乙1、7、8、丙1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 本件書籍の執筆の動機及び準備・調査等
(ア) 原告は、以前から家庭内暴力や女性の地位向上等のテ−マに興味を抱き、先進各国の制度・仕組みや現実の対策等を研究して一般に紹介し、啓発を図りたいと考えていた。そして、女性問題に関する研究会の立ち上げを企画するほか、オーストラリア等、各国の制度等を研究して、順次その成果を書物等によって、公表していくことを企画した。
 原告は、平成10年10月ころ、被告Y1と知り合った。原告は、被告Y1が著名な文筆家であり、その文章を書く能力が高いと判断して、同被告に対して、家庭内暴力問題に関する書籍の執筆を促した。被告Y1は、家庭内暴力を受けた経験があり、女性問題に関心を有していたことから、原告からの要請を受けて、家庭内暴力問題に関する書籍を執筆することになった。
(イ) 原告及び被告Y1は、本件書籍執筆に当たり、諸外国の制度を見聞し、執筆の参考にするために、平成13年1月下旬にオーストラリア、同年7月14日から20日までトルコ、及び、同年9月24日から28日まで中国に取材旅行をした。
 原告は、オーストラリア取材旅行に当たり、被告Y1に対し、オーストラリアにおける家庭内暴力に関する制度、施設、及びオーストラリア取材旅行の際の訪問先の性格等について説明を行った。
 本件取材旅行の訪問国は、原告の意向に沿って選定され、また、各訪問国における訪問先の設定、事前準備、交通手段・宿泊先の手配等も原告が行った。
イ 被告Y1の第1稿の執筆と原告の訂正箇所の指摘
(ア) 被告Y1は、本件書籍の第1稿を執筆した。被告Y1は、第1稿を原告に送付し、原告は、加除修正箇所を指摘して被告Y1に返送し、被告Y1がこれを検討して、第1稿を書き直した。なお、原告による加除修正箇所の指摘は、主に本件書籍の第3章ないし第5章に関してされ、被告Y1自身の体験に基づいて執筆された第1章及び第2章に関してはされていない。なお、被告Y1の第1稿の内容及び原告の加除修正箇所の指摘に関する具体的な内容は、一部を除いて明らかでない。
(イ) 原告は、平成13年2月8日、被告Y1に対し、同被告の執筆した原稿の訂正等の案(甲52の1)を送付した。その内容は、オーストラリアの制度の誤りの指摘等である。
 もっとも、末尾に、「新聞社へは、明日に変更しました。また、これ以上の膨らみを持った次の原稿依頼にも答へられるようご準備ください。」などと記載されており、原告が、平成12年12月7日に、毎日新聞社に対して、オーストラリア取材旅行に関して連絡をしている(甲39の1)ことに照らすと、毎日新聞に関連して執筆された文章についての訂正である可能性も否定できない。
(ウ) 原告は、平成13年4月9日、被告Y1に対し、本件書籍の執筆に当たり、日本における社会的背景を加味してほしい旨の希望を伝えた(甲43の1、甲52の2)。
(エ) 原告は、平成13年5月17日及び18日、被告Y1に対し、同被告の執筆した原稿に、原告が修正等を加えたもの(甲44の1ないし3、甲45の1ないし3)を返送した。その内容は、誤字脱字の訂正、内容が不正確である部分の指摘及びオーストラリアの制度の説明の補充等である(甲45の3)。
(オ) 原告は、平成13年5月24日及び25日、被告Y1に対し、同被告の執筆した原稿に対して、追加記載を依頼する旨のメールを送った(甲43の3、4)。その内容は、オーストラリア取材旅行の際に訪問した施設及びその担当者であるJについて原稿に書き加えてほしいこと(甲43の3)、また、原稿に記載された団体について、「Child Abuse Prevention Service」であるとの説明を補足してほしいこと(甲43の4)であった。
 もっとも、実際に発行された本件書籍には、J等の記載はなく、原告の依頼は反映されていない。
(カ) 原告は、平成13年6月14日、被告Y1に対し、同被告の執筆した原稿に、原告が加除修正を施したもの(甲53の2ないし4)を返送した。加除修正部分は、主に、オーストラリア取材旅行中に会ったUに関する記載を削除すべきであるという内容であった。そのほかにも、被告Y1が、以前にオーストラリアで暴行センターを見たことがあるとの記載、オーストラリア、トルコ及び中国を取材した理由についての記載に対して、修正すべき点が指摘されている。これらの加除修正に関する指摘は、本件書籍に反映されているものもあるが、他方、甲53の4のうち、Uの居所を原告が探し当てたとの点(15頁)は本件書籍には記載がなく、また、16頁のUのエピソード部分は、本件書籍にそのまま残されている等、加除修正についての原告の指摘が反映されていないものもある。
(キ) 原告は、同月17日にも、被告Y1に対し、同被告の原稿の誤りを訂正する内容の書面を送付した(甲36の1)。その内容は、人名の誤記に関する指摘である。もっとも、これは、用件が「掲載記事誌面について」とされており、雑誌に掲載される記事のレイアウトと共に送付されていること、実際にサンデー毎日の記事(甲39の10の1)に、原告が指摘したG及びBについて触れられていることから、雑誌に掲載される記事に関する訂正であると推認する余地もある。
(ク) 原告は、平成13年12月15日ころ、被告Y1に対し、同人の執筆した原稿に、原告が加除修正等を施したもの(甲37、38、47の1、2。ただし、後記するとおり、その加除修正等がすべて原告によりなされかたについては疑問もある。)を返送した。これは、不正確な点や誤りについての訂正のほか、加筆もなされており、その指摘の多くは本件書籍に反映されている。
ウ 校正刷り後の原稿に対する修正
(ア) 甲37の2によれば、被告Y1の校正刷り原稿に対して、「まして家族や妻は、一番わかってくれないという夫は多い。その場合、たいてい夫は妻と対等であるとは思っていない。力関係では自分が優位であり、妻は自分の所有物であると思いたい場合がある。」、「社会の姿が、家庭の中にも反映しているのかも知れない。」 、「まして自分の号令や命令が全員に発揮されるとなれば愉快であるばかりか、権力欲も出来てくるはずだ。」等の加筆修正がされている。
 これらの挿入は、誰によりされたか、必ずしも明らかではないのみならず、仮にこれらが原告によりなされたものであるにしても、被告Y1の個人的な体験に基づく記述であり、他の部分で記述された内容の言い換えや説明にとどまるものである。
(イ) 甲37の4によれば、被告Y1の校正刷り原稿に対して、「夫の再婚の話」、「このせいで子供にリコン原因をキチンと話す必要があるということなら、そのように書いて下さい。」とのコメントが付けられていること、同コメントを受けて、「離婚騒動の前後の夫の言動から再婚の気配を見つけ出すことは、全く出来なかった。弁護士さんを間にたてての話し合いでも相像すらしなかった。夫は、娘達と一緒に暮らしてくれると信じていた。」と加筆されている。同加筆部分は、被告Y1の個人的な体験に基づく心境であることに照らすと、同被告自身が挿入したものと推認される。
(ウ) 甲38の2によれば、被告Y1の校正刷り原稿に対して、「どこの国から取材を始めようかと考えてみたが、当たって砕けろ、とにかく取材を受け入れてもらえるのならどこの国でもいい、と思って交渉してもらったところ」との部分を「その順番はというと、オーストラリア、それもヴィクトリア州が世界のどの国よりもすぐれた制度の先進国のひとつであることを知り、」に訂正するように指摘されている。
 上記文章の訂正過程や、筆跡からすると、加筆部分の指摘が原告によりされたかついては疑問があるが、仮にこれらが原告によりなされたものであるにしても、上記訂正は、後に続くオーストラリア、ヴィクトリア州の実情についての記載との整合を図った内容と理解できる。
(エ) 甲38の12によれば、被告Y1の校正刷り原稿に対して、「よくわかりません」とのコメントが付けられ、これに応じて、修文が施されている部分がある。
エ その他の事情
 原告は、上記の各修正の指摘のほかに、被告Y1の執筆した原稿に少なくとも2回の大幅な修正を施した旨主張し、原告の陳述書(甲42、54)にはこれに沿う記載もある。しかし、これに対応する原稿等は提出されておらず、原告が実際に加除修正点を指摘したか否か、また、加除修正の内容がいかなるものであったかなどは明らかではない から、原告の主張は採用することができない。
 原告と被告Y1が締結した本件覚書において、本件書籍に関して、原告の役割は、被告Y1の単行本出版・販売等の活動を支援することとされていた。また、原告は、被告会社の編集担当者である被告Y3から、著者の略歴を教えてほしい旨依頼された際に、原告ではなく、被告Y1の略歴を送付している。また、被告Y3に対して本件書籍の目次を送付する際に、著者として被告Y1の名前を表示していたほか、被告Y3から、著者を被告Y1と表示した目次案を送付された際も何ら異議を述べる等していない。原告は、被告会社から、本件書籍に関するクレジット案が送付された際、自らについて取材協力とされていたの取材支援と訂正したにすぎず、著者として表示するよう求めたこともない。
(2) 判断
ア 以上認定した事実を基礎として、原告が、本件書籍を創作したか否かの点について判断する。
 著作者とは「著作物を創作する者」をいう(著作権法2条1項2号)。創作する者とは、当該作品の形成に当たって、その者の思想、感情を創作的に表現したと評価される程度の活動をすることをいう。当該作品の形成に当たって、必要な資料を収集、整理をしたり、助言、助力をしたり、アイデア、ヒントを提供したり、できあがった作品について、加除、訂正をしたりすることによって、何らかの関与をした場合でも、その者の思想、感情を創作的に表現したと評価される程度の活動をしていない者は、創作した者ということはできない。そこで、上記の観点から判断する。
イ 本件書籍については、専ら、被告Y1が、第1稿を執筆し、これに加筆修正を加えて、最終稿を確定させたのであるから、本件書籍を創作した者は、被告Y1であるということができる。これに対して、原告も、本件書籍を創作した者ということができるかについて検討する。原告は、確かに、被告Y1に対して、家庭内暴力についての書籍の執筆を促したこと、家庭内暴力等に関する外国の制度を調査するための取材旅行を企画し、訪問先の設定、事前準備等を担当したこと、被告Y1の執筆した原稿について、加除修正の提案をしたこと、出版社として被告会社を選定して、連絡調整をしたこと等の活動を行っているが、これらの諸活動をもって、原告の思想、感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできないから、原告が本件書籍を創作した者に当たるとはいえない。
 この点、原告は、本件書籍は、原告の有していた基本的思想等に基づき原告が企画したものであるので、原告が創作したと解すべきである旨主張する。しかし、このような基本的思想を実現するための各活動は、被告Y1が、本件書籍の執筆することについて、アイデアや素材を提供する行為であって、創作行為であると解すべきではない。
ウ 原告は、被告Y1の原稿に対し、加除修正に関する提案をしている。しかし、その多くは、被告Y1の執筆した原稿のうち、不正確な知識あるいは誤解に基づく記述、不明瞭あるいは難解な記述に対しての指摘や訂正案の提示と解される。確かに、原告が行った加除修正に関する指摘の中には、単純な誤記の指摘や訂正案の提示にとどまらず、文章表現にまで踏み込んだものも存在するが、最終的には、被告Y1において、原告から指摘を受けた点を再考して、本件書籍に採用するかどうかを判断していた。したがって、原告の加除修正に関する提案は、本件書籍の作成に当たって、原告自身の思想、感情を表現するという、主体的な関与ということはできない。
エ 以上判示した点に照らすと、原告が、本件書籍について、単独又は共同で創作したと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 よって、原告の主張のうち、原告に本件書籍の著作権、又は共同著作権があることを前提とする主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
2 争点(2)ア(被告Y1が原告に対して支払うべき本件取材旅行費用の額)について
(1) 判断の前提
 原告が、被告Y1のために要した費用を含め本件取材旅行の費用をすべて支払ったことは、前記のとおりである。
 本件覚書において、原告及び被告Y1は、すべての経費について、お互いの自己負担とする旨定められている。したがって、被告Y1は、被告Y1のために支出された本件取材旅行の費用を原告に対し支払う義務を負う。また、本件取材旅行は、被告Y1の執筆した本件書籍の出版に係る企画に必要、不可欠なものといえるから、本件覚書に基づいて、本件取材旅行のために原告が支出した各費用の少なくとも半額については、原告において負担すべきである。
 これらのことを前提に、以下判断する。
(2) オーストラリア取材旅行分 56万0934円
ア ホテル代 7万4868円
 被告Y1が、ホテル代7万4868円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
イ 通訳・アレンジ費用 24万5000円
 前記争いのない事実等並びに甲14の1及び甲14の2の1、2によれば、原告が、Tに対し、オーストラリア渡航前のアレンジ・取材交渉手数料として20万円、オーストラリア渡航後の通訳及びアレンジ費用として29万円、合計49万円を支払ったことが認められる。
 そして、甲42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、これらの費用がオーストラリア取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、前記費用の合計額49万円の半額である24万5000円を支払う義務を負う。
ウ 航空運賃及び同行通訳者分の航空運賃負担分 16万0204円
(ア) 被告Y1分の航空運賃 13万9540円
 被告被告Y1が、自らの航空運賃13万9540円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
(イ) 同行通訳者分の航空運賃負担分 2万0664円
 前記争いのない事実等及び甲14の5の1、2によれば、原告が、Tのメルボルン、キャンベラ間の航空運賃として、536.80オーストラリアドルを支払ったことが認められる。そして、支払日である平成13年1月24日の為替レートは、1オーストラリアドル=76.99円(甲22の2)と認められるから、536.80オーストラリアドルは、4万1328円と換算される(76.99×536.80オーストラリアドル=4万1328円)。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、同行する通訳者の旅行費用も依頼者側が支払うことも何ら不合理ではないことを考え併せると、同行通訳者分の航空運賃がオーストラリア取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、通訳者分の航空運賃4万1328円の半額である2万0664円を支払う義務を負う。
エ 土産代 7万0862円
 前記争いのない事実等、甲14の4の1、2、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、オーストラリア取材旅行に当たり、取材先(訪問先)へ、合計14万1725円相当の土産品を購入して持参したことが認められる(4万6200円+3万2000円+5万5650+7875円=14万1725円)。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、訪問先等へ土産品を持参することは、取材活動を円滑に行うために必要な費用であることを考え併せると、取材先への土産品購入費用がオーストラリア取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、取材先への土産品購入費用14万1725円の半額である7万0862円を支払う義務を負う。
オ 食事代等 1万円
 前記争いのない事実等及び甲14の2の1、2によれば、原告が、Tに対し、被告Y1の食事代として合計1万円を支払ったことが認められる。
 したがって、被告Y1は、食事代1万円を支払う義務を負う。
カ オーストラリア取材旅行分のまとめ
 以上によれば、被告Y1が、オーストラリア取材旅行に要した費用として支払うべき額は、56万0934円(7万4868円+24万5000円+16万0204円+7万0862円+1万円=56万0934円)となる。  
(3) トルコ取材旅行分 50万5208円
ア ホテル代 11万4134円
 被告Y1が、ホテル代7万4868円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
イ 通訳・アレンジ費用 5万1914円
 前記争いのない事実等及び甲23の1の1によれば、原告が、Aに対し、同行通訳料及び翻訳料として、Oに対し、アレンジ手数料として、合計10万円を支払ったことが認められる。
 また、前記争いのない事実等、甲23の1の2、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、前記Aらに対するお礼の品の購入費として、4075万トルコリラを支払ったことが認められる。そして、当時の為替レートが、1円=1万0642トルコリラであったと認められるから(甲15の6の2)、これを日本円に換算すると、3829円(4075万トルコリラ÷1万0642=3829円)となる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、お礼の品も取材活動を円滑に行うために必要な費用であることを考え併せると、アレンジ費用、同行通訳料、翻訳料及びお礼の品物購入費用がトルコ取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、前記費用の合計額10万3829円(10万円+3829円=10万3829円)の半額である5万1914円(10万3829円÷2=5万1914円)を支払う義務を負う。
ウ 航空運賃 23万3840円
 被告Y1が、航空運賃として23万3840円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
エ リムジンバス費用 2900円
 被告Y1が、リムジンバス代として2900円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
オ 帰路タクシー代等 1万2865円
 原告が、トルコ取材旅行の帰路、被告Y1をタクシーで自宅まで送ったことは当事者間に争いがない。
 そして、甲15の5の1、2によれば、その際のタクシー代が、2万3380円、高速料金が合計2、350円であったことが認められる。
 空港から自宅までの交通費用も本来は自ら負担すべき費用であるから、被告Y1は、少なくともその半額を負担すべきである。
 よって、被告Y1は、前記費用の合計2万5730円(2万3380円+2350円=2万5730円)の半額である1万2865円(2万5730円÷2=1万2865円)を支払う義務を負う。
カ その他移動交通費 7277円
 被告Y1が、トルコ国内における交通費として7277円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
キ 土産代 2万4711円
 前記争いのない事実等、甲15の4、第15の5の2、第15の7の1、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、トルコ取材旅行に当たり、取材先・訪問先へ、合計4万2845円相当(1万0815円(甲15の7の1)+6300円(甲15の4)+2万5730円(甲15の5の2)=4万2845円)の土産品を購入して持参したことが認められる。
 また、前記争いのない事実等、甲15の9の3、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、準備で世話になった日本の事務所へ、7000万トルコリラ相当の土産品を購入したことが認められ、これを日本円に換算すると、6577円(7000万トルコリラ÷1万0642=6577円)となる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、訪問先や準備で世話を受けた者に対して土産品を持参することは、取材活動を円滑に行うために必要な費用であることを考え併せると、取材先等への土産品購入費用がトルコ取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、取材先等への土産品購入費用合計4万9422円(4万2845円+6577円=4万9422円)の半額である2万4711円(4万9422円÷2=2万4711円)を支払う義務を負う。
ク 食事代等 1万4466円
 被告Y1が、食事代等として1万4466円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
ケ 電話代等諸雑費 4万3101円
(ア) 電話代等 4万1598円
 前記争いのない事実等、甲15の1の2、第15の9の1、第15の9の2、第15の9の5の1、2、第23の9の1、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、トルコにおいて電話代等として17億7077万0964トルコリラ支払ったことが認められる(2700万トルコリラ(甲15の9の1)+2700万トルコリラ(甲15の9の2)+5億トルコリラ+1億トルコリラ+5億トルコリラ+2252万0964トルコリラ(以上、甲15の1の2)+900万トルコリラ×4+475万トルコリラ(以上、甲23の9の1)+5億5350万トルコリラ(甲15の9の5の1、2)=17億7077万0964トルコリラ)。
 そして、弁論の全趣旨によれば、このうちの半額である8億8538万5482トルコリラが、トルコ取材旅行のために必要な電話代等であったと認めるべきである。そして、これを日本円に換算すると、8万3197円(8億8538万5482トルコリラ÷1万0642=8万3197円)となる。
 したがって、被告Y1はその半額である、4万1598円を支払う義務を負う。
(イ) トプカピ宮殿等入場料 1503円
 また、前記争いのない事実等並びに甲15の9の6、第42、54及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告Y1のトプカピ宮殿等への入場料として1600万トルコリラ(700万トルコリラ+400万トルコリラ+500万トルコリラ=1600万トルコリラ)を支払ったことが認められ、これを日本円に換算すると、1503円(1600万トルコリラ÷1万0642=1503円)となる。
 したがって、被告Y1はこの費用を支払う義務を負う。
(ウ) 電話代等諸雑費のまとめ
 以上(ア)及び(イ)の額を合計すると、4万3101円(4万1598円+1503円=4万3101円)となる。
コ トルコ取材旅行費用のまとめ
 以上によれば、被告Y1が、トルコ取材旅行に要した費用として支払うべき額は、50万5208円(11万4134円+5万1914円+23万3840円+2900円+1万2865円+7277円+2万4711円+1万4466円+4万3101円=50万5208円)となる。
(4) 中国取材旅行分 合計 63万3681円
ア ホテル代 11万2500円
 被告Y1が、ホテル代11万2500円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
イ 同行通訳者のホテル代負担分 5万6250円
 前記争いのない事実等及び甲16の1の1、2によれば、原告、被告Y1及び同行通訳者のホテル代が、合計33万7500円であったことが認められるから、1人分はその3分の1である11万2500円となること、原告がこれを支払ったことがそれぞれ認められる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、同行する通訳者の旅行費用も依頼者側が支払うことも何ら不合理ではないことを考え併せると、同行通訳者のホテル代が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1はその半額である5万6250円(11万2500円÷2=5万6250円)を支払う義務を負う。
ウ 同行通訳者の日当 7万5000円
 甲16の1の1、2及び第16の2によれば、原告が、中国取材旅行に日本から同行した通訳であるSに対し、日当15万円を支払ったことが認められる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨によれば、この費用が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 この点、被告Y1は、Sの通訳能力が不十分であったとか、Sは私用で同行したにすぎない旨主張するが、Sが、中国取材旅行において、原告及び被告Y1のために実際に通訳業務等を行っている以上、その費用は、中国取材旅行に必要な費用であったということができる。
 したがって、被告Y1はその半額である7万5000円(15万円÷2=7万5000円)を支払う義務を負う。
エ アレンジ費用 16万8486円
 前記争いのない事実等、甲16の1の1、2、第16の3の1、第42、54及び弁論の全趣旨によれば、原告が中国国内のアレンジ費用として32万円を支払ったことが認められる。
 また、前記争いのない事実等、甲16の11の6ないし8、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が中国取材旅行の手配のための電話代及び取材先との会合費用として868元(157元(甲16の11の6。電話代)+557元(甲16の11の7。取材先との会合費)+154元(甲16の11の8。同会合費)=868元)を支払ったことが認められる。
 さらに、前記争いのない事実等、甲16の11の9ないし14、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、中国国内の案内人が移動等に使ったタクシー代として合計306元を支払ったことが認められる(20元+12元+23元(以上、甲16の11の9)+12元+17元+19元(以上、甲16の11の10)+15元+15元+10元(以上、甲16の11の11)+21元+12元+22元(以上、甲16の11の12)+15元+20元+17元(以上、甲16の11の13)+14元+13元+17元+12元(以上、甲16の11の14)=306元)。
 よって、原告が元建てで支払った費用の合計が1174元(868元+306元=1174元)となるところ、当時の為替レートでは2万円が1383.3元に相当すると認められるから(甲16の8の2)、これを日本円に換算すると、1万6973円(1174元×2万円÷1383.3元=1万6973円)となる。
 そして、甲42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、これらの費用が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、これらの費用の合計33万6973円(32万円+1万6973円=33万6973円)の半額である16万8486円(33万6973円÷2=16万8486円)を支払う義務を負う。
オ 航空運賃 8万4911円
 被告Y1が、航空運賃等の費用として8万4911円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
カ 同行通訳者の航空運賃負担分 3万6670円
 前記争いのない事実等及び甲16の4の1によれば、原告、被告Y1及び同行通訳者の航空運賃が、合計21万6120円であったことが認められるから、1人分はその3分の1である7万2040円となること、原告がこれを支払ったことがそれぞれ認められる。
 また、前記争いのない事実等、甲16の11の3、第42、54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、同行通訳者の中国民航の空港サービスの管理費90元(日本円に換算すると、90元×2万円÷1383.3元=1301円となる。)を支払ったことが認められる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、同行する通訳者の旅行費用も依頼者側が支払うことも何ら不合理ではないことを考え併せると、同行通訳者のホテル代が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は前記費用の合計額7万3341円(7万2040円+1301円=7万3341円)の半額である3万6670円(7万3341円÷2=3万6670円)を支払う義務を負う。
キ リムジンバス往復費用 5800円
 被告Y1が、日本国内のリムジンバス費用として5800円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
ク 同行通訳者のリムジンバス等費用 3450円
 前記争いのない事実等及び甲16の3の2、3、第16の11の4によれば、原告が、同行通訳者のリムジンバスの費用として合計6000円、自宅からリムジンバス乗り場までのタクシー代900円、合計6900円を支払ったことが認められる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、同行する通訳者の旅行費用も依頼者側が支払うことも何ら不合理ではないことを考え併せると、これらの費用も中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、これらの費用の半額である3450円(6900円÷2=3450円)を支払う義務を負う。
ケ その他移動交通費 5450円
 被告Y1が、日本国内の移動交通費用として5450円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
コ 土産代 3万3547円
 前記争いのない事実等及び甲16の7の1、第42、54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が中国取材旅行に当たり、取材先・訪問先へ、合計6万7095円相当(4万7250円+1万5750円+4095円=6万7095円)の土産品を購入して持参したことが認められる。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨、並びに、訪問先や準備で世話を受けた者に対して土産品を持参することは、取材活動を円滑に行うために必要な費用であることを考え併せると、取材先への土産品購入費用が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。 
 したがって、被告Y1は、これらの費用の半額である3万3547円(6万7095円÷2=3万3547円)を支払う義務を負う。
サ 見学料、食事代等 5500円
 前記争いのない事実等並びに甲16の8の1ないし3によれば、原告が、被告Y1の故宮博物館院の入館料として40元(甲16の8の2。日本円に換算すると、40元×2万円÷1383.3元=578円となる。)、原告及び被告Y1の食事代として、合計6562円(4515円(甲16の8の1)+2047円(甲16の8の3)=6562円)をそれぞれ支払ったことが認められる。
 また、前記争いのない事実等、甲16の8の4、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、中国のコーディネーター3名のアレンジ打合せ会合費として227元を支払ったことが認められる(甲16の8の4。日本円に換算すると、227元×2万円÷1383.3元=3282円となる。)。
 そして、甲42、54及び弁論の全趣旨によれば、これらの費用が中国取材旅行を行うために必要な費用であったと認められる。
 したがって、被告Y1は、前記の故宮博物院の入館料578円、食事代の半額3281円(6562円÷2=3281円)及びアレンジ打合せ会合費の半額1641円(3282円÷2=1631)の合計5500円(578円+3281円+1631円=5500円)を支払う義務を負う。
シ フィルム代 4483円
 前記争いのない事実等、甲16の9、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、中国取材旅行に当たり使用したフィルムの購入費用として8966円を支払ったことが認められる。
 そして、写真撮影は取材活動をするに当たり必要なことであると認められるから、被告Y1は、同代金を負担すべきである。
 したがって、被告Y1は、フィルム購入費用8966円の半額である4483円(8966円÷2=4483円)を支払う義務を負う。
ス 返礼晩餐会等 3万9919円
 被告Y1が、中国での返礼晩餐会等の費用として3万9919円を支払う義務を負うことは、当事者間に争いがない。
セ 電話代等諸雑費 1715円
(ア) ミニバー代 1301円
 甲16の11の1、第42、54及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告Y1が使用したミニバー代合計90元を支払ったことが認められ、被告Y1はこの費用を支払う義務を負う。
 この点、被告Y1は、前記ミニバーを使用していない旨主張するが、前記ミニバーが被告Y1の使用した部屋で使用されたものとして請求されていることに照らすと(甲16の11の1)、被告Y1の主張は採用することができない。
 そして、前記90元を日本円に換算すると、1301円(90元×2万円÷1383.3元=1301円)となる。
(イ) 電話代等 414円
 甲16の8の5、第16の11の2、第42及び54並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、取材の手配のための電話代89.91元(甲16の8の5)及びFAX代24.90元(甲16の11の2)の合計114.81元を支払ったことが認められる。
 そして、弁論の全趣旨によれば、このうちの半額である57.405元(114.81元÷2=57.405元)が、中国取材旅行のために必要な電話代等であったと認めるべきである。そして、これを日本円に換算すると、829円(57.405元×2万円÷1383.3元=829円)となる。
 したがって、被告Y1は、電話代等の半額である414円(829円÷2=414円)を支払う義務を負う。
(ウ) 電話代等諸雑費のまとめ
 以上によれば、被告Y1は、電話代等諸雑費として1715円(1301円+414円=1715円)を支払う義務を負う。  
ソ 中国取材旅行費用のまとめ
 以上によれば、被告Y1が、中国取材旅行に要した費用として支払うべき額は、63万2181円(11万2500円+5万6250円+7万5000円+16万8486円+8万4911円+3万6670円+5800円+3450円+5450円+3万3547円+5500円+4483円+3万9919円+1715円=63万3681円)となる。
(5) まとめ
 以上によれば、被告Y1が、原告に支払うべき費用の合計は、169万9823円((2)56万0934円+(3)50万5208円+(4)63万3681円=169万9823円)となる。
 もっとも、原告は、その一部である115万2258円の範囲で支払を求めるから、その限りにおいて原告の請求を認容することとする。
(6) 遅延損害金について
 原告、被告Y1間において、上記の費用立替金支払債務の履行期を合意の上で定めたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上記立替費用支払債務は履行期の定めのない債務であるから、原告が、被告Y1に対し、その支払を請求したときから、履行遅滞に陥るというべきである。
 ところで、原告は、原告訴訟代理人を通じ、被告Y1に対し、平成14年1月30日到達の内容証明郵便により、通告書と題する書面を送付した。その中で、原告は、本件書籍の著作権が原告にあると主張するとともに、本件書籍の出版準備を中止し、原告の原稿訂正要求に応じること、原告を通じて被告Y3とやり取りするとともに、原稿料も原告を通じて受領すべきこと、取材時に原告から紹介を受けた人物に直接接触しないこと等を要求し、これらの要求を無視し、出版や原稿料の直接受領を強行する場合には、立替費用も含め賠償請求する旨通知した(甲A4の1の1、2)。
 上記書面については、立替費用に関して、出版等の中止要求を無視したことを停止条件として請求しているにすぎないと理解する余地がないわけではないが、前後の経緯に照らして、確定的な請求とみるのが相当である。そうすると、被告Y1の原告に対する上記費用支払義務は、平成14年1月30日限り履行遅滞に陥ったと解される。したがって、被告Y1は、原告に対し、その翌日である平成14年1月31日以降支払済みに至るまでの遅延損害金を支払う義務を負う。
3 争点(2)イ(被告らの原告に対する本件書籍の原稿料の支払義務の有無)について
(1) 証拠(丙1、6、8)によれば、本件書籍の原稿料は総額68万円であったこと、被告会社は、平成14年4月15日、被告Y1に対して、上記68万円の8割に相当する54万4000円を、被告Y1分の原稿料として支払ったことが認められる。
 原告は、@被告会社、被告Y3及び被告Y2は、本件書籍の原稿料のすべてを原告に支払う旨同意し、A被告Y1も、自らの原稿料を原告を通じて受領することに同意していたから、被告らは原告に対して、原稿料68万円を連帯して支払う義務がある旨主張する。
 まず、被告会社に対する請求の当否について検討する。本件覚書においては、原告が、いったん全額支払を受けて、被告Y1に分配する旨が規定されているが、同覚書は、原告と被告Y1との間で締結されたものであるから、この内容が直ちに第三者である被告会社に対しても効力を有するものと解することはできない。そして、本件全証拠によるも、被告会社において、原稿料の全額を原告に支払う旨の合意がなされたことを認めることはできない。よって、原告の主張は採用することができない。
 もっとも、被告会社は、被告Y1に対して、本件書籍の原稿料の8割に相当する54万4000円を支払っていることに照らすと、被告会社は、原稿料の2割に相当する13万6000円の範囲では、原告に支払う旨了承していたと認めるのが相当である(被告会社も、原告に対し、本件書籍の原稿料の2割に相当する額である13万6000円の支払義務について争っていない。)。したがって、被告会社は、原告に対し13万6000円を支払う義務を負い、原告はこの金額の支払を被告に対し請求できるというべきである。
 次に、その余の被告に対する請求の当否について検討する。本件全証拠によるも、被告Y2及び被告Y3が、本件書籍に関する契約及び原稿料支払に関する契約を締結したことを認めることはできない。また、原告の被告Y1に対する原稿料支払請求も理由がない。
(2) なお、原告は、上記原稿料の請求に当たり、本件書籍の発売日からの遅延損害金の支払を求める。
 しかし、原告は、本件覚書に基づいて被告らに対し原稿料の支払を請求するところ、この原稿料債務の履行期が本件書籍の発売日であるとする根拠については何ら主張立証をしないから、被告会社が、本件書籍の発売日から原稿料債務について履行遅滞に陥ったものと認めることはできない。
 もっとも、被告会社は、平成14年4月15日に、被告Y1に対して原稿料を支払っているから、原告に対する原稿料支払債務についても、遅くとも同日には履行期が到来したものというべきである。
 よって、原告は、被告会社に対し、13万6000円に対する履行期の翌日である平成14年4月16日以降の遅延損害金の支払のみを求めることができる。
4 争点(2)ウ(本件覚書に基づく接触禁止請求の可否)について
 原告は、被告Y1に対し、本件覚書3条に基づき、別紙接触禁止者リスト記載の者への一切の接触禁止を求めることができる旨主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり失当である。すなわち、本件覚書3条第1項は、原告が被告Y1のために開発した業務に関し、被告Y1が、原告の開発した顧客と接触することを禁止しているにすぎず、被告Y1が、前記顧客と一切接触することを禁止するものではない。そして、原告が接触禁止を求める別紙接触禁止者リスト記載の者が、原告の開発した業務に関する顧客であることを認めるに足りる証拠もない。
 また、原告は、被告Y1に対し、本件覚書3条2項に基づき、別紙接触禁止者リスト記載の者への接触を禁止することができる旨主張するが、同条項は、被告Y1の知らない顧客から仕事の依頼が来た場合の処理に関する合意にすぎず、被告Y1からの接触の禁止を求める根拠となると解することはできない。
 そうすると、原告は、被告Y1に対し、本件覚書に基づき、別紙接触禁止者リスト記載の者に対する接触禁止を求めることはできない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告会社に対し、13万6000円及びこれに対する平成14年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払、並びに、被告Y1に対し、115万2258円及びこれに対する平成14年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の各支払を求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 神谷厚毅
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