判例全文 line
line
【事件名】RGB体感ムービーキャラクター事件(2)
【年月日】平成16年1月30日
 東京高裁 平成15年(ネ)第2088号 著作権使用差止請求控訴事件
 (一審・東京地裁平成9年(ワ)5200号/差戻前二審・東京高裁平成11年(ネ)第4341号
 /上告審・最高裁平成13年(受)第216号)
 (平成15年12月1日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 上野攝津子
同 北村行夫
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 大江修子
同 中島龍生
同 望月克也
同復代理人弁護士 亀井弘泰
被控訴人 株式会社エーシーシープロダクション製作スタジオ
訴訟代理人弁護士 奥野雅彦
同 丸山敦朗


主文
 本件控訴を棄却する。
 差戻し前及び差戻し後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙物件目録一ないし六、八、九及び一九ないし二三記載の著作物を使用したアニメーション作品「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」を頒布し、又は頒布のための広告・展示をしてはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、250万円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、別紙物件目録記載の図画(以下、併せて「本件全図画」と総称し、個別に「本件図画一」ないし「本件図画二三」という。)についての著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権に基づいて、本件全図画を使用したアニメーション作品「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「本件アニメーション作品」という。)の頒布及び頒布のための広告・展示の差止め並びに損害賠償を請求している事案である。
1 前提となる事実
 被控訴人は、アニメーション等の企画、撮影等を目的とする株式会社である。控訴人は、香港に居住し、平成4年ころからアニメーションの製作スタジオを経営する香港エーシーシー・ユナイテッド・プロダクション(以下「香港エーシーシー」という。)に在職していたデザイナーであり、日本のアニメーション制作技術を習得することを希望していた。被控訴人代表取締役のB(以下「B」という。)は、香港エーシーシーに出資していたことが契機となって控訴人を知り、控訴人の希望の実現に協力することにした。控訴人は、平成5年7月15日に来日して同年10月1日に帰国した後、同月31日に来日して同6年1月29日に帰国し、さらに、同年5月15日に来日し、それ以降我が国に滞在した。この1回目及び2回目の来日はいわゆる観光ビザによるもの、3回目の来日はいわゆる就労ビザによるものであった(以下、それぞれの来日を「1回目の来日」などという。)。
 控訴人は、1回目の来日をした平成5年7月ころから3回目の来日後である平成6年11月ころまでの間、被控訴人が企画したアニメーション作品等のキャラクターとして用いるために、本件全図画を創作した。このうち、差戻し後の控訴審において問題となる本件図画一ないし六、八、九及び一九ないし二三(以下「本件係争図画」と総称する。)は、3回目の来日前に創作されたものである。
 被控訴人は、本件全図画を使用して、本件アニメーション作品を制作し、これを日本国内のテーマパークにおいて上映したが、控訴人の氏名は、本件アニメーション作品の上映の際に本件全図画の著作者として表示されていない。
2 訴訟の経過
(1) 原判決は、本件全図画が控訴人と被控訴人との間の雇用契約に基づいて職務上作成されたものであるから、その著作者は被控訴人であるとして、控訴人の上記各請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。
(2) 差戻し前控訴審判決は、1回目と2回目の来日には、控訴人がいわゆる就労ビザを取得していなかったこと、被控訴人が控訴人に対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと、雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと、雇用保険料、所得税等が控除されていなかったこと、タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと、3回目の来日前に、被控訴人と控訴人との間に雇用契約が成立したと認めることはできず、本件全図画のうち、本件係争図画は、控訴人が被控訴人の業務に従事する者として作成したものではなく、被控訴人がその著作者であるとすることはできないから、被控訴人による本件アニメーション作品の制作等は、控訴人の著作権及び著作者人格権の侵害に当たるとして、控訴人の請求のうち、本件係争図画についての著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権に基づいて、本件係争図画を使用した本件アニメーション作品の頒布及び頒布のための広告・展示の差止め並びに本件係争図画の使用料相当損害金150万円及び著作者人格権侵害によって被った無形の損害金100万円、合計250万円の損害賠償請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。同判決に対し、被控訴人のみが上告及び上告受理の申立てをした。
(3) 上告審は、上告を棄却したが、上告受理申立てを受理し、以下の理由により、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、上記部分につき本件を控訴審に差し戻した。
 著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものであり、同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要し、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみると、被上告人(控訴人)は、1回目の来日の直後から、上告人(被控訴人)の従業員宅に居住し、上告人のオフィスで作業を行い、上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給料支払明細書も受領していたのであり、しかも、被上告人は、上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件係争図画を作成したのであり、これらの事実は、被上告人が上告人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものとみるべきであるが、差戻し前控訴審判決は、被上告人の在留資格の種別、雇用契約書の存否、雇用保険料、所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として、上記の具体的事情を考慮することなく、また、被上告人が上告人のオフィスでした作業について、上告人がその作業内容、方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく、直ちに3回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのであって、同判決には、著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」の解釈適用を誤った違法がある。
(4) 控訴人は、差戻し前控訴審判決中の敗訴部分、すなわち、本件全図画のうち、3回目の来日中に創作された本件図画七及び一〇ないし一七に係る部分については、上告等をしていないから、当該部分は、差戻し後の控訴審における審判の対象ではない。
3 控訴人の主張
(1) 職務著作の成否
ア 上告審判決の指摘した、控訴人が、@1回目の来日の直後から、被控訴人の従業員宅に居住し、A被控訴人のオフィスで作業を行い、B被控訴人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、C給料支払明細書も受領し、D被控訴人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件係争図画を作成したとの事実のうち、上記B及びCは、雇用契約の要件に該当する事実であるが、上記A及びDは、準委任契約や請負契約でも行われることであり、上記@は、雇用契約とは全く関係がない。仮に、これらの事実が、控訴人が被控訴人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものであるとしても、これらの事実のみから、雇用契約が成立したことにはならない。
イ 裁量労働を目的とする雇用契約を、請負契約や委任契約と区別する基準は、作業内容ではなく、出勤簿、勤務時間、外出許可等、勤務について指揮監督がされていたか否かである。被控訴人のオフィスでは、被控訴人の従業員以外の監督や脚本家が終始仕事をしており、従業員についてはタイムカードや外出届が義務付けられていたが、控訴人は、平成7年4月までは、これらが義務付けられておらず、全く管理がされていなかった。また、控訴人は、被控訴人から、作業について、その内容、方法等について指揮監督を受けたことはない。
 控訴人は、そもそも日本のアニメーション制作技術習得のための研修を希望して来日したのであり、被控訴人オフィスで作業し、被控訴人の従業員宅に居住したこと、日本滞在中に毎月一定額の金銭の支払を受けたことも、上記研修のための特別待遇の一つであり、雇用関係の成立とは全く無関係である。
 以上のような業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すれば、控訴人が被控訴人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、被控訴人が控訴人に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価することはできないから、控訴人と被控訴人との間に締結された契約は、雇用契約ではなく、控訴人が被控訴人に対しキャラクターデザインの原画を作成提供し、被控訴人が控訴人に対しその対価を支払うという請負契約又は準委任契約というべきである。
ウ したがって、控訴人の創作した本件係争図画は職務著作に該当せず、その著作者は控訴人である。
(2) 損害
 控訴人の著作権使用料相当の損害金は150万円を下らない。また、控訴人の著作者人格権侵害による無形の損害は100万円を下らない。
4 被控訴人の主張
(1) 職務著作の成否について
ア 控訴人は、@1回目の来日の直後から、被控訴人の従業員宅に居住し、A被控訴人のオフィスで作業を行い、B被控訴人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、C給料支払明細書も受領し、D被控訴人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件係争図画を作成したものである。
 また、控訴人の本件係争図画作成の作業に際しては、被控訴人代表取締役のBが、控訴人に対し、事前に、図画の使用されるテーマ、ストーリー、メイン・キャラクター等の基本コンセプトについて十分な説明を行い、控訴人の作成するサブ・キャラクター等に必要とされる性格的、構造的な特徴等を説明するなどして、作業内容についてきめ細かく指示をした。さらに、控訴人の作業の過程においては、控訴人が作成してきた図画に対して、Bが、上記説明した趣旨に合致しているか否かについて厳しくチェックを行い、場合によっては、修正、書き直し等を命じた。このように、被控訴人は、控訴人の作業について、厳格に指揮監督を行っていた。
 以上の具体的事情を考慮すれば、控訴人と被控訴人との間の雇用契約の成立を肯定するのが当然であり、本件係争図画は、同雇用契約に基づき職務上作成されたものである。
イ そして、控訴人の本件係争図画の創作は、法人である被控訴人の発意に基づくもので、被控訴人の名義の下に公表することが予定されていたものであるから、職務著作に該当し、著作権法15条1項の規定により、その著作者は被控訴人である。
(2) 損害について
 控訴人の損害の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 職務著作の成否について
(1) 上記前提となる事実及び証拠(甲2〜5、8、9、11〜19、27、28、31〜37、43〜49、乙1、3〜8、10〜21、30〜32、35、48、49〔枝番省略〕、原審における控訴人本人及び被控訴人代表者)を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 控訴人は、中国本土で生まれ、昭和51年から香港に居住していたが、アニメーション等のデザインに興味を持ち、大学においてグラフィックデザイン等を専攻した後、平成4年ころから、アニメーションの製作スタジオを経営する香港エーシーシーに在職し、日本のアニメーション制作技術の習得を希望していた。
イ 被控訴人代表取締役のBは、Cとともに香港エーシーシーに出資していたところ、Cの妻Dから、日本においてアニメーション技術の研修を兼ねて仕事をしたいという控訴人の希望について連絡を受け、控訴人の受入先を探したが、適当な受入先を見つけることができなかった。
ウ Bは、平成5年7月15日、いわゆる観光ビザで来日した控訴人に対し、被控訴人において控訴人を受け入れることを申し入れたところ、控訴人もこれを了承した。控訴人は、同日から、被控訴人の従業員でありプロデューサーのE(以下「E」という。)宅に賄い付きで居住することになり(その費用は被控訴人が負担した。)、翌16日から、出勤するEの自家用車に同乗して、被控訴人肩書所在地のオフィス(以下「被控訴人オフィス」という。)に通い、同所において作業をした。
 同年7月ころ、控訴人は、被控訴人から、株式会社セガ・エンタープライゼスのプレゼンテーション用ゲームソフト「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のサブキャラクターの作成を指示されて図画を作成し、さらにBの指示に基づいて、これに修正を加えた上、本件図画一ないし五及び一八ないし二二を創作したが、上記企画は採用されなかった。控訴人は、同年10月1日、いったん、香港に帰国した。
エ 同年10月31日に同じく観光ビザで2回目の来日をした後、同年12月までは、控訴人は、前回と同様、被控訴人の費用負担でE宅に賄い付きで居住して、被控訴人オフィスに通い、同所において作業をし、同月末以降は、東京都渋谷区千駄ヶ谷所在の被控訴人の「スタッフルーム」と称する事務所(以下「スタッフルーム」という。)の一室に居住し、同所において作業をした。
 控訴人は、その間、被控訴人から、株式会社バンプレストへのプレゼンテーション用のキャラクターの創作を指示されて図画を作成し、さらにBの指示に基づいて、これに修正を加えた上、本件図画六及び九を創作したが、同企画は採用されなかった。控訴人は、平成6年1月29日、いったん、香港に帰国した。
オ そのころ、被控訴人は、本件アニメーション作品を企画中であったところ、被控訴人取締役である「モンキー・パンチ」ことFが描いた主人公「リュウ」を配したオリジナル・シミュレーション・ライド・フィルムとして制作することになり、そのキャラクターとして、既に控訴人が創作していた本件図画一ないし六、九及び一八ないし二二を用いることとし、さらに、同年3月、香港滞在中の控訴人に対し、追加キャラクターの作成を指示し、控訴人は、その指示に基づいて、同年4月上旬に本件図画八を創作した。
カ 控訴人は、同年5月15日、いわゆる就業ビザで3回目の来日をし、前回と同様、スタッフルームの一室に居住し、同所において作業をし、本件図画七及び一〇ないし一七を創作したが、平成7年4月、同所を退去してアパートに引っ越し、その後は、被控訴人オフィスに通い、同所において作業をすることとなり、平成8年6月6日付けで被控訴人に退職届を提出した。
キ 控訴人は、この間、被控訴人から、平成5年8月分ないし平成6年2月分として、毎月、基本給名目で12万円(平成5年8月分は「Special」の名目で更に5万円が加算され合計17万円)、それぞれ支給を受け、その内訳が明記された給与支払明細書の交付を受け、上記期間のうち平成5年7月から同年12月までは、控訴人は、賄い付きで、被控訴人従業員宅に居住したが、その費用は被控訴人において負担した。また、3回目の来日後から退職届を提出するまでの間、平成6年6月分から、毎月、基本給名目の24万円、特別手当名目で1万円(平成7年5月分以降は交通費の名目で更に9000円が加算)の合計額から雇用保険料、所得税及び雑費を控除した金銭の支給を受け、その内訳が明記された給与支払明細書の交付を受けた。
ク 控訴人が被控訴人オフィス及びスタッフルームで行った作業に使用する画材等は、被控訴人が調達したものを使用していた。また、控訴人は、平成7年4月までは、上記のような勤務実態にかんがみ、出勤時のタイムカードの刻印を求められなかったが、同月以降は、これを求められるようになった。
ケ 控訴人は、本件全図画以外にも、被控訴人のために、NHKで放映されたテレビアニメーション「スクラッパーズ」のタイトル文字、株式会社タイトーの販売するゲーム「レイ・トレイサー」のコンセプトデザイン等を創作したが、いずれも、被控訴人に報酬を請求することはなかった。
(2) 著作権法15条1項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要し、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものである。
 本件において、上記認定事実に照らすと、控訴人は、1回目の来日の直後から、被控訴人の従業員宅に居住し、被控訴人オフィスで作業を行い、被控訴人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給料支払明細書も受領していたのであり、しかも、控訴人は、被控訴人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件全図画を創作したものである。上記事実によれば、控訴人は、1回目の来日後から、被控訴人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたものと推認されるところである。
 もっとも、雇用契約の成立を明確に示す雇用契約書等の存在を認めるに足りる証拠はなく、1回目と2回目の来日の際には、控訴人がいわゆる就業ビザを取得しておらず、また、1回目の来日時に被控訴人が控訴人に対し就業規則を示して勤務条件を説明した旨の証拠(乙9、30〜32、原審における証人E及び被控訴人代表者)も直ちに信用することはできない。さらに、1回目と2回目の来日時においては、被控訴人から支払われる上記金銭の中から雇用保険料、所得税等が控除されていないことが明らかであり、甲39(池袋公共職業安定所所長からの回答書)によれば、控訴人が雇用保険被保険者資格を取得したのは、3回目の来日期間中の平成7年4月1日であることが認められる。しかしながら、これらの諸点は、雇用関係の存否を上記の見地から実質的、総合的に考察する上で、決定的ないし重要な地位を占める判断要素であるということはできない。
(3) ところで、控訴人は、被控訴人のオフィスにおいては、従業員についてタイムカードや外出届が義務付けられていたが、控訴人は、平成7年4月までは、これらが義務付けられておらず、全く管理がされていなかったこと、控訴人は、被控訴人から、作業について、その内容、方法等について指揮監督を受けたことはないこと、控訴人は、日本のアニメーション制作技術習得のための研修を希望して来日したのであり、被控訴人オフィスで作業し、被控訴人の従業員宅に居住したこと、日本滞在中に毎月一定額の金銭の支払を受けたことも、上記研修のための特別待遇の一つであり、雇用関係の成立とは全く無関係であることなどから、控訴人と被控訴人との間に締結された契約は、控訴人が被控訴人に対しキャラクターデザインの原画を作成提供し、被控訴人が控訴人に対しその対価を支払うという請負契約又は準委任契約というべきであると主張し、控訴人作成の各陳述書(甲5、27、52)の記載及び原審における控訴人本人尋問の供述中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、控訴人は、平成7年4月、スタッフルームの一室を退去してアパートに引っ越すまでの間は、当初は、被控訴人の従業員宅に居住し、出勤するEの自家用車に同乗して、被控訴人肩書所在地のオフィスに通い、その後も、スタッフルームの一室に居住し、同所において作業をしていたものである。この点について、Bは、原審における被控訴人代表者尋問において、平成7年4月、控訴人が、アパートに引っ越し、そこから被控訴人オフィスに通うようになるまでは、タイムカードを刻印させる必要がなかった旨を供述しているところ、同供述は、控訴人にタイムカードが義務付けられていなかった理由として首肯し得るところであり、また、外出届が義務付けられていなかったとの控訴人作成の各陳述書及び控訴人本人尋問の供述は、これを裏付ける的確な証拠はなく、反対趣旨の乙49(B作成の陳述書)の記載に照らし、直ちに採用することができない。他方、控訴人の作業状況をみると、就業に必要な作業場所、画材等は被控訴人が調達し、控訴人が被控訴人の指示に従って図画を作成していたのであるから、控訴人は、被控訴人の指揮監督下において本件全図画作成等の労務を提供していたものと認めることができる。また、被控訴人が控訴人に支給した上記金銭の額は、基本給名目が3回目の来日時に倍増されているが、1回目及び2回目の来日時のものを基準にしても、被控訴人が負担した被控訴人の従業員宅に賄い付きで居住した費用も考慮すると、研修のための特別待遇を理由として受ける金額というには高額にすぎるというべきである。そして、被控訴人から控訴人に支給された金銭は、控訴人が創作した図画の出来高とは無関係に毎月一定額が支払われ、給与支払明細書が交付され、控訴人は上記対価の額、支払方法及びその名目について異議を述べたことがない上、控訴人が本件全図画以外に被控訴人のために作成した図画についても被控訴人に報酬を請求することはなかったことに照らすと、控訴人が被控訴人に対して提供した労務の対価であると認めるのが相当である。
 以上検討したところによれば、控訴人の上記主張はいずれも採用することができず、他に、上記推認を覆すに足りる証拠はないから、控訴人は、被控訴人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたものと認めるのが相当であり、控訴人と被控訴人との関係は、1回目の来日後から雇用関係であったというべきである。したがって、本件係争図画を含む本件全図画は、被控訴人の業務に従事していた控訴人が、その職務上作成したものということができる。
(4) そして、上記認定の事実によれば、本件係争図画の作成は被控訴人の発意に基づくものであり、かつ、本件係争図画は被控訴人が自己の著作の名義の下に公表することが予定されていたものと認めるのが相当である。そうすると、本件係争図画は、控訴人が被控訴人との間の雇用契約に基づいて職務上作成したものであるから、著作権法15条1項の規定により、その著作者は被控訴人というべきである。
2 結論
 以上によれば、控訴人が著作者であることを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
 よって、原告の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第13民事部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 岡本岳
 裁判官 早田尚貴


(別紙)物件目録
(動物キャラ)
一  ロードスター 原判決添付図(1)のキャラクター
二  ロンメル・ブイ・エフ 原判決添付図(2)のキャラクター
三  エイブス 原判決添付図(3)のキャラクター
四  ケネス・ケイ 原判決添付図(4)のキャラクター
五  ウィニー 原判決添付図(5)のキャラクター
(ボスモンスター)
六  イナックス 原判決添付図(6)のキャラクター
七  マリリン 原判決添付図(7)のキャラクター
八  ポセイドックス 原判決添付図(8)のキャラクター
九  シャドウーマスター 原判決添付図(9)のキャラクター
(ミドルモンスター・スモールモンスター)
一〇 ジャック 原判決添付図(10)のキャラクター
一一 オーネットボーマー 原判決添付図(11)のキャラクター
一二 グリーンスパイダー 原判決添付図(12)のキャラクター
一三 イカバトルシップ 原判決添付図(13)のキャラクター
一四 ウニマイン 原判決添付図(14)のキャラクター
一五 ブラックアント 原判決添付図(15)のキャラクター
一六 レッド・C 原判決添付図(16)のキャラクター
一七 クレイジークラブ 原判決添付図(17)のキャラクター
(モバイルマシーン)
一八 (欠番。差戻し前の控訴審で撤回)
一九 キシイングフィッシュ(二の乗物) 原判決添付図(19)のキャラクター
二〇 スワロー(三の乗物) 原判決添付図(20)のキャラクター
二一 レッドアロー(四の乗物) 原判決添付図(21)のキャラクター
二二 コスモス(五の乗物) 原判決添付図(22)のキャラクター
二三 レッドアロー(一の乗物) 本判決添付図(23)のキャラクター
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/