判例全文 line
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【事件名】小林亜星『どこまでも行こう』事件(JASRAC)
【年月日】平成15年12月26日
 東京地裁 平成15年(ワ)第8356号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成15年11月28日)

判決
原告 有限会社金井音楽出版
同訴訟代理人弁護士 井上準一郎
同 大石忠生
同 佐藤隆男
被告 社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 田中豊
同 藤原浩
同 鈴木道夫
同 市村直也


主文
1 被告は、原告に対し、金180万3294円及びこれに対する平成15年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、原告に生じた費用の12分の1及び被告に生じた費用を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、金2303万4000円及びこれに対する平成15年4月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により認められるものを含む。)
(1) 当事者
 原告(旧商号金井音楽出版株式会社)は、音楽出版社の事業を主たる目的として設立され、その後有限会社に組織変更された会社である。
 被告は、平成13年9月30日までは、平成12年法律第131号による廃止前の著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)により文化庁長官から許可を受けた音楽著作権に関する我が国唯一の著作権管理団体であり、平成13年10月1日からは、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受け、音楽著作権を管理している公益社団法人である。その業務の内容は、音楽著作物の著作権者から著作権の信託譲渡を受け、求めに応じてその利用を許諾し、かつ、著作物使用料規程(甲53、64。以下「本件使用料規程」という。)に従って著作物使用料を徴収し、被告の手数料を控除した後、著作物使用料分配規程(乙3。以下「本件分配規程」という。)に従って各著作権者に分配することである。被告の平成14年度の年間総徴収実績額は、1060億6000円であった。
(2) 原告の権利  
 Bは、昭和41年、別紙譜面(1)記載の歌曲「どこまでも行こう」を作詞作曲し、この歌曲は、同年、株式会社ブリヂストン(当時の商号は、ブリヂストンタイヤ株式会社)のテレビコマーシャルとして、民放各社により放送され公表された(乙6)。
 原告は、昭和42年2月27日、Bから「どこまでも行こう」の歌詞及び楽曲(以下、その楽曲を「甲曲」という。)の各著作物の著作権をその編曲権を含めて信託譲渡を受けた。原告は、歌手Cの吹込みによる甲曲のレコード化によるプロモートを企画し、キングレコード株式会社がその製作販売を担当して、同年5月1日Cの歌唱による甲曲のレコードが発売された。また、原告は、甲曲の楽譜を出版するなどして、甲曲の利用の普及開発を図った(乙6)。
 原告は、同年2月28日、被告に対し、著作権信託契約約款(乙1の1及び2。以下「本件信託契約約款」という。)に従い、甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託した。この信託譲渡の対象に著作権法(以下「法」という。)27条の編曲権は含まれていない(ただし、法28条の権利については争いがある。)。
(3) 「記念樹」の創作
 株式会社ポニーキャニオン(以下「ポニーキャニオン」という。)及び株式会社フジパシフィック音楽出版(以下「フジパシフィック」という。)は、共同で、株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)及びその系列下の地方放送局で放送するテレビ番組「あっぱれさんま大先生」のCDアルバム「キャンパスソング集」を制作することを企画した。ポニーキャニオンの担当者Dは、アルバム中の「記念樹」につきその作曲を作曲家であるEに依頼した(甲39)。
 そこで、Eは、平成4年、別紙譜面(2)記載の歌曲「記念樹」に係る楽曲(以下、その楽曲を「乙曲」という。)を作曲した。乙曲は、同年12月2日、Fを作詞者、Gを編曲者、ポニーキャニオンをレコード製作者(原盤制作者)、「あっぱれ学園生徒一同」を歌手とする曲として、「『あっぱれさんま大先生』キャンパスソング集」との題号のCDアルバムに収録される形で公表された。
 Eは乙曲についての著作権を、Fはその歌詞についての著作権を、それぞれフジパシフィックに対して譲渡し、フジパシフィックは、平成4年12月21日、被告に乙曲の作品届を提出し、同月1日付けで被告に乙曲及びその歌詞についての著作権を信託譲渡して管理を委託した。
(4) 被告の行為
 被告は、音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間、継続的に音楽著作物利用者に対して「記念樹」の利用許諾をすることにより、その許諾を受けた利用者をして、放送、録音、演奏等をさせた。
(5) 別件訴訟
 原告及びBは、平成10年7月28日、乙曲を創作したEに対し、乙曲が甲曲を複製したものであり、原告の著作権(複製権)及びBの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するなどと主張して、損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成10年(ワ)第17119号。以下「別件訴訟」という。)。東京地方裁判所は、平成12年2月18日、乙曲は甲曲を複製したものではないとして、原告及びBの請求を棄却する旨の第1審判決を言い渡した。
 そこで、原告及びBは控訴し、控訴審において、乙曲が甲曲の二次的著作物であるとして、法27条の権利(編曲権)侵害の主張を追加した(東京高等裁判所平成12年(ネ)第1516号)。東京高等裁判所は、平成14年9月6日、Eによる乙曲の創作が甲曲に係る編曲権を侵害するとして、第1審判決を取り消し、原告及びBの請求を一部認容する旨の控訴審判決を言い渡した(甲1)。
 Eは、上告及び上告受理の申立てをしたが、最高裁判所第三小法廷は、平成15年3月11日、Eの上告を棄却し、かつ上告審として受理しない旨の決定をした(甲2)。
 なお、原告は、平成13年2月28日、乙曲を含むCDアルバムの原盤を制作したポニーキャニオン及びフジパシフィックに対し、編曲権侵害を理由として損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成13年(ワ)第3851号)。さらに、原告は、平成14年3月29日、テレビ番組「あっぱれさんま大先生」のエンディング・テーマ曲として、乙曲を放送したフジテレビに対し、編曲権侵害等を理由として損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第6709号)。
(6) 別件訴訟後の被告の対応等
 フジテレビは、別件訴訟の控訴審判決を受けて、平成14年9月1日放送分を最後に、同月8日以降は、テレビ番組「あっぱれさんま大先生」において、乙曲を放送しないことを決定し、乙曲の放送を中止した。
 被告は、別件訴訟の最高裁決定を受けて、平成15年3月13日に至り、乙曲の利用許諾を中止した。
(7) 乙曲による甲曲の編曲権侵害
ア 依拠性
 甲曲は、昭和41年に公表されたコマーシャルソングとしてばかりではなく、その後も、乙曲が創作される平成4年ころまで、長く歌い継がれる大衆歌謡ないし唱歌として著名な楽曲であること、Eが乙曲の創作以前に甲曲を知っていたこと、甲曲と乙曲の旋律が類似していることに照らせば、乙曲は、甲曲に依拠して創作されたものである(甲62、63、乙6)。
イ 表現上の本質的特徴の同一性
(ア) 甲曲の4小節を1フレーズとし、乙曲の2小節を1フレーズとして両曲の旋律を対比すると、乙曲の全128音中92音(約72%)は、これに対応する甲曲の旋律と同じ高さの音が使用されており、甲曲と乙曲は、各フレーズの最初の3音以上と最後の音が第4フレーズを除く全フレーズにおいて、すべて一致しており、各小節の最初に位置する強拍部の音は第4フレーズを除いてすべて一致するなど、両曲の旋律は、起承転結の構成においてほぼ同一であり、そのことが各フレーズの連結の仕方に顕著に現れている。両曲の第3フレーズから第4フレーズへかけての部分は、ほとんど同一ともいうべき旋律が22音にわたって(全体の3分の1以上)連続して存在するのであり、両曲の旋律は、表現上の本質的な特徴の同一性を有するものと認められる。両曲の第4フレーズにおける相違点等をもって、これを否定することはできない(甲20、21、23ないし25、27、29、検甲1)。
(イ) 甲曲の和声は、基本3和音によるいわゆる3コードの曲であり、明るく前向きな印象をもたらしているのに対し、乙曲の和声は、きめ細かな経過和音と分数コードを多用して複雑に進行し、感傷的な雰囲気をもたらしており、この点で両曲には曲想の差異が生じているが、和声の差異が旋律における両曲の表現上の本質的な特徴の同一性を損なうものとはいえない。
 両曲のリズムはほとんど同一といってよく、テンポや形式についても、両曲の表現上の本質的な特徴の同一性に影響を与えるものではない(検甲1)。
ウ したがって、乙曲は、甲曲に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものということができる。よって、乙曲は、原告の甲曲に係る法27条の権利(編曲権)を侵害して創作されたものである。
2 本件は、被告が、音楽著作物利用者に対し、平成15年3月期から同年9月期の使用料分配に対応する期間、編曲権を侵害する乙曲を利用許諾した前記1(4)記載の行為につき、原告が、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を請求する事案である。
3 争点
(1) 被告の行為により原告の著作権が侵害されたか。
(2) 被告に過失があるか。
(3) 被告の行為は債務不履行といえるか。
(4) 損害の発生の有無及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告の著作権が侵害されたか)について
〔原告の主張〕
(1) 法27条の権利の侵害
 原告は、甲曲の著作権者であり、被告に対し、甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託したものであるところ、その際、原告と被告間で交わされた本件信託契約約款には、法27条の権利が特掲されていないから、法61条2項により、法27条の権利は譲渡しておらず、原告がこれを専有している。
 法27条は、編曲する権利を保護する規定であり、法28条は、適法に創作された編曲著作物すなわち二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を保護する規定である。したがって、無断で編曲された二次的著作物を放送、演奏、録音等に利用する行為に対しては、法27条が法28条と一体として機能し、適用される。ただし、適用対象となる利用行為は、法28条に定める行為に限定される。
 その理由は、@ 違法に編曲された二次的著作物を放送、録音することは、著作権者の放送権や複製権により保護される利益を侵害するのではなく、著作権者の編曲権により保護している利益を侵害していること、A 編曲権は、第三者が無断で編曲する行為だけでなく、第三者が無断で編曲した二次的著作物を放送、録音する行為によっても侵害可能であること、B 法49条2項が二次的著作物の複製物を頒布する行為や二次的著作物を公衆に提示する行為につき編曲を行ったものとみなしていること、C 法49条2項との関係で、違法に編曲された二次的著作物を放送、録音する行為を編曲権侵害とならないとすることは、法益保護上均衡を失した法令解釈となること、D 法113条1項が違法著作物の頒布及び所持を著作権侵害行為としていることとの関係で、違法に編曲された二次的著作物を放送、録音する行為を編曲権侵害とならないとすることは、法益保護上均衡を失した法令解釈となること、E 法28条が違法著作物と適法著作物を同一に処理すべく規定しているとはいえないこと、F 法28条は編曲に関する権利を定めているものではないから、法28条だけでは、原著作物の著作権者の編曲に関する権利により保護されている利益を守ることはできないこと、G 放送、録音が編曲権を侵害すると解しても、適用範囲の解釈としては一般的であり、罪刑法定主義には反しないこと、H このように解しても一般人の予期に反しないこと等である。
 したがって、法27条の権利を専有する原告は、編曲権を侵害する乙曲の利用許諾をした被告に対し、損害賠償請求権を有する。
(2) 法28条の権利の侵害(予備的主張)
 本件信託契約約款には、法28条の権利は特掲されていないから、原告は、被告に対して、包括的には法28条の権利を信託譲渡していない。すなわち、本件信託契約約款には、法27条及び法28条の権利についての記載はないから、すべての支分権について信託譲渡されたものとはいえない。深刻な利害対立のある被告に法28条の権利を譲渡すると自らの編曲権を無にされてしまうから、原告が事前に法28条の権利を譲渡するはずがない。著作権者は、編曲権を侵害する二次的著作物について被告に法28条の権利を譲渡し、放送等の利用を認めることはあり得ない。被告が、原著作物の著作権者の承認のない違法な二次的著作物をも管理しているとすると、原著作物の著作権者にとってあたかも適法な二次的著作物と同様に管理されることになり、二次的著作物の使用料の分配問題等において被告の業務に支障が生じる。
 したがって、原著作物の著作者が作曲した二次的著作物に関する権利は、法28条の権利ではないし、第三者が創作した二次的著作物については、第三者が提出する編曲届に記載される原権利者の承認により初めて個別に管理委託されるのである。このように、被告は、原著作物の著作権者の承認のない違法な二次的著作物は管理していない。
 被告は、原告が被告に対し、分配保留の要求をしたことを根拠として原告が法28条の権利を被告に信託譲渡したことを認めたと主張するが、原告は乙曲が著作権侵害楽曲であるとして別件訴訟を提起していることを被告に知らせ、著作物使用料をEに分配しないように要求しただけであって、別件訴訟を提起しながら乙曲の利用許諾に同意などするはずがない。
 そうすると、原告は、法28条の権利を有するから、編曲権を侵害する乙曲の利用許諾をした被告らの行為は、法27条の定める編曲権を侵害するといえないとしても、法28条の権利を侵害するものであり、損害賠償請求権を有する。
〔被告の主張〕     
(1) 法27条の権利の侵害について   
 法27条は、二次的著作物を創作する権利であって、二次的著作物を利用する権利を定める法28条とは別個の権利である。すなわち、法27条は編曲された著作物の利用行為を直接に規制する権利ではない。したがって、二次的著作物を放送、録音、演奏する行為は、そもそも編曲権の内容に含まれないから、これらの行為について被告のした利用許諾をもって原告の編曲権侵害に当たると解する余地はない。
(2) 法28条の権利の侵害について
 甲曲の著作権者である原告の有していた法28条の権利は、以下の理由で、明示又は黙示の合意により、被告に移転している。
ア 本件信託契約約款1条本文の条項は、「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権ヲ信託財産トシテ受託者ニ移転」すると規定しており、二次的著作物が第三者によって無断で編曲されたかどうかによって、法28条の権利の移転に何らの区別を設けていない。
 また、法61条2項の権利留保の推定規定は、相互に利害が対立する当事者間における著作権譲渡契約の場合に、著作者を保護するために創設された規定である。しかし、原被告間の著作権信託契約は、移転を受けた著作権を委託者のために管理し、徴収した使用料を委託者に分配するために行われる自益信託であり、法61条2項が想定するような利害の対立関係はないから、そもそも法61条2項の推定を働かせる前提を欠き、同条の推定を及ぼす余地がないものである。
 さらに、原告は、Bが編曲した二次的著作物及び許諾を受けて編曲された二次的著作物に関する法28条の権利を被告に信託譲渡したことを争わないが、法61条2項は、このように法28条の権利の一部のみを留保することを推定する規定ではない。したがって、原告が法28条の権利の一部を被告に信託譲渡したことを認める本件においては、本件信託契約約款1条本文の解釈をする際、法61条2項の推定を働かせる余地はない。
イ 著作権集中管理団体に対する著作権の信託譲渡は、極めて多種多様な音楽の利用実態に対して、画一的・定型的な処理による効率的かつ実効的な著作権管理を行うことを目的とするものであるところ、二次的著作物に関する法28条の権利の移転の帰趨が許諾の有無によって影響を受けることになれば、管理団体は、上記の目的を達することは到底不可能になる。なぜなら、音楽著作物は、他の種類の著作物とは異なり、演奏という無形的利用方法をその基本的な表現形式としているため、演奏者ごとに多かれ少なかれ修正・増減・変更等の編曲が加えられて利用されているのが常態であり、これが法27条の編曲に該当する程度の創作性を有しているか否かを判断しなければならないという極めて困難な作業を日常的に強いられることになるからである。そして、改変行為に創作性があると認められる場合に、被告が法28条の権利を有していないということになると、それが無断利用されても、差止めも使用料相当損害金の徴収もできず、傍観しているほかないという不合理な結果になり、上記の目的とは矛盾する。したがって、信託契約約款において、法28条の権利の譲渡に一定の留保がなされるという解釈を採る余地はない。
ウ 仲介業務法2条は、音楽等の著作権仲介業務を行うには、文化庁長官の許可を得なければならないと定めており、文化庁長官の許可を得ていなかった原告は、Bから譲り受けた法28条の権利の一部を自己に留保していても、その仲介業務を行うことは禁止されていた。したがって、原告は法28条の権利の一部を自己に留保することは無意味であり、法28条の権利のすべてを文化庁長官の許可を受けた仲介業務団体である被告に移転していたと解するほかない。
エ 編曲権(法27条の権利)と法28条の権利は別個の支分権であり、それぞれ独立して行使し得るから、原告が編曲権を留保していることと第三者が編曲した二次的著作物に関する法28条の権利を被告に信託譲渡することとは矛盾しないし、編曲権の留保を無意味にすることもない。
 また、被告が原告から28条の権利の信託譲渡を受け、同権利に基づき利用許諾をし、その経済的利用についての対価を徴収することは、著作者による著作者人格権の行使を何ら制限するものではない。第三者によって著作物に改変が加えられても、著作者がこれを問題としないときは、第三者の利用を禁じる必要はない。しかし、原告の主張に従えば、このような場合も被告は第三者の経済的利用から使用料を徴収することができなくなり、かえって著作者の正当な経済的利益を損なう。
オ 被告が編曲届の提出に際し「原権利者の承認を証明する文書」の添付を要求しているのは、被告の使用料規程上、音楽著作物を原曲のまま利用する場合と、編曲が付されたものを利用する場合とで使用料の額に区別がなく、ある音楽著作物を編曲著作物として管理し、編曲者に所定の分配率に従った使用料取り分を認めることは、原著作物の著作権者(作詞者・作曲者)の使用料取り分が減少することを意味するものであるから、かかる書面を要するものとしたにすぎず、二次的著作物に関する法28条の権利を管理するか否かを定めるためのものではない。
カ 原告は、平成10年9月18日付け内容証明郵便で、別件訴訟を提起したことを理由に、被告に対して、管理除外の措置ではなく、分配保留の措置を求め、被告が同年12月分配期以降における乙曲の使用料について分配保留の措置を取ったところ、原告は、「適切な措置をとってくれました」と感謝の意を表していたのである。分配保留措置は、被告が第三者に対して当該音楽著作物の利用を許諾し、使用料を徴収する権限を有していることを前提とするものであるから、原告の要求は、原告が有する乙曲に関する法28条の権利を被告に信託譲渡したことを認めたものにほかならない。被告は、原告の要求に誠実に対応していたにもかかわらず、原告は、最高裁決定を受けるや否や態度を一変させ、被告が乙曲の利用を許諾したことが原告の有する法28条の権利の侵害に該当するなどと主張して、本件訴訟を提起したのであり、このような信義に反する主張は許されない。
 以上のとおり、法28条の権利は、原告から被告に信託譲渡され、原告は、法28条の権利を有していない。また、被告は、法28条の権利の譲渡を受けているから、被告による乙曲の利用許諾は、権限に基づく有効なものであり、原告が損害賠償請求権を行使することは許されない。
2 争点(2)(被告の過失の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 被告は、事実上我が国唯一の音楽著作権管理団体であり、もし、違法著作物の利用許諾を継続するなら、膨大な規模の著作権侵害を発生させる関係にあり、また、音楽著作権の利用許諾だけを業務とするほど日常的に音楽著作権の利用許諾を反復継続しているのであるから、違法著作物について利用許諾しないようにする高度の業務上の注意義務(予見義務と結果回避義務)を負う。乙曲と甲曲の間には、依拠したと考えるほか合理的説明ができないほどの顕著な類似性があり、被告は容易に乙曲が甲曲の著作権を侵害していることを予見できた。そして、著作権侵害曲を利用許諾しないよう監視・審査機関を機能させれば、容易に利用許諾による著作権侵害の発生を防げた。
(2) 特に、平成10年7月28日には、原告はEに対して別件訴訟を提起し、記者会見を行い、テレビ報道されているのであるから、乙曲が甲曲の著作権を侵害しているか否かについて注意する機会が与えられていた。さらに、原告は、被告に対し、乙曲は甲曲の編曲権を侵害していると指摘した。平成14年9月6日には、別件訴訟控訴審において、乙曲が甲曲の編曲権を侵害しているとの判決が言い渡された。しかし、被告はこれ以降も利用許諾を継続したのであり、故意・過失の存在は明らかである。
〔被告の主張〕 
(1) 被告は、内国作品に限っても年間4万件ないし5万件、外国作品は少なくとも年間10万件、最近では年間50万件以上もの作品届を受理している。これらの作品届が提出される都度、既に被告の管理著作物となっている数百万曲もの作品と個別に付き合わせて調査・検討・判断を行うことは到底不可能であり、合理的かつ効率的な管理の要請に背向するから、被告にこのような個別調査義務は発生しない。被告は、本件信託契約約款上、委託者に他の作品の著作権を侵害していないことの保証義務を課すことによって、管理著作物の適法性を担保しており、それで足りる。
(2) 本件信託契約約款の管理除外規定(同29条)は、「受託者は(中略)著作物の利用許諾、著作物使用料等の徴収を必要な期間行わないことができる。」と定めているのであり、管理除外は被告の権限であって義務ではない。委託者から管理委託を受けた音楽著作物について著作権の管理を行わないという管理除外の措置は、信託の本旨に反する側面を有するから、その権限は極めて例外的な場合に限定して行使されるべきである。したがって、被告の著作権管理実務においては、委託者間に管理著作物の権利関係をめぐる紛争が派生したときは、同約款20条の分配保留の措置を執るのを原則としている。原告自身も、別件訴訟提起後に、被告に対して、管理除外ではなく分配保留の措置を執るよう要求しており、本件のように客観的に違法な著作物であることが明らかとはいえない事案において、被告が管理除外の権限を行使しなかったことは、何ら不合理ではない。
(3) 被告は、著作権の集中管理団体として、信託契約に基づき、多数の委託者の著作権を公平に管理すべき義務を負っている。したがって、侵害といえるかどうか極めて微妙な本件の事案において、原告の要求のみに基づいて乙曲の管理除外措置を実施することは許されない。仮に被告が乙曲について管理除外措置をとり、その後、別件訴訟控訴審において第1審判決が維持されていれば、被告の執った管理除外措置は、E及びフジパシフィックに対する信託契約上の債務不履行に当たるとされるおそれがある。
 したがって、被告が執った分配保留の措置は、原告自身が強く要求したものであることからしても、適切かつ合理的な措置であり、被告に過失はない。
3 争点(3)(被告の行為は債務不履行といえるか)について
〔原告の主張〕 
(1) 信託法は、信託関係に関する一般法であり、原被告間の著作権信託契約にも適用がある。したがって、受託者たる被告は、委託者から信託を受けた著作権について、信託の本旨に従い、善良なる管理者の注意義務をもって信託事務を処理することを要する(信託法20条)。また、信任関係を基礎とする信託においては、受託者の基本的な行動指針は、専ら受益者の利益を図る点にあり、ここから受託者の忠実義務が生じる(信託法4条、9条、22条)。忠実義務の具体的な内容として利益相反行為の禁止がある。
 被告は、委託者から著作権の信託譲渡を受けて、その著作権を管理して、その管理によって得た著作物使用料を委託者に分配することを信託の本旨としているが、既存の楽曲と同一あるいは類似した楽曲の作品届が提出される場合には、会員間の分配上の利益相反が発生するだけでなく、著作権侵害に被告が加担することになり、それ自体が信託の本旨に反する。したがって、被告には、信託契約の受託者として、第三者から音楽著作物の作品届が提出され、その音楽著作権の管理を開始し、かつ管理を継続する場合には、その音楽著作物が既に信託を受けて管理している音楽著作物と同一曲又は類似曲ではないかを調査し、著作権侵害曲である場合には、管理除外の措置を執る著作権信託契約上の義務がある。
(2) 被告が管理する楽曲は、約400万曲と膨大であるが、毎年作品届が提出される楽曲は数万曲であり、被告がそれなりの調査をするなら、乙曲が甲曲の編曲権を侵害していることは予見可能であった。ところが、被告は、乙曲の旋律の届出要求さえ怠り、調査をしなかった。さらに、平成10年7月28日には、原告は別件訴訟を提起し、記者会見をすることにより、全国的にマスコミ報道がされたのであるから、当然被告もこれを知ったにもかかわらず、乙曲について、平成4年12月1日から(作品届を受理したのは同月21日であるが、同月1日付けで遡って利用許諾している。)平成15年3月13日まで管理を継続したのであるから、これは上記信託法上の債務不履行に該当する。
〔被告の主張〕
 前記第3の2〔被告の主張〕と同じ。
4 争点(4)(損害の発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕 
(1) 被告の乙曲の利用許諾により、テレビ放送、カラオケ演奏、録音、出版など多方面において乙曲は利用され、この利用は被告が乙曲の利用許諾を中止した後も継続され、被告はこれらの利用を放置していた。これらの利用行為は、すべて、被告の不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある著作権侵害行為であり、これらの行為により、原告は後記の損害を被った。
(2) 本件使用料規程には、1曲1回ごとの曲別使用料と包括的利用許諾契約による月額又は年額の使用料の規定が併記して定められているが、包括的利用許諾契約による月額又は年額の使用料の規定は、管理業務の効率化と著作物利用契約締結の誘引のために定額に定められているものであり、無許諾で音楽著作物を利用した著作権侵害の場合には適用がなく、曲別使用料の規定が適用される。
 「記念樹」は「どこまでも行こう」の編曲権を侵害する侵害態様にすぎないから、使用料相当額を考慮する場合にも、基本的には被侵害楽曲である「どこまでも行こう」が放送された場合の使用料相当額を考慮すべきである。また、「どこまでも行こう」の歌詞の著作権は、原告が専有しており、編曲権は被告に管理委託していない。編曲権を侵害している楽曲「記念樹」に歌詞を付けたり編曲したりして、「記念樹」を放送などに利用させている作詞者及び編曲者等の使用料相当額の分配分を控除するのは、違法行為の加担者の分配分を認めることになり、いかにも妥当でない。したがって、被告が定める著作物使用料から、編曲権侵害曲について編曲した編曲者及び歌詞を付けた作詞者の分配分、被告の手数料、Eの原著作物の編曲者としての分配分等を控除すべきではない。
(3) 損害額
 以上によれば、原告は、次のような利用態様による著作権の行使について、総計1789万5694円の受けるべき金銭の額に相当する額の損害を受けた(法114条2項)。なお、原告は、フジパシフィックに対する訴訟において、平成14年12月期までの乙曲に対する分配及び分配保留額を基に損害賠償を請求しているので、被告に対しては、平成14年以降の乙曲の利用許諾に関する平成15年3月期ないし9月期の分配保留額を基にした損害額を請求する。
ア 放送による使用料相当額
 平成15年3月期の分配保留額3万7358円が放送による使用料相当額である。
イ 放送用録音による使用料相当額
 平成15年3月期の分配保留額4117円が放送用録音による使用料相当額である。
ウ 録音による使用料相当額
 平成15年3月期及び6月期の分配保留額の合計9万4532円が録音による使用料相当額である。
エ 出版による使用料相当額
 平成15年3月期ないし9月期の分配保留額の合計7万9480円が出版による使用料相当額である。
オ 通信カラオケ送信による使用料相当額 
 被告は、平成12年12月期の乙曲の送信回数を1万3906回と回答している。そして、同期の分配額は2万3990円であるから、1回当たりの分配単価は1.725円となる。通信カラオケ送信は、通信カラオケ業者が電話回線を使用して利用者(店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信したことについての著作物使用料である。著作物使用料規程第11節業務用通信カラオケの2(2)によれば、1曲1回当たりの著作物使用料は40円である。
 したがって、平成15年3月期の乙曲についての分配保留額3万4174円を1.725で除した1万9811回が送信回数であり、これに40円を乗じた79万2440円が平成15年3月期の著作物使用料相当額である。
 しかし、平成15年3月期の分配額は、平成14年12月31日までに徴収されたものであり、被告は平成15年3月13日まで乙曲の利用許諾を継続し、かつ、被告が利用許諾を中止したことによる利用者の乙曲の利用を中止させるための措置を執らなかったために、業務用通信カラオケ事業者は、平成15年7月中旬まで乙曲を利用した。したがって、平成15年1月1日から同年7月までの2分配期分の著作物使用料相当の損害が発生している。平成14年12月分配期までの分配保留額の傾向を見るなら、平成15年1月1日から格別に利用回数が減少する理由もない。したがって、3分配期分として、237万7320円を著作物使用料相当額として請求する。
カ 通信カラオケ蓄積による使用料相当額
 平成15年3月期の分配保留額3862円が通信カラオケ蓄積による使用料相当額である。
キ インタラクティブ配信複製及び同送信による使用料相当額
 インタラクティブ配信複製及び同送信もカラオケ送信と同じシステムであるので、上記オのとおり、分配単価は1.725円である。著作物使用料規程第12節インタラクティブ配信の2によれば、1曲1回当たりの著作物使用料は20円である。
 したがって、平成15年3月期のインタラクティブ配信複製及び同送信の分配保留額合計7万8025円を分配単価1.725で除した4万5231回が録音回数であり、これに20円を乗じた90万4620円が平成15年3月期の著作物使用料相当額である。そして、上記オと同様の理由から、3分配期分として、271万3860円を著作物使用料相当額として請求する。 
ク 演奏による使用料相当額
(ア) 主位的請求
 カラオケボックスの1店舗当たりの平均室数は、平成14年度は13室である。この平均室数に、平成14年12月末現在でのカラオケボックス店舗数1万1083店舗を乗じれば、カラオケボックスの総室数が算出でき、これに平成14年12月末現在でのカラオケ社交場店舗数25万8469店舗を加算すれば、総カラオケ室数が40万2548室と算出できる。1日1室当たりの平均カラオケ演奏利用楽曲数は43曲であり、計算期間を91日として、平成14年12月期のカラオケ基金総額35億5801万9909円を91日、43曲、総カラオケ室数で除すると、1曲1回当たりの平均単価が2.3円と算出できる。平成15年3月期の演奏の分配保留額8万1801円を上記の1曲1回当たりの平均単価2.3円で除すると、乙曲の演奏回数が3万5565回と算出できる。著作物使用料規程第2章第2節5(1)Aによれば、1曲当たりの使用料最低額は90円である。したがって、上記の乙曲の演奏回数3万5565回に90円を乗じた320万0850円が平成15年3月期の演奏による著作物使用料相当額である。そして、上記オと同様の理由から、3分配期分として、960万2550円を著作物使用料相当額として請求する。
(イ) 予備的請求1
 被告の利用許諾契約による徴収額と違法行為の場合の損害賠償請求の際の曲別使用料との差額は、通常後者が前者の5ないし6倍であるので、「記念樹」の演奏に関する分配額を5倍した額である40万9005円が違法行為の場合の最低の損害賠償相当額である。
 8万1801円×5=40万9005円
(ウ) 予備的請求2
 演奏による使用料相当額は、損害が発生していることは認められても、事柄の性質上使用曲数を正確に立証することが極めて困難であり、損害額を正確に立証することは困難であるので、裁判所において法114条の4の相当な損害額を認定することを求める。原告は、被告が平成10年7月28日に「記念樹」に関する著作権侵害事件が提起されるも、故意に「記念樹」の利用許諾を継続したなどの事情及び被告が事実上我が国唯一の音楽著作権管理団体であることを考慮して、1500万円が相当である。
ケ 弁護士費用 
 被告の社会上の立場及び行為の悪質性を考慮すれば、上記アないしクの合計額の2割が相当である。演奏について主位的請求によった場合(上記ク(ア))には、1491万3079円の2割である298万2615円が相当である。
〔被告の主張〕
 原告の主張は争う。
 なお、本件分配規程においては、日々変動する膨大な量の管理著作物について迅速かつ効率的に分配計算を行う必要上、使用料の分配は、各分配期の「確定基準日」における関係権利者に対して行われるものとされ(4条)、その確定基準日は「分配対象使用料の対象期間の最終日」と定められている(10条1項第3類、44条1項)。例えば、乙曲の利用実績が比較的大きかったカラオケ店における歌唱利用、インタラクティブ配信及び業務用通信カラオケについてみれば、平成15年6月期分配に係る確定基準日はいずれも同年3月末日である。ところが、被告は同月13日をもって乙曲を管理除外としたから、乙曲は、同年6月期分配の確定基準日において使用料の分配対象著作物とはなり得ず、分配保留額が発生しなかったものである。
 この点、平成15年6月期及び9月期において、録音、出版及びインタラクティブ配信については分配保留額が発生している。これらは、本件分配規程4条の例外として、当該使用料の利用者に対する請求時における関係権利者(インタラクティブ配信については、利用月の属する四半期の最終日における関係権利者)に対して使用料を分配するものとされているため、同年3月13日前に請求又は利用され、その後入金した使用料が分配保留額として計上されたものである(本件分配規程31条、44条の2)。ただし、インタラクティブ配信は、同年8月の本件分配規程の改正により、上記の例外的な取扱いを行う種目として追加されたため、同年9月分配期からは、「利用月の属する四半期の最終日における権利関係者」に対して使用料の分配が実施されるようになった。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の著作権が侵害されたか)について
(1) 法27条について
 法27条は、「著作権者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定し、法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。このように、法27条は、文言上、「著作物を編曲する権利を専有する」旨定めており、「編曲する」という用語に「編曲した著作物を複製する」とか「編曲した著作物を放送する」という意味が含まれると解することは困難である。そして、法27条とは別個に、法28条が、翻案した結果作成された二次的著作物の利用行為に関して、原著作物の著作権者に法21条から27条までの二次的著作物の経済的利用行為に対する権利を定めていることに照らせば、法27条は、著作物の経済的利用に関する権利とは別個に、二次的著作物を創作するための原著作物の転用行為自体、すなわち編曲行為自体を規制する権利として規定されたものと解される。
 原告は、二次的著作物を利用許諾する行為に対しても、法27条の編曲権侵害が成立すると主張するが、そのように解すると、「編曲」の意味を法27条に例示された形態以上に極めて広く解することになるし、著作権法が法27条とは別個に法28条の規定を置いた意味を無にするものとなるから、法27条を理由とする原告の主張は、採用することができない。
(2) 法28条について
 本件において、甲曲について法27条の権利を専有する原告の許諾を受けずに創作された二次的著作物である乙曲に関して、原著作物である甲曲の著作権者は、法28条に基づき、乙曲を利用する権利を有するから、原告の許諾を得ずに被告から利用許諾を受けて乙曲を利用した者は、原告の法28条の権利を侵害することになり、原告は、上記利用者に対し、法27条に基づくのではなく、法28条に基づいて権利行使をすることができると解すべきである。
 被告は、原告が法28条の権利を有しない旨主張するので、この点について検討する。
ア 被告は、昭和40年9月1日、原告から、同年10月15日から著作権の全存続期間を信託期間として、本件信託契約約款により、原告の有する総ての著作権並びに将来取得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約を締結した。本件信託契約約款1条本文において、委託者は「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」を信託財産として受託者に移転する旨規定されている(乙1の1及び2)。そして、原告は、昭和42年2月28日、被告に対し、甲曲及びその歌詞の著作権を信託する旨の作品届を提出した(争いのない事実)。
 法61条2項は、「著作権を譲渡する契約において、法27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」旨規定している。原告が被告に甲曲の著作権を信託譲渡した昭和40年当時の旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、2条に「著作権ハ其ノ全部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規定されているだけであったが、現行著作権法(昭和45年法律第48号)が施行される際、附則9条によって、旧法の著作権の譲渡その他の処分は、附則15条1項の規定に該当する場合を除き、これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす旨定められたため、法61条2項の推定規定は、旧法時代に行われた著作権譲渡契約にも適用される。
 法61条2項は、通常著作権を譲渡する場合、著作物を原作のままの形態において利用することは予定されていても、どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著作物の創作及び利用は、譲渡時に予定されていない利用態様であって、著作権者に明白な譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると、単に「将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」という文言によって、法27条の権利や二次的著作物に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。この点につき、法28条の権利が結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とするものであるとして、単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは、法61条2項が法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反する。
 また、現行の著作権信託契約約款(甲5、乙3。平成13年10月2日届出)によれば、委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として受託者に移転する旨の条項(3条)のほか、委託者が別表に掲げる支分権又は利用形態の区分に従い、一部の著作権を管理委託の範囲から除外することができ、この場合、除外された区分に係る著作権は、受託者に移転しないものとする旨の条項がある(4条)。そして、この「別表に掲げる支分権及び利用形態」とは、@ 演奏権、上演権、上映権、公衆送信権、伝達権及び口述権、A 録音権、頒布権及び録音物に係る譲渡権、B 貸与権、C 出版権及び出版物に係る譲渡権、D 映画への録音、E ビデオグラム等への録音、F ゲームソフトへの録音、G コマーシャル放送用録音、H 放送・有線放送、I インタラクティブ配信、J 業務用通信カラオケであり、二次的著作物に関する法28条の権利については明記されていない。
 他方、被告は、法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれば、著作権信託契約約款に、例えば、社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款のように、「委託者は、その有する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定める利用方法で管理委託契約申込書において指定したものに関する管理を委任し、受託者はこれを引き受けるものとする。(1) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の出版、録音、録画その他の複製並びに当該複製物の頒布、貸与及び譲渡 (2) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆送信、伝達、上映、上演及び口述 (3) 著作物の翻訳及び映画化等の翻案」という条項によって、明確に「特掲」することが可能である(弁論の全趣旨)。
 以上によれば、原告の法28条の権利が明示の合意により、被告に譲渡されたことを認めるに足りない。
イ また、原告が、編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までも被告に容認していたと認めるに足りる証拠はなく、他に原告の有する法28条の権利が黙示の合意により被告に譲渡されたことをうかがわせる事実はない。
ウ かえって、@ 被告において、編曲著作物の届出方法が定められ、原著作物の著作権がある作品については、原著作物の著作権者の承認を証明する文書が必要とされ、被告において、編曲審査委員会及び理事会に諮って、当該編曲著作物が被告の管理する二次的著作物として妥当なものであるかどうかを決定すること(甲6、34、40、59、乙2)、A 被告発行の「日本音楽著作権協会の組織と業務」と題する説明書において、「編曲や翻訳等を認める権利はJASRACに譲渡されていないので、著作権法第61条により、これらの権利は当然著作者なり、著作権者なりに留保されていることに気を付ける必要がある。」と記載されていること(甲34)等の事実によれば、少なくとも原著作物の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されていない二次的著作物に関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は、原告のみならず、被告にもなかったものと認められる。
 逆に、原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関する権利が信託契約の対象となり、被告に譲渡されたものであるとすると、編曲権を侵害する二次的著作物が放送等により利用された場合に、被告が編曲権を侵害する二次的著作物に当たらないと判断したときには、これと異なる見解を有する原著作物の著作権者が何らの権利も行使することができないこととなる。現に、本件において、被告は、フジテレビやポニーキャニオン等の利用者に対し、乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたのであるから、被告が利用者に対し法28条の権利を行使して利用差止めや損害賠償等の請求をすることは期待し難く、原著作物の著作権者の保護に欠ける不当な結果となりかねない。
エ したがって、少なくとも法27条の権利(編曲権)を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利は、被告に譲渡されることなく原告に留保されているということができる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件信託契約約款1条本文について、二次的著作物が第三者によって無断で編曲されたかどうかによって、法28条の権利の移転に何らの区別を設けていない旨主張する。しかしながら、第三者が編曲した場合には、編曲届に原権利者の承認を得ることにより、法61条2項の推定が覆されて法28条の権利が譲渡されたものと解することができるが、原権利者の承認がない場合において、同様に解することはできない。
 また、被告は、原被告間の著作権信託契約に法61条2項が想定するような利害の対立関係はない旨主張する。しかしながら、著作権の管理委託の場面においては、利害の対立がないとしても、法27条の権利を有する原告がこれを侵害されたとして別件訴訟を提起した後も、被告は編曲権を侵害した曲の利用者との関係では、現に何らの措置も執らなかったのであり、原告との間に深刻な利害の対立がある。
 さらに、被告は、原告が法28条の権利の一部を被告に信託譲渡したことを認める本件においては、法61条2項の推定を働かせる余地はない旨主張する。しかしながら、原告が認めるのは、原権利者の承認を得た編曲届の提出された二次的著作物についてであって、無断で編曲された二次的著作物についてあらかじめ法28条の権利を譲渡することを認める趣旨とは解されない。
(イ) 被告は、二次的著作物に関する法28条の権利の移転の帰趨が許諾の有無によって影響を受けるとすると、著作権集中管理団体は、画一的・定型的な処理による効率的かつ実効的な著作権管理を行う目的を達することが不可能である旨主張する。しかしながら、演奏の段階で多少の修正・増減・変更を加えられているとしても、通常は、これが法27条の編曲に該当する程度の創作性を有することは稀であるし、法27条の編曲権を侵害する曲が無断利用された場合に、現に本件では被告は利用者に対する差止めや損害賠償の請求をすることなく、原告自身が訴訟を提起したことは前記のとおりであって、前記判断が著作権集中管理団体の管理の目的に反することはない。
(ウ) 被告は、仲介業務法の下では、文化庁長官の許可を得ていなかった原告は、仲介業務を行うことが禁止されていたから、法28条の権利のすべてを文化庁長官の許可を受けた仲介業務団体である被告に移転していた旨主張する。しかしながら、仲介業務とは、著作物の利用に関する契約につき、著作権者のために代理又は媒介を業としてなすことをいい(仲介業務法1条)、編曲権を侵害する二次的著作物を無断で利用する者に対し、原告が差止めや損害賠償を請求することが、仲介業務法2条に違反するものとはいえない。
(エ) 被告は、第三者によって著作物に改変が加えられても、著作者がこれを問題としないときは、第三者の利用を禁じる必要はないにもかかわらず、原告の主張に従えば、被告は第三者の経済的利用から使用料を徴収することができず、著作者の正当な経済的利益を損なう旨主張する。しかしながら、著作者の有する著作者人格権と著作権者の有する著作権は、別個の権利であるから、著作者が改変を問題としないときであっても、法28条の権利を有する者が権利行使することが妨げられるものでもない。
(オ) 被告は、被告が編曲届の提出に際し「原権利者の承認を証明する文書」の添付を要求しているのは、二次的著作物に関する法28条の権利を管理するか否かを定めるためのものではない旨主張する。しかしながら、仮に、編曲届における原権利者の承認が、原著作物の著作権者の使用料分配率が減少することについての承認という意味を有するものであるとしても、原著作物の著作権者の承認のない二次的著作物に関し、使用料の全額について編曲者への分配を承認することを意味するものではないから、被告が原著作物の著作権者の承認のない二次的著作物を管理することはできないはずである。
(カ) 被告は、原告及びBが被告に対し、乙曲の著作物使用料の分配保留を求めたことをもって、被告への信託譲渡を容認している旨主張する。しかしながら、もともと乙曲の管理を委託したのは原告ではなく、著作物使用料も原告に支払われていたわけではないから、上記の事実をもって、原告が許諾することなく編曲された二次的著作物の利用に関する権利も被告に信託譲渡したと認めることはできない。
(キ) 以上のとおり、被告の主張は、いずれも理由がない。
カ したがって、原告は、編曲権を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利を有し、乙曲を利用する権利を専有するから、原告の許諾を得ることなく乙曲を利用した者は、原告の有する法28条の権利を侵害したものであり、上記利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、上記権利侵害を惹起したものというべきである。
2 争点(2)(過失の有無)について
(1) 被告は、平成13年9月30日までは、仲介業務法により文化庁長官より許可を受けた音楽著作権に関する我が国唯一の著作権管理団体であり、平成13年10月1日からは、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受け、音楽著作権を管理している公益社団法人である。被告は、音楽の著作物の著作権者の権利を擁護し、あわせて音楽の著作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に資することを目的とし、この目的を達成するため、@ 音楽の著作物の著作権に関する管理事業、A 音楽の著作物に関する外国著作権管理団体等との連絡及び著作権の相互保護、B 特別の委託があったときは、音楽の著作物以外(小説、脚本を除く。)の著作物の著作権に関する管理事業、C 私的録音録画補償金に関する事業、D 著作権思想の普及に関する事業及び音楽の著作物の著作権に関する調査研究、E 音楽文化の振興に資する事業、F 会員の福祉に関する事業、G その他被告の目的を達成するために必要な事業を行うものである(乙7)。このような被告の目的や業務の性質上、被告は、自ら管理し著作物の利用者に利用を許諾する音楽著作物が他人の著作権を侵害することのないように、万全の注意を尽くす義務がある。
 被告は、多数の著作物を管理しており個別の調査義務はない旨主張するが、本件においては、平成10年7月に別件訴訟が提起され、乙曲が甲曲に係る著作権等を侵害するか否かが問題になっていることは大きく報道されたのであるから(甲50の1、62、63、弁論の全趣旨)、被告は、遅くとも平成10年7月以降は、乙曲が甲曲に係る著作権を侵害するものか否かについて真摯にかつ具体的に調査検討し、著作権侵害の結果が生じることのないようにする方策をとるべき注意義務があったというべきである。そして、被告は、その事業の目的及び規模からしても、著作権侵害に当たるか否かについての調査能力を十分有しており、音楽専門家の間でも侵害非侵害の両論があったのであるから、著作権侵害の結果が生じる可能性を予見すべきであり、また、乙曲が甲曲に係る著作権を侵害していると判断される可能性があれば、乙曲の利用許諾を中止したり、利用者に訴訟が係属していることを注意喚起すること等によって、著作権侵害の結果を回避することができたものである。
 しかるに、被告は、別件訴訟が提起された後に、原告の依頼に基づき平成10年9月30日付けで著作物使用料分配保留の措置を執ったものの(甲69、乙5)、利用者に対して、格別に注意喚起すら行っていなかった。被告は、別件訴訟の控訴審判決が言い渡され、フジテレビが乙曲の放送を中止した平成14年9月6日以降も、従前どおり利用許諾を続け、同月19日になって初めて、インターネット上の「記念樹」の作品詳細表示に「注:訴訟継続中」との表示を加えたのみであった(甲70)。その後、平成14年11月20日開催の被告の通常評議員会において、別件訴訟控訴審判決が取り上げられ、国の判断が出た以上、被告は「記念樹」の利用許諾を中止すべきであるとの意見や、利用許諾を一旦停止し、最高裁の判決が出た場合に改めて取扱いについて判断して欲しいという意見が評議員から出されたにもかかわらず、被告は、最高裁の決定が出たときに結論を出すとして、格別の措置を執らなかった(甲42)。また、平成15年2月19日開催の被告の通常評議員会において、再度Bから利用許諾を中止するよう要請があったが、被告は係争中である限りは、現在の状況を続けるとして、利用許諾を中止しなかった(甲43)。結局、同年3月11日にされた別件訴訟の最高裁決定を受けて、被告は、同月13日に至り、ようやく乙曲の利用許諾を中止したものである。
 そして、本件において損害を請求されている平成15年3月期以降の著作物使用料分配保留分の利用許諾行為については、別件訴訟が提起された後であり、一部は編曲権侵害を肯定する別件訴訟控訴審判決が言い渡された後でもあるのであるから、被告としては、乙曲が甲曲の著作権を侵害するものであるか否かについてとりわけ慎重な検討をして著作権侵害の結果を回避すべき義務があった。しかるに、被告は、これを怠り、別件訴訟の控訴審判決前に関しては、利用者に対して、格別に注意喚起すら行っておらず、控訴審判決後も漫然と乙曲の利用許諾をし続けたのであるから、過失があったといわざるを得ない。
(2) 被告は、管理除外は被告の権限であって義務ではなく、逆に原告の要求のみに基づいて乙曲の管理除外措置を実施することは、多数の委託者の著作権を公平に管理すべき義務に反し、債務不履行に当たるなどと主張する。
 しかしながら、これは、被告と乙曲の管理を委託したフジパシフィックとの間の内部関係であって、法28条の権利を専有する原告との関係において過失を否定することにはならない。また、遅くとも、別件訴訟控訴審判決の後は、最高裁判所の判断が示されていないとはいえ、乙曲が甲曲の著作権を侵害している蓋然性が極めて高くなったのであるから、被告としては、管理を除外しあるいは一旦利用許諾を控える等、損害を拡大しないような措置を執るべきであった。被告は、著作権信託契約約款上、委託者に他の作品の著作権を侵害していないことの保証義務を課しているから(乙3。7条)、このような措置を執っても、乙曲の管理を委託したフジパシフィックとの関係において、信託契約上の債務不履行に当たることはない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(3) よって、乙曲の利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、利用者による原告の有する法28条の権利の侵害を惹起した者として、その利用による損害を賠償すべき責任がある。
3 争点(4)(損害の発生の有無及び額)について
(1) 損害額の算定基準
ア 甲曲及び乙曲を含む音楽著作権の管理が、実際上は大多数の場合において、被告に対する信託を通じてされていること、当該管理は本件使用料規程(甲53、64)及び本件分配規程(乙3)に準拠して行われていること、本件使用料規程については、仲介業務法3条の規定により文化庁長官の認可を受けていたものであることから、本件使用料規程及び本件分配規程に基づく著作物使用料の徴収及び分配の実務は、音楽の著作物の利用の対価額の事実上の基準として機能するものであり、法114条2項の相当対価額を定めるに当たり、これを一応の基準とすることには合理性があると解される。
イ 原告は、編曲権を侵害する曲について歌詞を付けた作詞者の行為は、すべて編曲権侵害行為であるから、作詞者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。
 しかしながら、歌詞と楽曲は別個の著作物として独立に保護し得るものであり、しかも、本件においては歌詞が先に作詞され、それにEが曲を付けたのであるから(甲39)、作詞者Fの行為が編曲権を侵害する行為であるということはできない。
 そして、歌曲「記念樹」は、作詞者Fと作曲者Eのいわゆる結合著作物であり、その楽曲(乙曲)についての著作権とは別個に、歌詞についての著作権が存在している。他方、被告による著作物使用料の分配額は、歌曲「記念樹」の使用料として分配されているものである(甲54、乙8)から、楽曲としての乙曲の相当対価額の算定上は、歌詞の著作物の利用の対価額を控除するのが相当である。
ウ 原告は、編曲権侵害曲について編曲した編曲者の行為は編曲権侵害行為であるから、編曲者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。
 しかしながら、このような解釈は、編曲権侵害の範囲を不当に拡大するものであるし、法2条1項11号は、二次的著作物に著作権法上の保護を与える要件として、当該二次的著作物の創作過程の適法性を要求していないと解されるから、原告の上記主張は、採用できない。
 そして、乙曲は甲曲を原曲としつつ、Eにより創作的な表現が加えられた二次的著作物であるから、Eは二次的著作物として新たに付与された創作的な部分について著作権を取得し(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)、これをフジパシフィックに譲渡したものである。また、歌曲「記念樹」は、Gにより編曲されたものとして公表されているところ、Gの編曲についても同様である。
 そうすると、甲曲を原曲とする二次的著作物である乙曲の利用の対価額中には、原曲の著作権者に分配されるべき部分と二次的著作物の著作権者及びその編曲者に分配される部分とを観念することができる。したがって、甲曲の相当対価額を定めるに当たっては、二次的著作物の著作権者及びその編曲者の分配分を控除すべきであり、その控除されるべき割合は、原曲の編曲者への分配率に準じて定めるのが相当である。
(2) 原告の損害額
 以上を前提として、以下、原告の主張する損害の種目ごとに損害額を検討する。
ア 放送に係る使用料相当額
 原告は、平成15年3月期の分配期に対応する放送による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、3万7357円である(甲54、乙8)。
 本件分配規程15条及び8条(乙3)によれば、放送に係る使用料の分配率は、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/12とされているから、放送に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、1万5565円と認めるのが相当である。
 3万7357円×5/12=1万5565円
 なお、本件分配規程14条(乙3)によれば、民放からテレビ放送(地上波)について徴収した放送等の包括使用料(第3類)は、平成14年7月から9月までの期間に使用された分配対象著作物について、平成15年3月期に分配することとなっている。したがって、平成15年3月期の分配期に対応する放送とは、フジテレビが平成14年9月1日に中止するまで行っていた乙曲の放送であり、当庁平成14年(ワ)第6709号事件においてフジテレビが賠償すべき損害と重なるものであるから、上記損害額については、被告とフジテレビとの不真正連帯債務となる。
イ 放送用録音に係る使用料相当額
 原告は、平成15年3月期の分配期に対応する放送用録音による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、4117円である(甲54、乙8)。
 本件分配規程15条及び29条(乙3)によれば、録音に係る使用料の分配率は、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされているから、録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、1543円と認めるのが相当である。
 4117円×3/8=1543円
 なお、上記アと同様に、平成15年3月期の分配期に対応する放送用録音とは、フジテレビが平成14年9月1日まで行っていた乙曲の放送用録音であり、フジテレビが賠償すべき損害と重なるものであるから、上記損害額については、被告とフジテレビとの不真正連帯債務となる。
ウ 録音に係る使用料相当額
 原告は、平成15年3月期及び6月期の分配期に対応する録音による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、9万4532円である(甲54、乙8)。
 本件分配規程29条(乙3)によれば、録音に係る使用料の分配率は、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされているから、録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、3万5449円と認めるのが相当である。
 9万4532円×3/8=3万5449円
エ 出版に係る使用料相当額
 原告は、平成15年3月期ないし9月期の分配期に対応する出版による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、7万9480円である(甲54、乙8)。
 本件分配規程29条(乙3)によれば、出版に係る使用料の分配率は、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされているから、出版に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、2万9805円と認めるのが相当である。
 7万9480円×3/8=2万9805円
オ 通信カラオケ送信に係る使用料相当額
 通信カラオケ送信に係る使用料とは、通信カラオケ業者が電話回線を使用して利用者(店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信したことについての著作物使用料である。
 通信カラオケ送信についての分配方法は、利用回数基準分配基金90%、端末台数基準分配基金10%の割合で、各基金ごとに計算されることになっている。利用回数基準分配基金は、使用者からのアクセスコードごとの利用回数報告に基づく各著作物の利用回数を点数として分配するものであり、端末台数基準分配基金は、各著作物が利用可能の状態にある端末装置の全台数を点数として分配するものであり、これは実際の送信回数とは関係がない(甲51)。
 原告が損害として請求する平成15年3月期の送信回数を的確に証する証拠はないが、被告が平成12年12月期の乙曲の送信回数は1万3906回である旨回答していること(甲51)、上記のとおり、利用回数基準分配基金が90%を占めていることからすれば、端末台数基準分配基金によって生じる利用回数の差はそれほど多くはないと推認される。よって、平成12年12月期の分配保留額2万3990円(甲52)を同期の送信回数1万3906回で除した1.725円を送信単価とし、分配保留額の総額を1.725円で除したものを総送信回数としても、実際の送信回数とさほど差は生じないと解される。したがって、平成15年3月期の分配保留額3万4174円を送信単価1.725で除した1万9811回が同期の送信回数となる。
 ところで、平成15年6月期以降の通信カラオケ送信に係る分配保留額は、被告の調査によれば0円であるが(甲54、乙8)、これは、被告の業務上、関係権利者の確定基準日が各分配期の分配対象使用料の対象期間の最終日となっているところ(乙3、4条)、業務用通信カラオケ使用料の平成15年6月の分配期の分配対象使用料は、同年1月から3月までの期間に徴収した使用料であるので(乙3、44条)、確定基準日が平成15年3月末日となり、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準日において乙曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったものである。しかし、被告は、平成15年3月13日までは乙曲の利用許諾を行っており、被告が乙曲の業務用通信カラオケによる利用実績が比較的大きかったことを自認していることに照らせば、被告の分配保留額の算定方法如何に関わらず、その間、被告の利用許諾に基づいて損害が発生していたものと推認される。したがって、本来なら同年6月期以降の分配期に対応する同年1月以降に発生した使用料の分配保留額として反映されるべき損害分として、同年3月期の送信回数1万9811回の約6分の5である1万6509回を加えた3万6320回を総送信回数と認める。
 本件使用料規程第11節2(2)(甲53)によれば、業務用通信カラオケにおける1曲1回当たりの著作物使用料(複製及び公衆送信に係るものを含む)は40円である。したがって、通信カラオケ送信に係る使用料相当額は、上記金額に送信回数3万6320回を乗じた145万2800円となる。
 そして、本件分配規程8条、29条、43条(乙3)によれば、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、通信カラオケ送信に係る使用料の分配率は、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/12とされており、通信カラオケ蓄積に係る使用料の分配率は、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされていることに鑑み、作詞者及び編曲者の分配率を29/48と認める。よって、通信カラオケ送信に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、57万5066円と認めるのが相当である。
 145万2800円×19/48=57万5066円
カ 通信カラオケ蓄積に係る使用料相当額
 原告は、通信カラオケ蓄積による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するところ、通信カラオケ蓄積と同送信とは表裏一体であり、前記オのとおり、通信カラオケ送信に係る使用料として、複製及び公衆送信に係るものを含む額を1曲1回当たりの著作物使用料として算出した以上、これと別個に通信カラオケ蓄積による使用料相当額を請求することはできない。
キ インタラクティブ配信複製及び同送信に係る使用料相当額
 インタラクティブ配信に係る使用料とは、音楽配信、テレフォンサービス等ネットワークを用いた放送及び有線放送以外の公衆送信及びそれに伴う複製により著作物を利用する場合のうち、業務用通信カラオケの規定が適用になるものを除いた場合についての著作物使用料である(甲53)。したがって、基本的には前記オの通信カラオケ送信と同様に考えられる。
 また、平成15年6月期のインタラクティブ配信に係る分配保留額は、被告の調査によれば0円であるが(甲54、乙8)、これは、通信カラオケ送信と同様、確定基準日が平成15年3月末日であって、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準日において乙曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったものである。しかし、インタラクティブ配信は、平成15年8月の本件分配規程の改正により、本件分配規程4条の例外として、利用月の属する四半期の最終日における関係権利者に対して使用料を分配することに変更された(乙10、44条の2)ため、同年9月期から分配保留額が発生したものである。したがって、この9月期の分配保留額は、同年1月以降の乙曲の利用料徴収分を反映した額であると解され、また、被告が乙曲のインタラクティブ配信による利用実績が比較的大きかったことを自認していることにも照らし、同年3月期と9月期の分配保留額を加えた額を基準として損害額を算定する。
 平成15年3月期及び9月期の乙曲についての分配保留額総額は、3万5053円である。平成15年3月期及び9月期のインタラクティブ配信送信回数を的確に証する証拠はないが、前記オと同様、インタラクティブ配信送信に係る分配保留額総額3万5053円を上記オで算出した1回当たりの送信単価1.725で除した2万0320回を送信回数と認める。なお、原告は、インタラクティブ配信複製に係る分配保留額をも合算した上で送信単価1.725で除したものを送信回数と主張するが、インタラクティブ配信複製と同送信とは表裏一体であり、1つのインタラクティブ配信に基づき徴収した使用料を複製に関する権利者と送信に関する権利者に別々に分配しているにすぎないから、相当でない。
 本件使用料規程第12節2(甲53)によれば、インタラクティブ配信における1曲1回当たりの著作物使用料は20円である。したがって、インタラクティブ配信に係る使用料相当額は、上記金額に2万0320回を乗じて、40万6400円となる。
 そして、本件分配規程8条、29条、43条(乙3)によれば、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、インタラクティブ配信送信に係る使用料の分配率は、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/12とされており、インタラクティブ配信複製に係る使用料の分配率は、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされていることに鑑み、作詞者及び編曲者の分配率を29/48と認める。よって、インタラクティブ配信送信に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、16万0866円と認めるのが相当である。
 40万6400円×19/48=16万0866円
ク 演奏に係る使用料相当額
(ア) 主位的請求について
 原告は、被告の平成14年12月期のカラオケ基金総額を91日、1日1室当たりの平均利用楽曲数43曲及び総カラオケ室数で除すると、1曲1回当たりの平均単価が算出でき、平成15年3月期の演奏の分配保留額を上記の平均単価で除すると、乙曲の同分配期の使用回数が算出できると主張する。
 しかしながら、甲第65ないし第68号証によれば、演奏の分配対象使用料額(分配額又は分配保留額と同じ。)は、演奏会、カラオケ調査基準、カラオケ出庫基準、カラオケ再ブランケット分の4つの分配基金ごとに算定された分配対象使用料額の総額である。演奏会による分配は、個々の演奏会で被告が徴収した使用料の合計額に計算係数を掛けて算出された分配点数に応じて配分するもので、演奏回数ではなく、使用料額に比例するものである。カラオケ調査基準による分配とは、分配対象期までの1年間のサンプリング調査において捕捉された社交場とカラオケボックスにおける演奏回数を基に算出されるものである。カラオケ出庫基準による分配とは、サンプリング調査により捕捉されないほど使用頻度の低い著作物をカバーするために、カラオケ調査基準による分配と組み合わせて行っているもので、適用し得る最新の期までの3年間の当該著作物を収録したカラオケソフトの出庫数に比例する分配点数に基づいて配分されるものであるが、この分配点数は、演奏回数とは関連がない。カラオケ再ブランケット分とは、使用頻度の低い著作物をカバーする目的のカラオケ出庫基準による分配が、当初の目的を外れてカラオケ調査基準による分配の最低額を上回った場合に、当該上回った分を当期のカラオケ分配対象となった全著作物に取分率比に応じて均等配分するもので、演奏回数とは関連がない。
 したがって、演奏の分配対象使用料額には、上記のとおり、演奏回数とは関連なく計算される演奏会、カラオケ出庫基準及びカラオケ再ブランケット分の額を含んでおり、どのような単価で除しても、乙曲の使用回数を算出することはできない。
 上記のとおり、原告主張のとおりの算定方法では、実際の演奏回数を算出することはできないから、主位的請求に係る損害額の算定を採用することはできない。
(イ) 予備的請求1について
 原告は、曲別使用料が包括使用料の5倍である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 予備的請求2について
 被告は、平成15年3月13日まで乙曲を利用許諾していたのであるから、それまでの間乙曲が演奏され、原告に損害が生じたことが認められる。しかしながら、本件において、演奏回数を立証することは、性質上極めて困難である。平成15年3月期の演奏に係る分配保留額の合計は、8万1801円であること(甲54、乙8)、前記オのとおり、カラオケ演奏に付随する通信カラオケ送信の回数が平成15年3月期において1万9811回であること、平成15年3月期のインタラクティブ配信送信回数が1万6519回(分配保留額2万8496円÷1.725=1万6519回)であること、被告が乙曲のカラオケ店における歌唱による利用実績が比較的大きかったことを自認していることその他口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合して、法114条の4を適用し、平成15年3月期の演奏回数を1万2000回と認める。
 また、平成15年6月期以降の演奏に係る分配保留額は、被告の調査によれば0円であるが(甲54、乙8)、これは、被告の業務上、関係権利者の確定基準日が各分配期の分配対象使用料の対象期間の最終日となっているところ(乙3、4条)、演奏使用料のうち第3類社交場における演奏に係る使用料の平成15年6月の分配期の分配対象使用料が、同年1月から3月までの期間に徴収した使用料であるので(乙3、10条)、確定基準日が平成15年3月末日となり、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準日において乙曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったものである。さらに、演奏使用料のうち、第1類上演形式による演奏に係る使用料及び第2類演奏会及びその他の催物における演奏に係る使用料については、平成15年6月期に分配すべき分配対象使用料である平成14年10月から12月までの期間に徴収した使用料が0円であったことをも示すものであるから、上記第1類及び第2類については考慮の必要がないことになる。
 被告は、平成15年3月13日までは乙曲の利用許諾を行っていたのであり、被告の分配保留額の算定方法如何に関わらず、その間、被告の利用許諾に基づいて損害が発生していたことは明らかである。したがって、同年6月期以降の分配期に対応する同年1月以降に発生した使用料の分配保留額として反映されるべき損害分として、同年3月期の演奏回数1万2000回の6分の5である1万回を加えた2万2000回を総演奏回数と認める。
 本件使用料規程では、演奏の1回当たりの単価を90円と定めているから、演奏に係る使用料相当額は、上記金額に2万2000回を乗じた198万円となる。
 そして、本件分配規程8条(乙3)によれば、演奏に係る使用料の分配率は、関係権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/12とされているから、作詞者及び編曲者への分配分を控除すると、演奏に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、82万5000円と認めるのが相当である。
 198万円×5/12=82万5000円
ケ 弁護士費用 
 原告の弁護士費用としては、上記アないしクの合計額164万3294円の約1割である16万円を被告に負担させるのが相当である。
コ 合計
 したがって、原告の損害額は、上記アないしケの額の合計である180万3294円である。なお、被告は、平成15年3月13日まで利用許諾を継続しており、上記損害は、同日までに発生したものであるから、原告の請求する同年4月23日から支払済みまでの遅延損害金を認める。
4 結論
 よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は、180万3294円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか
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