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【事件名】ゲームソフト「グリーン・グリーン」事件(2)
【年月日】平成15年7月10日
 東京高裁 平成15年(ネ)第546号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第21182号)
 (平成15年5月29日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) 株式会社フロントウイング
訴訟代理人弁護士 岡邦俊
同 近藤夏
被控訴人(被告) A(以下「被控訴人A」という。)
被控訴人(被告) 有限会社ガンホー(以下「被控訴人ガンホー」という。)
被控訴人(被告) 株式会社サカモト(以下「被控訴人サカモト」という。)
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 寒河江孝允
同 武藤元


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
 控訴費用(予備的請求によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは別紙目録記載のゲームソフト(被控訴人製品)を製作、頒布してはならない。
3 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して5324万円及びこれに対する平成13年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 当審における予備的請求
 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して5324万円及びこれに対する平成13年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
5 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行の宣言
第2 事案の概要
1 控訴人は、被控訴人らに対し、選択的に、以下の(1)及び(2)の請求をしたが、原判決は、ゲームソフト「グリーン・グリーン」(以下「グリーン・グリーン」という。)に関する別紙著作権目録記載の基本シナリオ(本件基本シナリオ)の著作者は控訴人ではなく被控訴人ガンホーであるから著作権侵害は認められないとし、また、控訴人の主張する債務不履行及び不法行為による損害賠償責任は認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人はこれを不服として控訴し、当審において、予備的に、以下の(3)の契約締結上の過失等に基づく請求を追加した。
(1) 差止請求と損害賠償請求につき著作権侵害
 被控訴人製品を製作・販売する被控訴人らの行為は、控訴人が著作権を有する本件基本シナリオを翻案する行為であり、控訴人の著作権を侵害すると主張して、被控訴人製品の製作、頒布の差止めと損害賠償の支払を求めた。
(2) 損害賠償請求につき債務不履行(被控訴人A及び同ガンホー)と不法行為(被控訴人サカモト)
 被控訴人製品を製作する被控訴人A及び同ガンホーの行為は、同被控訴人ら両名と控訴人との間で締結された業務委託契約の不履行を構成すると主張し、また、被控訴人製品を販売する被控訴人サカモトの行為は、控訴人に対する不法行為を構成すると主張して、損害賠償の支払を求めた。
(3) 損害賠償請求につき契約締結上の過失(被控訴人ガンホー)とその加担者としての責任(その余の被控訴人ら)
 被控訴人ガンホーが「グリーン・グリーン」の製作業務に関する請負契約を締結すべく控訴人と被控訴人ガンホーとの間で行われていた契約交渉を打ち切った行為は、信義則上の義務違反を構成するから、被控訴人ガンホーは、契約締結上の過失による責任を負う(その余の被控訴人らは加担者として責任を負う。)と主張し、損害賠償の支払を求めた。
2 本件において前提となる事実、争点及び当事者の主張は、以下の(1)ないし(3)のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 前提となる事実」及び「2(「3」の誤記)争点及び当事者の主張」に記載のとおりである。
(1) 著作権侵害の争点(本件基本シナリオの著作者)について
 本件基本シナリオの著作者は、被控訴人ガンホーではなく、控訴人である。仮にそうでないとしても、控訴人は、本件基本シナリオの共同著作者である。
ア 被控訴人Aと控訴人の関係
 被控訴人Aが平成12年10月1日に被控訴人ガンホーに雇用されたこと、被控訴人ガンホーが同年11月ころから「グリーン・グリーン」の脚本の製作を始めたこと等の外形的事実が認められるとしても、被控訴人Aが被控訴人ガンホーに雇用された目的は、控訴人の発意による「グリーン・グリーン」の製作を円滑に遂行するためであった。現に、平成13年1月29日に控訴人と被控訴人Aとの間で締結された本件業務委託契約では、同被控訴人の主たる業務が「グリーン・グリーン」の「プロデュース」であることが明記されている。「グリーン・グリーン」の製作は、同被控訴人にとって、控訴人及び被控訴人ガンホーの双方に対する契約上の義務であった。被控訴人ガンホーが同Aの指揮監督について控訴人よりも優位に立ったことはない。
 以上のように被控訴人Aと控訴人とは実質的な雇用契約関係にあったから、「グリーン・グリーン」の基本シナリオである本件基本シナリオについては、控訴人との関係で、著作権法15条1項の職務著作が成立する。
イ 被控訴人ガンホーと控訴人との関係
 「グリーン・グリーン」は、控訴人が企画し、被控訴人ガンホーに製作を依頼したものである。控訴人と被控訴人ガンホーとの間には、「グリーン・グリーン」の作成について、控訴人を注文主とする請負契約が実質的に成立しており、本件基本シナリオは同契約に基づき「特注品」として作成されたものである。被控訴人ガンホーが控訴人から「あらかじめ資金を受け取る」予定であったこと、支出した資金を「控訴人から確実に受け取る必要があったこと」等の原判決認定の事実は、控訴人が被控訴人ガンホーにとって不特定の販売先ではなく、特定の注文主であったことを示すものである。
ウ 以上のことから、控訴人は、著作権法15条1項により本件基本シナリオの著作者と認められるべきであり、少なくとも、共同著作者として、本件著作権を被控訴人ガンホーと共有していると判断されるべきである。
(2) 債務不履行等の争点について
ア 本件業務委託契約による被控訴人Aの義務は、基本的には、控訴人の発意によるゲームソフトである「グリーン・グリーン」の製作を円滑に遂行することであり、同ゲームソフトの単なる広報活動に限定されるものではない。被控訴人Aは、控訴人のために「グリーン・グリーン」を完成させることがなかったのであるから、控訴人に対する債務不履行責任を負うべきことは当然である。
イ 平成13年1月5日、控訴人と被控訴人ガンホーとの間で取り交わされた本件覚書(甲4)は、被控訴人Aが平成12年10月1日に被控訴人ガンホーに雇用されて控訴人及び被控訴人ガンホーのために開始していた「グリーン・グリーン」の製作業務や平成12年12月26日付けの機密保持契約(甲5)の締結等によって、既に開始され、履行が一部先行していた「グリーン・グリーン」の製作に関する契約関係について、控訴人からの解除権の行使を制約する目的で、被控訴人ガンホーの代表者の要請に基づき、締結されたものである。本件覚書は、その前文にも明記されているとおり、契約として締結されているから、被控訴人は、債務不履行による法定解除権の行使によるか、被控訴人からの解除権について定めた第3条所定の事由によるのでなければ、本件覚書を解除して同覚書上の義務を免れることはできないものである。本件覚書は、被控訴人ガンホーに、控訴人との間で「グリーン・グリーン」の開発に関する正式契約を締結する義務及び開発成果を控訴人に納品すべき義務を負わせることを内容とするものであり、これらの義務を履行しなかった控訴人ガンホーは、債務不履行の責任を負う。義務を認めなかった原判決の判断は誤りである。また、原判決は、被控訴人A及び同ガンホーについて債務不履行が成立しないことを前提として、被控訴人サカモトについて、債権侵害に基づく不法行為の成立を否定する判断をしたが、前提が誤っているから、その判断も誤りである。
(3) 契約締結上の過失責任等(当審追加の予備的請求の請求原因)
 控訴人と被控訴人ガンホーとの間には、遅くとも本件覚書が作成された平成13年1月5日の時点で、「グリーン・グリーン」の製作に関して実質的な請負契約関係が既に成立し、契約書作成のみを残す状態となっていた。このような契約交渉の最終段階に至って一方的に交渉を打ち切った被控訴人の行為は、信義に反し、控訴人の契約成立への正当な期待を裏切ったものである。原判決は、契約締結に向けての交渉は、条件が折り合わないために決裂したと認定したが、被控訴人ガンホーの対応は、到底、契約交渉の「決裂」といえるようなものではなく、なんら理由や対案を示さない一方な中止行為であった。
 このような事実関係の下では、控訴人らは、仮に契約関係上の義務の不履行による責任を負わないとしても、「契約締結上の過失」の法理により(控訴人ガンホー以外の被控訴人らは加担者として)、控訴人に対し損害賠償責任を負う。
第3 当裁判所の判断
1 本件基本シナリオの著作者について
(1) 証拠(甲1、2、4、6、8、9、19、乙2、5ないし7、10ないし21。なお、枝番号の記載は省略する。以下同様である。)及び弁論の全趣旨によれば、本件基本シナリオの製作過程、被控訴人ガンホーと控訴人との関係、被控訴人Aと控訴人との関係について、原判決13頁15行から18頁23行に認定したとおりの事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
 本件において前提となる事実(原判決2頁末行から4頁19行)と上記認定事実を総合すると、本件基本シナリオは、被控訴人ガンホーの発意に基づき、同被控訴人の従業員らが共同して職務上作成したものであり、また、同被控訴人名で公表することが予定されたものであるから、著作権法15条1項により、同被控訴人が著作者であるというべきである。その理由は、原判決18頁25行から20頁10行に記載のとおりであるから、これを引用する。
 なお、当審における控訴人の主張(控訴理由)にかんがみ、以下のとおり判断の理由を補足する。
(2) 原審の認定判断のうち、@「グリーン・グリーン」の製作スタッフは、被控訴人ガンホーが組織したもので、そのメンバーは、被控訴人ガンホーの役員、従業員ら及び同被控訴人が業務委託契約を締結したフリーのシナリオライター等であったこと(原判決13頁19行から15頁7行)、A上記製作スタッフは、平成12年11月ころから「グリーン・グリーン」の脚本の製作を開始し、平成14年2月末日の時点では、本件基本シナリオの段階まで作成していたが、本件基本シナリオの製作に当たり、控訴人が上記製作スタッフに対して指示を与える等の行為をすることはなかったこと(同14頁1、2行、15頁7行から11行)、B控訴人代表者その他の控訴人の従業員ら(ただし、被控訴人Aの関与の内容及び控訴人との関係については、争いがある。)は、本件基本シナリオの創作に関与していないこと(同19頁7行から15行)、以上の点は、控訴人が当審において争わないところである。
 これらの控訴人に争いのない事実関係に照らすと、本件基本シナリオは、被控訴人ガンホーの業務に従事する者がその職務上作成したものというべきである。被控訴人Aについても、次の(3)のとおり、控訴人の業務に従事する者としての立場で本件基本シナリオの作成に関与したとは認められないから、被控訴人Aの関与に基づき、本件基本シナリオについて控訴人が著作者(被控訴人ガンホーとの共同著作者)となるということはできない。
(3) 控訴人は、控訴人が著作権法15条1項による本件基本シナリオの著作者であるとする理由として、控訴人と被控訴人Aとの関係を主張する。その主張は、原審における主張と合わせると、要するに、被控訴人Aと控訴人との間には業務委託契約に基づく実質的な雇用関係が存在しており、本件業務委託契約もこれを前提として締結されたものであって、同被控訴人は、控訴人の契約社員として、又は本件業務委託契約に基づいて、本件基本シナリオの作成に関与したのであるから、同被控訴人の関与に基づき控訴人について著作権法15条1項に基づくいわゆる職務著作が成立するというものである。しかし、控訴人の上記主張は、前記引用に係る原判決の認定判断(原判決2頁末行から4頁19行、13頁15行から18頁23行、18頁25行から20頁10行)と関係証拠(以下の当該箇所に掲記)によれば、採用することができない。
ア 被控訴人Aと控訴人との間には本件業務委託契約の締結前に業務委託契約が締結されていたことがあった(原判決3頁4行から7行の事実摘示参照)が、同契約による被控訴人の業務内容は、控訴人の前作であるゲームソフト「カナリア」の営業・外注管理に関するものにすぎなかったと認められ(弁論の全趣旨)、「グリーン・グリーン」に関する業務については、本件業務委託契約が締結されるまで、控訴人と被控訴人Aとの間で上記以外の契約関係はなかった。
イ 本件業務委託契約は、平成13年1月29日に締結されたが、これに先立ち、「グリーン・グリーン」の製作、販売については、被控訴人ガンホーを開発元、控訴人を販売元とする旨が了解された(弁論の全趣旨)。本件業務委託契約は、これを前提として締結されもので、控訴人が「グリーン・グリーン」の販売元となるとの想定に基づき、同契約における被控訴人Aの業務は、「グリーン・グリーン」のプロデュース、広報営業活動全般、開発請負先の管理・折衝とされていた。なお、本件業務委託契約(甲2)には、「プロデュース」が被控訴人Aの業務内容として記載されているが、ゲームソフトの「プロデュース」とは、製作進行、販売契約、予算管理等を含むゲーム制作全般を統括することを意味することが多く、実際にも、被控訴人Aが行っていたのは、「グリーン・グリーン」の広報活動等が中心であった。さらに、平成13年1月14日に被控訴人ガンホーが控訴人に対して渡した企画提案書(甲8)及び平成13年1月19日時点で被控訴人ガンホーの製作スタッフにより具体化されていたキャラクター設定(乙2、原判決添付別紙「平成13年1月19日でのキャラクター設定」参照)によれば、本件基本シナリオの作成は、同被控訴人と控訴人との間に本件業務委託契約が締結された時期には、その大部分が完了していたと認めることができる。
ウ 以上の事実によって考えると、被控訴人Aが、控訴人との契約上の地位に基づき控訴人の従業員に準ずる者として本件基本シナリオの作成に関わる創作活動に関与したと認定することはできないものというべきである。
(4) 控訴人は、また、本件基本シナリオの作成については控訴人を注文主、被控訴人ガンホーを請負人とする実質的な請負契約関係が成立しており、本件基本シナリオは、控訴人の「特注」により作成されたものであるから、著作者は控訴人であると主張する。しかしながら、控訴人と被控訴人との間に成立していたのが実質的な請負契約関係であり、本件基本シナリオは「特注品」であるとの控訴人の主張は、これを認めるに足りる証拠がないのみならず、仮に控訴人の主張が証拠上認められたとしても、控訴人の主張する点は、本件基本シナリオの著作者は控訴人ガンホーであるとの前記認定を左右するものではない。すなわち、請負契約に基づき外部の独立した請負人によって著作物が作成された場合、その著作者は、特別の事情がない限り、請負人であると解されるのであり、このことは請負人が法人である場合にも妥当するものであるところ、本件において請負人ではなく注文主を著作者とすべき特別の事情は証拠上見いだすことができない。特に、本件においては、本件基本シナリオの作成に関わったのは、もっぱら被控訴人ガンホーが組織した製作スタッフであり、本件基本シナリオの作成に当たって控訴人が製作スタッフに対し指示を与える等の行為をすることもなかったのであるから、控訴人が本件基本シナリオについて著作権法15条1項の規定による著作者となる余地はないというべきである。
2 被控訴人らの債務不履行等の主張について
 証拠(乙4、9ないし11、17、20)及び弁論の全趣旨によれば、原判決20頁17行から21頁18行に摘示のとおりの事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。上記認定事実と、本件において前提となる事実(原判決2頁末行から4頁19行)及び本件基本シナリオの製作過程、被控訴人ガンホー控訴人の関係、被控訴人Aと控訴人との関係について前記1(1)で認定した事実(原判決13頁15行から18頁23行参照)とに基づき、当裁判所も、被控訴人Aの債務不履行、被控訴人ガンホーの債務不履行及び被控訴人サカモトの不法行為についての控訴人の主張は、いずれも理由がないと判断するものである。その理由は、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の3(1)のイ、同(2)及び同(3)(21頁19行から23頁11行)のとおりであるから、これを引用する。
 当審における控訴人の主張は、基本的に原審での主張を繰り返すものにすぎないが、念のため本件覚書に関して補足すると、本件覚書は、その作成に至るまでに控訴人代表者と被控訴人ガンホーの代表者との間に交わされたEメール及び本件覚書の記載内容を総合するならば、被控訴人ガンホーが自己負担で支出した開発資金を原告から確実に受け取れるようにする目的で作成されたものとみられるのであって、被控訴人ガンホーに、控訴人との間で「グリーン・グリーン」の開発について正式契約を締結する義務を負わせることを内容とするものとは認められない。
3 契約締結上の過失責任等について
(1) 控訴人は、本件の事実関係の下では、被控訴人ガンホーについて、契約締結上の過失の法理に基づく損害賠償責任(その他の被控訴人については加担者としての責任)が認められるべきであると主張する。しかし、控訴人の主張は、以下のとおり理由がない。
 既に認定判示したところによれば、控訴人と被控訴人ガンホーとは、企画中の「グリーン・グリーン」について、被控訴人ガンホーが開発業務を、控訴人が販売業務を担当することを前提に、平成12年12月ころから契約を締結すべく交渉を行っており、平成13年1月5日には、両者の間で「グリーン」の開発に関して、被控訴人ガンホーが正式契約の締結に先立ち「グリーン・グリーン」の開発を開始すること、両者に正式契約を締結する意思のあることを確認すること等を内容とする本件覚書が取り交わされ、その後、両者の間で正式契約の締結に向けて交渉が続けられたが、支払その他の条件につき、結局合意を得るには至らず、被控訴人ガンホーは、「グリーン・グリーン」の販売元を被控訴人サカモトとすることとし、平成13年3月15日付けで被控訴人サカモトとの間で商品開発契約を締結したのである。
 控訴人は、被控訴人ガンホーが被控訴人サカモトと契約を締結し、控訴人との契約交渉を打ち切った行為は、信義に反し、契約締結への控訴人の正当な期待を裏切ったものであると主張するが、契約条件等が折り合わないために契約を締結することが困難と予測される場合に、交渉の打ち切りによって交渉関係から離脱することは、一般に契約自由(契約を締結しない自由)の範囲内のこととして許されるのであって、特別の事情がない限り、交渉を打ち切った側に責任が生ずることはないというべきである。
 とりわけ、本件においては、被控訴人ガンホーは、自ら開発資金を先行支出して「グリーン・グリーン」の開発を進めており、契約交渉の難航に伴う開発資金の資金繰り等の負担を負う立場にあったのであるから、本件覚書の締結から2か月余を経過しても契約条件について合意が得られないという状況の下で、同被控訴人が契約交渉を打ち切ったことを、不合理ないし信義に反すると評価することはできない。また、本件覚書は、前記認定のとおり、被控訴人ガンホーが支出した開発資金を、販売元になる予定であった控訴人から確実に受け取れるようにする目的で作成されたものとみられるのであり、契約が確実に締結されるであろうとの信頼を控訴人に対して与える性格のものとは解されない。控訴人が契約締結についての期待を抱いたとしても、その期待は、本来、被控訴人ガンホーとの間で同被控訴人に支払うべき開発費の金額や支払時期について合意が得られ、契約締結に至った場合に初めて満足される筋合いのものである上、本件では、リスクを負って正式契約前に開発業務を進めていたのは被控訴人ガンホーであって、控訴人が契約交渉が継続していたことに起因してその地位を格別不利益に変更したというような事情も認められないから、控訴人の期待は、それ自体として法的保護に値するものではないというべきである。
4 結論
 以上によれば、控訴人の前記第2の1の(1)及び(2)の各請求はいずれも理由がなく、本件控訴は理由がない。また、当審において追加された予備的請求も理由がない。よって、本件控訴を棄却し、予備的請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第18民事部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 塩月秀平
 裁判官 古城春実
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