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【事件名】ネット掲示板の中傷事件(眼科医)
【年月日】平成15年3月31日
 東京地裁 平成14年(ワ)第11665号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成15年2月24日)

判決


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は、E眼科という名称で全国各地において眼科を診療科目とする病院を運営する医療法人である。
イ 被告は、インターネット上において、別紙電子掲示板目録記載の電子掲示板(以下「本件電子掲示板」という。)を、管理・運営している者である。
 本件電子掲示板への書込みは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)2条1号所定の「特定電気通信」に該当する。また、被告は、本件電子掲示板への書込みの用に供される同法2条2号所定の「特定電気通信設備」を用いる者であり、同法2条3号所定の「特定電気通信役務提供者」に該当する。
(2) 原告の権利侵害の明白性
ア 訴外F(以下「訴外人」という。)は、平成14年2月16日、ハンドルネーム「ttttttyyyyyyy」を名乗り、本件電子掲示板に、別紙メッセージ目録記載のメッセージ(以下「本件メッセージ」という。甲第1号証)を書き込んだ。
イ 本件メッセージは、インターネットを通じて世界中の人に広く公開されており、かかる情報の流通により、原告の名誉及び社会的信用は著しく傷つけられた。また、少なくとも1名の患者が、本件メッセージを見たことにより、原告が運営する病院において手術を受けるのが怖くなったとして、同病院の予約を取り消しており、これにより、原告の営業利益が侵害された。
ウ 本件メッセージは、原告が運営する病院が平成13年に3名の患者を失明させたとの事実を摘示するものであるが、原告が運営する病院においては、開業以来、患者の中に失明した者は1人も存在せず、本件メッセージの摘示する事実は虚偽である。また、本件メッセージの文言からは、何らの公益目的も窺われず、また、訴外人において上記事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったことも窺われない。
エ したがって、本件メッセージの流通により、原告の名誉、社会的信用及び営業利益が侵害されたことは明らかである。
(3) 開示を受けるべき正当な理由
ア 原告は、上記名誉毀損、信用毀損及び営業利益の侵害等に基づき、訴外人等に対して損害賠償請求権を行使するために、被告に対し、被告が保有する上記名誉毀損等に係る別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求めるものであって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
イ 確かに、原告は、本件メッセージを書き込んだ者(訴外人)と面談し、同人の住所及び氏名については既に入手している。しかしながら、同人は原告の運営する病院と競業関係にある病院を運営する医療法人の理事長が経営する会社の正社員であったことから、原告は、同人のほか、上記医療法人等に対しても損害賠償請求を行うことを検討している。そして、本件メッセージについて真に責任を負うべき者を明らかにするためには、本件発信者情報により本件メッセージが訴外人個人のパソコンから発信されたものか勤務先のパソコンから発信されたものかを判別する必要がある。
 したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(4) よって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項又は民法723条に基づき、本件発信者情報の開示を求める。
2 請求原因に対する認否、反論
(1) 請求原因(1)(当事者)について
ア 同ア記載の事実は不知。
イ 同イ記載の事実は認める。
(2) 請求原因(2)(原告の権利侵害の明白性)について
(認否)
ア 同ア記載の事実中、平成14年2月16日、本件電子掲示板に、本件メッセージがハンドルネーム「ttttttyyyyyyy」を名乗る者によって書き込まれたことは認め、その余は不知。
イ 同イ、ウ及びエ記載の事実は不知、主張部分は争う。
(反論)
 プロバイダ責任制限法4条1項所定の「権利が侵害されたことが明らか」とは、権利の侵害がされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在を窺わせるような事情が存在しないことまでを意味する。
 そして、民法上の不法行為たる名誉毀損については、事実を摘示して他人の社会的評価を低下させる行為に該当したとしても、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、不法行為は成立せず、仮に、上記事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、上記行為には故意又は過失がなく、結局、不法行為は成立しない。
 したがって、原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるというためには、訴外人の行為が事実を摘示して原告の社会的評価を低下させる行為であることのみならず、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、摘示された事実が真実であるか、又は真実と信ずるについて相当の理由があるという違法性阻却事由が存在しないことについてまで明らかでなければならない。
 そして、本件メッセージ中の「去年三人失明させてる」との記載は、文面上からは明らかに虚偽であるとは断定できず、仮に上記記載が真実であるとすれば、本件メッセージは社会的に意味のある問題提起であるとも考えられ、公共の利害に関する事実に該当するとして違法性を有しない蓋然性がある。
 したがって、本件メッセージの文面のみでは、その違法性の有無について一概に判断することができないのであるから、本件メッセージの流通によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるということはできない。
(3) 請求原因(3)(開示を受けるべき正当な理由)について
(認否)
ア 同ア記載の事実中、被告が本件発信者情報を保有していることは認め、その余は不知、主張部分は争う。
イ 同イ記載の事実中、原告が訴外人と面談し、同人の住所及び氏名について既に入手していることは認め、その余は不知。主張部分は争う。
(反論)
ア 被告は、訴外人の同意を得た上で、本件第2回弁論準備手続期日において、原告に対し、訴外人の電子メールアドレスを開示し、その後、原告は上記電子メールアドレスに電子メールを送信したところ、訴外人は、原告に対して、損害賠償及び謝罪・訂正文の掲載を提案する内容の電子メールを返信した。
 訴外人は、原告の損害賠償請求を拒絶すれば自己の情報を開示されてしまうおそれがあることから、合理的な範囲で賠償に同意する可能性が高い。
 したがって、原告は、本件発信者情報の開示を受けなくとも被害回復を図ることができるにもかかわらず、訴外人との間で被害回復へ向けた協議を行わず、訴外人の身元の特定に固執しているにすぎず、原告による本件発信者情報の開示請求には合理的必要性が認められない。
 よって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が存在しない。
イ 原告は、既に、訴外人の氏名、住所、勤務する会社及び同社が原告が運営する病院と競業関係にある病院を運営する医療法人の理事長が経営している会社であるとの事実までも把握しているのであるから、いつでも、訴外人を被告とする訴訟を提起することができるものである。
 原告による本件発信者情報の開示請求は、証拠収集又は本件メッセージの発信に至る経緯の解明を目的とするものであり、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が存在しない。

理由
第1 争いがない事実等及び争点
1 争いがない事実等
 請求原因(1)(当事者)イ記載の事実、同(2)(原告の権利侵害の明白性)ア記載の事実中、平成14年2月16日、本件電子掲示板に、本件メッセージがハンドルネーム「ttttttyyyyyyy」を名乗る者によって書き込まれたこと、同(3)(開示を受けるべき正当な理由)ア記載の事実中、被告が本件発信者情報を保有していること、及び同イ記載の事実中、原告が訴外人と面談し、同人の住所及び氏名について既に入手していることは当事者間に争いがない。
 また、甲第7号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(1)(当事者)ア記載の事実が認められる。
2 争点
(1) 原告の権利侵害の明白性(争点1)
(2) 開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
第2 争点に対する当裁判所の判断
1 認定事実
 証拠(甲第8号証から第15号証まで)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(一部、前記争いがない事実等を含む。)。
(1) 訴外人は、平成14年2月16日、被告が管理・運営する本件電子掲示板に、本件メッセージを書き込んだ。
(2) 被告は、訴外人の同意を得た上で、本件第2回弁論準備手続期日において、原告に対し、訴外人の電子メールアドレスを開示した。
(3) 原告の理事長であるC(以下「C理事長」という。)は、平成14年10月26日、訴外人に対し、本件メッセージを書き込んだ経過についての説明を求める内容の電子メール(甲第8号証)を送信したところ、訴外人は、同日、「あの掲示板への書き込みにとくに何らかの意志はございません。あえて挙げるならば、いたずら心です」、「しかしも悪意が無かったはいえ、矢作様をはじめとして、E眼科の皆様にご迷惑をおかけしたのは事実です。出来るうるかぎりの賠償と謝罪・訂正の文を当該掲示板に書き込むことをこちらでは考えております」との記載がある電子メール(甲第9号証)を返信した。
(4) 訴外人は、平成14年11月2日、原告が運営する病院を訪れ、C理事長に対し、氏名、住所、職業(フリーター)、生年月日及び電話番号等を告げた上、「私 Fは『B掲示板』において、E眼科を誹謗中傷する書き込みを行いました。その結果、医療法人社団Aの理事長及び関係者の皆様方に多大なる御迷惑をお掛け致しました。ここに深く反省し、謝罪申し上げます。又、今後一切、医療法人社団A及び関係者の皆様方に御迷惑をお掛けすることがないことを約束致します」との記載があり、末尾に訴外人の住所、氏名、携帯電話番号及び生年月日の記載がある謝罪文(甲第10号証)を提出した。また、その際、訴外人は、C理事長に対し、本件メッセージを書き込んだのには、特別な意図はなく、いたずら心からであると話した。
 また、C理事長は、訴外人から、同人の両親の住所及び連絡先を聴取した。
(5) C理事長は、平成14年11月25日、訴外人の携帯電話番号に電話をかけたところ、訴外人と無関係な者がでたことから、訴外人に対する不信感を募らせ、同日、訴外人に対して、携帯電話番号と現在の勤務先を明らかにすることを求める内容の電子メールを送信したところ、訴外人は、同月26日、携帯電話番号の訂正と訴外人のアルバイト先を記載した電子メール(甲第11号証)を返信した。
(6) 訴外人は、平成14年11月28日、C理事長に対して電話をかけ、勤務先には電話しないよう依頼した。
(7) 矢作理事長は、訴外人に対する不信感を募らせたため、平成14年11月28日、訴外人の両親と面会したところ、訴外人は、株式会社Gの社員であることが判明した。株式会社Gは、原告が運営する病院と競業関係にあるHクリニックの広報を担当しており、Hクリニックを運営する医療法人Kの理事長が代表取締役を務める株式会社である。
(8) 訴外人は、平成14年11月28日、自分が株式会社Gの社員であること、同社がHクリニックの広報を担当していること、偵察と勉強をかねてE眼科が開催するセミナーに派遣されたこと、いたずら心で本件メッセージを書き込んだこと、本件メッセージの書込みは、全く個人で行ったことであり、同社は一切関係ないこと、本件メッセージにより生じる責任はすべて自分が負うこと等を内容とする電子メール(甲第14号証)を送信し、さらに、同月29日、原告が運営する病院を訪れ、上記電子メールと同旨の記載がある上申書(甲第15号証)をC理事長に対して提出した。
2 争点1(原告の権利侵害の明白性)について
(1) 原告は、本件メッセージの流通により、原告の名誉、社会的信用及び営業利益が侵害されたことは明らかであるから、プロバイダ責任制限法4条1項1号の要件を充足すると主張する。
 そこで、この点についてみるに、プロバイダ責任制限法4条1項1号は、同項所定の発信者情報の開示請求の要件の一つとして、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定めている(以下、この要件を「権利侵害要件」という。)。この権利侵害要件は、発信者の有するプライバシー及び表現の自由と被害者の権利回復の必要性との調和を図るため、その権利の侵害が「明らか」である場合に限って発信者情報の開示請求を認めるものとしたのである。したがって、同項に基づく発信者情報開示請求訴訟においては、原告(被害者)は、この権利侵害要件につき、当該侵害情報によりその社会的評価が低下した等の権利の侵害に係る客観的事実はもとより、その侵害行為の違法性を阻却する事由が存在しないことについても主張、立証する必要があると解すべきである。
 もっとも、同号の規定と不法行為の成立要件を定めた民法709条の規定とを比較すると、同号の規定には「故意又は過失により」との不法行為の主観的要件が定められていないことが明らかであり、また、このような主観的要件に係る阻却事由についてまでも、原告(被害者)に、その不存在についての主張、立証の負担を負わせることは相当ではないので、原告(被害者)は、その不存在についての主張、立証をするまでの必要性はないものと解するのが相当である。
 すなわち、名誉毀損行為を理由とする不法行為については、その行為が@公共の利害に関する事実に係り、A専ら公益を図る目的に出た場合には、B摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為の違法性が阻却され、不法行為は成立しないものと解されているが、発信者情報開示請求訴訟においては、権利侵害要件の充足のためには、当該侵害情報により原告(被害者)の社会的評価が低下した等の権利の侵害に係る客観的事実のほか、当該侵害情報による侵害行為には、上記の@からBまでの違法性阻却事由(名誉毀損行為を理由とする不法行為訴訟においては、上記の@からBまでの事実がすべて証明された場合に、違法性が阻却されるものと解されている。)のうち、そのいずれかが欠けており、違法性阻却の主張が成り立たないことについても主張、立証する必要があるものと解すべきである。しかしながら、名誉毀損行為を理由とする不法行為訴訟においては、主観的要件に係る阻却事由として、C摘示された事実が真実であることが証明されなくとも、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、当該行為には、故意又は過失がなく、不法行為の成立が否定されると解されているが、このような主観的要件に係る阻却事由については、発信者情報開示請求訴訟における原告(被害者)において、その不存在についての主張、立証をするまでの必要性はないものと解すべきである。
 以下、上記のような見地に立って、権利侵害要件の充足の有無について検討する。
(2) 社会的評価の低下について
 前記争いがない事実等によれば、本件メッセージは、原告が運営する病院が行った治療により平成13年に3名の患者が失明したとの事実(以下「本件事実」という。)を摘示するものであり、これを読む者に対し、原告が運営する病院は、患者を失明させるような危険な治療を行っているとの印象を与えるものであるから、本件メッセージは、本件事実を摘示することにより、原告の社会的評価を低下させたものと認めるのが相当である。
(3) 事実の公共性について
 本件事実は、原告が運営する病院における治療結果に関する事実であるところ、国民の病気治療等に重要な役割を果たしている病院における治療結果に係る事実は、公共性の高いものであるということができるから、本件事実は、公共の利害に関する事実であると認められる。
(4) 目的の公益性
 前記認定の本件メッセージの内容(とりわけ、「あのヤロー」との部分及び「お前のところは、去年三人失明させてるだろうが!」との部分の表現方法)及び訴外人のC理事長に対する電子メール等の内容(とりわけ、訴外人がいたずら心から本件メッセージを書き込んだと述べていること)にかんがみれば、本件メッセージの書込みが専ら公益を図る目的で行われたものではないことは明らかである。
(5) 本件メッセージの内容の真実性
 甲第7号証の1、2によれば、原告が運営する病院においては、これまで1万8000以上の症例について屈折治療を行ってきたが、失明等の問題となる合併症を起こしたことがないことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
 したがって、本件事実が真実ではないことが認められる。
(6) 以上のとおり、本件メッセージの内容は、原告の社会的評価を低下させるものであり、かつ、本件においては、本件事実が真実ではないこと及び訴外人による本件メッセージの書込みが専ら公益目的を図る目的で行われたものではないこと(違法性阻却事由が存在しないこと)が認められるから、本件メッセージの流通により少なくとも原告の名誉が侵害されたことは明らかというべきであり、権利侵害要件を充足するものと認めるのが相当である。
3 争点2(開示を受けるべき正当な理由)について
(1) 弁論の全趣旨によれば、原告は、訴外人その他の本件メッセージの書込みに関与した者に対して損害賠償請求権を行使するために、被告に対して本件発信者情報の開示を求めていることが認められるから、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものというべきである。
(2) この点に関し、被告は、訴外人が原告に対して損害賠償及び謝罪・訂正文の掲載を提案しているのであるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと主張する。
 しかしながら、原告と訴外人との間で和解が成立して損害の賠償が行われ、原告の損害賠償請求権が消滅した等の特段の事情が存する場合は格別、訴外人が原告に対して上記の損害賠償等の提案を行ったとしても、今後、原告、訴外人間の交渉がまとまらず、原告において訴訟等の法的手続をとらざるを得なくなることも十分あり得るのであるから、上記の訴外人の損害賠償等の提案の事実は、これをもって、原告について本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を否定するに足りるものとはいえないので、被告の主張を採用することはできない。
(3) また、被告は、原告が既に被告から訴外人の電子メールアドレスの開示を受けている上、訴外人の氏名及び住所等の情報をも把握しているのであるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと主張する。
 しかしながら、発信者情報開示請求訴訟において、原告(被害者)が既に発信者情報のうちの一部の情報を把握している場合であっても、そのことによって、直ちにその余の発信者情報についての開示を受けるべき正当な理由の存在が否定されるものではないと解すべきである。その理由は以下のとおりである。
 すなわち、プロバイダ責任制限法は、同法4条1項所定の要件を充足する場合には、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、開示関係役務提供者に対し、その保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる旨を定めている。ここにいう「発信者」とは、上記の開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力した者をいうと定義されているのであるが(同法2条4号)、具体的な事案において、「発信者」が誰であるかを特定する場合には、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者が誰かという観点から判断すべきであり、例えば、法人の従業員が業務上送信行為を行った場合には、当該法人が「発信者」に当たるものと解すべきである(なお、法人の従業員(発信者)が自己の所属する法人の通信端末を用いて業務外で侵害情報を発信した場合における当該法人の特定に資する情報も上記の開示請求の対象となる発信者情報に該当するものと定められている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)1号、2号参照)。したがって、本件のように、発信者情報開示請求訴訟において、原告(被害者)が既に発信者情報の一部を把握しており、送信行為自体を行った者が特定されているような場合であっても、その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者、すなわち、当該送信行為自体を行った者以外の「発信者」の存在が明らかになる可能性があるのであるから、原告(被害者)が当該侵害情報の「発信者」を特定し、その者に対して損害賠償請求権を行使するためには、上記の総務省令が定めるすべての発信者情報の開示を受けるべき必要性があるものというべきである。
 以上の理由により、発信者情報開示請求訴訟においては、原告(被害者)が発信者情報の一部を既に把握している場合であっても、そのことにより、その余の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の存在が否定されるものと解することはできない。
 したがって、本件において、原告が既に訴外人の氏名及び住所等の情報を把握しているとしても、そのことにより、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の存在が否定されるものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
4 以上のとおり、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第6部
 裁判長裁判官 高橋利文
 裁判官 齊藤顕
 裁判官 世森亮次


(別紙)
発信者情報目録
1 別紙メッセージ目録記載のメッセージ(以下「本件メッセージ」という。)に係るIPアドレス(インターネットに接続された個々の電気通信設備を識別するために割り当てられる番号)
2 前項のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被告の用いる電気通信設備に本件メッセージが送信された年月日及び時刻

(別紙)
電子掲示板目録
 ポータルサイト「BJAPAN」上の「B掲示板」中の「近視治療について」と題するトピック

(別紙)
メッセージ目録
E眼科のセミナーいってきた
投稿者 ttttttyyyyyyy
2002年2月16日 午後11時51分

あのヤロー他院の批判ばかりだよ。

Mが裁判かかえてるて
お前のところは、去年三人失明させてるだろうが!
line
 
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