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【事件名】コンピュータ・プログラムの譲渡事件
【年月日】平成15年3月17日
 東京地裁 平成14年(ワ)第21540号 著作権確認等請求事件
 (平成15年1月29日 口頭弁論終結日)

判決
原告 破産者株式会社アカウント破産管財人 鷲尾誠
被告 N
同訴訟代理人弁護士 高石義一
同 塩谷久仁子
同 根本農


主文
1 別紙物件目録記載のプログラムの著作権が、破産者株式会社アカウントの破産財団に属することを確認する。
2 被告は、別紙物件目録記載のプログラムを製造、頒布、複製及び翻案してはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 主文第1、2と同旨 
(2) 被告は、別紙物件目録記載のプログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁(請求の趣旨第1項について)
 請求の趣旨第1項に係る本件訴えを却下する。
(2) 本案の答弁
 原告の請求をいずれも棄却する。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 別紙物件目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)は、同目録添付の機能一覧記載の機能を有し、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であり、思想又は感情を創作的に表現したプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に該当する。
(2) 株式会社会計情報アカデミー(以下「情報アカデミー」という。)は、本件プログラムを開発し、同プログラムに関する著作権を取得した。
(3) 破産者株式会社アカウント(以下「アカウント」という。)は、平成12年7月28日、情報アカデミーから、日本システム・ポイント株式会社の会計システムの導入コンサルティング業務等に関する事業を除くすべての営業及びこれに関する一切の財産(本件プログラムに関する一切の権利を含む。)を譲り受けた。
(4) アカウントは、平成14年6月26日、東京地方裁判所により破産宣告を受け、同日、原告が破産管財人に選任された。
(5) 被告は、アカウントから、本件プログラムに関するすべての権利を譲り受けたと主張して、著作権の帰属を争っている。
(6) 被告は、上記(5)の譲受けの際、アカウントから、本件プログラムを格納したCD−ROMの引渡しを受け、現在同CD−ROMを所持している。
 よって、原告は、本件プログラムについての著作権がアカウントの破産財団に帰属することの確認、著作権に基づく本件プログラムの製造、頒布、複製及び翻案の差止並びに本件プログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体の廃棄を求める。
2 請求原因に対する被告の認否
(1) 請求原因(1)の事実は知らない。原告は、本件プログラムが、いかなる根拠に基づいて著作物性を具備するのかについて具体的な主張をしていない。 
(2) 請求原因(2)ないし(5)の事実は認める。ただし、情報アカデミーが著作権を取得したかどうかは知らない。
(3) 同(6)の事実中、被告が現在CD−ROMを所持しているとの事実は否認し、その余の事実は認める。被告は、平成14年5月ころ、本件プログラムを化体したCD−ROMを海外のソフト会社に転売した。したがって、被告は、現在、本件プログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体を所持していない。 
3 被告の抗弁
(1) 被告は、平成14年3月13日付けでアカウントに対し1000万円を貸し付け、その担保のために、アカウントから、データを化体した、有体物としてのCD−ROMについて、譲渡担保権の設定を受けた(以下「本件譲渡担保契約」といい、設定した譲渡担保権を「本件担保権」という。)。本件譲渡担保契約の内容は、甲4に明確に定められており、同契約は有効に成立している。
(2) 被告は、その後、本件担保権を実行し、上記CD−ROMに関する一切の権利を譲り受けた。
(3) なお、原告は、被告の対抗要件の欠缺を主張する。しかし、このような場合には、破産管財人は、専ら破産者の身代わりとなって破産者の利益を代表する立場にあり、原告は、被告の対抗要件の欠缺を主張できる第三者に該当しない。
 仮に、原告が、被告の対抗要件の欠缺を主張できる第三者に該当すると解された場合であっても、被告は、本件譲渡担保契約の際、アカウントから、本件プログラムのソースコードを化体したCD−ROMの引渡しを受けているから、被告は上記CD−ROMの入手によって対抗要件を具備してる。
4 抗弁に対する原告の認否
(1) 抗弁(1)の事実は否認する。甲4に記載されている内容は、担保権の性質及び効果が不特定であり、本件譲渡担保契約は有効に成立していない。
(2) 仮に、本件譲渡担保契約が有効であるとしても、被告は、本件プログラムの著作権について対抗要件を具備していないから、主張自体失当である。
 すなわち、破産管財人は、総破産債権者のために、破産財団の増殖を図り配当を実現すべき立場にあり、著作権の譲渡について、対抗要件の欠缺を主張できる第三者に当たる。しかるに、被告は、本件プログラムの著作権についての担保権設定又は譲渡について、著作権法77条に定める登録をしていない。したがって、被告は、その著作権の譲受けについて、破産管財人たる原告に対抗することができない。
5 原告の再抗弁
(1) アカウントは、本件譲渡担保契約締結当時、本件プログラム以外に財産を有していなかったから、本件担保権の設定は破産債権者を害する行為である。そして、アカウントは、本件譲渡担保契約締結の際、本件担保権の設定行為が破産債権者を害することを知っていた。
 したがって、原告は、本件譲渡担保契約について、破産法(以下「法」という。)72条1号に基づく否認権を行使する。
(2) アカウントは、本件譲渡担保契約締結当時、株式会社グロービス(以下「グロービス」という。)に対する弁済期限平成14年3月15日の借入金1000万円の弁済のめどが立たないことが明白であり、かつ、グロービスに対しても、約定どおりの返済ができない旨を表明していた。
 したがって、原告は、本件譲渡担保契約について、法72条2号に基づく否認権を行使する。
(3) アカウントは、平成14年4月2日、グロービスから銀行預金の仮差押えを受け、事業継続を断念した。アカウントは、同月19日、株主総会の決議により解散した。
 したがって、本件譲渡担保契約は、アカウントの支払停止前30日内にされたものであるから、原告は、本件譲渡担保契約について、法72条4号に基づく否認権を行使する。
6 再抗弁に対する被告の認否
(1) 再抗弁(1)の事実のうち、本件譲渡担保契約が破産債権者を害するものであったこと及びアカウントがその旨を知っていたことは否認する。
 破産者が、破産申立後に従業員に給料を支払うために金員を借り入れて担保権を設定した事案において、債務者を救済する意図でなされた融資に伴う担保権の設定行為は、「破産債権者を害する行為」には当たらないと解されている(昭和43年2月2日最高裁判所第2小法廷判決・民集22巻2号85頁)。
 本件において、被告がアカウントに対して行った融資の主要な目的は、アカウントの従業員に対する延滞給与を支払うことにあったのであり、実際、右融資に係る金員は、アカウントの従業員に対する給与の支払に充てられた。従業員の給料債権が一般債権と比べて先取特権によって保護された優先債権であり(法39条)、かつ、従業員の延滞給料の支払は会社の運用上不可欠な人的資源を確保する、最も緊要な支出であることからすれば、本件担保権の設定は、必要な資金獲得のための正当な行為であって、詐害意思、すなわち一般債権者の犠牲において特定債権者のみを利する意思から出たものではないことが明らかである。このように、債務者の資金繰り悪化を救済する意図でされた融資に伴う担保権の設定は、「破産債権者を害する行為」には当たらない。
(2) 再抗弁(2)について、原告は、「本件譲渡担保契約締結当時に、受益者である被告がアカウントの支払停止又はアカウントに対する破産の申立があったことを知っていた事実」を主張していない。したがって、再抗弁(2)は主張自体失当である。
(3) 再抗弁(3)について、原告は、破産者が、本件譲渡担保契約の前後30日以内に支払の停止をしたという事実を明確に主張していない。したがって、再抗弁(3)は、主張自体失当である。
7 本案前の主張
(1) 被告
 本件訴えのうち、著作権確認を求める部分は、以下のとおり、確認の利益がない。すなわち、被告は、CD−ROMを、既に海外のソフト会社に転売した。被告が、今後、アカウントから本件プログラムについてのライセンスを受けた顧客等に対して、著作権侵害を理由として、本件プログラムの利用の差止めや損害賠償等の請求することはなく、本件プログラムの著作権についての原告の法的地位に対する危険は解消した。したがって、本件訴えのうち、著作権確認を求める部分は、確認の利益が存在しない。
(2) 原告
 否認する。
 被告は、本件プログラムについて前記3(1)のとおり主張している。したがって、原告の著作権確認の訴えに確認の利益は存在する。

理由
1 請求原因について
(1) 本件プログラムの著作物性について
 証拠(甲7、8、10ないし12)及び弁論の全趣旨によれば、本件プログラムは、その制作者が、その専門的知識と技術を用いて、別紙物件目録添付の機能一覧記載の機能を発揮する内容のプログラムを、特定のプログラム言語(Visual Basic)で記述したものであり、その記述には制作者の個性が表れているものと認めることができるから、本件プログラムは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現した」プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に当たるといえる。
 したがって、請求原因(1)の事実(本件プログラムの著作物性)は認められる。
(2) アカウントの著作権の取得について
 情報アカデミーが本件プログラムを開発し、その著作権を取得したこと(前記(1)のとおり、本件プログラムは著作物と認められる。)、アカウントが情報アカデミーから、本件プログラムに関する一切の権利を譲り受けたこと、アカウントがその後破産宣告を受けたこと、原告が同破産財団の破産管財人に選任されたことは、当事者間に争いがない。したがって、アカウントは、本件プログラムに関する著作権を取得した。
2 抗弁について
 被告は、アカウントとの間で、データを化体した、有体動産であるCD−ROMについて、担保権の設定を受ける旨の本件譲渡担保契約を締結し、その後、本件担保権の実行により、上記CD−ROMに関する一切の権利を譲り受けたと主張する。
 被告の主張の趣旨は、裁判所の釈明によっても、被告がアカウントから譲り受けた目的物が「有体物としてのCD−ROM」であるということを前提とするものか、又は「本件プログラムの著作権」であるということを前提とするものか、必ずしも明確でない。
 この点につき、弁論の全趣旨によれば、被告は一貫して、本件プログラムが著作物であることについて争っていること、被告が譲り受けたのは、有体動産であるCD−ROMであると主張していること、被告は、被告がアカウントから譲り受けたCD−ROMを、既に海外のソフト会社に転売したのであるから、著作権確認を求める訴えは、確認の利益がないと主張していること等の経緯が認められ、上記の経緯に照らすならば、被告の主張の趣旨は、被告が譲り受けた目的物は、「有体動産としてのCD−ROM」であるということを前提とするものと理解するのが相当である。
 そこで、被告の主張の趣旨を上記のように理解した上で判断する。そうすると、原告の本件各請求は、いずれも、本件プログラムについての著作権に基づく請求であるから、被告の主張は、そもそも、原告の請求に対する正当な抗弁とはなり得ない。被告の主張は、それ自体失当である。
 次に、念のため、被告の主張の趣旨を「被告が譲り受けたとする目的物が、本件プログラムの著作権」であるということを前提とするものと理解した上で、被告の主張の当否を判断する。
 ところで、破産管財人は、破産者の一般承継人ではなく、破産債権者のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関として、民法第177条にいわゆる第三者に当たるものと解すべきである(昭和38年7月30日最高裁第3小法廷判決・裁判集67号175頁参照)。したがって、仮に、本件譲渡担保契約に基づいてアカウントから被告へ著作権が譲渡されたとしても、被告は、アカウントが破産宣告を受ける前に、著作権譲渡についての対抗要件たるプログラム登録原簿への移転登録手続を経由していなければ、原告に対してその譲受けを対抗することはできない。一方、本件において、被告が本件プログラムの譲受けについてかかる登録手続を経由していないことは、弁論の全趣旨により明らかである。したがって、本件譲渡担保契約に基づいて本件プログラムについての著作権を取得した旨の被告の主張は、主張自体失当である。
 なお、被告は、本件プログラムが格納されたCD−ROMの引渡しを受けたことによって、対抗要件を備えたものとも主張する。しかし、プログラムの著作物に係る著作権の移転は、プログラムについての著作権登録原簿へ登録しなければ、第三者に対抗することはできないものであるから(著作権法77条1号、78条1項)、この点における被告の主張も理由がない。
3 被告の本案前の抗弁について
 被告は、本件訴えのうち、著作権確認を求める部分は、確認の利益が存在しないと主張し、その理由として、被告は、CD−ROMを、既に海外のソフト会社に転売したのであるから、本件プログラムの著作権についての原告の法的地位に対する危険は解消したことを指摘する。
 しかし、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件における被告の主張の経緯はさておいて、本件プログラムの著作権の帰属に関しては、原告と被告との間で実質的な争いがあり、本件プログラムの著作権がアカウントの破産財団に属するかが不確定な状態にあることが認められるから、本件訴えのうち、著作権確認の訴え部分に確認の利益が存在すると解すべきである。したがって、著作権確認の訴えに関する被告の本案前の抗弁は理由がない。
4 結語
(1) 原告の請求のうち、本件プログラムの著作権がアカウントの破産財団に属することの確認及び本件プログラムの製造、頒布、複製及び翻案を求める請求は、理由がある。
(2) 原告の請求のうち、フロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体の廃棄を求める請求については、弁論の全趣旨によれば、被告は、アカウントから引渡しを受けた本件プログラムの複製されたCD−ROMを第三者に売却し、現在被告は所持していないものと認められ、その他被告が本件プログラムを格納した記憶媒体を所持していないものと推認されるから、原告の同請求は理由がない。
(3) 以上のとおりであり、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 大寄麻代
 裁判官 今井弘晃は、海外出張のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 飯村敏明
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