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【事件名】ゲームソフトの二次的著作物事件(2)
【年月日】平成15年3月13日
 東京高裁 平成13年(ネ)第5780号 著作権使用料等請求控訴事件、平成14年(ネ)第2017号 同反訴請求事件
 (原審・東京地裁平成9年(ワ)第16792号)
 (平成15年1月28日 口頭弁論終結)

判決
控訴人・反訴被告 有限会社スタジオアレックス
訴訟代理人弁護士 片岡義貴
被控訴人・反訴原告 株式会社ゲームアーツ
訴訟代理人弁護士 森本紘章
(以下、控訴人・反訴被告は「控訴人」といい、被控訴人・反訴原告は「被控訴人」という。)


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人は、被控訴人に対し、6568万2976円及びこれに対する平成14年4月20日から支払済みまで、年6分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の反訴請求を棄却する。
4 当審における訴訟費用は、本訴・反訴を通じて10分し、その9を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、2200万円及びうち993万7380円に対する平成9年8月28日から、うち1206万2620円に対する平成12年2月2日から、各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人の反訴請求を棄却する。
(4) 訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、7562万0356円及びこれに対する平成14年4月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴審における訴訟費用は、本訴・反訴を通じて控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 控訴人は、コンピューター機器及びコンピューターソフトウェアの企画、製作等を目的とする有限会社であり、被控訴人は、コンピューターソフトウェアの製造、販売等を目的とする株式会社である。
 控訴人と被控訴人は、株式会社セガ・エンタープライゼス(以下「セガ」という。)製の家庭用ゲーム機、メガCD用のゲームソフト「LUNAR−THE SILVER STAR−」(以下「本件製品(1)」という。)の著作権を共有している。控訴人は、被控訴人が製作・販売した、「LUNAR SILVER STAR STORY」セガサターン版(以下「本件製品(3)セガサターン版」という。)、「LUNAR SILVER STAR STORY」プレイステーション版(以下「本件製品(3)プレイステーション版」という。)、「LUNAR SILVER STAR STORY」プレイステーション海外版(以下「本件製品(3)海外版」という。)及び「LUNAR SILVER STAR STORY」ウィンドウズ版(以下「本件製品(3)ウィンドウズ版」という。)が、本件製品(1)の二次的著作物であるとして、本件製品(3)セガサターン版については、著作権利用許諾の約定を含む契約(甲第1号証はその内容が記載された契約書である。この契約書によって成立した契約を、以下「本件許諾契約」という。)に基づく著作権使用料の支払を、他の各本件製品(3)については、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償の支払を、それぞれ求めた。
 被控訴人は、不法行為に基づく請求との関係では、本件製品(3)セガサターン版、同プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版のいずれについても、本件製品(1)の二次的著作物であることを否認し、本件許諾契約に基づく請求との関係では、本件製品(3)セガサターン版が、本件製品(1)の二次的著作物であることを認めた上で、控訴人と被控訴人との間の「『魔法学園』LUNAR! セガサターン版」(以下「本件製品(2)」という。)の製作請負契約(以下「本件製作契約」という。)において、控訴人がその債務(本件製品(2)の約定期限までの完成)を履行せず、そのため損害を被ったとして、その損害賠償債権との相殺を抗弁として主張した。
2 原判決は、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版のいずれも、本件製品(1)の二次的著作物と認めることができないとして、すべて棄却した。本件許諾契約に基づく請求については、本件製品(3)セガサターン版に係る著作権使用料が、993万7380円であるとした上で(本件許諾契約の成立、上記製品の小売額及び販売本数については当事者間に争いがない。)、本件製作契約において、控訴人には債務不履行があり、これにより被控訴人が被った損害は少なくとも2506万円を下らないとして、被控訴人の相殺の抗弁を認め、結論として、控訴人の請求を全部棄却した。
3 被控訴人は、控訴審において、本件製作契約の債務不履行に基づく損害賠償の請求を反訴として提起した。これに対し、控訴人は、債務不履行の存在を否認し、また、被控訴人の主張する損害額を争っている。
第3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要及び当事者の主張等」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 当審における控訴人の主張の要旨
(1) 本訴関係
ア 憲法32条違反等
(ア) 原判決は、本件製品(3)セガサターン版に係る著作権使用料(契約責任)については、同製品が本件製品(1)の二次的著作物であることを認めながら、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版に係る著作権侵害に基づく損害賠償(不法行為)については、その二次的著作物性を否定する理由の中で、本件製品(3)セガサターン版の二次的著作物性を否定している。しかし、契約責任と不法行為責任において、事実認定が異なってよい理由について何ら触れていない。
 二次的著作物性という客観的な事実の存否が問題にされているのに、契約責任と不法行為責任とでその判断を区々にすることは、裁判の真実性をないがしろにするものであり、憲法32条の裁判を受ける権利の保障に内在する裁判所の真実発見努力義務に違反するものであって、許されない。
(イ) 原審裁判所は、原審における審理の過程で、被控訴人が、契約責任と不法行為責任とで、本件製品(3)セガサターン版の二次的著作物性について、異なる認否をしたのに対し、それはおかしい、との指摘をしていた。また、原審裁判所は、本件製品(3)セガサターン版と他の各本件製品(3)の同一性について、簡単に主張・立証をしてほしいと促したにとどまった。原判決は「原告は・・・具体的主張を行わない。」(原判決11頁)と判示しているが、これは、上記のような原審裁判所の訴訟指揮のためである。各本件製品(3)の二次的著作物性は、控訴人にとって極めて重要な事実であるから、このような訴訟指揮は違法である。
イ 二次的著作物性について
(ア) 本件製品(3)セガサターン版
(a) 主要なキャラクター(登場人物)
 本件製品(1)の主要なキャラクターは、順番に、アレス、ルーナ、ナル、ラムス、白竜、ナッシュ、ミア、ジェシカ、キリー、ガレオン、メル、レミリア、レイク、テムジン、ビリア、マイト、バタネン、ゼノビア、魔法皇帝である(甲第30号証)。
 本件製品(3)セガサターン版では、順番に、アレス、ルーナ、ナル、ナッシュ、ミア、ジェシカ、キリー、ラムス、白竜、メル、ガレオン、ピリア、レイク、テムジン、レミリア、ロウイス、魔法皇帝、ゼノビア、フェイシアである(甲第31号証)。
 各キャラクターの出身地、身体的、性格的な特徴等も同じである。
 このように、主要なキャラクターはほぼ同一である。
(b) 冒険の足跡(ストーリー、背景、世界観)
 本件製品(1)では、主人公たちはホンメル島を出発し、船でカタリナ大陸に渡り、関所を越えて陸路でマリウス地方へ行き、壊れた橋を修復してスタジウス地方へ行き、さらに飛行船で辺境へ行く。これは、本件製品(3)セガサターン版でも同一である。各地域の特徴も同一である(甲第31号証、第32号証)。
(c) 本件製品(3)セガサターン版の製作に携わったC(以下「C」という。)は、「特に後半部分はがらりと変わっている。それは、結局伝えたいことを伝えるための方法であって、大きな変更ではない、そう思っています。」と述べている。また、被控訴人代表者B(以下「B」という。)も、基本的なプロット(筋・構想)が同一である、との趣旨の発言をしている(甲第32号証)。
(イ) 本件製品(3)プレイステーション版
 本件製品(3)プレイステーション版も、本件製品(3)セガサターン版と、キャラクターは同一であり、ストーリーもほぼ同一である。各機械に合わせて、プログラムを入れ替えただけである。
(ウ) 本件製品(3)海外版、同ウィンドウズ版
 これらの製品においても、キャラクター、ストーリーは上記各版におけるのとほぼ同一である。異なるハードウェアで動作させるためプログラムを変更したり、使用言語を英語にしたりしたにすぎない。
ウ 不法行為責任について
 被控訴人は、本件許諾契約の更新拒絶は信義側に反する、と主張する。
 しかし、被控訴人が、著作権を侵害する行為を繰り返しているのは、相殺の抗弁を提出した後のことである。これは、相殺ができると考えたからである。このような相殺狙いの不法行為を防止するためにこそ、民法509条の規定があるのである。
エ 本件製作契約に係る債務不履行責任(被控訴人の相殺の抗弁に対する反論)
 原判決の認定した「債務不履行」は、その内容が明らかでない。本件製品(2)は、現に完成されて大過なく販売されている。履行不能などということはあり得ない。
 本件製作契約につき控訴人側に問題となることがあったとしても、それは、履行遅滞が見込まれる状態を生じさせたということにすぎない。これとても、契約解除の日であると被控訴人が主張する、平成8年12月6日の時点で、控訴人が、平成9年2月までに本件製品(2)を完成させることは不可能であると決まっていたわけではなく、履行遅滞になるか否かは不明であった。履行遅滞になる見込みがあったというだけでは、債務不履行にはならない。
 本件製品(2)は、結局、平成9年2月末までには完成しなかった。これは、被控訴人が、控訴人から仕事を取り上げたからである。したがって、このことにつき、控訴人に責任はない。
(2) 反訴関係
ア 上記(1)エで述べたとおり、控訴人が、本件製品(2)を、平成9年2月末までに完成させることは可能な状態にあった。
 製作作業が遅れていたとしても、それは、被控訴人が開発機材、ムービー技術、3D技術、音楽圧縮技術等を提供するという形の協力を合意したにも関わらず、それを履行しなかったためである。
イ 本件製作契約が解除されたと被控訴人が主張するころ、控訴人と被控訴人との間で、合意が成立したのは事実である。しかし、それにより、本件製作契約が解除されたという事実はない。合意の内容は、控訴人代表者A(以下「A」という。)が、本件製品(2)のディレクション権限を放棄し、被控訴人主導の下で、控訴人が協力して、本件製品(2)を完成させる、というものであり、完成すれば、控訴人の責任を問わない、ということになっていた。
 控訴人が、本件製品(2)の製作に関して、被控訴人に対し損害賠償責任を負うことはない。
ウ 損害額
 背景は、平成8年12月8日の話合いで、被控訴人の負担でアニメスタジオに作成を依頼することになった。株式会社美峰(以下「美峰」という。)に対する支払を控訴人が負担する理由はない。
 有限会社ビッツラボラトリー(以下「ビッツラボラトリー」という。)に対する支払が4000万円もの金額になったのは、被控訴人の担当者が適切な指導をしなかったからである。
 株式会社日本アートメディア(以下「日本アートメディア」という。)の作業は、控訴人が作成したデータの色を塗り替えたり、飾りを増やしたりしただけであり、不必要な作業である。
 被控訴人の従業員に対する支払は、もともと被控訴人がするべきものであり、控訴人に債務不履行があったとしても、それとは関係がない。
エ 控訴人の抗弁(相殺)
 本訴において主張したとおり、控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人が、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版を販売したことに基づく、著作権侵害に基づく1億2125万1842円の損害賠償請求権を有している。控訴人は、そのうち、本件訴訟で請求している1206万2620円を除いた残額を自働債権とし、被控訴人が請求する債務不履行に基づく損害賠償請求権を受働債権として、対当額で相殺する。
2 当審における被控訴人の主張の要点
(1) 本訴関係
ア 控訴人の主張(1)ア(憲法違反等)に対して、
 本件製品(3)セガサターン版の二次的著作物性に関する被控訴人の認否が相反する形になっているのは、控訴人が、契約に基づく請求権しか対象とされていなかった訴訟の途中で、性質の異なる不法行為に基づく請求権を対象に追加したことの自然な結果である。
イ 控訴人の主張(1)ウ(不法行為責任)に対して
(ア) 本件製作契約の存続
(a) 本訴において、控訴人が請求する不法行為に基づく損害賠償金は、要するに、本来、本件許諾契約に基づく著作権使用料であるはずのものが、同契約の終了によりその法的性質を変えたにすぎないものである。更新拒絶前には、被控訴人の損害賠償請求権と控訴人の著作権使用料とは相殺可能であったのが、更新拒絶後は、控訴人の著作権使用料は、不法行為に基づく損害賠償請求権になるため、相殺ができなくなるとするのでは、いかにも不合理である。このような更新拒絶は、信義則上許されない、とすべきである。
(b) 本件製作契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権は、平成8年12月の時点で発生しており、他方、その時点では、本件許諾契約も存続していた。この損害賠償請求権を自動債権として、将来負担することがあるべき著作権使用料と相殺できる、との被控訴人の期待は、当然保護されるべきである。
(c) 控訴人による更新拒絶は、このようなの状況の下で、上記相殺を逃れるためにのみなされたものである。
(イ) 更新拒絶そのものは有効であるとしても、控訴人は、著作権法65条3項及び信義則の下では、被控訴人による著作権行使を拒絶できないものというべきである。
(ウ) 控訴人の主張する損害額に対して
 ゲーム製作をするに当たっての二次使用料は、3パーセントが相場である(乙第25号証〜第27号証)。
 本件製品(1)は、控訴人、被控訴人、C、Dの共同著作物であり、この四者で、著作物使用料の一般的な相場である3パーセントを等分して、0.75パーセントという著作物使用料率を定めたものである。
 控訴人が主張する10パーセントの使用料は、不相当に高額である。
ウ 控訴人の主張(1)エ(本件製作契約の債務不履行責任)に対して
 控訴人が、期限内に本件製品(2)を完成させることができた、というのは、希望的意見にすぎない。そのことは、その後の開発経過をみれば明らかである。
(2) 反訴関係
ア 控訴人と被控訴人は、控訴人を請負人、被控訴人を注文者として、平成8年1月下旬ころ、本件製品(2)を代金1億2000万円で製作するとの本件製作契約を締結した。
イ 被控訴人は、控訴人に対し、平成8年11月29日までに、下記のとおり、請負代金として合計1億0300万円を支払った。
 平成8年1月31日 500万円
 同年3月1日 2000万円
 同年4月30日 1400万円
 同年5月31日 1500万円
 同年6月28日 1400万円
 同年7月31日 500万円
 同年8月30日 1000万円
 同年10月1日 600万円
 同年10月31日 700万円
 同年11月29日 700万円
ウ 本件製品(2)の納期は、当初平成8年10月とされたが、最終的に、平成9年2月と変更され、平成8年中にベータ版(製品版の90パーセント程度の完成度を有するもの)を、控訴人が被控訴人に提出することが合意された。
エ 平成8年12月4日の時点での、製作の進捗状況から、控訴人が、本件製品(2)を平成9年2月までに完成させることは不可能と判断されたため、平成8年12月6日、本件請負契約は、合意ないし控訴人の履行不能に基づき、解除された。
オ 被控訴人は、本件製品(2)の制作費として、下記のとおり合計1億9562万0356円を支出した。
(ア) 平成8年12月以降、本件製品(2)の製作に従事した控訴人らの従業員に対する給料3534万2862円
(イ) 本件製品(2)の製作に従事した被控訴人の従業員に対する給料1367万2494円
(ウ) ビッツラボラトリーに対し支払った制作費4000万円
(エ) 日本アートメディアに支払った206万円
(オ) 美峰に対し支払った154万5000円
(カ) 控訴人に対し支払った1億0300万円
カ 控訴人が、約定通り本件製品(2)を完成していれば、その費用は1億2000万円で済んでいたから、被控訴人は、差額である7562万0356円の損害を被ったことになる。
キ 以上により、控訴人は、被控訴人に対し、上記損害賠償金7562万0356円の支払を求める。
第4 当裁判所の判断
 本件製作契約の成立とそれに基づく請負代金の支払、本件製品(2)の完成に至る経緯、控訴人による債務不履行の存在については、原判決「第2 事案の概要及び当事者の主張等」の「2 前提事実」及び「第3 争点に対する判断」の「2 争点3、4について」の(1)及び(2)のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の本訴請求について
(1) 本件製品(1)の製作に関して、控訴人と被控訴人は、「ソフトウェア制作請負契約書」と題する契約書を交わし、次のような条項を含む契約(本件許諾契約)を成立させた(甲第1号証)。
 「ア 12条1項
 本件製品(判決注・本件製品(1)を指す。)の著作権は、甲(判決注・控訴人を指す。)・乙(判決注・被控訴人を指す。)が共同保有するものとする。
イ 同条2項
 本件製品の販売権は、乙に帰属するものとする。
ウ 同条3項
 本件製品の商標使用及び、二次著作物については乙が管理し、それぞれの製品について、以下の対価を乙より甲に支払う。
 一製品あたり標準小売価格の0.75%
エ 15条
 本契約の有効期間は、平成2年12月末日から平成7年12月末日までとする。但し、期間満了3ケ月前までに甲、乙いずれからも書面による通知がないときは、更に本契約が1ケ年更新されるものとし、その後の期間についても同様とする。」
 上記のとおり、控訴人と被控訴人は、本件許諾契約の一内容として本件製品(1)そのものだけでなく、その二次的著作物についても、被控訴人が販売等、その管理をすることを合意し、同契約において、この合意は、当事者が解消の通知をしない限り、自動的に更新され存続するものとされている。
(2) 著作権法65条は、その2項において「共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。」と定め、3項において「前2項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、第1項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。」と定めている。
 著作権法が上記のように定めている以上、本件許諾契約をその15条に基づき通知により解除する場合にも、解除により合意を消滅させるための正当な理由の存在が必要となると解すべきである。ところが、上記正当な理由に該当すべき事実は、主張もなされておらず、また、本件全証拠によっても認めることができない。
 控訴人の、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版に係る損害賠償請求は、本件許諾契約が解約されていることがその前提となる。控訴人による本件許諾契約の更新拒絶の意思表示は、平成9年9月25日に被控訴人に到達しており(甲第11号証の1及び2)、この時点では、原判決認定のとおり、控訴人が本件製作契約の債務を履行しなかったため、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が既に発生しており、その総額が相当多額になることが必至であった。上記更新拒絶による解約により、控訴人は、将来発生すべき控訴人の契約上の債権(著作権使用料)を、不法行為に基づく損害賠償請求権へと、その法的性質を変えて、相殺を免れることになり、これは、被控訴人が控訴人に対して有する債権(損害賠償請求権)の事実上の担保を消滅させるものである。上記更新拒絶については、むしろ、正当な理由がないことが明らかであるということができる。
 以上のとおりであるから、上記更新拒絶は、その効力を持たないものという以外にない。
(3) 以上によれば、本件製品(3) プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版が、仮に本件製品(1)の二次的著作物であるとしても、それらを被控訴人が販売したことは、本件許諾契約に基づく控訴人の同意の下でなされたものということになり、不法行為を構成することはない。そうすると、不法行為に基づく控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。
(4) 付言すると、本件で、本件製品(3) プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版が、本件製品(1)の二次的著作物であると認めるに足りる証拠はない。
 そもそも、二次的著作物性を判断するに当たっては、対象となるもの自体を比較対照するのが原則である。ビデオゲームの商品の特殊性、すなわち、遊戯者の視覚及び聴覚に同時に訴え、遊戯者の操作次第でゲームの展開(画面表示、音楽演奏、ストーリー)がある程度変わり得る、すなわちインタラクティブ性(相互作用性)を有することは、上記原則を遵守すべき理由の要素となり得るものであっても、決して、緩和すべき理由の要素となることはない。
 本件で、控訴人は、結局、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版について、そのゲーム内容の要点を説明する文書のコピーを提出するのみで、当裁判所の再三の示唆にもかかわらず、ビデオに撮影してそのテープを提出するなどして、上記各本件製品(3)の現実の遊戯内容を立証することを全くしていない。本件製品(1)については、現実の遊戯内容を撮影したビデオを提出しているものの、これは、序盤の一部分と、モンスターとの戦闘シーンのごく一部とを含んでいるにすぎず、ゲーム全体の遊戯内容を感得し得るものとは到底いえない。
 甲第30号証、第31号証、第33号証、第34号証、第35号証、第42号証及び第43号証からは、本件製品(1)と、本件製品(3)プレイステーション版、同海外版及び同ウィンドウズ版とでは、主要な登場人物がほぼ共通すると認められ、物語の骨子にも共通する点が多々あるものとうかがえるから、上記各本件製品(3)が本件製品(1)の二次的著作物であると判断される可能性は相当程度ある、ということはできる。しかし、前記のとおり、ビデオゲーム同士の二次的著作物性は、ゲームそのものを、実際のゲーム内容をビデオに撮影するなどして、直接子細に比較し検討されるべきものであり、これを行わずして二次的著作物であるか否かの判断を行うことは、不可能ないし極めて困難という以外にないのである。
2 反訴請求について
(1) 控訴人は、上記引用に係る原判決が認定した債務不履行の内容が不明である、と主張する。
 原判決は、被控訴人の、本件製作契約の合意解除ないし履行不能に基づく解除の主張に対し、「本件製品(2)は、被告が、株式会社角川書店(以下「角川書店」という。)と株式会社エンターテインメント・ソフトウェア・パブリッシングから代金1億2000万円で請け負ったものであり、また、本件製品(2)の発売と時期を合わせて、魔法学園ルナの劇場版アニメーションを上映する予定になっていた」(原判決12頁4行目〜9行目)との事実を認定した上で、「・・・同年(判決注・平成8年)12月4日ころの時点で、同月末にベータ版を提出して納期である平成9年2月末に本件製品(2)を完成させることは不可能であった」、と認定している(原判決17頁7行目〜9行目)。
 平成8年12月4日ないし5日の時点で、本件製品(2)が、平成9年2月末までに完成することができない状態であったことは、原判決認定のとおりである。そして、履行期前に、履行期の時点で履行不能なことが確定した場合、履行不能となることは当然であるから、原判決の上記説示がその旨をいうものであることは、明らかである。原判決が認定した債務不履行の内容が不明確であるとする控訴人の主張は、失当である。
(2) 被控訴人の損害額について
ア 被控訴人が、本件製作契約に基づく請負代金として、1億0300万円を控訴人に支払ったことは、当事者間に争いがない。
イ 乙第18号証ないし第22号証によれば、控訴人は、ビッツラボラトリーに対し、本件製品(2)の製作に関し4000万円を支払ったことが認められる。控訴人は、被控訴人の担当者の指導が適切でなかったため、4000万円もの金額になったと主張し、これに沿う証拠(甲第26号証)もあるが、証人Eの証言に照らし、採用できない。
ウ 乙第18号証及び第24号証によれば、本件製品(2)の製作に関し、被控訴人は、日本アートメディアに対し、206万円を支払った事実が認められる。
 控訴人は、日本アートメディアの作業は、色を塗り替えたり、飾りを増やしたりしただけである、と主張する。これを認めるに足りる客観的証拠はない上、そもそも、色の塗り替えや飾りの付加が不必要な作業であったとうかがわせるに足りる証拠もない。
エ 乙第18号証及び第23号証によれば、被控訴人は、美峰に対し、154万5000円を支払った事実を認めることができる。
 控訴人は、被控訴人の負担で背景作成を依頼することになっていた、と主張し、これに沿う証拠(甲第26号証)もある。しかし、被控訴人は、1億2000万円の請負代金のうち1億0300万円を既に支払っていたにも関わらず、平成8年12月4日の時点で、履行期(平成9年2月末)の完成が到底不能であると判断したのである(E証言10頁)。このような状況下で、本件製品(2)の製作を控訴人から引き継ぐに際して、それ以降かかる費用について被控訴人が、法的な意味で確定的に負担する旨の発言が出るとは考えにくい。控訴人の主張は採用できない。
オ 被控訴人が、控訴人に対し、本件製品(2)の製作に従事した控訴人の従業員の給料等として、平成9年2月から同年10月までの間、合計1367万2494円を支払ったことは、当事者間に争いがない。
 控訴人は、被控訴人の支払が「立替え」であることを否認する。すなわち、被控訴人が、控訴人従業員が、平成9年1月以降も本件製品(2)の製作に従事することを要求したのに対し、控訴人はいったんはこれを拒絶した、しかし、被控訴人が、人件費等の諸経費を支払うことを約束したので、結局製作に従事させた、と主張している。
 しかし、控訴人のこの主張を認めるに足りる証拠はない。また、仮にこの主張が認められるとしても、被控訴人が、本件製品(2)の製作のために1367万2494円を費やしたとの事実が認められる以上、これに加えて、この費用について、被控訴人が控訴人に損害賠償を請求しないと約束したなどの事情が認められなければ、控訴人の損害賠償責任が否定されるものではない。そして、このような事情を認めるに足りる証拠はない。
カ 乙第12号証、第13号証及び第18号証によれば、本件製品(2)の製作のため、被控訴人の従業員の給料及びアルバイト代として、平成8年12月から平成9年10月まで、合計3534万2862円を支払ったとの事実を認めることができる。
キ 以上のとおり、被控訴人は、本件製品(2)を製作させるために、1億9562万0356円を支出したものと認められる。控訴人が、本件製作契約の約定通り本件製品(2)を完成していれば、製作費用は約定の1億2000万円で済んでいたのであるから、被控訴人は、差し引き7562万0356円の損害を被ったことになる。
(3) 控訴人は、被控訴人に対し、本件製品(3)セガサターン版に係る著作権使用料として、993万7380円の債権を有する(本件許諾契約の成立、本件製品(3)セガサターン版の小売額及び販売数については、当事者間に争いがない。)。被控訴人は、本件製作契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を自動債権として、この債権を受動債権とする相殺の抗弁を主張したものであるから、この額は7562万0356円から差し引かれるべきである。
 したがって、被控訴人の反訴請求は、6568万2976円及びこれに対する平成14年4月20日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
3 結論
 以上検討したところによれば、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。そこで、これを棄却することとし、被控訴人の反訴請求は、6568万2976円及びこれに対する付帯請求の範囲で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法67条、61条及び64条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 設樂隆一
 裁判官 高瀬順久
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