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【事件名】スケジュール管理ソフトの類似事件
【年月日】平成15年1月28日
 東京地裁 平成14年(ワ)第10893号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年10月15日)

判決
原告 株式会社アイフェイス
訴訟代理人弁護士 窪田英一郎
同 柿内瑞絵
被告 有限会社ビットギャング
被告 株式会社メディアプロジェクトニジュウイチ
被告ら訴訟代理人弁護士 大塚明
同 若本修一


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告有限会社ビットギャングは、別紙物件目録1記載の記録媒体を販売又は頒布してはならない。
2 被告有限会社ビットギャングは、別紙物件目録2記載のプログラムをサーバ、ハード・ディスク等の記録媒体に格納し、有線ないし無線通信装置等によって 送信又は送信可能の状態においてはならない。
3 被告らは、別紙物件目録3記載のCD−ROMを頒布してはならない。
4 被告有限会社ビットギャングは、原告に対し、金350万円及びこれに対する平成14年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告株式会社メディアプロジェクトニジュウイチは、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成14年5月31日から支払済みまで年5分の割合に よる金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は、コンピュータソフトウェアの企画、製作、販売等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
 被告有限会社ビットギャング(以下「被告ビットギャング」という。)は、インターネットを利用した通信販売業務、広告・宣伝・印刷及びその企画・製作並びに販売等を業とする会社である。被告株式会社メディアプロジェクトニジュウイチ(以下「被告メディアプロジェクト21」という。)は、一般労働者派遣事業、芸能・スポーツに関する興行の企画及び実施等を業とする会社であり、タレントであるAの所属プロダクションである。
(2) 原告製品の販売(甲1ないし3、弁論の全趣旨)
 原告は、平成12年12月から、「Pim−face ver2.0」の名称を有するスケジュール管理ソフト(以下「原告製品」という。)を販売していた。
(3) 原告製品の特徴(甲1ないし9、弁論の全趣旨)
 原告製品は、「PIM(Pesonal Information Management)」と呼ばれるスケジュール管理ソフト(以下「PIMソフト」という。)の一種であり、マッキントッシュ又はウィンドウズのOS上で動作可能である。
 原告製品は、「フェイス」というプログラムの背景画像を変更することができる。原告製品は、原告が運営するサイト「www.PIM−point.com」からユーザーがダウンロードできるが、ユーザーはさらに気に入ったフェイス(40種類以上)をダウンロードし、原告製品を好みの背景に変えることができる。また、原告製品にはネット接続機能があり、ユーザーが原告製品の上部中央にあるシンクロ・ボタンを押すと、ユーザーが使用している原告製品上に「メッセージ」として広告が配信されたり、ユーザーが入力したスケジュールがサーバにアップロードされたりする。ユーザーがスケジュールを携帯電話で確認することも可能となっている。
(4) 被告ビットギャングの行為
 被告ビットギャングは、別紙物件目録1ないし3記載のソフトウェア及び同ソフトウェアを収納した記録媒体(以下「被告製品」という。)を制作し、販売している。同被告が制作販売している「pimca」には、同被告が平成13年9月以降に東洋紡に対しプロモーション用のサンプル版として販売した「pimca ver1.0」(以下「被告製品1」という。)と、同被告が平成14年7月27日以降に出荷しているAの写真を背景画面に掲載した「pimca ver2.0」(以下「被告製品2」という。)があり、別紙物件目録3記載の製品は、被告製品2をCDーROMに収納したものである。
 被告製品については、ユーザーが入力したスケジュールがサーバにアップロードされたり、ユーザーがスケジュールを携帯電話で確認することはできない。
2 本件は、被告らによる被告製品の制作販売行為が、@不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる、A原告の原告製品に対する著作権(複製権、翻案権)を侵害する、B民法709条の不法行為に当たる、と主張して、被告製品の販売又は頒布等の差止め及び損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点
(1) 被告メディアプロジェクト21に当事者適格があるかどうか
(2) 被告製品は原告製品の形態を模倣したものであるかどうか
(3) 著作権(複製権、翻案権)侵害の成否
(4) 不法行為に基づく損害賠償請求権の有無
(5) 損害の発生及び数額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
【原告の主張】
 被告らは、別紙物件目録3記載の製品を共同で販売している。「Pimca」のサイト等には、被告メディアプロジェクト21が同製品の「発売元」として表示され(甲20の2、4、5、甲22の4)、同被告のサイトには、同製品のバナー広告がある他、同被告が扱うグッズとして同製品の予約を受け付けているのであるから(甲21の2)、同被告が無関係であるということはない。
【被告メディアプロジェクト21の主張】
 別紙物件目録3記載の製品は、販売予告の段階では、被告メディアプロジェクト21が販売元になる旨の表示があったが、その後の企画プランニング段階で、同製品の販売を被告ビットギャングが行い、被告メディアプロジェクト21は写真の使用を許諾するのみになった。したがって、被告メディアプロジェクト21は、同製品の販売には無関係であるから、原告の同被告に対する請求については、同被告は当事者適格を欠くので不適法である。
(2) 争点(2)について
【原告の主張】
ア 不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」には、ソフトウェアも含まれる。ソフトウェアは、コンピュータ上で起動され、ディスプレイ上に表示されると、そこに形状、模様、色彩等が現れるのであって、需要者はこれを視覚的に認識することが可能となり、この状態における画面構成が 「形態」に当たる。しかし、通常のソフトウェアは、1つの画面から構成されるものではなく、ユーザーの入力等に応じて多様に展開されていくのであるから、単純な1つの画面を取り出してそれを商品の「形態」であると捉えるのではなく、展開される各画面又はその展開の組み合わせ等を総合して、ソフトウェアの「形態」と捉えるべきである。
イ 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」というためには、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要し、それらの有無は、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断するべきである。
ウ 原告製品と被告製品の特徴の比較
(ア) 原告製品と被告製品とは、コンピュータのディスプレイ上での画面の大きさがほとんど一致する。
(イ) 週表示画面
 原告製品における週表示画面(甲7の2−2)は、その基本的構成において、左側にその週の7日間を順番に縦に表示し、右側上はアニメーション等を配することが可能なアイキャッチ部分、右側下は各日のスケジュール、ダイアリー又はメッセージを表示する部分となっている。左側の週表示部分においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されている。このように同じ画面で週表示と日表示を行っているスケジュール管理ソフトは他には存在せず、原告製品の大きな特徴となっている。
 被告製品1における週表示画面(甲10の6−2)は、その基本的構成において、左側にその週の7日間を順番に縦に表示し、右側上はアイキャッチ部分、右側下は各日のスケジュール又はダイアリーを表示する部分となっている。左側の週表示部分においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されている。
 したがって、被告製品1は、週表示画面の基本的構成が原告製品と同一である。
 被告製品2は被告製品1における週表示画面の縦横を変えたものに過ぎず、基本的には被告製品1と同様のものである。
(ウ) 月表示画面
 原告製品の月表示画面(甲7の2−3ないし14)は、基本的構成において、中央に大きなカレンダーが配され、上部に年と月を表示し、上部左右に月送りボタンが、若干中心軸が左に寄った状態で配置されている。被告製品の月表示画面(甲10の6−3ないし14)の基本的構成も同じであり、両者は一致している。この点は被告製品2についても同様である。 
(エ) アドレス帳画面
 原告製品のアドレス帳画面(甲7の2−15)は、基本的構成において、左側に名前の一覧表が配置され、右側に各人の細かい情報が表示される部分と、その下に「新規」、「保存」、「削除」の3つのボタンが配されている。このような画面構成は、左側の一覧表で登録されているすべてのアドレスを簡易に表示し、その詳細については右側の情報表示部分で確認できるようにし、さらに右側の情報表示部分の下のボタンで簡易な編集等を可能にするという特徴を有している。
 被告製品1のアドレス帳画面(甲10の6−15)は、基本的構成において、左側に名前の一覧表が配置され、右側に各人の細かい情報が表示され、その下に「New(新規)」、「Edit(編集)」、「Delete(削除)」の3つのボタンが配されている。このような被告製品1のアドレス帳画面における基本的構成も、左側の一覧表で登録されているすべてのアドレスを簡易に表示し、その詳細については右側の情報表示部分で確認できるようにし、さらに右側の情報表示部分の下のボタンで簡易な編集等を可能にするという原告製品と同様の特徴を有している。したがって、原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のアドレス帳画面は実質的に同一であり、被告製品2についても同様である。
(オ) 機能別画面の構成
 原告製品の画面は、大きく分けて「週(WEEK)表示画面」、「月(MONTH)表示画面」、「アドレス帳(ADDRESS)画面」及び「プロフィール(PROFILE)画面」から構成されている(甲7)。スケジュール管理ソフトには、このような「週表示画面」、「月表示画面」、「アドレス帳画面」及び「プロフィール画面」の他にも、「日表示画面」、「ToDo画面」、「年表示画面」、「メモ帳画面」、「記念日画面」等が考えられ、このような多様な機能別画面から「週表示画面」、「月表示画面」、「アドレス帳画面」及び「プロフィール画面」の4つの画面のみを基本的な機能として選択した原告製品は、この点において大きな特徴を有している。
 被告製品1は、大きく分けて「週(WEEK)表示画面」、「月(MONTH)表示画面」、「アドレス帳(ADDRESS)画面」及び「ツール(TOOL)画面」から構成されている(甲10)。
 したがって、原告製品と被告製品1は、4つの基本的な画面からなっていること、この4つの画面の中には、「週表示画面」、「月表示画面」、「アドレス帳画面」の3つがあることにおいては共通しているが、残りの1つが「プロフィール画面」であるか「ツール画面」であるかの点において一見相違している。しかし、被告製品1におけるツール画面は、最初に開けた段階ではリンク集からなる画面(甲10の6−16)となっているが、その左下には、「ヘルプ」、「バージョン情報」、「カスタマイズ」の各ボタンがあり、「カスタマイズ」ボタンを押すと、「スキン変更」(甲10の6−17)と「各種設定」(甲10の6−18)画面を呼び出すことができるようになっている。この「スキン変更」画面は、被告製品においては「スキン」と呼ばれるフェイスの変更のための画面であり、原告製品のプロフィール画面における右側のフェイス変更画面と同じ機能を有するものである。被告製品1における「各種設定」画面では、効果音のオンオフを含む設定が可能であり、この機能は原告製品のプロフィール画面(甲7の2−16)における右下部分の効果音のオンオフを含む設定変更部分に対応する。したがって、原告製品における「プロフィール画面」と、被告製品1における「ツール画面」とは、厳密な意味で同一とはいえないものの、共通の機能を有しており、「週表示画面」、「月表示画面」及び「アドレス帳画面」に対する「その他」の画面であることで共通するものである。この点は被告製品2についても同様である。
(カ) 原告製品と被告製品とは、各画面の背景となるフェイス(被告製品においては「スキン」と呼ばれる。)を変更できる点においても実質的に同一である。
エ 依拠性
(ア) 原告製品は既に10万本以上配布され、40種類以上のフェイスが採用されている。また、原告製品では、B、C、D等の有名人が起用されている他、タワー・レコード、ブルガリ、BMW、プジョーなど世間的に露出度の高い店舗や製品に関する宣伝媒体の役割を果たしており(甲3)、市場に広く認識されている。したがって、これらの点からだけでも、被告製品が、原告製品を一切知らずに制作されたとは考えられない。
(イ) 原告製品と被告製品とは、上記ウのとおりその特徴において実質的に同一であり、被告製品が偶然原告製品と同じになったということもあり得ない。むしろ、両者は通常のスケジュール管理ソフトとしては不合理と考えられる以下の共通点を有している。
@ プリントアウトができないこと
A スケジュールを月又は週の当該日に直接書き込むことができず、スケジュールを書き込むには週表示画面においてインプット・ボタンを押さなければならないこと
B スケジュールを書き込むのに、あらかじめ当該日を選択しなければならないにもかかわらず、スケジュール書き込み用のインターフェイスには年月日の選択画面が現れること
C 月表示画面における月移行用のボタンの中心軸がずれていること
(ウ) 以上から、被告製品は、原告製品を認識しつつ制作されたものというべきである。
オ 以上から、被告製品を譲渡する被告らの行為は、原告との関係で不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる。
【被告らの主張】
ア 不正競争防止法2条1項3号は「形態」に関する規定であり、無体物には適用されない。
イ 原告が主張する形態は、以下のとおり原告製品に特徴的な形態とはいえない。
(ア) 画面の大きさ
 原被告製品に限らず、大方のソフトウェアはほぼ一致する。画面の大きさは、コンピューター画面の大きさによって規定され、それよりも大きい画面を作ってもディスプレイからはみ出てしまうし、それより小さい画面を作ったならば見にくい上に情報量が少なくなる。
(イ) 週表示画面
 左側に一週間表示、右側に1日表示(+アイキャッチ)というレイアウトは、従来からPIMソフトでよく使用されている。週間表示と日表示を同一画面表示するのはスケジュール管理ソフトの通例であって、極めて普遍的かつ一般的なレイアウトである。
(ウ) 月表示画面
 月表示画面は、カレンダーの1か月表示と全く同一である。
(エ) アドレス帳画面
 アドレス帳はPIMソフトに限らず多くのデータベースにおいて使用されるものであり、基本構成は大同小異である。原告製品は、これらの既存の多くのアドレス帳の機能やレイアウトを踏襲したにすぎない。
(オ) その他の画面
 原告主張の各種機能や配置は、多くのソフトに共通に見られるものであって、何ら原告製品に特徴的なものではない。
(カ) フェイス又はスキン(背景)の変更
 各画面の背景の変更は、ウィンドウズやマッキントッシュにおいてポピュラーな機能であるし、上記変更機能を有するPIMソフトは原告製品以外にも多数存在する。また、そもそも上記変更機能はあくまで機能に着目しているので、商品「形態」を他人の模倣から守る不正競争防止法2条1項3号の範疇には含まれない。
ウ 原告製品と被告製品2との対比
(ア) 週表示画面(乙9の1)
@ 被告製品2独自の機能
 被告製品2には原告製品にはない独自の機能が存在する。被告製品2における以下の機能は、原告製品の週表示画面には、存在しない。
a pimca bar(乙10)
 画面上部に現在時刻及び直近の予定が掲示される細横長のボックスである。
b サポートセンターへのリンクボタン
 クリックすると、被告ビットギャングへのサイトにリンクする。
c クライアントへのリンクボタン
 クリックすると、Aのホームページにリンクする。
d ニュートラルボタン
 日送りされていても、このボタンをクリックすると当日の予定に戻る。
e ランダムフォト
 スキン機能として、プログラム背景画像を変更できる。
 これらの機能を週表示画面上で体現することは、ユーザーの便宜を図り、クライアントの広告媒体としての機能に適うという意味で重要な役割を果たし、まさに被告独自の創作性を有する部分である。
 したがって、被告製品2の週表示画面から、原告製品の週表示画面が想起されることはない。
A 両者共通の機能
 原告製品と被告製品2は、以下のとおり共通の機能を有するが、その機能はスケジュール管理というソフトの目的上必然的なものである上、両者のレイアウト・形状には差異がある。
a 画面移動ボタンエリア
 Weekly画面(原告製品ではWEEK画面)、Monthly画面(原告製品ではMONTH画面)、Address画面(原告製品ではADDRESS画面)、Tool画面(原告製品ではPROFILE画面)を選択するボタンが存在する点は、両ソフトに共通である。
 しかし、被告製品2では画面左下に位置するのに対し、原告製品では画面上部に位置している。また、原告製品では、各ボタンの左側に太陽の形をした商品のシンボルマークが付加されているのに対し、被告製品2にはそのようなマークはなく、各ボタンが独立に画されている。
b スケジュールの詳細を書き込めるボックス
 原告製品も被告製品2も画面右下部分に位置するが、被告製品2の方が横に長い。しかも、原告製品では、常に白抜きになっていると思われるのに対し、被告製品2では、マウスポインタが枠内にあるときには白抜きであるが、枠外に出れば背景画像が透けて見えるスケルトン機能を有する。
 こうした被告製品2のスケルトン機能は、ユーザーの便宜やデザ イン性を特に重視したことに基づくものであり、原告製品にはない 被告製品2における顕著な特色である。
c 週表示エリア
 原告製品では、横長の週表示ボックスが、画面左側に縦に配置されているのに対し、被告製品2では、画面上半分に横並びで配置されている。しかも、被告製品2では原告製品とは異なり、各ボックスの背景画像は透けて見える。また、原告製品の週表示は、日曜日から始まり土曜日で終わるのに対し、被告製品2では月曜日から始まり日曜日で終わる。これは、被告製品2が参考にした紙製手帳が、月曜日から始まっていることに基づくものである。
d アイキャッチ
 原告製品では画面右側のアイキャッチは販売者の提供するレディメードの画像中からの選択しかないのに比して、被告製品2では基本的にユーザーのオーダーメイドであり、ユーザーが家族の写真など自分で撮った写真などを貼り付けることを予定している。
e その他
 現在の年表示、月表示、日送りボタンの位置は、両ソフトで大きく異なる。
B 原告製品独自の機能
 原告がシールと呼ぶ機能(画面右下)及び選択日表示部(画面右上)は、被告製品2には存しない。
(イ) 月表示画面(乙9の2)
@ 被告製品2独自の機能として、(ア)@aないしdと同じ機能がある。
A 両者に共通の機能
a スケジュールの表示エリアについて
 スケジュールの表示については、両者とも通常のカレンダーにおける1か月表示と同じであり、類似性を有する。しかし、原告製品では表示部分がやや左側に位置している点及びカレンダー画面の背景に別個の画像が存在する点で、被告製品2とは異なる。
b 画面移動ボタンエリア
 (ア)Aaと同じ共通点があるが、週表示画面と同様に、被告製品2では画面左下に位置するのに対し、原告製品では画面上部に位置している。また、原告製品では、各ボタンの左側に太陽の形をした商品のシンボルマークが付加されているのに対し、被告製品にはそのようなマークなどなく、各ボタンが独立に画されているのも週表示画面の場合と同じである。
c その他
 現在の月表示、年表示、月送りボタンについても、両ソフトに共通であり、レイアウトも類似性を有するが、これらは通常のカレンダーの表示と同じである。
(ウ) アドレス帳画面(乙9の3)
@ 被告製品2独自の機能
 被告製品2には、(ア)@aないしdを含む以下のような原告製品にはない独自の機能が存在する。殊に、E−mailボタン、ホームページURLボタン、アドレス「Import」、「Export」ボタンをアドレス帳画面に結合させた点は、ユーザーの便宜に特別に配慮したものであり、原告製品とは異なる。
a E−mailボタン
 アドレス帳画面に表示されたE−mailアドレスの右横にある封筒の形をしたボタンをクリックすると、メール作成の画面となり、ユーザーはここから直接メールが送信可能となる。
b ホームページURLボタン
 E−mailボタンと同様、アドレス帳画面に表示されたホームページURLの右横にあるボタンをクリックすると、当該ホームページにリンクする機能を有する。
c アドレスのインポート・エクスポートボタン
 他のスケジュールソフトとの間で、情報の互換が可能となる機能である。
d 個人情報編集ボタン
 クリックすると、個人情報の編集が可能となる。
A 両者に共通の機能
a アドレス表示エリア
 アドレス機能を有する以上、アドレス表示が存在するのは当然である。被告製品においては、ユーザーが使いやすいように、アドレス表示が50音順に整理できる機能を有している点で、原告製品とは異なる。
b 個人情報詳細表示エリア
 aと連動して、個人情報の詳細を表示した部分である。原告製品には、特に原告製品にだけ特徴的と呼べるものは存在しない。これに対して、被告製品2には、クリックすれば、直接E−mailを作成、送信することができる機能やURLにリンクする機能が付加されている。
c 画面移動ボタンエリア
 両者とも、Weekly画面(原告製品ではWEEK画面)、Monthly画面(原告製品ではMONTH画面)、Address画面(原告製品ではADDRESS画面)、Tool画面(原告製品ではPROFILE画面)を選択するボタンが存在する。しかし、被告製品2では画面左下に位置するのに対し、原告製品では画面上部に位置している。また、原告製品では、各ボタンの左側に太陽の形をした商品のシンボルマークが付加されているのに対し、被告製品2にはそのようなマークはなく、各ボタンが独立に画されている。
d 新規登録ボタン、削除ボタン
 両者に共通であるが、個人情報の入力・削除には必然的な機能であり、配置的にも個人情報詳細表示の下に存するのが自然であるし、類似ソフトにおいてもそれが一般的である。
B 原告製品に独自の機能として、個人情報保存ボタンが存する。
(エ) その他の画面(乙9の4)
 画面移動ボタンを除き、機能、レイアウトとも全く異なる。
 前記のとおり、被告製品2の開発は従来の紙製手帳をそのままデジタル化したものであるということが根底にある。したがって、被告製品2の特徴の1つは情報掲載画面の存在にあり、紙製手帳の付録ページに掲載されている様々なジャンルの情報が、被告製品2においては、ツール画面に掲載されており、ツール画面は各種情報のアイコンが並列している。これに対し、原告製品のプロフィール画面では、主として背景画像の変更を行う機能を有するものとなっている。
(オ) 機能別画面の構成
 スケジュール管理ソフトには多様な機能別画面が考えられる。その中からいずれを選択するかはソフトによって異なるのであって、偶々原被告製品が4画面であり、3画面が共通であったとしても、他の多くの製品においても同じことがいえる。
エ 以上のウで述べたところは、被告製品1についてもほぼ当てはまる。
オ 以上によると、被告製品が原告製品を模倣した事実はない。
(3) 争点(3)について
【原告の主張】
ア 原告製品の著作物性
(ア) 原告製品のようなスケジュール管理ソフトとしては、マイクロソフトの「Outlook」やロータスの「Organizer」などが一般的であるが、その他にも数多くのスケジュール管理ソフトが存在する。このようなスケジュール管理ソフトを作る場合、作成者は画面としてどのような機能をもった画面を採用するか、各画面における画面構成をどのようなものにするか、アイコンをどのような形にするか、配色をどのようにするか、機能別の画面をどのように関係付けるか等を検討し、最終的にはそのスケジュール管理ソフトのターゲット、作成者の考える使い易さ等に鑑みて、最も適切な機能を有する画面、画面構成、画面の関連付けを採用する。もちろん、スケジュール管理ソフトとして最低限必要とされる機能を有することは必要であり、またスケジュール管理という目的に照らして、ある程度画面構成等の選択の幅が限られる可能性はある。しかし、その中でも作成者の考えるところに従って、個性的な表現をすることは十二分に可能であり、スケジュール管理ソフトであるが故に著作物性が否定されることはない。
(イ) 原告製品は、個人ユーザーが気軽に使用できるスケジュール管理ソフトというコンセプトに基づいて制作されており、そのために画面は大きく分けて「週(WEEK)表示画面」、「月(MONTH)表示画面」、「アドレス帳(ADDRESS)画面」及び「プロフィール(PROFILE)画面」から構成されるシンプルなものとなっている。また、月表示画面はカレンダーと月移動ボタンとからなる比較的シンプルな構成、週表示画面は、左側に1週間の日付を簡単な予定と共に表示し、右側下には各日のスケジュールとダイアリー用の画面を、右側上にはアイキャッチ用の画面を配した構成、アドレス帳画面は、左側に名前の一覧を、右側に各人の詳細な情報を配置した構成、プロフィール画面は、左側にユーザーの情報を、右側にフェイスの一覧を配した構成をそれぞれ採用しているのであって、これらは誰が作っても同じようなものになるものではなく、また、機能から当然に導かれる画面構成でもない。このような機能をもった画面の選択・配列及び画面構成における各表示の選択・配列は、作成者が、数限りない選択肢の中から、自らの信ずるところに従って選び出し、配置したものであって、そこに作成者の個性が創作的に表現されているから、原告製品の著作物性が認められる。
イ 原告製品と被告製品の基本的構成の同一性
(ア) 機能別画面の構成
 原告製品と被告製品とでは、機能別画面の基本的構成が同一であることは、前記(2)【原告の主張】ウ(オ)記載のとおりであり、この点において、原告製品と被告製品とは、思想の表現形式を共通にし、被告製品の表現形式から原告製品の内容及び形式が覚知される。
(イ) 週表示画面
 原告製品と被告製品における各週表示画面は、前記(2)【原告の主張】ウ(イ)記載のとおり、その基本的構成において一致しており、被告製品の表現形式から原告製品の内容及び形式が覚知される。
(ウ) 月表示画面
 原告製品の月表示画面(甲7の2−3ないし14)の基本的構成では、中央に大きなカレンダーが配され、上部に年と月を表示し、上部左右に月送りボタンが配置されている。被告製品の月表示画面(甲10の6−3ないし14)の基本的構成も同じであり、両者は一致しているが、月表示画面のみを取れば、その創作的な余地は少ないものであり、被告製品の月表示画面から原告製品の月表示画面の内容及び形式が覚知されるとまではいえない。しかし、被告製品の月表示画面は、他の画面と相まって、被告製品が全体としての原告製品の内容及び形式を覚知させるのに役立っているものである。
(エ) アドレス帳画面
 原告製品と被告製品における各アドレス帳画面は、前記(2)【原告の主張】ウ(エ)記載のとおり、その基本的構成において一致しており、被告製品の表現形式から原告製品の内容及び形式が覚知される。
ウ 原告製品と被告製品の詳細部分の同一性
(ア) 週表示画面
@ 原告製品と被告製品1の週表示画面(甲7の2−2、甲10の6−2)の一致点は、以下のとおりである。
a 画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示している。
b 1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されている。
c 1週間の表示における日付と曜日は、略正方形状のボックス内に表示されており、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されている。このボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっている。
d 1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分は、横長の長方形形状とされている。
e 1週間の表示の左側上下には、週を移行するための上向き、下向きのボタンがそれぞれ設けられている。
f 画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があり、スケジュールとダイアリーの切り替えは、当該窓の上部に設けられた「SCHEDULE」(「Schedule」)又は「DIARY」(「Diary」)のタブを押すことによって行われる。
g スケジュール/ダイアリー表示窓の右上にはインプット・ボタンがあり、スケジュール画面でこのボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示される。
h スケジュール/ダイアリー表示窓の上にはアイキャッチ用の窓が配され、同部分に画像を変化させる広告等を表示できるようになっている。
i 画面の右上には、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が、1週間の表示部分と同様なボックス内に表示されている。
j 画面内の位置は異なるが、両者共、週表示画面を表す「WEE K」又は「Weekly」のボックスがハイライトされ、これ以外に月表示画面に移動する「MONTH」又は「Monthly」ボタン、アドレス帳画面に移動する「ADDRESS」又は「Address」ボタン並びにその他画面に移動する「PROFILE」又は「Tool」ボタンを備えており、その並び順は同じである。
k 週移行ボタン、1週間表示の各日付ボタン、スケジュール又はダイアリーのタブ、インプット・ボタンを押したときの効果音が、水の泡の音のような音である点で共通する。
A 原告製品と被告製品1の週表示画面の相違点は、以下のとおりであ      る。
a 「WEEK」、「MONTH」、「ADDRESS」、「PROFILE」と「Weekly」、「Monthly」、「Address」、「Tool」ボタンの位置。
b 原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し、被告製品1は画面左端中央に「今日」に移行するためのボタンを備えている。
c 原告製品はネット接続のための「SYNC」ボタンを備えているのに対し、被告製品1はネット接続のためのリンクボタンを右下に備えている。
d 被告製品1では、上部に時間と共に文字が流れるように表示されているのに対し、原告製品はこれを備えていない。
e 原告製品では、スケジュール/ダイアリー表示窓の下にシール貼付部分があるのに対し、被告製品1ではこれを備えていない。
f 年月の表示位置。
B 原告製品の週表示画面のレイアウトは、ユーザーに手軽かつ使い易いスケジュール管理ソフトを提供しようとする意図に基づいて制作されたものであり、特に週表示と日表示を同じ画面で表示した点、日表示においてスケジュールとダイアリーを切り替えられるようにした点は、他のスケジュール管理ソフトには見られない顕著な特徴である。原告製品の週表示画面の画面構成は、左側の週表示で大まかなスケジュールを確認し、右側の日表示で細かいスケジュール又はダイアリーを確認できるようになっており、そこにはユーザーにとって見易く、使い易いスケジュール管理ソフトとはどのようなものかという原告の思想が現れている。また、右上部分に広告等のアイキャッチを配置した点には、より効果的な広告媒体として機能させ、同時に美的なレイアウトを提供しようとする原告の思想が現れている。したがって、これらの点で共通する被告製品1の週表示画面は、原告製品の週表示画面と表現形式を共通にするものであって、被告製品1の週表示画面から原告製品の週表示画面の内容・形式が覚知される。被告製品2からも、同様に原告製品の週表示画面の内容・形式が覚知される。両者には上記の相違点が存するが、これらは上記原告の思想の表現に付随する付加的部分に関するものであり、本質的なものではない。よって、原告製品の週表示画面と被告製品の週表示画面とは実質的に同一のもので、後者は前者を複製したものであるか、そうでなくとも、後者は前者を翻案したものである。
(イ) 月表示画面
@ 原告製品と被告製品1の月表示画面(甲7の2−3ないし14、甲10の6−3ないし14)の一致点は、以下のとおりである。
a 画面の中央の大部分を月のカレンダーが占めている。
b 画面の中央上には当該月の表示が左に数字で、右に英語(の略語)で表示されている。
c 上部左右には、月を移行するための左向き、右向きのボタンがそれぞれ設けられている。
d 画面内の位置は異なるが、両者共、月表示画面を表す「MONTH」又は「Monthly」のボックスがハイライトされ、また、これ以外に、週表示画面に移動する「WEEK」又は「Weekly」のボタン、アドレス帳画面に移動する「ADDRESS」又は「Address」のボタン及びその他画面に移動する「PROFILE」又は「Tool」のボタンを備えており、その並び順は同じである。
e 原告製品と被告製品とでは、月移行ボタンを押したときの効果音が、水の泡の音である点で共通し、また月移行ボタンの中心軸が画面の中心から左寄りにずれている。
A 原告製品と被告製品1の月表示画面の相違点は、(ア)Aとほぼ同じである。
B 月表示画面において、前月・後月のカレンダーを同時に表示するか、他人のスケジュールを同時に表示するか、当該カレンダー内で入力を可能とするか否か等多くの検討事項の中で原告製品の月表示画面のレイアウトが選択され、画面が作成されているものである。原告製品と被告製品1の月表示画面は、そのレイアウトにおいて見た目が同じであり、同一である。
(ウ) アドレス帳画面
@ 原告製品と被告製品1のアドレス帳画面(甲7の2−15、甲10の6−15)の一致点は、以下のとおりである。
a 画面の左側半分全体にアドレス帳に登録された名前の一覧表が表示されている。
b 画面の右側半分にアドレス帳に登録された各個人の細かい情報が表示されている。
c 個人の詳細情報表示部分の左下には、新たな個人の情報を入力するための「新規」又は「New」ボタンが配置されている。
d 個人の詳細情報表示部分の中央下には、入力済の個人の情報を編集するための「保存」又は「Edit」ボタンが配置されている。
e 個人の詳細情報表示部分の右下には、特定の個人の情報を削除するための「削除」又は「Delete」ボタンが配置されている。
f アドレスが持つ情報には、名前、住所、e−mailアドレス、誕生日、電話番号が2種類、ホームページアドレス、メモが含まれている。
g 画面内の位置は異なるが、両者共に、アドレス帳画面を表す「ADDRESS」又は「Address」のボックスがハイライトされ、また、これ以外に、月表示画面に移動する「MONTH」又は「Monthly」のボタン、週表示画面に移動する「WEEK」又は「Weekly」のボタン及びその他画面に移動する「PROFILE」又は「Tool」のボタンを備えており、その並び順は同じである。
A 原告製品と被告製品1のアドレス帳画面の相違点は、(ア)Aaないしdの他、以下のとおりである。
a 被告製品1のアドレス帳は、名前の読み仮名、勤務先、勤務先住       所・電話番号・FAX番号・e−mailアドレス・ホームページアドレスが入力できるようになっているのに対し、原告製品はこれを備えない。
b 被告製品では、他のアドレス帳ソフトとの間で情報のやりとりをするための「Import」、「Export」ボタンがあるのに対し、原告製品はこれを備えていない。
c 被告製品では、アドレス帳を「ア行」、「カ行」等の別に従って分類出来るようになっているのに対し、原告製品はこれを備えていない。
B 原告製品のアドレス帳画面には、左側の一覧表で登録されているすべてのアドレスを簡易に表示し、その詳細については右側の情報表示部分で確認できるようにし、もってユーザーの見易さを提供し、さらに、右側の情報表示部分の下のボタンで簡易に編集等を可能にするという原告の思想が表現されている。被告製品1のアドレス帳画面も、左側の一覧表で登録されているアドレスを簡易に表示し、その詳細については右側の情報表示部分で確認できるようにしている点で共通し、また、被告製品1における「New」、「Edit」、「Delete」ボタンは、原告製品における「新規」、「保存」、「削除」ボタンの機能と同じであり、簡易な編集を行おうとする点でも両者は共通する。したがって、被告製品1のアドレス帳画面から、原告製品のアドレス帳画面の内容・形式が覚知されるものである。被告製品2からも、同様に原告製品の週表示画面の内容・形式が覚知される。原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のアドレス帳画面とでは、上記のとおり相違点があるが、これらはアドレス帳を作成する上で極めて一般的な工夫に過ぎず、それ自体で創作性を有するものではないから、これらの相違点は、被告製品1のアドレス帳画面から原告製品のアドレス帳画面の内容・形式を覚知させる点に影響を与えない。
 以上から、被告製品のアドレス帳画面は、原告製品のアドレス帳画面を複製又は翻案したということができる。
(エ) プロフィール画面とツール画面
@ 原告製品のプロフィール画面(甲7の2−16)と被告製品1のツール画面(甲10の6−16)の一致点は、以下のとおりである。
a 原告製品においては、プロフィール画面右側のフェイス選択画面でフェイスの選択が可能であり、被告製品1においては、ツール画面内のカスタマイズボタンを押すことによってスキンの変更が可能となっている。
b 原告製品においては、プロフィール画面右下部の「SOUND ON」のチェックをオン又はオフとすることによって効果音のオンオフが可能であり、被告製品1においても、ツール画面内のカスタマイズボタンを押すことによって現れる「各種設定」画面内の「効果音」のチェックをオン又はオフとすることによって効果音のオンオフが可能である。
c 画面内の位置は異なるが、両者共、当該画面を表す「PROFILE」又は「Tool」のボックスがハイライトされ、また、これ以外に、月表示画面に移動する「MONTH」又は「Monthly」ボタン、週表示画面に移動する「WEEK」又は「Weekly」ボタン及びアドレス帳画面に移動する「ADDRESS」又は「Address」ボタンを備えており、その並び順は同じである。
A 原告製品のプロフィール画面と、被告製品1のツール画面は、その他の点では相違する。
B 被告製品1のツール画面は、それだけを取り出すと、原告製品のプロフィール画面を複製又は翻案したものとはいえない。しかし、上記の共通点は、プロフィール画面とツール画面とが機能において共通することを示しており、このようなプロフィール画面ないしツール画面を最後の画面として保有する原告製品と被告製品1とは、その思想において共通するものである。
エ 原告製品と被告製品全体の比較
(ア) 原告製品全体と被告製品全体を比較した場合、両者は以下の点で一致する。
@ 起動すると、起動画面の後に週表示画面が表示される。
A 画面全体の大きさ
B 基本的な画面構成として、週表示画面、月表示画面、アドレス帳画面及びその他画面であるプロフィール画面又はツール画面を備えている。
C これらの画面は、相互に移動可能である。
D 被告製品の週表示画面及びアドレス帳画面は、それ自体で原告製品の週表示画面及びアドレス帳画面を複製又は翻案したものであり、また、月表示画面も同一である。
E 原告製品のプロフィール画面と被告製品のツール画面とは、その機能において本質的に同じものである。
(イ) これに対し、原告製品全体と被告製品全体を比較して、その相違点といえるのは、両者のプロフィール画面とツール画面の画面構成が異なること、両者で用いられている背景が異なること、以上の2点である。原告製品全体と被告製品全体との上記相違点は、ユーザーに簡易で、使い易く、見易く、かつ、より美的なレイアウトを有するスケジュール管理ソフトを提供しようとする原告の基本的な思想を表現した原告製品の基本的な内容及び形式に影響を与えるものではない。
(ウ) したがって、被告製品からは、原告製品の内容・形式が覚知できるものであり、被告製品は原告製品を複製又は翻案したものである。
オ 依拠性
 被告製品が、原告製品に依拠して制作されたことは、前記(2)【原告の主張】エ記載のとおりである。
カ 以上のとおり、被告製品は、その全体において原告製品を複製又は翻案したものであり、被告製品の週表示画面及びアドレス帳画面は、原告製品の週表示画面及びアドレス帳画面を複製又は翻案したものであるから、被告らの行為は原告の原告製品に対する著作権を侵害する。
【被告らの主張】
ア 著作物性
 原告製品が、週間スケジュール、月間スケジュール及びアドレス帳画面を含む4機能画面を選択し、これにスキン機能を付加したのは原告製品の独自的発想というものではなく、既存の紙製手帳においては当然の内容として盛り込まれた既存の一般的発想である。また、原告製品における上記各画面のレイアウトに関しても、些細なデザイン部分を除き、既存の紙製手帳をそのまま引用したものであり、画面の構成、レイアウトに特別の創意工夫が見られるわけでもない。
 したがって、原告製品は、「思想・感情の創作的表現」とはいえず、著作物性は認められない。
イ 基本的構成の同一性
(ア) 機能別画面の構成
 スケジュール管理ソフトには多様な機能別画面が考えられる。その中からいずれを選択するかはソフトによって異なる。原告主張の4画面を選択したのは、他の多くの製品においても同じことがいえるのであって、そこには原告主張のような「機能を限定して個人ユーザーの使いやすさと広告媒体としてのシンプルさを考慮した作成者の思想」は窺えない。また、原告製品のプロフィール画面と被告製品のツール画面とは厳密な意味で同一とはいえないし、原告主張の各種機能や配置は、多くのソフトに共通に見られるものであって、何ら原告製品に特徴的なものではない。
(イ) 週表示画面
 左側に1週間表示、右側に1日表示(+アイキャッチ)というレイアウトは、従来からPIMソフトでよく使用されている。原告製品では右側のアイキャッチは販売者の提供するレディメードの画像中からの選択しかないのに対して、被告製品では基本的にユーザーのオーダーメイドであり、ユーザーが家族の写真など自分で撮った写真などをここに貼り付けることを予定している。アイキャッチを除けば、週間表示と日表示を同一画面表示にするのはスケジュール管理ソフトの通例であって、極めて普遍的かつ一般的なレイアウトであり、作成者の思想・感情の創作的表現は存在しない。
(ウ) 月表示画面
 月表示画面は、通常のカレンダーの1か月表示と全く同一であるから、創作性はない。
(エ) アドレス帳画面
 アドレス帳はPIMソフトに限らず多くのデータベースにおいて使用されるものであり、基本的構成は大同小異である。原告製品は、これらの既存の多くのアドレス帳の機能やレイアウトを踏襲したにすぎない。
ウ 具体的構成の対比は、前記(2)【被告らの主張】ウのとおりである。
エ 以上によると、原告製品は著作物ではあり得ず、また、被告製品はその複製又は翻案とはいえない。
(4) 争点(4)について
【原告の主張】
 被告らが原告製品を模倣して被告製品を制作したことは明らかであり、それによって被告らは原告と競合し、原告の営業活動を妨げている。このような行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成する。
【被告らの主張】
 争う。
(5) 争点(5)について
【原告の主張】
ア 被告ビットギャングは、東洋紡株式会社に対し被告製品1を販売したことによって少なくとも100万円の利益を得ている。また、被告らが被告製品2を1本当たり4000円から6000円で予約販売したことによって、被告ビットギャングは、少なくとも150万円の利益を得ており、被告メディアプロジェクト21は、少なくとも200万円の利益を得ている。したがって、原告の被った損害額は、不正競争防止法5条1項、著作権法114条1項によって、被告ビットギャングの行為について同被告が得た利益額の合計額は250万円、被告メディアプロジェクト21の行為について同被告が得た利益額は200万円を下らない。
イ 原告は、被告らに対して警告状を送付し、被告製品の頒布の差止めを求めたが、被告らが応じなかったため、本件訴訟の提起を余儀なくされた。本件訴訟の提起に関して原告が負担する弁護士費用の額は、200万円を下らず、被告らは、それぞれその半分の100万円を負担すべきである。
ウ 以上により、原告は被告ビットギャングに対し合計350万円、同メディアプロジェクト21に対し合計300万円の損害賠償請求権を有する。
【被告らの主張】
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告メディアプロジェクト21の当事者適格について)
 原告は、被告メディアプロジェクト21が、被告ビットギャングとともに、別紙物件目録3記載の製品を販売したものとして、被告メディアプロジェクト21に対して差止め及び損害賠償の請求をしているところ、このような給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格が認められるのであって、被告メディアプロジェクト21が別紙物件目録3記載の製品を販売したかどうかは本案請求の当否にかかわる事項であると解すべきであるから、本件訴訟が訴訟要件を欠くことはない。
2 争点(3)(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物の複製又は翻案が認められるためには、原告製品の表現上の創作性を有する部分が被告製品と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならないと解される。
 弁論の全趣旨によると、原告製品は、PIMソフトといわれるものの一種であり、その基本的な機能は、個人のスケジュール管理、アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし、個人のスケジュール管理、アドレス帳、日記といったものについては、それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし、また、コンピュータの利用が行われるようになる前から、紙製の手帳、アドレス帳、日記帳といったものが存在していたのであるから、このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は、原告製品よりはるか前から既に知られていたものである。さらに、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから、これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると、原告製品の表示画面については、各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方、各表示画面の選択・配列などの点において、作成者の知的活動が介在し、作成者の個性が創作的に表現される余地があるが、作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は、上記の理由により限定されているものというべきであるから、被告製品が原告製品の複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては、以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。
(2) 原告製品と被告製品の対比
ア 原告製品と被告製品1との対比(原告製品と被告製品1の各表示画面の 内容は別紙1のとおりである。)
 証拠(甲7、10、14ないし18、甲19の1ないし3、検甲1、検乙3)と弁論の全趣旨に基づき、原告製品と被告製品1について、個々の表示画面及び画面の選択・配列を対比して、両者の間の共通点を抽出し、これらの共通点が創作性を有するものであって、被告製品1が原告製品の表現上の創作性を有する部分と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうか、すなわち、複製又は翻案であるかどうかを、以下、検討する。
(ア) 週表示画面
 原告製品及び被告製品1においては、@画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示していること、A1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されていること、B1週間の表示における日付と曜日は、略正方形状のボックス内に表示されており、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配され、このボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっていること、C1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が横長の長方形の形状とされていること、D1週間の表示の左側上下には、週を移行するための上向き、下向きのボタンがそれぞれ設けられていること、E画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があり、その上にスケジュールとダイアリーの切替えを行うボタンが設けられていて、切り替えるようになっていること、Fスケジュール/ダイアリー表示窓の右上にはインプットボタンがあり、スケジュール画面でこのボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示され、そこで入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されること、G画面の右上には、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が、1週間の表示部分と同様なボックス内に表示されており、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日は、1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること、H週移行ボタン、1週間表示の各日付ボタン、スケジュール又はダイアリーの切替えボタン、インプットボタンを押したときに効果音を発することの各点で共通する。
 しかし、証拠(乙8の1、2)と弁論の全趣旨によると、1ページの左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示し、その部分においては、日付と曜日の右横に各日のスケジュールを記載する横長の長方形の形状の枠が設けられており、1ページの右側に、更に詳細な予定等を記載する部分が設けられている手帳は、従来からよく知られていたものと認められる。そうすると、上記共通点のうち、@、A、Bのうち1週間の表示における日付と曜日は、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること、C、Eのうち画面の右側下部に特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることは、従来からよく知られているありふれた書式であるということができるから、これらの共通点があるとしても、複製又は翻案が基礎づけられるものではない。上記Bのとおり、1週間の表示における日付と曜日が、略正方形状のボックス内に表示されており、ボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっている点は共通するが、ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し、被告製品1の場合は左下が円弧状となっており、異なっている。上記Dについては、このボタンは、ソフトウェアの機能上必要なものであって、これが設けられていること自体は、複製又は翻案を基礎づけるものではないし、その位置は、共通しているが、ボタンの形状は明らかに異なっている上、原告製品の場合、上向き下向きのボタンの間に、表示している部分の西暦が数字で月が数字及び英語で表記されているのに対し、被告製品1の場合はこのような表記がない代わりに中央に「今日」に移行する正方形のボタンが配されている点で異なっている。上記Eのうち、スケジュールとダイアリーを1つの窓で切り替えるようにしていること自体は、アイディアであるし、ボタンの位置は、共通している部分があるが、ボタンの形状は明らかに異なっている。上記Fのうち、スケジュール画面でインプットボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示され、そこで入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは、共通しているが、入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは、機能上当然のことであると考えられるし、入力画面の項目やレイアウトは異なっている(甲14)上、インプットボタンの位置は、共通している部分があるが、ボタンの形状は明らかに異なっている。上記Gについては、この表示が設けられていることやスケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること自体は、アイディアである上、その位置には、共通している部分があるが、ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し、被告製品1の場合は右上が円弧状となっており、異なっている。上記Hについては、ボタンを押した際に効果音が出るようにすること自体はアイディアであるが、その音も原告製品では水の泡の音に近いのに対し、被告製品1では水の泡の音とは異なっている。
 以上に加えて、原告製品と被告製品1の週表示画面を対比すると、@原告製品の場合、「WEEK」、「MONTH」、「ADDRESS」、「PROFILE」ボタンが上部にあって、太陽の形状をしたマークで区切られているのに対し、被告製品1の「Weekly」、「Monthly」、「Address」、「Tool」ボタンは、左下部にあり、独立していること、A原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し、被告製品1は上記のとおり画面左端中央に「今日」に移行するためのボタンを備えていること、B原告製品はネット接続のための太陽の形状をした「SYNC」ボタンを、上部中央に備えているのに対し、被告製品1はネット接続のための社名を表示したリンクボタンを右下に備えていること、C被告製品1では、「pimca bar」が上部に配され、時間表示と共に直近の予定が書き込まれている場合には、それを表す文字が流れるようになっており、その左には、クリックすると、被告ビットギャングのサイトにリンクするボタンがあるが、原告製品はこれらを備えていないこと、D原告製品の場合、右下に4つのシールボタンが表示されているのに対し、被告製品1はこれを備えていないこと、E年月の表示位置が、原告製品の場合、上記のとおり左側であるのに対し、被告製品1は、月が中央上部に、西暦が左上に表示されていること、F原告製品の場合、「SCHEDULE」、「DIARY」ボタンと並んで「MESSAGE」ボタンがあるのに対し、被告製品1の場合はこれに対応するボタンがないこと、G被告製品1は、左側の1週間の表示部分に背景画像が透けて見えているのに対して、原告製品では、そのようなことはないこと、H被告製品1では、右側のスケジュール/ダイアリー表示窓の上に枠で囲まれた部分があり、そこにユーザーが画像を貼り付けるなどすることができるが、原告製品には、このような窓はないこと、以上の点で異なっている上、画像の絵(背景画面に表示されている女優等)も明らかに異なっている。
 以上によると、被告製品1の週表示画面は、原告製品の週表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
(イ) アドレス帳画面
 原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のそれを対比すると、@画面の左側半分にアドレス帳に登録された名前の一覧表が表示されていること、A画面の右側半分にアドレス帳に登録された各個人の詳細情報が表示されること、B個人の詳細情報表示部分の左下部には、新たな個人の情報を入力するためのボタンが配置されていること、C個人の詳細情報表示部分の中央下には、入力済の個人の情報を編集ないし保存するためのボタンが配置されていること、D個人の詳細情報表示部分の右下には、特定の個人の情報を削除するためのボタンが配置されていること、Eアドレス帳の情報には、名前、住所、電話番号、e−mailアドレス、誕生日、ホームページアドレス、メモ(コメント)が含まれていることが共通している。
 しかし、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、上記@、Aは、他のスケジュール管理ソフトにも見られるもので、原告製品独自のものとは認められないし、上記BないしDは、アドレス帳画面である以上、新規入力のためのボタン、編集又は保存のためのボタン、削除のためのボタンを設けること自体は、機能上必要なことである。原告製品と被告製品1では、これらのボタンの位置が共通するが、ボタンの形状は、原告製品では長方形であるのに対して、被告製品1では、左側が丸くなっており、異なっている上、原告製品の表記法は日本語であるのに対し、被告製品1のそれは英語である点が異なっている。Eもアドレス帳に一般に見られる項目であることは明らかである。かえって、被告製品1には、原告製品と異なり、振り仮名、勤務先(「Office」)に関する情報項目などがあり、また、e−mailアドレスとホームページアドレスの右横には、それに接続できる表示が設けられている。
 上記以外の相違点として、@被告製品1では、他のアドレス帳ソフトとの間で情報のやりとりをするための「Import」、「Export」ボタンがあるのに対し、原告製品はこれを備えていないこと、A被告製品1では、アドレス帳を「ア行」、「カ行」等の別に従って分類できるようになっているのに対し、原告製品はこれを備えていないこと、B被告製品1には名前の一覧表上部に「Name Table」の表示が、個人の詳細情報表示部の上部に「Input/Detail」の表示がそれぞれあるのに対し、原告製品ではそれに対応する表示がないこと、C上記(ア)@、Aのうち原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し、被告製品1はこれを備えていないこと、B及びCの各相違点があり、画像の絵(背景画面に表示されている女優等)も明らかに異なっている。
 以上により、被告製品1のアドレス帳画面は、原告製品のアドレス帳画面を複製又は翻案したものということはできない。
(ウ) 原告製品全体と被告製品1全体との対比
@ 原告製品全体と被告製品1全体とを対比すると、@原告製品の表示画面は、週表示画面、月表示画面、アドレス帳画面、プロフィール画面の4つであり、被告製品1の表示画面は、週表示画面、月表示画面、アドレス帳画面、ツール画面の4つであり、いずれも表示画面が4つであること、Aこのうち週表示画面、月表示画面、アドレス帳画面が共通すること、Bこれら画面は相互に移動可能であること、C背景画面を変更することができること、D起動すると起動画面の後に週表示画面が表示されること、E画面の大きさ、以上の点が共通する。
 しかし、上記@Aについては、証拠(乙8の1ないし5)と弁論の全趣旨によると、週表示、月表示、アドレス帳、ツールという構成は、従来の紙製の手帳にもあった構成であると認められる上、上記認定のとおり原告製品の週表示画面とアドレス帳画面は、被告製品1のそれらを複製又は翻案したものとはいえないし、下記のとおりその余の表示画面についても、被告製品1は原告製品を複製又は翻案したものとはいえない。上記Bは、この種の製品が当然有すべき機能であるし、Cについては、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、背景の画像のみの切替えは、ウィンドウズやマッキントッシュのOSにおいて見られる上、他のスケジュール管理ソフトにおいても見られるものと認められる。上記Dについても、特に原告製品に特徴的な事項とは考えられないし、上記Eについては、限られた画面の中に同じような項目を配置しようとすれば、大きさが似ることはやむを得ないものといえる。
A 月表示画面
 原告製品の月表示画面と被告製品1の月表示画面とを対比すると、@画面の中央の大部分を月のカレンダーが占めていること、A画面の中央上には当該月の表示が左に数字で、右に英語(の略語)で表示されていること、B画面の上部左右には、月を移行するための左向き、右向きのボタンがそれぞれ設けられており、月移行ボタンの中心軸が画面の中心から左寄りにずれていること、C月移行ボタンを押したときに効果音が発せられることが共通する。しかし、上記@は、カレンダーそのものであって、何ら創作的な表現ではない。上記Aについては、西暦の表記位置が大きく異なる上、月の英語表記が異なっている。上記Bについては、ソフトウェアの機能上必要なものであるし、また、その位置には、共通する点があるが、左よりにずれている度合いは異なるし、ボタンの形状は明らかに異なっている。上記Cは、それ自体としては、アイディアであるし、効果音も異なっている。そして、両者には、上記(ア)@、B及びCの各相違点、並びに原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し、被告製品1は画面上部中央に「今日」に移行するためのボタンを備えていること、及び原告製品の月表示画面の背景は二重画像となっているのに対し、被告製品1のそれは一重画像であることの各相違点がある。これらを総合すると、被告製品1の月表示画面は、原告製品の月表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
B プロフィール画面とツール画面
 原告製品のプロフィール画面と被告製品1のツール画面とを対比すると、@原告製品においては、プロフィール画面右側のフェイス選択画面で背景画面の選択が可能であり、被告製品1においては、ツール画面内のカスタマイズボタンを押すことによって背景画面の変更が可能となっていること、A原告製品においては、プロフィール画面右下部の「SOUND ON」のチェックをオン又はオフとすることによって効果音のオンオフが可能であり、被告製品1においても、ツール画面内のカスタマイズボタンを押すことによって現れる「各種設定」画面内の「効果音」のチェックをオン又はオフとすることによって効果音のオンオフが可能であることが共通する。
 しかし、原告製品のプロフィール画面は、画面左側にユーザーの詳細情報を掲載し、画面右側に背景画面の変更等を行うフェイス選択画面を掲載する形式であるのに対し、被告製品1のツール画面は、画面全体に各種の情報を検索するための12個のツールボタンがあるから、両者は異なる画面であって、その中に上記@Aのような同じ機能が含まれているからといって、被告製品1のツール画面は、原告製品のプロフィール画面を複製又は翻案したものということはできない。
C したがって、原告製品と被告製品1を全体として対比しても、被告製品1は、原告製品を複製又は翻案したものと認めることはできない。
イ 原告製品と被告製品2との対比(原告製品と被告製品2の各表示画面の内容は別紙2のとおりである。)
 証拠(乙3、乙8の1ないし5、乙9の1ないし4、乙10、検乙1、2)と弁論の全趣旨に基づき、被告製品2について検討すると、以下のとおりであるから、被告製品2も原告製品を複製又は翻案したものとは認められない。
(ア) 週表示画面
 被告製品2の週表示画面は、被告製品1の週表示画面とは、@1週間の表示を行う日と曜日が横並びになっており、その右下に、特定日のスケジュール又はメモを表示する窓部分があり、その窓部分の上にスケジュールとメモの切替えを行う、「SCHEDULE」と「MEMO」というボタンが設けられていること、A1週間の表示における日付と曜日は、横長のボックス内に表示されており、日付が大きく左に、曜日が英語の略語表記で小さく右に配され、このボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっていること、B1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が、縦長の長方形であること、C1週間の表示の上部には、週を移行するためのボタンが両端に1つずつ、中央に「今日」に移行するボタンがそれぞれ設けられており、そのボタンの形状は四つ葉のクローバー状であること、D右下には、社名を表示したリンクボタンではなく、Aのホームページにリンクしている「As’Room」が設けられていること(他の表示画面も同様である。)、E上部左端に年が、右端に月が表示されていること、Fスケジュール/メモ表示窓で表示の対象となっている日を表示するボタンがないこと、Gスケジュール/メモ表示窓の左に表示窓があり、そこにユーザーが画像を貼り付けるなどすることができること、以上のような違いがあり、このような違いがあることによって、被告製品2は、被告製品1以上に原告製品とは異なるものということができるから、被告製品2の週表示画面は、原告製品の週表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
(イ) アドレス帳画面
 被告製品2のアドレス帳画面については、上記(ア)Dの点を除いては、被告製品1について述べたところが当てはまるから、被告製品2のアドレス帳画面は、原告製品のアドレス帳画面を複製又は翻案したものということはできない。
(ウ) 月表示画面
 被告製品2の月表示画面は、被告製品1の月表示画面とは、画面の上部左右には、月を移行するためのボタンが、画面の上部中央には「今日」に移行するためのボタンがそれぞれ設けられており、そのボタンの形状は四つ葉のクローバー状であって、それらの中心軸が画面の中心から左寄りにずれていること、及び上記(ア)Dの点が異なっているが、他については、被告製品1について述べたところが当てはまるから、被告製品2の月表示画面は、原告製品の月表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
(エ) プロフィール画面とツール画面
 被告製品2のツール画面については、上記(ア)Dの点を除いては、被告製品1について述べたところが当てはまるから、被告製品2のツール画面は、原告製品のプロフィール画面を複製又は翻案したものということはできない。
(オ) 原告製品全体と被告製品2全体との対比
 原告製品全体と被告製品2全体との対比については、被告製品1について述べたところが当てはまるから、被告製品2は、その全体においても原告製品を複製又は翻案したものということはできない。
(3) よって、著作権侵害を理由とする請求は、理由がない。
3 争点(2)について
(1) 不正競争防止法2条1項3号にいう不正競争行為に当たるためには、被告製品と原告製品の形態が同一又は実質的に同一であることを要する。そして、形態が同一又は実質的に同一であるかどうかを判断するに当たっては、当該商品と同種の商品が通常有する形態を除外した上、製品全体を比較して判断すべきであるということができる。
(2) 前記2で検討したところによると、次のようにいうことができる。
ア 原告製品と被告製品1の対比
(ア) 週表示画面
 原告製品の週表示画面と被告製品1の週表示画面とでは、@画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示していること、A1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されていること、B1週間の表示における日付と曜日は、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること、C1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が横長の長方形の形状とされていること、D画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることが共通するが、これらは、いずれも、手帳の形式として、従来からよく知られていたものであるから、原被告製品と同種の商品が通常有する形態であると認められる。そして、その他の点については、前記2で認定したとおり、原告製品と被告製品1の週表示画面には、違いがある。したがって、原告製品の週表示画面と被告製品1の週表示画面の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
(イ) アドレス帳画面
 原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のアドレス帳画面とでは、@画面の左側半分にアドレス帳に登録された名前の一覧表が表示されていること、A画面の右側半分にアドレス帳に登録された各個人の詳細情報が表示されることが共通するほか、アドレスの項目にも共通するものがあるが、これらは、いずれも、他のスケジュール管理ソフトにも見られるものであるから、原被告製品と同種の商品が通常有する形態であると認められる。そして、その他の点については、前記2で認定したとおり、原告製品と被告製品1のアドレス帳画面には、違いがある。したがって、原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のアドレス帳画面の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
(ウ) 月表示画面
 原告製品の月表示画面と被告製品1の月表示画面とを対比すると、画面の中央の大部分を月のカレンダーが占めていることが共通するが、これは、スケジュール管理ソフトとしては当然のことであって、原被告製品と同種の商品が通常有する形態であると認められる。そして、その他の点については、前記2で認定したとおり、原告製品と被告製品1の月表示帳画面には、違いがある。したがって、原告製品の月表示画面と被告製品1の月表示画面の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
(エ) プロフィール画面とツール画面
 前記2で述べたところからすると、原告製品のプロフィール画面と被告製品1のツール画面の形態が同一又は実質的に同一であるということができないことは明らかである。
(オ) 原告製品全体と被告製品1全体との対比
 上記(ア)ないし(エ)のとおり、個々の画面の形態が同一又は実質的に同一であるということができない以上、原告製品全体と被告製品1全体の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
イ 原告製品と被告製品2の対比
(ア) 週表示画面
 上記ア(ア)で認定した原告製品と被告製品1の共通点は、原告製品と被告製品2では存しないから、被告製品2の週表示画面の形態は、被告製品1以上に、原告製品の週表示画面の形態とは同一又は実質的に同一であるということはできない。
(イ) その他の画面
 上記ア(イ)ないし(エ)で認定したところがそのまま当てはまる。
(ウ) 原告製品全体と被告製品2全体との対比
 上記(ア)(イ)のとおり、個々の画面の形態が同一又は実質的に同一であるということができない以上、原告製品全体と被告製品2全体の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
(3) よって、不正競争防止法に基づく請求は、理由がない。
4 争点(4)について
 原告は、仮に被告製品の制作・販売が原告の原告製品に対する著作権の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても、被告の行為は民法上の一般不法行為(同法709条)に該当すると主張する。
 しかしながら、市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと、著作権侵害行為や不正競争行為に該当しない行為については、当該行為が、ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなどというような特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。したがって、このような特段の事情の認められない本件において、原告の一般不法行為の主張は、理由がない。
5 以上により、原告の請求はいずれも理由がない。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸


(別紙)物件目録1
 「pimca」の名称を有するソフトウェアを収納したCD−ROM、フロッピーディスクその他パーソナルコンピュータ用の外部記録媒体
(別紙)物件目録2
 「pimca」の名称を有し、パーソナルコンピュータ上で動作可能なスケジュール管理用ソフトウェア
(別紙)物件目録3
 「A2002−2003 DIGITAL SCHEDULER」の名称を有するスケジュール管理ソフトウェアを収納したCD−ROM
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