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【事件名】ゲームソフト製作の二重契約事件
【年月日】平成14年7月25日
 東京地裁 平成11年(ワ)第18934号 損害賠償請求事件(甲事件)
 /平成12年(ワ)第10758号 損害賠償請求事件(乙事件)
 (口頭弁論終結の日 平成14年4月16日)

判決
甲事件原告 株式会社プリズム
訴訟代理人弁護士 渡邉眞一
甲事件被告・乙事件原告 サン電子株式会社
訴訟代理人弁護士 山田裕祥
甲事件被告・乙事件被告 株式会社ジー・エー・エム


主文
1 甲事件被告サン電子株式会社は、同事件原告株式会社プリズムに対し、665万2500円及びこれに対する平成11年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 甲事件被告株式会社ジー・エー・エムは、同事件原告株式会社プリズムに対し、665万2500円及びこれに対する平成11年9月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 甲事件原告株式会社プリズムの同事件被告サン電子株式会社に対するその余の請求を棄却する。
4 甲事件原告株式会社プリズムの同事件被告株式会社ジー・エー・エムに対するその余の請求を棄却する。
5 乙事件被告株式会社ジー・エー・エムは、同事件原告サン電子株式会社に対し、1500万円及びこれに対する平成12年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、甲事件についてはこれを5分し、その1を同事件原告株式会社プリズムの、その2を同事件被告サン電子株式会社の、その余を同事件被告株式会社ジー・エー・エムの負担とし、乙事件については同事件被告株式会社ジー・エー・エムの負担とする。
7 この判決は、第1項、第2項及び第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 各事件における原告の請求
(甲事件)
1 被告サン電子株式会社は、原告に対し、1148万5700円及びこれに対する平成11年9月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ジー・エー・エムは、原告に対し、901万700円及びこれに対する平成11年9月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言
(乙事件)
1 被告は、原告に対し、1500万円及びこれに対する平成12年6月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 紛争の背景
 本件は、甲事件被告(乙事件被告)株式会社ジー・エー・エム(以下「ジー・エー・エム」という。)が、甲事件被告(乙事件原告)サン電子株式会社(以下「サン電子」という。)との間でゲームソフト「必殺パチンココンストラクション(仮称)」のプログラムの制作委託を、他方、甲事件原告株式会社プリズム(以下「プリズム」という。)との間でゲームソフト「実践パチンココンストラクション」のプログラムの制作委託をそれぞれ受けて、同時期に、同種のゲームソフトの委託制作契約をいわば二重に締結したことに端を発する紛争である。
 プリズムは、ジー・エー・エムから上記プログラムの納入を受け、同プログラムに基づくゲームソフトを製造し、自らが発売元、訴外東芝イーエムアイ株式会社(以下「東芝イーエムアイ」という。)が販売元となって、同ソフトを販売することを予定していた。ところが、サン電子は、ジー・エー・エムがプリズムともプログラム委託制作契約を締結した事実を知って、東芝イーエムアイに対し、東芝イーエムアイが販売を予定している上記ソフトはサン電子が有する知的財産権を侵害すると思われる旨文書(乙6)で通知した(以下、同文書を「本件通知書」といい、同文書に基づくこの通知を「本件通知」という。)。すると、販売に関する実質的な決定権を有する東芝イーエムアイは、同ソフトの販売を中止した。
2 訴えの要旨
(甲事件)
 前記1記載の基本的な事実関係を前提に、プリズムは、サン電子に対し、本件通知をした行為は不正競争防止法上の不正競争行為ないし一般不法行為に該当すると主張して、販売中止により被った損害の賠償を求めている。また、ジー・エー・エムに対しては、ジー・エー・エムは、プリズムに提供する資料に関し、第三者から著作権侵害等の異議が出ないこと等を保証する契約上の義務を負っているところ、これに違反したなどと主張して、債務不履行を理由に販売中止により被った損害の賠償を求めている。
 プリズムの上記訴えに対し、サン電子は、本件通知をした行為は、権利侵害の疑いのあることをプリズムに知らせ、紛争を穏当に解決するための正当な行為であり、何ら違法性は認められないとして、不正競争行為及び不法行為の成立を否認している。また、ジー・エー・エムは、実践パチンココンストラクションは必殺パチンココンストラクションに関するサン電子の著作権等を侵害するものではないから、本件通知は、サン電子の誤った判断に基づくものにすぎず、ジー・エー・エムには何の責任もないとして、契約上の義務違反の事実を否認している。
(乙事件)
 他方、サン電子は、ジー・エー・エムに対し、ジー・エー・エムは、結局、制作を委託したソフトの完成バージョンを納入していないから、これは債務不履行にあたると主張して、ジー・エー・エムに支払った金銭及び契約を履行した場合の得べかりし利益等を損害として、その賠償を求めている。
 これに対し、ジー・エー・エムは、サン電子がジー・エー・エムに事実関係を確認することなく、著作権侵害等の事実があると一方的に判断し、東芝イーエムアイに本件通知書を送付したことにより、本件紛争が生じたのであり、このような事実関係の下では契約関係を継続しがたいとして、信頼関係破壊ないし事情変更による契約の解除を主張している。
3 前提となる事実関係(以下の各事実は、当事者間で争いがないか、あるいは、該当箇所に掲げた各書証のほか、プリズム代表者A及びジー・エー・エム代表者Bの各尋問の結果、証人C、同D及び同Eの各証言並びに弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
ア プリズムは、マルチメディアソフトの企画制作、販売、コンピューターネットワークシステムの企画、開発等を目的とする会社であり、専らコンピューターゲームソフトの制作・販売を業としている。
イ サン電子は、電子機器・部品の開発製造及び販売等を目的とする会社であり、コンピューターゲームソフトの制作・販売を業としている。したがって、プリズムとサン電子とは、不正競争防止法2条1項14号にいう「競争関係」にある。
 サン電子は、平成6年ころから、画面上でパチンコプレイをして遊ぶゲームソフトを開発・販売しており、訴外Fからパチンコ台「CRモンスターハウス」のデザイン等をゲームソフト上で使用することの許諾を受け、平成9年4月ころからは、実際のパチンコ台(実機)の上記「CRモンスターハウス」と同様の遊び方をするWindows95対応ゲームソフト「必殺パチンココレクション2」を、平成10年4月ころからは、上記同様のゲームソフト「必殺パチンココレクション3」を製造・販売していた。
ウ ジー・エー・エムは、コンピューターの販売、賃貸及びソフト開発制作等を目的とする会社であり、コンピューターゲームソフトプログラムの委託制作・販売を業としている。
 ジー・エー・エムは、昭和60年(1985年)ころ、ユーザーが画面上の好きなところに釘等を配置して、自分でパチンコ台を自由に構成した上で実際のパチンコ台(実機)と同様に遊べるPC9800(NEC)対応ゲームソフト「パチンココンストラクション」を開発し、訴外株式会社ポニーキャニオンがこれを販売した。
(2) 必殺パチンココンストラクションの企画・開発
 サン電子は、前記のとおり、かねてから、実機同様の遊び方をするゲームソフト「必殺パチンココレクション」シリーズを製造・販売していたが、ユーザーが好きなところに釘やチューリップ等を配置し、自分でパチンコ台を自由に構成した上で実際のパチンコ台(実機)と同様に遊べるWindows95対応ゲームソフト(仮称「必殺パチンココンストラクション」。以下、単に「必殺パチンココンストラクション」という。)の開発を企画するに至り、平成9年3月ころ、サン電子社員のE(以下「E」という。)、G(以下「G」という。)及びHの3名を担当にして具体的な開発に着手した。
 サン電子は、上記ソフトの開発委託先としてジー・エー・エムを選び、平成9年5月6日、ジー・エー・エムとの間に機密保持契約(乙1)を結んだ上で、同年7月28日、必殺パチンココレクション2のソース・プログラムを開示した。
(3) 本件契約@の締結
 サン電子は、平成9年9月18日、必殺パチンココンストラクションのプログラム制作を、納入期限を平成10年2月27日としてジー・エー・エムに委託し、サン電子がその対価を支払う旨の契約(以下「本件契約@」といい、上記プログラムを以下「プログラム@」という。)を締結した。
 なお、同日付け契約書(乙2)の第2条には、以下のとおりの記載がある(契約書の文言中、「甲」はサン電子を、「乙」はジー・エー・エムをそれぞれ指す。)。
 「1 乙は、本商品の全部又は、一部をいかなる理由にせよ、第三者に使用を付与し、又は、自らその使用権を行使してはならない。
 2 本商品の本委託業務から生じる全ての著作権は甲が有する。
 3 本商品の販売権、製造権、工業所有権及びその他の諸権利は甲が有する。」
(4) 本件契約@締結後の経緯
ア 平成9年10月、ジー・エー・エムは、サン電子に、週間作業報告書、年間スケジュール表、デモンストレーションプログラム及び概要フローチャートを提出し、同月31日、サン電子は、ジー・エー・エムに200万円を支払った。
イ 平成10年2月28日、サン電子は、ジー・エー・エムに100万円を支払った。
ウ 同年3月10日、サン電子とジー・エー・エムは、プログラム@がWindows98でも作動することを内容とする追加業務委託契約を結んだ。同契約においては、ジー・エー・エムが納入すべきプログラム@の最終納期は同年5月末日とされ、それ以外は本件契約@に従うとされている(乙3)。
エ 前同月16日、サン電子は、上記追加業務に関する費用を承認し、ジー・エー・エムに290万円を支払った。
(5) プログラム@の未納入
 平成10年7月9日に至っても、プログラム@の完成バージョンが納入されなかったので、サン電子は、同日、ジー・エー・エムとの間で、同年10月9日までに必ず納入する旨の覚書(乙4)を交わした。
 しかし、現在に至るまで、上記完成バージョンの引渡しはされていない。
(6) 本件契約Aの締結
 他方、プリズムも、必殺パチンココンストラクションと同様、ユーザーが画面上の好きなところに釘やチューリップ等を配置し、自分でパチンコ台を自由に構成した上で実際のパチンコ(実機)と同様に遊べるゲームソフトの開発・製造を企画していた。同ソフトが商品化された場合には、全国的な販売網を持つ東芝イーエムアイを販売元として販売することになっており、プリズムは、この件に関する東芝イーエムアイの担当者であるC(以下「C」という。)及びその部下のD(以下「D」という。)と連絡を取りつつ、上記企画の実現を進めていた。
 プリズムは、上記ソフトのプログラムの制作委託先としてジー・エー・エムを選び、平成10年7月20日、ジー・エー・エムとの間で、以下のとおりの内容の契約(以下「本件契約A」という。)を締結した。
ア ジー・エー・エムは、プリズムの委託に基づき、プリズムが製造・販売する予定のWindows95,98対応ゲームソフトウェア「実践パチンココンストラクション」に係るプログラムマスター(以下「プログラムA」という。)を制作し、プリズムはその対価を支払う。
イ ジー・エー・エムが制作したプログラムAに関する所有権及び著作権上の一切の権利はプリズムに帰属する。
ウ プリズムは、ジー・エー・エムが制作したプログラムAを、前記「実践パチンココンストラクション」としてはもちろん、その他将来開発される一切のコンピューターハードウェア機種対応のソフトウェアとして複製し、地域・期間等に何らの制限なく頒布することができるものとする。また、通信回線等による販売等、使用方法に何らの制限なく自由に利用できるものとする。
エ プログラムAの制作費は450万円とし、プリズムは、ジー・エー・エムに対し、これを次のとおり分割して支払う。
 平成10年8月10日 225万円
 同年11月末日(製品納入後) 225万円
オ プリズムは、ジー・エー・エムに対し、印税支払対象数各2501枚目よりソフトウェア1個につき750円を支払う。
カ ジー・エー・エムは、プログラムマスター制作に関与した者に対する権利処理を自己の名義と責任において行うものとし、万一当該者から何らかの異議申立てがなされた場合は、ジー・エー・エムの責任と負担において解決し、プリズムに一切迷惑をかけないものとする。
キ ジー・エー・エムは、プリズムがプログラムAをソフトウェアとして複製し、頒布に利用するについて十分な資料を提供するものとする。その提供した資料のうち、著作権者などの権利者が存するものに関しては、その利用について当該権利者の許諾をジー・エー・エムが得ていること、従ってプリズムがこれを利用するについていかなる第三者からも何ら異議がなされないことをプリズムに保証する。
ク ジー・エー・エムは、プログラムAを平成10年10月15日までにプリズムに納入する。
ケ プリズム及びジー・エー・エムは、契約期間中及び契約終了後を通じて、本契約及び付随する覚書の内容等、並びに、本契約締結により知り得た相手方の業務上の秘密を第三者に漏洩してはならない。
(7) 本件契約A締結後の経緯
ア プリズムは、平成10年7月31日、ジー・エー・エムが制作するプログラムA使用に係る、実践パチンココンストラクションCD−ROM作品のパソコンソフトウェア・リテイルパッケージ版(以下「プリズム製品」という。)の販売に関し、訴外スタジオぴえろ(以下「スタジオぴえろ」という。)との間で、以下のとおりの内容の契約を締結した。
(ア) プリズムは、スタジオぴえろに対し、プリズム製品を日本国内において独占的に発売する権利を許諾する。
(イ) プリズムは、スタジオぴえろがプリズム製品の前記独占販売権を東芝イーエムアイに与えることを許諾する。
(ウ) プリズムは、スタジオぴえろに対し、プリズム製品を日本国内において独占的に製造・販売する権利を適法に取得していることを保証する。
(エ) プリズム製品に関して第三者との間で著作権等知的財産権に関する紛争が生じたときは、プリズムの責任と負担において解決するものとし、スタジオぴえろ及び東芝イーエムアイに損害又は負担を及ぼさないようにする。
(オ) スタジオぴえろは、プリズムに対し、前記許諾対価及び制作費用として、550万円を次のとおり分割して支払う。
 平成10年7月31日 275万円
 プリズム製品受領後30日以内 275万円
(カ) プリズム及びスタジオぴえろは、プリズム製品の販売量が2500本を超えた場合、超過分につき次のとおりロイヤリティ対価を分配する。
 プリズム 一本当たり1600円
 スタジオぴえろ 一本当たり850円
(キ) 本契約の有効期間は、契約締結の日から2年間とする。
イ プリズムは、平成10年8月10日、本件契約Aに基づき、ジー・エー・エムに対して225万円を支払った。
ウ スタジオぴえろは、前記プリズムとの契約(上記ア(イ)参照)を受けて、平成10年9月1日、東芝イーエムアイに対し、プリズム製品の国内独占頒布権を与える旨の契約を締結した。
エ 平成11年1月22日、ジー・エー・エムはプリズムに本件プログラムAの完成版を納入し、同月25日には、プリズムが東芝イーエムアイにプリズム製品1300個を納入した。
 東芝イーエムアイは、プリズム製品を平成11年2月24日に発売開始することを決定し、そのことを業界紙の広告等により公表していた。
(8) 本件契約A締結の事実の発覚
 サン電子は、平成11年1月11日ころ、ジー・エー・エムから、必殺パチンココンストラクションのαバージョン(完成版ではないが、ゲーム全体のシステムが作成され、パチンコ台2機種が暫定的に作動する仕様のもの。乙2参照。)の納入を受けた。
 ところが、その直後の同月13日ころ、ジー・エー・エムの専務取締役であるIから、ジー・エー・エムが必殺パチンココンストラクションと同種のゲームソフトの制作委託契約を締結していること、及び、このゲームソフトは近日中に東芝イーエムアイを通じて発売される予定であることを聞いた。また、同人から上記ソフト使用に係るプリズム製品(「実践パチンココンストラクション」)を受け取った。
(9) サン電子の商標及び特許出願等
 サン電子は、平成11年1月14日、片仮名からなる標章「パチンコ コンストラクション」を商標として出願し、同月29日には、プログラム@に関する特許(発明の名称「パチンコ機シュミレータ」)を出願した(なお、上記商標は、本訴提起後の平成12年6月2日に登録され、上記特許は、同年8月8日に公開された。)。
 その一方で、サン電子は、実践パチンココンストラクションと必殺パチンココンストラクションαバージョンを比較・分析した。その結果、パチンコ台の画面(グラフィックデータ)及びゲームの流れを示すフローチャート、画面構成、機能ボタン位置等が類似するものと判断し、上記αバージョンが実践パチンココンストラクションに流用されていると判断するに至った。
(10) 本件通知書の発送
 サン電子は、東芝イーエムアイに対し、平成11年2月16日付けで、本件通知書(本判決末尾添付の「著作権、商標、特許侵害について」と題する書面。乙6)を送付した(同書面において「ジー・エー・エム」と表示されているのは、ジー・エー・エムを指す。)。同書面においては、「貴社が…ジー・エー・エムに開発委託をされて…実践パチンココンストラクション…と呼ばれる商品を発売されると聞き及んでおります。」との前置きに続き、「ところが、当社がジー・エー・エムに開発業務委託契約…に基づく『必殺パチンココンストラクション』と御社の商品が酷似しております。また商品のアイデア、ノウハウは当社からジー・エー・エムに提供をしており、契約項目にも商品に関するすべての著作権、知的所有権は当社に属する物と定められております。なお、本商品に関する基本的コンセプトは特許出願されており、『パチンココンストラクション』についても商標登録しております。」、「従って、貴社が右商品の販売を行うと、著作権並びに知的所有権侵害に当たると思われます。または右商品の商品名を変更せずに販売した場合は加えて類似商標の使用となります。その為、即刻商品発売の停止並びに右商品の発売に至るまでの経緯説明をご回答下さい。」との各記載があり、その上で、「当然、貴社は当社とジー・エー・エムとの契約を存じなかったと推察し、穏便に問題の解決を図りたいと考えており、貴社に損害を与えるのは本意ではありませんので至急御回答下さい。御回答いただけない場合には法的措置を執ることになるのでご承知下さい。」と結ばれている。
 また、サン電子は、ジー・エー・エムに対し、同月16日付け「契約違反について」と題する書面(乙5)をもって、調査の結果、東芝イーエムアイが販売しようとしている実践パチンココンストラクションにおいては、必殺パチンココンストラクションと同じソースプログラム及びグラフィックデータが使われており、これは本件契約@に違反するといわざるを得ないので、速やかに東芝イーエムアイに対する成果物提供を中止することなどを求める旨通知した。
 さらに、サン電子は、プリズム及びスタジオぴえろに対しても、いずれも同月18日付けの文書をもって、プリズム製品の販売はサン電子の知的財産権を侵害する旨それぞれ通知した(乙7及び乙8)。
(11) プリズム製品の発売中止
 東芝イーエムアイの担当者である前記Cは、本件通知を受けて、平成11年2月17日の夜、プリズム代表者A(以下「A」という。)、ジー・エー・エム代表者B(以下「B」という。)及び訴外スタジオぴえろ代表者J(以下「J」という。)を呼び集め、事情を聴取した。その席上、Cは、Bに対し、販売を間近に控えたプリズム製品(「実践パチンココンストラクション」)は、サン電子から著作権侵害を主張される理由のないオリジナルなものであると自信を持っていえるかと尋ねたが、Bは、本件契約Aに関するプリズムからの残り半金(225万円)の支払がない旨不満を述べるばかりで、Cの問いに対しては、明確な答えをしなかった。
 Cは、サン電子からの本件通知の撤回がない限り、東芝イーエムアイとしては、プリズム製品を予定どおり販売するのは難しいと考え、また、発売予定日(同月24日)が迫っていることもあって、結局、翌日18日の午前中に同製品の発売中止を決断した。
(12) 発売中止直後の経緯
 同月24日、C、D、A及びJの4人がサン電子を訪れた。Cらは、具体的な判断材料は乏しいながらも、Bの弁明がはっきりしないことなどから、本件通知のとおり、プリズム製品の製造・販売がサン電子の保有する知的財産権に抵触する可能性が高いと考えており、半ば謝罪するつもりでの訪問であった。
 サン電子においては、E、Gらが対応し、Cらに対し、実践パチンココンストラクション及び必殺パチンココンストラクションα版の各画面を実際に見せるなどした。この時、Cは、表示された両者の画面(グラフィック)が似ているとの印象を持ったが、既にプリズム製品の販売中止が決まった後のことでもあり、権利の抵触に関してそれ以上のやり取りをすることはなかった。
 一方、Aは、サン電子は具体的にどのような権利を持っているのか、それを証する書面等は存在するのか疑問に思っていたが、この席上、サン電子側から、その点に関する説明は特になかった。
 なお、すでに東芝イーエムアイに納入されていた1300個のプリズム製品(前記(7)エ)については、すでに発売年月日及び販売元名(東芝イーエムアイ)が刻印されており、商品価値が失われていたので、同月27日、東芝イーエムアイにおいて廃棄処分された。
(13) 本件訴訟に至る経緯
ア サン電子は、ジー・エー・エムに対し、平成11年2月24日付け文書(乙9)をもって、「実践パチンココンストラクション」が本件契約@に違反して制作されたものであることは明らかであるとして、第三者への成果物提供を直ちに中止することなどを再度求めた。
 これに対し、ジー・エー・エムは、平成11年3月2日付け文書(丙1)をもって、本件通知に起因する実践パチンココンストラクションの発売中止という問題が解決しなければ、必殺パチンココンストラクションの開発を継続することは難しいので、業務を一時停止するとともに、短期間に解決しない場合には契約を解除する旨回答した。
イ サン電子は、ジー・エー・エムに対し、平成11年3月30日付け文書(乙10)をもって、ジー・エー・エムから必殺パチンココンストラクション開発のため貸し出した資料の返却を受けたが、真意を図りかねるので、明確な説明をするよう求めるとともに、必殺パチンココンストラクション開発の進行状況を連絡するよう求めた。
 これに対し、ジー・エー・エムは、同年4月7日付け文書(丙9)をもって、すでに契約を解除したのでサン電子から提供された資料をすべて返却した旨、及び、その時点での「必殺パチンココンストラクション」の最終バージョンを既にサン電子宛てに送付した旨回答した。さらに、同年4月28日付け内容証明郵便(丙8)をもって、「実践パチンココンストラクション」の発売中止に関する最終的な話合いは不調に終わっているので、前記同年3月2日付け文書(丙1)に記載したとおり、業務を一時停止したこと、上記発売中止はサン電子の本件通知に起因することなので、ジー・エー・エムとしては、これまでに受領した金員を返還する意思はないことなどを通知した。
ウ 他方、プリズムは、サン電子に対し、平成11年3月15日付け文書をもって、プリズム製品が必殺パチコンココンストラクションに関するサン電子のどのような権利を侵害しているというのか、具体的に回答して欲しい旨通告した。さらに、プリズムは、サン電子に対し、平成11年4月28日付け内容証明郵便(甲3の1、2)をもって、本件通知に起因してプリズム製品の販売が中止されたことによる損害金合計932万9800円の支払を求めた。
 これに対し、サン電子は、同年5月11日付け文書(乙12)をもって、上記プリズムの請求は到底了承できるものではなく、サン電子としては、ジー・エー・エムに請求すべき筋合いのものと考える旨文書で回答した。
エ プリズムは、平成11年8月26日、サン電子及びジー・エー・エムを被告として、標記甲事件の訴えを提起した。
 一方、サン電子は、平成12年5月29日、ジー・エー・エムを被告として、標記乙事件の訴えを提起した。
4 争点
(甲事件)
(1) サン電子が本件通知をした行為が、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」(不正競争防止法2条1項14号)に該当するか(争点(1))。
(2) 不正競争行為に該当すると認められる場合、サン電子がプリズムに賠償すべき損害額はいくらか(争点(2))。
(3) ジー・エー・エムが本件契約Aに違反した事実が認められるか(争点(3))。
(4) 上記契約違反の事実が認められる場合、ジー・エー・エムがプリズムに賠償すべき損害額はいくらか(争点(4))。
(乙事件)
(5) サン電子は、ジー・エー・エムに対して、債務不履行を根拠に損害賠償を請求しているところ、現在に至るまでプログラム@が納入されておらず(前項3(5))、ジー・エー・エムが、本件契約@から発生した契約上の義務を履行していないことについては、当事者間に争いがない。
 しかるに、ジー・エー・エムは、信頼関係破壊又は事情変更による本件契約@の解除を主張している。
 ジー・エー・エムによる上記契約解除の抗弁の主張に理由があるか(争点(5))。
(6) 上記契約解除の抗弁に理由がない場合、ジー・エー・エムがサン電子に賠償すべき損害額はいくらか(争点(6))。
第3 当事者の主張
1 争点(1)(サン電子が本件通知をした行為が、不正競争防止法2条1項14号所定の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当するか。)について
(プリズムの主張)
ア 本件通知書(乙6)には、「当社がジー・エー・エムに開発委託業務契約(平成9年9月18日)に基づく『必殺パチンココンストラクション』と御社の商品が酷似しております。また商品のアイデア、ノウハウは当社からジー・エー・エムに提供をしており、契約項目にも商品に関する全ての著作権、知的所有権は当社に属する物と定められております。なお、本商品に関する基本的コンセプトは特許出願されており、『パチンココンストラクション』についても商標登録しております。」、「従って、貴社が右商品(裁判所注:実践パチンココンストラクションを指す。)の販売を行うと、著作権並びに知的所有権侵害に当たると思われます。または右商品の商品名を変更せずに販売した場合は加えて類似商標の使用となります。」と記載されている。
イ 上記著作権侵害の点につき、サン電子は、パチンコ台の枠、パーツ(役物)のデザイン、ボタン(機能箇所)の位置、効果音、フローチャート等が同一ないし類似であると主張するとともに、実践パチンココンストラクションの画像を含む盤面全体につき、サン電子が訴外Fから使用対価を支払って提供を受け、必殺パチンココンストラクションに用いている前記「CRモンスターハウス」(第2の3(1)イ)のグラフィックデータが流用されている旨主張する。
 しかし、一般にパチンコ盤面はどれも同じようなものであり、サン電子が主張するパチンコ台の枠、パーツ(役物)のデザイン、ボタン(機能箇所)の位置等は、ある程度同じ様相を呈するものであるから、これをもって、思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術の範囲に属する著作物であるとはいえない。また、効果音はプリズムがジー・エー・エムに支給したものであるから著作権侵害は問題とならず、フローチャートにも類似性があるとは認められない。
 以上によれば、プリズム製品(実践パチンココンストラクション)がサン電子の有する何らかの著作権を侵害するとは認められないから、本件通知書の上記記載のうち、「貴社が右商品の販売を行うと、著作権…侵害に当たると思われます。」との部分は、虚偽の記載である。
ウ また、サン電子が「パチンココンストラクション」の商標登録出願をしたのが平成11年1月14日であり、「パチンコ機シュミレーター」の特許出願をしたのが同月29日であるから(前記第2の3(9))、本件通知がなされた平成11年2月16日の時点においては、商標も特許も出願中にすぎず、権利侵害の問題は起こりようがなかった。
 しかるに、サン電子は、本件通知書に、「『パチンココンストラクション』についても商標登録しております。」と記載しているのだから、少なくとも、上記記載が虚偽であることは明らかである。
エ そして、これら虚偽の記載をしたことにつき、サン電子に故意又は過失が存したことも明らかであるから、サン電子が、競争関係にあるプリズムの取引先である東芝イーエムアイに対し、このような虚偽記載を含む本件通知をした行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の「営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」又は一般不法行為に該当する。
(サン電子の主張)
ア サン電子が本件契約A締結の事実を知り、その時点で納入されていた必殺パチンココンストラクションα版と、発売直前の実践パチンココンストラクションとを比較・分析してみると(前記第2の3(8)、(9))、画面上に表示されるパチンコ台はサン電子が供給したCRモンスターハウスそのものであり、画面構成、機能箇所(ボタン)、効果音が全く同じであった。また、パチンコのパーツ(役物)のデザインや実行ファイル名にも同じものがあった。
 したがって、実践パチンココンストラクションの製造・販売は、必殺パチンココンストラクションα版に関してサン電子が有する著作権を侵害するものというべきである。
イ 仮に著作権侵害の事実が認められないとしても、上記のような状況において、サン電子が同事実があると考えたことは、しごく当然のことであり、同事実の不存在を認識していたとか、あるいは認識しなかったことにつき過失があるとは到底いえない。
 サン電子は、サン電子が作成したフローチャート(乙18参照)及びサン電子が著作権を有する必殺パチンココレクション2のソースプログラムを供給した上で、様々な打ち合わせをしながら、ジー・エー・エムと共同で必殺パチンココンストラクションの開発を行ってきた。したがって、この共同開発による著作権がサン電子に帰属すると考えたのは無理からぬことである。また、サン電子は、訴外Fのパチンコ台(実機)「CRモンスターハウス」のデザイン使用権を有しており、このデザインのグラフィックデータをジー・エー・エムに供給して、画面を作らせたのだから、必殺パチンココンストラクションの画面の著作権がサン電子に帰属すると考えたのも、無理からぬことである。
 以上からすれば、サン電子が本件通知をした行為は、損害賠償の対象になるような故意・過失を伴う不正競争行為ではないし、一般不法行為にも該当しない。
ウ なお、本件通知書の記載のうち、「『パチンココンストラクション』についても商標登録しております。」との部分は、確かに客観的事実と異なっており、正確には「商標登録申請しております。」とすべきだったのであるが、そのすぐ前に「特許出願されており」と書かれており、全体の流れから見れば、商標登録申請のことであると容易に推測がつく。したがって、損害賠償の対象となるような故意・過失を伴う虚偽通告であるとは到底いえない。
 また、「貴社が右商品(実践パチンココンストラクション)の販売を行うと、著作権並びに知的所有権侵害に当たると思われます。または右商品の商品名を変更せずに販売した場合は加えて類似商標の使用となります。」との部分は、法律判断を示したものであり、虚偽事実の通告ではない。
エ サン電子が本件通知書を送付したのは、東芝イーエムアイが事情を知らずにサン電子の権利を侵害するのを未然に防止するためであり、正当な権利行使というべきものである。本件通知書全体を見ればわかるとおり、その趣旨は、事実調査を求めて問題提起するとともに、穏便な話合いを申し入れることにあった。サン電子は、東芝イーエムアイが一通の文書を受け取っただけで発売を中止するとは、全く予想していなかった。しかるに、東芝イーエムアイは、実践パチンココンストラクションは必殺パチンココンストラクションに関するサン電子の権利を侵害する可能性が高く、ジー・エー・エムの二重契約は商道徳にもとる行為であると正当かつ常識的な判断をし、自主的に販売を中止したのである。
 しかし、その責任がサン電子にあるものではない。自己の権利が侵害されるかも知れない時に、その事実調査や話合いの申し入れをするのは、現実の世の中で日常的に行われていることである。このようなことすら行ってはならないというのであれば、裁判で結論が出るまでは、何も述べてはならないことになってしまう。すべての責任は、背信的な二重契約を締結したジー・エー・エムにある。サン電子は、プリズムと同様、ジー・エー・エムの債務不履行及び不法行為の被害者であって、加害者ではない。
2 争点(2)(仮に不正競争行為にあたると認められる場合、サン電子がプリズムに賠償すべき損害額はいくらか。)について
(プリズムの主張)
 サン電子の前記不正競争行為により、東芝イーエムアイはプリズム製品の発売を中止せざるを得なくなった。そのことにより、プリズムは、下記のとおり、合計1148万5700円の損害を被った。
 なお、東芝イーエムアイはスタジオぴえろと、スタジオぴえろはプリズムと、それぞれ前記のとおりの各契約を締結しているところ(第2の3(7)ア、ウ)、プリズム製品の発売中止により、スタジオぴえろは東芝イーエムアイから、プリズムはスタジオぴえろから、それぞれ損害額を負担することを求められる立場にあり、現に、プリズムは発売中止に起因して発生した経費をすべて支払っている。したがって、これらすべてがプリズムの損害である。
@ プログラム制作費 472万5000円
 プリズムは、本件契約Aに基づき、ジー・エー・エムに472万5000円を支払うことになっており、すでに225万円を支払っているが、ジー・エー・エムに契約違反がないとすれば(すなわち、サン電子が主張するような著作権侵害等の事実がないとすれば)、未払金をも支払わなければならない。したがって、472万5000円全額がプリズムの損害になる(甲11の1〜3、甲4の1〜3)。
A アニメ制作費 157万5000円
 プリズムは、訴外有限会社スタジオフォーマからプリズム製品の絵及び音源の制作費を請求されており(甲5)、これを支払わなければならないので、これがプリズムの損害となる。
B パッケージ及びプレス製造費 101万1600円
 商品製造原価がプリズム製品1枚につき402円かかるところ、2300枚プレスしているので、その金額92万4600円とマスター代8万7000円の合計101万1600円がプリズムの損害となる。
C プロモーション宣伝費 85万円
 本来原告の従業員であった前記Dが東芝イーエムアイに出向し、プリズム製品の制作管理をしていたので、東芝イーエムアイからプリズムに対して85万円が支払われることになっていた。ところが、発売中止により支払われなくなったため、これがそのままプリズムの損害になる。
D パッケージデザイン費用 71万1900円
 プリズムは、商品のパチンココンストラクションのデザイン費用71万1900円(消費税込み)を有限会社ペーパーランドに支払済みであり、これもプリズムの損害となる(甲7の1、2)。
E 商品廃棄費用 10万4000円
 発売中止を決定した時点で、プリズム製品には東芝イーエムアイが販売元として表示されていたのみならず、発売日が平成11年2月24日と表示されていたので、同製品を廃棄せざるを得なかった。その廃棄費用がプリズムに請求され、プリズムはこれをスタジオぴえろに支払った(甲8)。
 したがって、上記額をプリズムの損害として主張する。
F 東芝イーエムアイ、スタジオぴえろに対する損害賠償額 150万8200円
 プリズムは、スタジオぴえろから得べかりし利益として150万8200円と前記Bの費用101万1600円の合計251万9800円を請求されたが(甲6の1)、他方で、スタジオぴえろに対して別製品に関する281万4000円の債権を有していたので(甲6の2)、これらを相殺する形で清算がされた。したがって、上記得べかりし利益150万8200円をスタジオぴえろに支払った形になっており、これをプリズムの損害として主張する。
G 得べかりし利益の喪失分 100万円
 プリズムは、本件契約Aに基づき、ジー・エー・エムに450万円を支払うことになっていたが、一方、プリズム製品の発売ライセンス契約に基づき、スタジオぴえろから550万円の支払を受けられることになっていた(甲2)。
 よって、発売中止により得られなくなった上記差額の100万円を、損害として主張する。
 以上、合計1148万5700円。
(サン電子の主張)
ア 前記@の損害について
 プリズムは、ジー・エー・エムに支払うべきであった472万5000円(225万円については既に支払済み。)を損害として主張する。
 しかし、ジー・エー・エムは、サン電子と締結した本件契約@を履行せずに、サン電子から提供された資料・データを流用して実践パチンココンストラクションを開発したものであり、そのような違法行為により得られる利得を、当該違法行為の被害者であるサン電子に請求することなどできるわけがない。ジー・エー・エムがプリズムに対して請求できる金銭は一銭もないのであるから、ジー・エー・エムに支払うべきものがプリズムの損害になるというプリズムの立論は、それ自体誤りである。
イ 前記A〜Fの損害について
 これらは、すべてプリズムが直接被った損害ではなく、本来、発売元たるスタジオぴえろ又は販売元たる東芝イー・エム・アイが負担すべき費用である。プリズムが上記両社にこれらの費用を支払ったのは、両社に対する格別の配慮に基づくものにほかならず、両社がサン電子に請求するつもりのないものを、プリズムがサン電子に損害として請求できるはずがない。
 なお、プリズムが前記Cの損害として主張するプロモーション宣伝費85万円なるものの中身は、ジー・エー・エムの履行遅滞のため、前記Dがプリズム製品販売の仕事から手を離すことができず、他の仕事ができなかったところ、もし同製品が発売できれば、Dが東芝イー・エム・アイからもらえるはずだったという、それ自体あやふやなものである。
 また、前記Bのパッケージ及びプレス製造費及び同Dのパッケージデザイン費用についても、サン電子に請求できる性質のものではない。このパッケージのパチンコ台のデザインは、サン電子が訴外Fに許諾料を支払った上で作成した「CRモンスターハウス」のポジフィルムのデータを無断で流用したものである。著作物を無断流用された当の被害者であるサン電子に対し、そのデザイン費用や製造費用を請求できるはずがない。
ウ 前記Gの損害について
 実際に販売することのできない商品に関する得べかりし利益を、サン電子に対して請求できるはずがない。
エ 小括
 以上のとおり、損害に関するプリズムの主張にはいずれも理由がない。
3 争点(3)(ジー・エー・エムが本件契約Aに違反した事実が認められるか。)について
(プリズムの主張)
 本件契約Aにおいては、ジー・エー・エムが制作したプログラムAに関する所有権及び著作権上の一切の権利はプリズムに帰属するとした上(前記第2の3(6)イ)、ジー・エー・エムがプリズムに提供した資料のうち、著作権者などの権利者が存するものに関しては、その利用についていかなる第三者からも異議が出ないことを保証する旨の約定がされている(前同キ)。
 ところが、ジー・エー・エムが、本件契約Aの守秘義務条項(前同ケ)に違反して、発売前にプリズム製品をサン電子側に渡してしまったため、プリズム、スタジオぴえろ及び東芝イーエムアイは、サン電子から、プリズム製品の販売はサン電子の知的所有権を侵害する旨の通知を受け(乙6〜8)、そのため、東芝イーエムアイは、同製品の発売を中止せざるを得なくなった。
 また、仮に、プリズム製品が、サン電子が主張するように、サン電子の有する著作権、商標権、特許権等の知的所有権を侵害するものであるならば、ジー・エー・エムはやはり上記契約に違反したことになる。
(ジー・エー・エムの主張)
ア プリズム製品(実践パチンココンストラクション)は、昭和60年ころ既にジー・エー・エムが開発していたパチンココンストラクション(前記第2の3(1)ウ参照)をベースに、ゲーム内容をデフォルメして制作したものである。Windows対応のために仕様を変えた点はあるものの、パチンコの釘その他関連のパーツに当たったり、跳ねたり、入賞したりする機能は、すべてパチンココンストラクションの開発ソースを継承している。
 他方、サン電子に納入すべき必殺パチンココストラクションは、サン電子と協議して策定した仕様書(丙3)に基づき作成される、液晶編集機能を有する全く別のゲームソフトである。しかも、サン電子による本件通知がなされ、紛争が生じた時点において、サン電子に渡していたのは前記α版であり、これは完成品の50%程度の仕様のものであった。
 上記から分かるとおり、上記2つのゲームソフトに関して、著作権侵害の問題など起こりようがない。
イ 本件訴訟においては、サン電子により、実践パチンココンストラクションと必殺パチンココンストラクションの数々の類似点が指摘され、前者が後者の著作権を侵害する旨の主張がされている。
 しかし、サン電子は、フローチャートの類似性は明らかであるというばかりで、何ら具体的な対比の主張をしない。ゲームの意味を理解していないと考えざるを得ない。また、画面表示については、パチンコ台の枠などは確かに似ているが、ゲームの根幹であるパチンコ台の盤面、キャラクター、各部品(パーツ)などは相違している。さらに、プログラムや実行ファイル名の一部が同じであることについては、いずれの製品もBをはじめとする同じジー・エー・エムの開発グループが制作したソフトであるから、共通する部分があっても別段不自然ではなく、そのことが著作権侵害に直接つながるものではない。サウンドデータは、東芝イーエムアイから支給されたものを使っているだけなので、問題になり得ない。
 以上のとおり、サン電子による著作権侵害の主張は、誤解に基づく誤った主張である。
4 争点(4)(上記契約違反の事実が認められる場合、ジー・エー・エムがプリズムに賠償すべき損害額はいくらか。)について
(プリズムの主張)
 ジー・エー・エムに既に支払った225万円(前記第2の3(7)イ)に、前々項2(プリズムの主張)欄で主張したAないしGの金額676万700円を加えた合計901万700円を、プリズムの被った損害として主張する。
(ジー・エー・エムの主張)
 プリズムの主張する損害額は、これを争う。
5 争点(5)(ジー・エー・エムによる、信頼関係破壊又は事情変更に基づく本件契約@解除の抗弁に理由はあるか。)について
(ジー・エー・エムの主張)
 ジー・エー・エムは、サン電子と打ち合わせながら、約束どおり本件契約@を履行しつつあった。本件プログラム@の完成版の納入が遅れたのは事実であるが、それはサン電子も了解済みのことであり、暫定版はその都度引き渡してきた。また、前記のとおり、サン電子に納入すべき必殺パチンココンストラクションと、プリズムに納入した実践パチンココンストラクションは全く別物のソフトであり、著作権等の権利侵害の問題もない。
 それにもかかわらず、サン電子は、実践パチンココンストラクションの存在を知るや、当の制作委託先であるジー・エー・エムに事情を確認することなく、ジー・エー・エムによる権利侵害があると一方的に判断した上で、本件通知書を東芝イーエムアイに送付し、実践パチンココンストラクションの発売中止を余儀なくしてしまった。このような状況下では、本件契約@に基づく契約関係を継続しがたいほどに信頼関係が破壊されたか、あるいは、契約締結時の事情が変更されたというべきである。
 したがって、平成11年4月28日付け内容証明郵便(丙8)による契約解除の意思表示をもって、本件契約@は解除された。
(サン電子の主張)
 ジー・エー・エムは、同時期に2つの同種ソフトに関する制作委託契約を締結した上、先に本件契約@を締結したサン電子から提供された資料等を実践パチンココンストラクションの開発に流用し、サン電子の著作権を侵害した。このような違法かつ背信的な行為をしておきながら、そのことが発覚するや、著作権侵害の事実はないなどと開き直って強弁し、業務停止や契約解除を一方的に宣言して(前記第2の3(13)ア、イ)、上記契約の履行を遅滞したばかりか、現在では履行不能の状態にしてしまった。
 このような事実関係の下において、ジー・エー・エムによる信頼関係破壊又は事情変更に基づく契約解除の主張に理由がないことは明らかというべきである。
6 争点(6)(契約解除の抗弁に理由がない場合、ジー・エー・エムがサン電子に賠償すべき損害額はいくらか。)について
(サン電子の主張)
ア サン電子は、前記のとおり、平成9年10月31日に200万円(第2の3(4)ア)、平成10年2月28日に100万円(同イ)及び同年3月16日に290万円(同エ)の合計590万円をジー・エー・エムに支払ったが、現在に至るまで、プログラム@の完成版は引き渡されていない。よって、これら支払済みの金額は、すべてサン電子の損害となる。
イ サン電子は、上記ア以外に、プログラム@の開発経費として人件費等に約1700万円を費やしており、これも損害となる。
ウ 必殺パチンココレクション1個の原材料費は500円、実際に使用されている台と同一のデザインを用いることにより、パチンコ台メーカーに対して支払うべきロイヤリティは360円、希望小売価格は7800円、第1次問屋への卸値はその53%であったから、1個あたりの利益は、7800×0.53−500−360=3274(円)となる。
 そして、パチンココレクション3の販売実績(乙34)からみて、必殺パチンココレクションは最低でも5000本販売できたはずであるから、3274×5000=16370000(円)が、サン電子の得べかりし利益である。
エ ジー・エー・エムは、前記機密保持契約(第2の3(2))の下でサン電子から提供を受けたプログラム等を流用し、平成10年10月ころ、プリズムに代金472万5000円にて売却して利益を受けたものであり、これはサン電子の利益を侵害したことにより得た利益であるから、サン電子の被った損害とみることができる。
オ サン電子の損害額は、前記ア〜エの合計金4399万5000円であるところ、本訴においては、そのうち金1500万円を請求する。
(ジー・エー・エムの主張)
 サン電子の主張する損害額は、これを争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 実践パチンココンストラクションによる必殺パチンココンストラクションの著作権侵害の成否について
ア サン電子とジー・エー・エムの間の本件契約@の契約書(乙2)には、第1条において、「甲は乙に対し、本商品のプログラム、グラフィック及びサウンドの作成に関し、業務を乙に委託する。」(なお、甲はサン電子を、乙はジー・エー・エムをそれぞれ指す。以下同じ。)とされ、第2条において、「本商品の本委託業務から生じるすべての著作権は甲が有する。」(同条2項)、「本商品の販売権、製造権、工業所有権及びその他の諸権利は甲が有する。」(同条3項)とされている。そして、第4条4項においては、「本委託業務にて発生する、ソースファイル、グラフィックデータ、サウンドデータ等は、甲の検収合格後1カ月以内に、甲の指定する媒体により、乙は甲に提出するものとする。」とされ、第5条4項においては、「本委託業務に対して、甲が開発、販売した『必殺パチンココレクション Windows95版』のソースファイル等を開発参考用として、乙に提供する。」とされている。
 上記のような契約書の条項によれば、本件契約@によってサン電子に帰属するのは、新たな商品(必殺パチンココンストラクション)の作成業務によって生じた著作物についての権利である。本件においては、当該商品(必殺パチンココンストラクション)はコンピュータプログラムであって、既存のプログラムに新たな創作的要素を付与して作成されるものであるが、この場合、当該商品についての著作権の内容となるのは既存の著作物に新たに付与された部分に対応する範囲となるから、本件契約@によりサン電子に帰属するのも、当該範囲について生ずる著作権ということになる。本件では、前記「前提となる事実関係」(前記第2の3)に記載したとおり、ジー・エー・エムは、昭和60年ころ、必殺パチンココンストラクションと同様にユーザーが画面上の好きなところに釘等を配置して、自分でパチンコ台を自由に構成した上で実際のパチンコ台(実機)と同様に遊べるPC9800(NEC)対応ゲームソフト「パチンココンストラクション」を開発していたものであるから、必殺パチンココンストラクションにおいて既存の著作物であるパチンココンストラクションにおいて既に用いられているのと共通する点があれば、その範囲については、サン電子との間の契約に基づく作成業務によって新たに付与された創作的要素に当たらず、当該範囲についての著作権がサン電子に移転することもない(この場合、パチンココンストラクションはPC9800(NEC)対応ゲームであり、必殺パチンココンストラクションはWindows95対応ゲームソフトであるが、単にPC9800対応のプログラムを同一の内容のWindows95対応のプログラムに転換しただけでは、創作的要素が付加されたということはできない。したがって、本件契約@に基づいてサン電子に移転する著作権は、必殺パチンココンストラクションにおいて、対応OSの違いを超えて、従来のものとは異なる創作性のある画面上の動作・効果等を生み出している点に対応する部分に限られるというべきである。)。上記のとおり、本件契約@によりサン電子に移転する著作権が、必殺パチンココンストラクションの作成業務を通じて付与された新たな創作的要素に対応する範囲であって、それ以前から各当事者が既存の著作物について保有していた権利に及ぶものではないが、このことは、本件契約@においてジー・エー・エムに支払われる報酬額が590万円という比較的低額であることからも裏付けられるところである。
イ 以上を前提に、実践パチンココンストラクションが、サン電子が必殺パチンココンストラクションについて有する著作権を侵害するものかどうかについて検討する。
 サン電子は、サン電子が以前開発した必殺パチンココレクション2のソースプログラムを利用するよう指示した上で、同プログラムをジー・エー・エムに手渡したものであり、必殺パチンココレクション2においては、パチンコ実機であるCRモンスターハウスの製造者である訴外Fから許諾を受けて使用したCRモンスターハウスの盤面が画面上に表れるところ、実践パチンココンストラクションの画面に表示されているパチンコ台はこれに類似しており、その他の画面表示についても必殺パチンココンストラクションと実践パチンココンストラクションは類似していること、両者のフローチャートが類似していること、両者の実行ファイルには名称が一致するものがあることなどを挙げて、実践パチンココンストラクションは必殺パチンココンストラクションの著作権を侵害するものであると主張する。
 サン電子の主張するところは、必ずしも明確ではないが、必殺パチンココンストラクションについての、画面上に表示される画像(美術の著作物)の著作権又はプログラムの著作物の著作権の侵害をいうものと理解することができる。
ウ そこで、まず、画面上に表示される画像(美術の著作物)の著作権について検討する。
 必殺パチンココンストラクションにおける画面上の表示と実践パチンココンストラクションにおける画面上の表示とを比較すると、双方とも、実機のパチンコ台を模した画像が表示されるが、前者(必殺パチンココンストラクション)においては、実機であるCRモンスターハウスの台を盤面の絵(模様)を含めて忠実に再現したものであるのに対して、後者(実践パチンココンストラクション)のパチンコ台の盤面の絵(模様)はこれと異なるものであり、パチンコ台の枠の部分にいくらかの類似性が認められるにすぎない。
 そもそも、実機のパチンコ台が工業的に大量生産される実用品であることに照らせば、そのデザイン形態は盤面の絵(模様)の部分を含めて美術の著作物に属するものとはいえず、加えて、本件では、パチンコ台においてもっとも人目を引く部分である盤面の絵が異なるというのであるから、両者が類似するものと評価することもできない。
 また、サン電子は、パチンコ台盤面が表示された画面の右側枠内において、絵飾りを伴って長方形枠内に表示された「OPEN」の文字や、周囲に絵飾りを配した楕円形枠内に表示された「START」の文字のデザイン、色調等がいずれも類似することのほか、上記盤面右側枠内に、「台盤面」、「風車」、「チューリップ」、「入賞口」、「液晶」、「始動口」、「大賞口」及び「釘」の文字表示が同じ配置で並んでおり、各機能ボタンの表示や配置が類似することを指摘する。しかしながら、ユーザー自らがパチンコ台を自由に構成した上でパチンコプレイをするというゲームソフトを作成する場合には、パチンコ台盤面のほか、上記の各機能のためのボタン等のアイコンを配置することが必要であるところ、画面の限られたスペースのなかにパチンコ台と共にこれらのアイコンを配置するためにはその位置を選択する余地は極めて小さいものとなるし、また、各機能のためのアイコンにしても機能を文字で表示することを含めてデザインの選択の余地は極めて小さい。このような点を考えると、サン電子が挙げる画面表示に著作物性を認めることはできないから、その主張するような類似性が存在したとしても著作権侵害が問題となるものではない。
 また、サン電子は、必殺パチンココンストラクションにおいては、ゲーム起動画面からモード選択画面が表れ、画面に表示された「工房モード」、「プレイモード」及び「終了」の文字情報に従っていずれかのモードを選ぶものであり、「プレイモード」を選んだ場合には台を選択した上でパチンコプレイに入り、「工房モード」を選んだ場合には自分の好みの台を作成する画面に転換するという構成が採用されているのに対し、実践パチンココンストラクションにおいても、やはりゲーム起動画面からモード選択画面が表れ、画面に表示された「釘師」、「店舗巡り」及び「終了」の文字情報に従っていずれかのモードを選び、「店舗巡り」を選んだ場合には台を選択した上でパチンコプレイに入り、「釘師」を選んだ場合には、自分の好みの台を作成する画面に転換するという構成が採用されているという点を指摘する。しかしながら、起動画面に続いてモード選択画面が現れるという構成自体は、コンピュータゲーム一般に広く見られるものである上、自分の好みの位置に釘を配置するなどしてパチンコ台を構成した上でプレイするというゲーム構成を採る場合には、選択の対象となる画面の内容や画面が現れる順番等はある程度似たものとならざるを得ないものであるから、サン電子が挙げる画面の内容やそれが現れる順番等について著作物性を認めることはできない。
 上記のような点に照らせば、必殺パチンココンストラクションにおいて画面上に表示される画像やその順番については、著作権法による保護の対象となるものとは到底認められないというべきである。
エ そこで、次に、プログラム著作物の著作権について検討する。
 必殺パチンココンストラクションにおける画面表示と実践パチンココンストラクションにおける画面表示との間には、上記ウに記載したとおり、ある程度の類似性は認められるものであるが、そのような画面を表示するためのプログラム上、必殺パチンココンストラクションにおいて従来のコンピュータソフトに見られないような独自の創作性が存在する旨の主張立証は何らされていないから、表示画面の類似性を理由として、プログラム著作物としての必殺パチンココンストラクションの著作権を実践パチンココンストラクションが侵害しているということはできない。
 また、サン電子は、必殺パチンココンストラクションと実践パチンココンストラクションとの間では同じファイル名のファイルが存在することを指摘した上で、同じ機能内容のファイルでもファイル名は任意に変えられるところ、それにもかかわらず、同じファイル名が存在するのは、実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションα版のファイルを流用したことの証左であり、著作権侵害の事実が認められると主張する。しかしながら、実行ファイル名の一部が共通していることは依拠の点を推認させる事実ではあり得ても、そのことから直ちにプログラム著作権の侵害を認めることはできない。すなわち、共通する実行ファイルが存在したとしても、当該ファイルが従来のコンピュータソフトに使用されていなかったものであり、当該ファイルの組み合わせに従来のプログラムにない創作性が認められるのでなければ、プログラム著作権の侵害ということはできない。本件においては、必殺パチンココンストラクションα版及び実践パチンココンストラクションの各プログラムを制作したのは、同じジー・エー・エムの開発スタッフであるから、実行ファイル名に同じものがあっても、そのことから直ちに依拠性を認めることもできないところ、加えて、共通する名称のファイルの組み合わせが、ジー・エー・エムによる既存の同種ゲームソフトであるパチンココンストラクションにおいて用いられていなかった独自の創作性のあるプログラムであることの主張立証もされていないのであるから、サン電子の挙げる点をもって、プログラム著作権の侵害を認めることはできない。
 上記のような点に照らせば、実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションにおけるプログラム著作権を侵害するということもできない。
オ 上記によれば、実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションについてサン電子の有する著作権を侵害したということはできない。そうすると、本件通知書の記載のうち、「貴社が右商品の販売を行うと、著作権‥‥‥侵害に当たると思われます。」との部分については、事実に反する虚偽の記載といわざるを得ない。
 そして、サン電子は、本件通知書を発送するに先立って、必殺パチンココンストラクションと実践パチンココンストラクションとの間の類似部分等について事実を認識していたものであるから、サン電子において著作権侵害の有無についての法的判断に誤りがあったとしても、少なくとも過失の存在が認められるというべきである。
(2) 「パチンココンストラクション」の商標登録について
ア 本件通知書の記載のうち、「『パチンココンストラクション』についても商標登録しております。‥‥‥右商品の商品名を変更せずに販売した場合は加えて類似商標の使用となります。」との部分については、本件通知書発送当時、当該商標については商標登録出願中ではあるものの未だ設定の登録はされていなかったのであるから(この点は、サン電子も争っていない。)、同記載が事実に反する虚偽の記載であることは明らかである。
 サン電子は、本件通知書においては、当該記載の直前に「特許出願されており」との記載があり、全体の流れからすれば、「商標登録」ではなく「商標登録申請」のことであると容易に察しがつくから、損害賠償の対象となる故意・過失のある虚偽通告とはいえないと主張する。しかし、本件通知書の文面からすれば、これを見た者がサン電子の主張するように解するということはできない。そもそも、登録申請中の商標には何ら排他的な効力が認められないのに対し(商標法18条1項参照)、登録された商標であれば差止請求権(同法36条)及び損害賠償請求権(同法38条)の根拠になるものであり、両者の間には法律的に重大な違いがある。自ら商標登録出願をした者が、当該商標につき設定登録がされたかどうかについて関心を有するのは当然のことであり、上記のような事実に反する記載をしたサン電子に過失があったことは明らかというべきである。
イ なお、サン電子は、本件通知書到達後の平成11年2月24日に、CやAらがサン電子を訪れた際に(前記第2の3(12)参照),GがCらに対し、商標については登録申請中である旨説明したと主張するが、Gは商標法等の法律分野に知識を有していた者ではなく、また、本件通知書の記載内容と異なる説明を突然その場で行ったというのは不自然であり、A、D及びCはいずれもそのような説明を受けたという記憶を有していないものであって、サン電子の主張する事実を認めることはできない(この点に関する証人Eの供述は、前記のような事情及びA、D、Cの各証言に照らし、信用することができない。)。
 また、サン電子は、本件通知書を送付した趣旨は、東芝イーエムアイやプリズムに損害を与えることにはなく、事実調査を求めて問題提起するとともに、穏便な話合いを申し入れることにあり、本件通知をした行為は、正当な権利行使の一環とみるべきものである旨主張する。しかし、仮に本件通知書がそのような意図に出たものであるとしても、その内容に虚偽の事実が含まれているものである以上、これを東芝イーエムアイに送付した行為が不正競争防止法にいう虚偽事実の告知に該当することを否定する理由とはならないというべきである(しかも、本件通知書には、「貴社は当社とジー・エー・エムとの契約を存じなかったと推察し、穏便に問題の解決を図りたいと考えており、貴社に損害を与えるのは本意ではありませんので至急御回答下さい。」との記載がある一方で、「貴社が右商品の販売を行うと、著作権並びに知的所有権侵害に当たると思われます。その為、即刻商品発売の停止並びに右商品の発売に至るまでの経緯説明をご回答下さい。」、「御回答いただけない場合には法的措置を執ることになるのでご承知下さい。」と明記されているものであり、その記載からすれば、「穏便な話合いの申し入れ」といえるものかどうかにも、疑問がある。)。
ウ 上記によれば、本件通知書の内容は、実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションα版の著作権を侵害する旨及び「パチンココンストラクション」を商標登録している旨において、虚偽の記載というべきであるから、サン電子が本件通知書を東芝イーエムアイに送付した行為は、虚偽の事実を告知する行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当するものであり、かつ、サン電子には、このような虚偽の告知をしたことにつき過失が認められる。よって、サン電子は、上記不正競争行為に基づく損害を賠償すべき責任を負うものである。
2 争点(2)について
 前記第3の2(プリズムの主張)欄に摘示した損害項目の順序に従って、以下、プリズムの被った損害の額について検討する。
ア プログラム制作費472万5000円について
 プリズムは、既に支払った225万円を含め、本件契約Aに基づきジー・エー・エムに支払うべき472万5000円を損害として主張する。しかし、支払済みの225万円については損害として認め得るものの、後記のとおり、本件において、プリズムはジー・エー・エムに対して債務不履行による責任を問うことができることを考えると、これを超える未払分については支払を拒み得るものであるから、これを損害として認めることはできない(支払済みの225万円についても、ジー・エー・エムに対して本件契約Aを解除して返還を求めることも可能であるが、ジー・エー・エムの現在の財産状況等に照らせば、これを損害として認定するのが相当である。)。
イ アニメ制作費157万5000円について
 証拠(甲5及びプリズム代表者A)によれば、プリズムは、プリズム製品の絵及び音源の制作費として、訴外有限会社スタジオフォーマに157万5000円を支払うべき債務を負っていること、プリズムは、現に同製品2300枚をプレスし、そのうち1300枚を東芝イーエムアイに納入したことが認められるところ、上記費用は、プリズムが、契約上の義務に基づき、プリズム製品を完成し、スタジオぴえろを通じて東芝イーエムアイに納入するために必要な経費であったということができる。
 しかるに、現にプレスした製品が、市場の流通におかれる前に、本件通知行為に起因して、商品価値を喪失したのであるから、上記費用は、本件通知行為により事実上回収が不可能になったものとして、相当因果関係の範囲内にある通常の損害というべきである。
 したがって、サン電子は、上記費用をプリズムに賠償すべき責任を負う。
ウ パッケージ及びプレス製造費101万1600円について
 証拠(プリズム代表者A)によれば、プリズムは、初回プレス分2300枚のプレス費用とマスター代8万7000円の合計101万1600円を負担していることが認められるところ、上記費用は、プリズム製品を納入するために必要な経費であるとともに、本件通知行為により事実上回収が不可能になったものとして、相当因果関係の範囲内にある通常の損害であると認められる。
エ プロモーション宣伝費85万円について
 プリズムは、当時東芝イーエムアイに出向していた前記Dに支払われるべきであった85万円を損害として主張するが、主張の内容自体明確でない上に、Dに支払われるべき金額がプリズムの損害となる理由も明らかではなく、また、上記宣伝費に関する具体的な立証もない。上記宣伝費をプリズムの損害と認めることはできない。
オ パッケージデザイン費用71万1900円について
 証拠(甲7の1、2及びプリズム代表者A)によれば、プリズムは、プリズム製品のパチンココンストラクションのデザイン費用として、訴外有限会社ペーパーランドに71万1900円(消費税込み)を支払ったことが認められるところ、上記費用は、必要な経費であるとともに、本件通知行為により事実上回収が不可能になったものとして、相当因果関係の範囲内にある通常の損害と認められる。
カ 商品廃棄費用10万4000円について
 証拠(甲8及びプリズム代表者A)によれば、本件通知がされた時点で、既に東芝イーエムアイに納品されていた1300個のプリズム製品については、最終的にプリズムの費用負担において廃棄されたことが認められる。
 この費用は、プリズムが、東芝イーエムアイ及びスタジオぴえろに対する配慮に基づき事実上負担した側面もないではない。しかし、プリズムがスタジオぴえろにプリズム製品の独占販売を許諾し、さらに、スタジオぴえろが東芝イーエムアイに同製品の独占販売を許諾して、スタジオぴえろが発売元、全国的な販売網を持つ東芝イーエムアイが販売元という名目の下で、プリズム製品の発売が予定されていた取引の実情に照らせば、東芝イーエムアイに対する本件通知により、最終的にプリズムの負担において、現に納入された上で商品価値を喪失したプリズム製品を廃棄するために要した費用は、相当因果関係の範囲内にある通常の損害とみることができる。
キ 東芝イーエムアイ、スタジオぴえろに対する損害賠償額150万8200円について
 プリズムは、スタジオぴえろから得べかりし利益150万8200円を請求されたが、他方でスタジオぴえろに対して債権を有していたところ、これらを相殺する形で精算がされたとして、上記額がプリズムの損害になると主張する。
 しかし、スタジオぴえろの得べかりし利益と主張する上記150万8200円については、その内容が明らかでない上、その発生につき具体的な立証がなく、また、当該損害額につきプリズムがスタジオぴえろから債権譲渡を受けてその旨の通知がされたことの主張立証もないから、これをもってプリズムの損害と認めることはできない。
ク 得べかりし利益の喪失分100万円について
 証拠(甲1、甲2及びプリズム代表者A)によれば、プリズムは、初回プレス分のプリズム製品の製造・販売につき、スタジオぴえろから契約上の対価550万円を受け取ることになっていたこと、及び、ジー・エー・エムに対しては、本件契約Aの対価として450万円を支払うことになっていたことが認められるところ、プリズムは、上記各契約の対価の差額100万円を損害として主張している。
 上記のとおり、初回プレス分のプリズム製品については、各契約の対価が具体的に定まっていた上に、本件通知の時点においては、初回分のプレスがなされ、プリズム製品が完成して、そのうち1300個が販売元である東芝イーエムアイに納入されていたのであるから、上記得べかりし利益100万円の喪失は、本件通知に起因して現実に発生した損害と認められるというべきである。
ケ 小括
 以上によれば、サン電子がプリズムに対し賠償すべき損害額は、合計665万2500円と認められる。
3 争点(3)について
 この点に関してプリズムの主張する内容は必ずしも明確ではないが、前記第3の3(プリズムの主張)欄に摘示したとおり、(1)ジー・エー・エムは、本件契約Aに基づき、第三者から著作権侵害等の異議が申し立てられることはない旨プリズムに保証したにもかかわらず、契約上の守秘義務に反して発売前にプリズム製品をサン電子に開示し、この結果、プリズム、スタジオぴえろ及び東芝イーエムアイは、サン電子から、プリズム製品の販売はサン電子の知的所有権を侵害する旨の通知を受け、同製品の発売を中止せざるを得なくなった、(2)また、仮に、サン電子が主張するように、著作権侵害の事実があるならば、やはり上記保証義務に違反する、という点を主張しているものと解される。
 ところで、プリズムとジー・エー・エムが本件契約Aの締結に際し、取り交わした制作委嘱契約書(甲1)においては、ジー・エー・エムは、プログラムマスター制作に関与した者に対する権利処理を自己の名義と責任において行うものとし、万が一当該者から何らかの異議申立てがなされた場合は、ジー・エー・エムの責任と負担において解決し、プリズムに一切迷惑をかけないものとされ(第2条3項)、また、ジー・エー・エムは、プログラムA(「実践パチンココンストラクション」に係るプログラムマスター)をソフトウェアとして複製し、頒布に利用するについて十分な資料をプリズムに対して提供するだけでなく、提供した資料のうち、著作権者などの権利者が存するものについては、その利用について当該権利者の許諾をジー・エー・エムが得ていること、従ってプリズムがこれを利用するについていかなる第三者からも何ら異議がなされないことをプリズムに保証するものとされている(第3条2項)。
 これらの条項を文言どおり解する限りでは、ジー・エー・エムがプリズムに対して明示的に保証していたのは、プログラムマスター制作に関わった者から、何らかの権利主張が出たりすることのないこと、及び、ジー・エー・エムからプリズムに提供する資料につき、著作権者などが存在する場合には、その使用につき予め許諾を得ておくことにより、後に異議が出たりすることのないことである。本件において、サン電子は、厳密には、上記のプログラムマスター制作に関わった者ではなく、また、ジー・エー・エムがプリズムに提供した資料につき著作権等を有する者でもないが、プログラムAと並行して制作されていた必殺パチンココンストラクションにつき著作権を取得することとなる者であり、また、必殺パチンココンストラクションの制作に際して資料を提供した者でもある。制作委嘱契約書の前記条項が、ジー・エー・エムにおいて権利主張をする可能性のある者として知り得る範囲の者については、プログラムAについて権利主張をすることのないように予め対処すべき点にあることに照らせば、このような意味においては、サン電子も同様の立場にある者というべきである。本件においては、サン電子から権利主張を内容とする本件通知書が発送され、ジー・エー・エム代表者においては、これを未然に回避することを怠ったばかりか、そもそも、本件通知書の発送自体、ジー・エー・エムの専務取締役であるIがプリズム製品を発売前にサン電子側に渡したことに起因したものであって、これが到達した後においても、ジー・エー・エム代表者は事態の収拾のための行動を全く行わず、その結果、プリズム製品の発売中止が余儀なくされたのであるから、ジー・エー・エムは、プリズムに対して、上記契約の不履行に基づく責任を負担するものと解するのが相当である。
4 争点(4)について
 ジー・エー・エムの債務不履行によってプリズムの被った損害の額について検討するに、プリズムがジー・エー・エムに対してプログラム制作費として既に支払った225万円(事実上無価値となったプログラムAに替わる填補賠償の一部として請求する趣旨と理解することができる。)に、前記2のイ、ウ、オ、カ、ク記載の金員を加えた合計665万2500円を損害として認める。
5 争点(5)について
 ジー・エー・エムは、実践パチンココンストラクションの存在を知ったサン電子が、当の制作委託先であるジー・エー・エムに事情を確認することなく、ジー・エー・エムによる著作権等の権利侵害があると一方的に判断した上で、本件通知書を東芝イーエムアイに送付し、実践パチンココンストラクションを発売中止に至らしめたので、このような状況下では、契約関係を継続しがたいほどに信頼関係が破壊されたか、あるいは、契約締結時の事情が変更されたとして、契約解除の抗弁を主張する。
 しかしながら、前記第2の3に摘示した前提となる事実及び証拠(証人E、同D、プリズム代表者A及びジー・エー・エム代表者Bの尋問の結果等)によれば、ジー・エー・エムは、平成9年9月18日に、先にサン電子と本件契約@を締結し、数次にわたる協議を経て、平成10年7月9日に、必殺パチンココンストラクションの完成バージョンの最終納期を同年10月9日とする旨の覚書を取り交わしたこと、それにもかかわらず、ジー・エー・エムは、資金難などからプログラマーを確保できず、そのため最終納期を過ぎても上記完成バージョンを納入できずにいたこと、その一方で、上記覚書を交わした直後の同年7月20日には、プリズムとの間で、必殺パチンココンストラクションと同種の、ユーザー自らがパチンコ台を自由に構成した上でパチンコプレイのできるゲームソフトであり、完全に必殺パチンココンストラクションと競合する商品である実践パチンココンストラクションを開発する旨の本件契約Aを締結したこと、同契約に基づきプリズムに納入した実践パチンココンストラクションは、前記1において判示したとおり、著作権侵害の問題こそ生じないものの、必殺パチンココンストラクションと類似する点を少なからず含んだものであったこと、ジー・エー・エムは、サン電子及びプリズムに対しては、それぞれ別個のゲームソフトを並行して制作している事情を隠してそれぞれのプログラムの制作を行っていたところ、サン電子はその事実を知るに至ったが、その経緯は、ジー・エー・エムの専務取締役である前記Iが、サン電子への必殺パチンココンストラクションの納入が遅れている一方で、競合商品である同種のゲームソフトの実践パチンココンストラクションの納入・発売が間近に迫っていることなどから不安になり、自らの判断で、ジー・エー・エムの代表者であるBに無断でサン電子に事情を知らせたという異常なものであったこと、以上の各事実が認められる。
 これらの事情に照らせば、ジー・エー・エムは、納入先であるサン電子及びプリズムの両者に秘した上で、完全な競合商品である同種のゲームソフトについてその制作を行う契約を二重に締結し、それぞれのプログラムを並行して制作するという商業道徳上問題のある行為を行ったものであり、このような事情がサン電子ないしプリズムの知るところとなった場合に、双方の商品の発売をめぐって紛争となることはジー・エー・エムにおいて容易に予想されるところであったというべきである。そうであれば、ジー・エー・エムにおいて、サン電子が本件通知書を発送した行為を信頼関係を破壊する行為として非難することは許されないというべきである。したがって、信頼関係破壊ないし事情変更を理由とするジー・エー・エムの契約解除の抗弁は、理由がない。
6 争点(6)について
 現在に至るまでプログラム@の完成版がジー・エー・エムからサン電子に対して引き渡されていないことは、当事者間に争いがないところ、前記5において判断したとおり、ジー・エー・エムの契約解除の抗弁には理由がないので、前記第3の6(サン電子の主張)欄に摘示した損害項目の順序に従って、ジー・エー・エムがサン電子に賠償すべき損害の額について検討する。
ア サン電子は、本件契約@に基づき合計590万円をジー・エー・エムに支払ったところ、現在に至るまでプログラム@の完成版の引渡しはなく、契約は事実上履行不能になったから、上記590万円がそのまま損害となった旨主張する。
 プログラム@の完成版については、ジー・エー・エムによる履行遅滞により現時点においては既に無価値となったものと認められるところ、ジー・エー・エムに対して支払済みの590万円については、事実上無価値となったプログラム@の完成版に替わる填補賠償として請求する趣旨として理解することができ、損害として認めることができる。
イ サン電子は、プログラム@の開発経費として人件費等に約1700万円を費やしており、これが損害になると主張するが、これらは、そもそもサン電子の社員であるEらに支払うべき給与・報酬であり、これらの人件費の支出自体については、ジー・エー・エムの債務不履行との因果関係が明らかではなく、債務不履行による損害ということはできない。
ウ 証拠(甲1、2、乙32〜35、証人E及びプリズム代表者A)によれば、必殺パチンココンストラクションが商品化されて販売された場合、サン電子が得る1個あたりの利益は3274円であったこと、サン電子の分析によると、損益分岐点個数は5760個であり、必達目標が8500個、努力目標が1万5000個であったこと、実機の人気機種であるCRモンスターハウスの盤面を使っていることが主な要因となって、平成9年に発売開始されたパチンココレクション2については、1万3000本を超える販売実績があったこと、必殺パチンココンストラクションの販売予定時期(平成10年6月)に近い平成10年4月に発売開始されたパチンココレクション3についても、約5900本の販売実績があったこと、パチンコプレイを題材とするゲームソフトについては、一定数の根強い愛好者が存在しており、安定した販売実績を挙げていたこと、プリズムが制作した実践パチンココンストラクションについても、初回プレス分は2300枚であり、2500枚まではいわゆる買い取り方式で、それ以上売れた場合には、1個ごとにプリズムに歩合が入る契約内容になっていたことの各事実が認められる。
 以上の事実を総合すれば、サン電子がそれまでの市場における実績をふまえた上で開発中であった必殺パチンココンストラクションについては、当時、5000本の販売が具体的に見込まれたものと認められる。
 そうすると、ジー・エー・エムの債務不履行により、上記5000本の販売ができなくなり、その分の利益が失われたというべきであるから、3274×5000=16370000(円)が、上記債務不履行と相当因果関係内にある通常の損害と認められる。
エ サン電子は、ジー・エー・エムはサン電子から提供を受けたプログラム等を流用してプログラムAを作成し、プリズムから472万5000円の対価を受けたところ、これはサン電子の利益を侵害して得られた利益であるから、サン電子の被った損害とみることができる旨主張する。
 しかしながら、ジー・エー・エムのサン電子に対する債務不履行と、ジー・エー・エムがプリズムから472万5000円の対価を受けたことは、それぞれ別個の契約関係に基づき規律されるべき事柄であって、その間には何の因果関係もない。サン電子の上記主張は、債務不履行責任及び損害に関する相当因果関係を逸脱するものとして、それ自体失当というほかない(仮に、サン電子が上記損害を著作権侵害による損害額(著作権法114条1項)として主張する趣旨であるとしても、既に判示したとおり、本件においては著作権侵害は認められないので、いずれにしても、サン電子の上記損害額の請求は理由がない。)。
オ 以上によれば、ジー・エー・エムがサン電子に賠償すべき損害の額は、合計2227万円と認められるところ、サン電子は、本訴において1500万円を損害として請求しているので(前記第1(乙事件)の1)、本訴における認容額は上記1500万円と認めるべきものである。
第5 結論
 以上によれば、サン電子は、プリズムに対し、不正競争行為に基づく損害賠償として、665万2500円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金を支払うべきものであり、他方、ジー・エー・エムは、いずれも債務不履行に基づく損害賠償として、プリズムに対し665万2500円、サン電子に対し金1500万円及びこれらに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべきものである。
 よって、甲事件原告プリズムの請求を上記の限度で認容し、その余の請求を棄却することとし、また、乙事件原告サン電子の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 青木孝之
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