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【事件名】ビデオテープ著作権侵害事件(2)
【年月日】平成14年4月16日
 東京高裁 平成14年(ネ)第605号 著作権侵害確認請求等控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第14586号)
 (平成14年3月7日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) A
被控訴人(被告) 株式会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
訴訟代理人弁護士 小野寺良文
同 早川学


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた判決
 原判決を取り消す。
 被控訴人は控訴人に対し金1000円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、被控訴人の平成10年ころから販売している「デス・ゲーム2025」と題する映画(「本件映画」)を録画したビデオテープ(「本件ビデオテープ」)において、「スーパードリームボール」と称する控訴人が平成8年9月4日ころに創出したスポーツゲームのアイデア(「原告アイデア」)、原告アイデアを記載した日本テレビ株式会社宛て同日付け内容証明郵便(「原告手紙」)及び「黙示スポーツ女」と題する控訴人の創作した小説(「原告小説」)が使われており、本件映画は原告アイデア、原告手紙及び原告小説を複製又は翻案したものであると主張し、被控訴人が上記ビデオテープを販売することは控訴人の著作権(複製権、本案権、上映権)を侵害する行為であるとして、金1000円の支払いを求めた事案である。
 本件の争いのない事実等、争点及びこれに関する当事者の主張は、次の1及び2のとおり当審における控訴人の主張の要点を追加するほか、原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」及び「第3 争点及びこれに関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
1 原告アイデアは平成8年9月4日付け原告手紙及び原告小説に記載されており、本件映画「デスゲーム・2025」は、被控訴人の販売する本件ビデオテープに<C>1998年とあるから、控訴人の原告アイデアの創出、記載等の方が早い。本件ビデオテープに入っているゲームは、原告アイデアと同じものであるから、控訴人の著作権を侵害している。
2 原判決は、表現を離れた単なるアイデアは著作物とはいえず、著作権保護の対象とはならないと判断したが、不当である。原告アイデアは、控訴人が改良に改良を重ねて創作したもので、スポーツゲームの内容それ自体が独創的で斬新なスポーツのアイデアである。このようなアイデアは、当然、著作権で保護されるべきである。どんなに独創的でもアイデアは保護されないということが日本国の裁判所の判断であるのはおかしい。本件映画を製作したのはアメリカの会社であるが、本件ビデオテープに入っているスポーツゲームはどう見ても原告アイデアと極めてよく似ているのであるから、控訴人は当該スポーツゲームは原告に著作権があることをアメリカの会社に確認して欲しいのである。原判決が本件ビデオテープに入っているスポーツゲームが原告アイデアに似ているかどうかを十分に検討することなく、著作権侵害が成立しないと判断したのは、不当違法である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補足するほか、原判決の事実及び理由「第4 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
(1) 控訴人は、原告アイデアは独創的なものであるから、著作物として著作権で保護されるべきであると主張するが、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)と定義することによって同法による保護の対象を限定しているから、「表現したもの」という域に至らないアイデアそれ自体は著作権で保護されるものではない。これは、アメリカ法においても同様である。この点に関し、表現を離れた単なるアイデアは著作物とはいえず、著作権法上の保護の対象とはならないとした原判決の判断に誤りはない。
(2) そして、原判決は、原告アイデアを記載した原告手紙及び原告小説に基づいて、原告手紙及び原告小説に表現された創作物と本件映画とを対比検討したうえ、両者は、共にボールを用いたスポーツが表現されている部分があり、そのスポーツについては、ゲームの内容又はアイデアにおいて一部共通する点が認められるものの、それ以外の主題、ストーリー展開、登場人物の性格付け、作品の性格のすべてにおい相違し、ボールを用いたスポーツの表現についても多くの点において異なっているから、著作権(翻案権)侵害は認められないと判断したものである。控訴人の著作権侵害の主張は、ゲームのアイデアにおける共通性ないし類似性を主張しているもので、表現における類似性を主張するものではないと認められるのであり、原告手紙及び原告小説について、著作権侵害の成立を否定した原判決の判断理由及び結論は、著作権法の規定及び本件全証拠に照らし、正当としてこれを是認することができる。
(3) また、複製権及び上映権の侵害に関する控訴人の主張についても、原判決の説示と同一の理由により、これを認めることはできない。
2 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第18民事部
 裁判長裁判官 永井紀昭
 裁判官 古城春実
 裁判官 橋本英史
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