判例全文 line
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【事件名】バイアグラの商標権侵害事件
【年月日】平成14年3月26日
 東京地裁 平成12年(ワ)第13904号 商標権侵害差止等請求事件(甲事件)
 /平成12年(ワ)第20905号 商標権侵害差止等請求事件(乙事件)
 (口頭弁論終結日 平成13年12月25日)

判決
甲事件・乙事件原告 ファイザー・プロダクツ・インク
甲事件・乙事件原告 ファイザー製薬株式会社
原告両名訴訟代理人弁護士 中村稔
同 熊倉禎男
同 富岡英次
同 飯田圭
同 渡辺光
甲事件被告 安井堂インターナショナルこと A
乙事件被告 株式会社ライフボートジャパン
被告両名訴訟代理人弁護士 大久保孝裕


主文
1 被告らは、バイアグラ錠と称する錠剤について、ウェブページ、看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類に、別紙被告標章目録一(1)ないし(3)、二(1)及び(2)並びに三記載の各標章を使用してはならない。
2 被告らは、前項記載の各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた前項記載の錠剤を輸入し、前項記載の各標章を記載した取引書類を添付して前項記載の錠剤を引き渡し、又は郵便若しくは宅配便業者をして引き渡させてはならない。
3 被告らは、1項記載の各標章を記載したウェブページからこれらの標章を削除し、1項記載の各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類を廃棄せよ。
4 被告株式会社ライフボートジャパンは、原告ファイザー・プロダクツ・インクに対し、金3024万5815円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員、被告安井堂インターナショナルことAは、原告ファイザー・プロダクツ・インクに対し、金2972万2800円及びこれに対する平成12年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告株式会社ライフボートジャパンは、原告ファイザー製薬株式会社に対し、金1999万7210円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員、被告安井堂インターナショナルことAは、原告ファイザー製薬株式会社に対し、金1964万8534円及びこれに対する平成12年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
8 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、バイアグラ錠と称する錠剤について、ウェブページ、看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類に、別紙被告標章目録一(1)ないし(3)、二(1)及び(2)並びに三記載の各標章を使用してはならない。
2 被告らは、前項記載の各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた前項記載の錠剤を輸入し、前項記載の各標章を記載した取引書類を添付して前項記載の錠剤を引き渡し、又は郵便若しくは宅配便業者をして引き渡させてはならない。
3 被告らは、1項記載の各標章を記載したウェブページを閉鎖し、1項記載の各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告並びに申込書、しおりその他の取引書類を廃棄せよ。
4 被告らは、各自、原告ファイザー・プロダクツ・インクに対し、金5677万8081円及びこれに対する被告安井堂インターナショナルことAは平成12年7月12日から、被告株式会社ライフボートジャパンは平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、各自、原告ファイザー製薬株式会社に対し、金3785万2055円及びこれに対する被告安井堂インターナショナルことAは平成12年7月12日から、被告株式会社ライフボートジャパンは平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1)ア  原告ファイザー・プロダクツ・インク(以下「原告ファイザー・プロダクツ」という。)は、勃起不全治療剤である「バイアグラ錠」等の医薬品等の製造、販売等を主たる業務とする米国法人であるファイザー・インクの子会社であって、ファイザー・インクを中心とする企業グループ(以下「ファイザーグループ」という。)の商標権等の知的財産権等の管理等を主たる業務とする米国法人である(弁論の全趣旨)。
イ 原告ファイザー製薬株式会社(以下「原告ファイザー製薬」という。)は、ファイザー・インクの子会社であって、「バイアグラ錠」等の医薬品等の製造、販売等を主たる業務とする株式会社である。
ウ 被告株式会社ライフボートジャパン(以下、「被告会社」という。)は、各種日用雑貨品輸出入業並びに販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)ア 原告ファイザー・プロダクツは、次の商標権を有している。
 登録番号 第4105713号
 出願日 平成8年3月6日
 登録日 平成10年1月23日
 指定商品及び商品の区分 第5類 薬剤
 登録商標 別紙原告商標目録一記載のとおり
イ 原告ファイザー・プロダクツは、次の商標権を有している(以下、上記アの商標権と併せて「本件各商標権」といい、その登録商標を上記アの登録商標とあわせて「本件各商標」という。)。
 登録番号 第4127593号
 出願日 平成8年6月6日
 登録日 平成10年3月27日
 指定商品及び商品の区分 第5類 薬剤
 登録商標 別紙原告商標目録二記載のとおり
(3) 原告ファイザー製薬は、原告ファイザー・プロダクツから、本件各商標権について独占的通常使用権の設定を受け、日本国内において「バイアグラ錠」(以下、原告ファイザー製薬が日本国内において販売している「バイアグラ錠」を「本件原告バイアグラ錠」という。)を販売している(弁論の全趣旨)。
(4) 本件各商標は、平成10年4月より前から、日本国内において、原告らを含むファイザーグループの業務に係る本件原告バイアグラ錠を表示するものとして、広く知られており、かつ、著名である。
(5)ア 東京都台東区(以下略)所在の安井堂インターナショナルの店舗(以下「本件店舗」という。)に設けられた看板(以下「本件看板」という。)には、別紙被告標章目録一(3)(以下「被告標章一(3)」という。別紙被告標章目録については、以下同様の略語を用いる。)及び被告標章二(2)が記載されている。また、「バイアグラ個人輸入代行サービスのご案内」(以下「本件案内書」という。)、「バイアグラご愛用のしおり」(以下「本件しおり」という。)、「個人輸入代行取扱商品」(以下「本件取扱商品」という。)などの書類には、被告標章二(2)が記載されている。さらに、本件しおりには、被告標章一(3)が記載されていた。
イ URLが「http://bekkoame.ne.jp/ro/yasuido/」である安井堂インターナショナルのウェブページ(以下「本件ウェブページ1」という。)には、被告標章一(1)及び二(1)が記載されていた。また、本件ウェブページ1とリンクしたURLが「http://chao.pos.to/viagra」であるウェブページ(以下「本件ウェブページ2」という。)の「お申し込みフォーム」(以下「本件申込フォーム」という。)及び「輸入代行依頼書」(以下「本件依頼書」という。)には、被告標章二(2)が記載されるとともに、本件ウェブページ2のURL及びviagra@ha.bekkoame.ne.jpとのeメールアドレスの一部として、被告標章一(2)が使用されていた。
 その後、上記ウェブページは変更され、本件ウェブページ2から自動的にジャンプする、URLが「http://yasuido.com/international/」であるウェブページ(以下「本件ウェブページ3」という。)に、被告標章三が記載されている。
(6)  被告標章と本件各商標はいずれも類似する(弁論の全趣旨)。
2 本件は、原告らが、被告らに対し、被告らは、上記1(5)のとおり被告標章を使用しているところ、これらの行為は、本件各商標権を侵害する又は不正競争行為に当たると主張して、原告ファイザー・インクは、商標権又は不正競争防止法3条により、原告ファイザーは、不正競争防止法3条により、これらの行為の差止め等を求めるとともに、原告らが、商標権侵害又は不正競争防止法4条により、これらの行為による損害の賠償を求める事案である。
第3 争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点
(1) 被告らの行為が、ファイザー・インク製のバイアグラ錠であると称する錠剤(以下「本件被告錠剤」という。)の輸入及び販売に当たるか
(2) 被告らの行為が本件被告錠剤の輸入及び販売に当たるとされた場合に、本件各商標権の侵害となるか
(3) 被告らの行為が本件被告錠剤の輸入代行に当たるとされた場合に、本件各商標権の侵害となるか
(4) 被告らの行為が本件被告錠剤の輸入及び販売に当たるとされた場合に、不正競争行為となるか
(5) 被告らの行為が本件被告錠剤の輸入代行に当たるとされた場合に、不正競争行為となるか
(6) 被告Aから被告会社への安井堂インターナショナルの営業譲渡の有無
(7) 上記営業譲渡があったとされた場合に、被告らが相被告の行為についてそれぞれ責任を負うか
(8) 損害の発生及び額
2 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告らの主張)
 被告らは、本件被告錠剤を輸入し、顧客に販売している。その根拠は、次に述べるとおりである。
ア 本件被告錠剤は、米国にあるオールインタナショナルから、米国にあるヨシダコーポレーション及び被告らを経て、顧客に届けられるが、ヨシダコーポレーションと被告らは、人的、組織的、業務内容的、会計的・経理的観点から見ると、実質的に一体であるということができる。ヨシダコーポレーション及び被告会社は、被告A(以下「被告A」という。)及びその弟であるBによって統一的に組織され、経営されているものである。また、ヨシダコーポレーションと被告らとの間の金銭の授受は極めて杜撰であり、両者の会計は分離していない。
 そして、本件被告錠剤を輸入して、顧客に販売しているのは、実質的に一体であるヨシダコーポレーション及び被告らであって、オールインタナショナルではない。そのことは、次の各事実から明らかである。
(ア) 本件被告錠剤の代金の支払が、顧客ごとに個別になされるのではなく、これとは対応せずに、被告らからヨシダコーポレーションに送金され、オールインタナショナルに対して、支払われている。
(イ) 本件被告錠剤の送付が個々の顧客との契約に対応していない。米国において、個々の契約とは無関係に、被告ら宛に本件被告錠剤がまとめて送付され、被告らにおいて、これを個々の顧客に分別している。本件被告錠剤の送付前には、オールインタナショナルに対し、顧客の氏名や送品内容について一切開示がなく、同社は、個々の契約内容について、事前事後を問わず、一切把握していない。
(ウ) 本件被告錠剤の「輸入代行」の申込方法も、顧客に代わってオールインタナショナルとの契約を成立させるというようなものではない。
(エ) オールインタナショナルは、企業(団体)を相手にする卸売業しか行っていないし、個人向けの販売をしていたとしても、注文者の氏名・住所等が特定していない場合には販売をしていない。
(オ) 本件被告錠剤の輸入に伴う為替差損は、顧客ではなく、被告らが負担している。また、不足分や破損品があった場合、被告らが占有する同種の物である他の本件被告錠剤を顧客に提供している。
イ 仮に、上記アの主張が認められないとしても、被告らは、次のとおり、顧客の個人輸入を代行しているものではなく、本件被告錠剤を輸入して、顧客に販売しているものということができる。
(ア) 適式な代行といえるには、@本人において自己が代行人に対し代行人による所定の事務処理の対価として所定の事務処理料を支払うべき義務を負うことが認識・理解されること、A本人の名義が、代行人により、相手方に対し、単に契約の法律的効果の一部のみではなく、その全部が本人に帰属し、代行人には契約の法律的効果が一切帰属しないことを認識・理解し得る程度に、示されること、B本人において、他の法制度と区別しうる程度に、自己が、代行人に対し、事務を処理してもらい、そのために代行権を授与するものであることが認識・理解されることが要件であり、また、その認定に当たっては、C契約の経済的リスクを本人と代行人のいずれが負担しているか、D本人から代行人へ委任状等が交付され、代行人から相手方へ委任状等が提示されたか否か、E代行者が、あたかも特定人(相手方)の代理店のように、継続的に、不特定人(本人)に対し、特定人(相手方)との間での同人の取扱いに係る商品又はサービスに関する契約締結の代行の申込みを誘引して、不特定人(本人)の申込に基づき同契約締結を代行し、特定人(相手方)から、その手数料を受領しあるいは特に安価に商品又はサービスの提供を受ける等の便益を享受しているか等の事情が有力な考慮要素とされるべきである。
(イ) しかるに、被告らの行為は、@少なくとも本件訴訟が提起されたときまでは輸入代行手数料が本件被告錠剤の価格等に包含される形式で表示されており、また、ヨシダコーポレーションの手数料が明示されていないから、顧客において、自己が被告らに対し被告らによる輸入代行の対価として如何なる金額の手数料を支払うべき義務を負うものか認識・理解されないこと、Aヨシダコーポレーションは、オールインタナショナルに対し、被告らから送付された顧客の宛名ラベルを示しておらず、顧客本人に直送される場合にその控えがオールインタナショナルに届けられるのみであるところ、日本語で記載された上記ラベルを同社は理解できないから、顧客名義が、被告らにより、オールインタナショナルに対し、同社において、顧客が輸出契約の相手方そのものであり、被告らには輸出契約の法律的効果が一切帰属しないことを認識・理解しうる程度に示されていないこと、B被告らは、顧客に、個人輸入代行に係る顧客、代行業者及び輸出元の間における法律関係を十分に説明しておらず、また、インターネットやファックスで申し込んだ顧客から委任状の交付を受けていないうえ、不良品については、すべての費用を被告らが負担して新品と取り替えているから、顧客が、他の法制度と区別しうる程度に、自己が、被告らに対し、輸入を代行してもらい、そのために代行権を授与することが認識・理解され得ないこと、Cドル建てによる本件被告錠剤の価格を包含する費用が円建ての固定金額で表示されており、輸出契約における為替差損という経済的リスクを顧客ではなく被告らが負担していること、D被告らから輸出元であるオールインタナショナルへ委任状等が提示された事実はないこと、E被告らは従来から特定のPTPパッケージ包装の本件被告錠剤を取り扱っており、少なくとも平成11年11月17日以前には被告らが本件被告錠剤を貯蔵しており、また、本件被告錠剤の注文者に係る返信用の宛名ラベルを作成してヨシダコーポレーションに送付しているうえ、顧客に対し不良品・破損品の交換のサービスを行っていたから、被告らは、あたかも特定の輸出元の代理店のように行動しており、特定の輸出元から、何らかの便益を享受していると理解されること、及び取引書類が「売上帳」とされ、本件被告錠剤の数量、単価、売上金額、受入金額及び差引き残高が記載されている等本件被告錠剤を顧客に販売する行為としての帳簿処理が行われていることからすると、本件被告錠剤を輸入し、顧客にこれを販売する行為と評価されるべきである。
(被告らの主張)
ア 被告らの行為は輸入ではなく、顧客個人が輸入する手続を代行しているにすぎない。
 輸出元はオールインタナショナル、ピルボックスファーマニー等であって、被告らがヨシダコーポレーションを介して、顧客の個人輸入手続を代行しているものである。
 被告らは、個人輸入を希望する顧客からの依頼があって初めてヨシダコーポレーションを介してオールインタナショナルなどに注文をすること、来店の顧客には、輸入代行申込書への記入及び個人輸入代行委任状の作成を求め、個人輸入と商品の説明をし、その説明書面に署名を求め、「輸入代行代金お預かり書」を発行して代金を預かるという手続を経ており、この際、厚生大臣宛の「念書」及び「(医薬品)輸入報告書」も預かること、FAXによる申込みの場合、「バイアグラ個人輸入代行サービスのご案内」等の書類を送付し、「輸入代行依頼書」を受け取っていること、代金としては、商品代金のほかに代行手数料を受領し、被告会社の売上帳には、手数料のみが記載され、商品代金は記帳されていないことからすると、輸入ではなく、顧客個人が輸入する手続を代行していることは明らかである。
イ 原告の主張する要件のうち、Bについては法律の素人である一般人に不能を強いるものである。また、CないしEも代行か否かの判断基準になり得ない。代行契約は諾成・不要式・非典型契約であるから、代行権の授与、これに基づく本人の名での契約の申込みの代行及び相手方の承諾、相手方からの商品の本人への引渡し、代金の支払代行、本人の手数料支払の事実があれば十分である。
ウ(ア) 原告の主張のうち、一部について手数料額が明示されていないことは認めるが、その場合でも代行が有償であることは顧客において十分熟知しているから、明示の区別がないからといって代行でないとはいえない。
(イ) 原告の主張のうち、為替差損の一部を被告らが負担していることは認めるが、差益がある場合もある。また、大幅な変動の場合、円建て価格を何度か変更している。
(ウ) 原告の主張のうち、輸出元に委任状を個々的には提示していないことは認めるが、事前に輸出元から包括的な了解を得ている。
(エ) 原告の主張のうち、インターネットでの申込みでは委任状が使用されていないことは認めるが、ウェブページで輸入代行の説明をしたうえ、「上記内容について理解し、個人輸入の代行を委任します」との欄をクリックしないと申込みができないから、委任を受けていることに相違ない。また、平成12年10月13日ころまではこのような欄が無かったが、個人輸入の説明や代行の説明の後にある「理解しました。」のボタンをクリックしなければ申込みができないようになっていた。
(オ) 原告の主張のうち、被告らが少なくとも平成11年11月17日以前には本件被告錠剤等を不良品・破損品の交換のための授与目的等で貯蔵していたことは認めるが、この交換は顧客に対するサービスであって、これがあるからといって代行が輸入になるわけではない。
(2) 争点(2)について
(原告らの主張)
ア 本件被告錠剤は、本件各商標の指定商品である「薬剤」に該当する。
イ(ア) 被告らの行為のうち、本件ウェブページ、本件看板、本件案内書に被告標章を付する行為は、本件被告錠剤に関する広告に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為に当たる。
(イ) 被告らの行為のうち、本件案内書、本件しおり、本件取扱商品、本件申込フォーム及び本件依頼書に被告標章を付する行為は、本件被告錠剤に関する取引書類(本件取扱商品については、取引書類又は定価表)に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為に当たる。
(ウ) 被告らの行為のうち、被告標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた本件被告錠剤を輸入し、顧客に被告標章が表示された本件しおり等の書類を添付して販売する行為は、本件被告錠剤に被告標章を付したものを譲渡し、引き渡し、輸入する行為に当たる。
ウ 本件被告錠剤がファイザー・インク製のものであることは立証されていないこと、本件被告錠剤は、米国において、連邦食品医薬品及び化粧品法に違反する違法なものとして処方、販売されたこと、被告らは、薬事法の承認を得ないで、違法に本件被告錠剤を輸入販売しており、国民の健康と安全に悪影響を及ぼすおそれがあること、本件ウェブページ1における広告や、本件ウェブページ3と一体をなす「バイアグラファン倶楽部」のウェブページは、バイアグラ錠の品質用途について著しい誤解を生じさせ、バイアグラ錠や本件各商標の評判やグッドウィルを著しく損なうこと、本件原告バイアグラ錠は、25ミリグラムと50ミリグラムのものしかなく、本件被告錠剤のうち100ミリグラムのものは存在しないこと、本件原告バイアグラは、2錠宛PTPパッケージに包装されたうえで、20錠入りの小箱(25ミリグラム)又は20錠もしくは50錠入りの小箱(50ミリグラム)に包装されているところ、本件被告錠剤の多くは、ファイザーグループの許諾無く、3錠、6錠又は15錠に小分けしてPTPパッケージに包装し直されたものであり、その包装形態においても本件原告バイアグラ錠とは全く異なること、本件原告バイアグラ錠は医師の慎重かつ厳格な診断・処方により患者に投与されているのに対し、本件被告錠剤はこのような診断や処方がされないで消費者に引き渡されていること、被告らの広告が薬事法68条等に違反した違法なものであることからすると、被告らの行為は、真正商品の並行輸入に該当せず、違法性は阻却されない。
(被告らの主張)
 原告らの上記主張は争う。
 本件被告錠剤は、ファイザー・インク製である。
 被告らは、平成11年7月ころまでは、PTPパッケージではなくボトルを使用していた。30錠入りのボトルはファイザー・インクのものであり、15錠以下のボトルは、処方薬を入れてよいとされている他社製のものである。
(3) 争点(3)について
(原告らの主張)
ア 被告らによる本件被告錠剤の輸入代行は、本件各商標の指定商品である「薬剤」と類似する。
(ア) 商品と役務が類似するか否かは、当該役務及び商品が、親子会社の関係、系列関係などの密接な営業上の関係又は同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するかあるいはグループ企業にかかる役務及び商品であると誤信するおそれがあるかという観点から検討すべきである。
(イ) 薬剤の輸入代行を依頼する者は、代行の結果得られる薬剤自体に興味があるところ、薬剤という商品は、薬剤の輸入代行の結果として得られたものと同一であり、用途も同一であること、薬剤の需要者とその輸入代行を依頼する需要者は同一であること、需要者のほとんどを占める患者にとって、薬局で薬剤を購入するのと、輸入代行業者に代行手数料及び商品代金を支払って薬剤を入手するのとの間に明確な差異を見いだしがたいことからすると、薬剤の販売者と輸入代行者の各事業主体について同一の商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信するおそれは高い。 商品の製造販売とその輸入代行を同一の事業者が行うことも何ら奇異ではないし、現実に、被告と原告とを誤認した事例も存在する。
(ウ) したがって、被告らによる本件被告錠剤の輸入代行は、本件各商標の指定商品である「薬剤」と類似する。
イ(ア)  被告らの行為のうち、本件ウェブページ、本件看板、本件案内書に被告標章を付する行為は、本件被告錠剤の輸入代行という役務に関する広告に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為に当たる。
(イ) 被告らの行為のうち、本件案内書、本件しおり、本件取扱商品、本件申込フォーム及び本件依頼書に被告標章を付する行為は、本件被告錠剤の輸入代行という役務に関する取引書類(本件取扱商品については、取引書類又は定価表)に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為に当たる。
(ウ) 被告らの行為のうち、被告標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた本件被告錠剤を代行して輸入し、顧客に被告標章が表示された本件しおり等の書類を添付して引き渡す行為は、本件被告錠剤の輸入代行という「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」に当たる。
ウ 上記(2)ウの原告の主張のとおり、被告らの行為は、真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものではない。
(被告らの主張)
 商品と役務の類否については、@役務の提供と商品の製造・販売が同一の事業者によって行われているのが一般的か、A役務と商品の用途が一致するか、B役務の提供場所と商品の販売場所が一致するか、C需要者の範囲が一致するかを総合的に考慮したうえで個別具体的に判断すべきである。
 しかるに、@本件被告錠剤の製造販売とその輸入代行が同一事業者によって行われるのが一般的とはいえないし、A被告らの行為は個人輸入の注文を受けて発注及び代金支払を注文者に代わってするものであって、商品と役務の用途の一致もなく、B本件原告バイアグラ錠の販売は病医院又は薬局に限られるのに対し、被告らの行為はどこでも行われるから、提供場所と販売場所が一致することもない。結局、Cについて一致することがあり得るのみである。
 本件各商標を使用しての本件原告バイアグラ錠の製造・販売と被告標章を使用しての本件被告錠剤の個人輸入代行業務との出所の誤認・混同が一般的であるとはいえない。
 したがって、被告らによる本件被告錠剤の輸入代行は、本件各商標の指定商品である「薬剤」と類似しない。
(4) 争点(4)について
(原告の主張)
ア(ア)  被告らの行為のうち、本件ウェブページ、本件看板、本件案内書、本件取扱商品、本件しおり、本件申込フォーム及び本件依頼書に被告標章を付する行為は、自己の業務に係る本件被告錠剤又はその輸入販売業を表示するものとして、使用しているというべきである。
(イ) 被告らの行為のうち、被告錠剤を輸入し、顧客に被告標章が表示された本件しおり等の書類を添付して販売する行為は、自己の業務に係る本件被告錠剤又はその輸入販売業を表示するものとして被告標章を使用した本件被告錠剤を譲渡し、引き渡し、輸入しているというべきである。
イ 被告らの行為により、特に勃起不全患者及びその予備群等の間において、被告らの業務にかかる本件被告錠剤又はその輸入販売業が、原告らと緊密な関係を有する者の業務にかかる商品又は営業であると混同されるおそれがある。
ウ 上記(2)ウの原告の主張のとおり、被告らの行為は、真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものではない。
(被告の主張)
ア 原告らの不正競争防止法に基づく請求は時機に遅れたものであり却下されるべきである。
イ 原告の上記主張は争う。
(5) 争点(5)について
(原告の主張)
ア(ア)  被告らの行為のうち、本件ウェブページ、本件看板、本件案内書、本件取扱商品、本件しおり、本件申込フォーム及び本件依頼書に被告標章を付する行為は、自己の業務に係る被告錠剤又はその輸入代行業を表示するものとして、使用しているというべきである。
(イ) 被告らの行為のうち、本件被告錠剤を代行して輸入し、顧客に被告標章が表示された本件しおり等の書類を添付して引き渡す行為は、自己の業務にかかる本件被告錠剤又はその輸入代行業を表示するものとして被告標章を使用した本件被告錠剤を引き渡しているというべきである。
 不正競争防止法2条1項1号及び2号にいう「引渡し」とは、物に対する事実上の移転を意味するから、少なくとも、被告らが、本件店舗において、顧客に対し、本件被告錠剤を、本件しおり等の書類を添付して引き渡す行為は、「引渡し」に当たる。
イ 被告らの行為により、特に勃起不全患者及びその予備群等の間において、被告らの業務にかかる本件被告錠剤又はその輸入代行業が、原告らと緊密な関係を有する者の業務に係る商品又は営業であると混同されるおそれがある。
ウ 上記(2)ウの原告の主張のとおり、被告らの行為は、真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものではない。
(被告の主張)
ア 原告らの不正競争防止法に基づく請求は時機に遅れたものであり却下されるべきである。
イ 原告の上記主張は争う。
 被告標章は被告らの輸入代行業を表示するものとして使用しているものではない。輸入代行の対象商品として約10品目のうちの1つとして使用しているにすぎない。
 不正競争防止法2条1項1号にいう「引渡し」は、引き渡すことによって他人の商品又は営業と混同を生じさせる場合をいい、同項2号にいう「引渡し」は、自己の商品等表示として引き渡す場合をいうから、被告らの行為はこれらに当てはまらない。被告らは、輸入代行業を表示するものとして被告標章を使用した本件被告錠剤を引き渡しているものではない。また、被告らは、各顧客宛の本件被告錠剤を「気付」の形で一時的に保管しているにすぎず、事実上の支配はその顧客にあり、それを取り次ぐにすぎないから、被告らの行為は、「引渡し」に当たらない。
(6) 争点(6)について
(原告らの主張)
 両被告間での営業譲渡の契約書はなく、対価も授受されていないこと、営業譲渡後も店舗の賃貸借名義や営業にかかるeメールアドレスが変更されていないこと、被告らが上記営業譲渡の日とする平成11年9月1日から、被告らが本件訴訟において営業譲渡を主張し始めるまでの間に、安井堂インターナショナルの営業に係る広告、取引書類等で、被告会社の名称が記載されているものが皆無であることからすると、被告らの主張する営業譲渡は実際には行われておらず、安井堂インターナショナルの営業主体は被告Aである。
(被告らの主張)
 被告Aは、平成11年9月1日、被告会社に安井堂インターナショナルの営業を譲渡したものである。
 ライフボードヤスイドウの銀行口座は平成11年11月12日に開設され実際に使用されているし、被告Aのeメールアドレスは平成11年9月1日よりかなり前から使用されていない。安井堂インターナショナルの営業において、被告会社の名称は、領収書やウェブページのインデックスページで表示している。
(7) 争点(7)について
(原告らの主張)
ア 被告会社は小規模閉鎖会社であり、その全株式を被告Aが所有していること、被告Aが安井堂インターナショナルの店主として事実上代表として活動していること、同社のウェブページのドメインも同人が登録名義人であることなどからすると、被告会社は、実質的に被告Aの支配・経営にかかる個人企業である。被告Aから被告会社へ安井堂インターナショナルの営業が譲渡されたとしても、安井堂インターナショナルの営業の実態は、財産的にも営業的にも何ら変更が無い。
 したがって、被告Aと被告ライフボートは、法人格否認の法理により、法的に実質同一の主体と評価されるべきものであるから、両被告は、当該営業譲渡の前後を問わず、安井堂インターナショナルの営業の全体について損害賠償の責を負う。
イ 仮に、両者が法的に別個の主体と評価されるとしても、
(ア) 被告Aは、被告会社の代表取締役であり、上記営業譲渡後の安井堂インターナショナルの営業についても、その業務を悪意又は重過失により遂行した代表取締役として損害賠償責任を負う。
(イ) 被告会社は、平成11年9月1日より前の安井堂インターナショナルの行為について、商号続用営業譲受人として、商法26条1項により損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 原告らの主張は争う。
 被告会社は、BがCから会社を買って、役員、商号等を変更したものであり、Bが株式を全部有し、実質的にも同人が経営している。
(8) 争点(8)について
(原告らの主張)
ア 被告らは、平成10年4月から本件被告錠剤を輸入販売し、又はその輸入代行を行っている。
 本件被告錠剤にかかる収入は、平成11年9月1日から平成12年7月7日までで、3584万2440円である。
 平成10年4月1日から平成11年8月31日までの収入は、1月あたり平均300万円を下らないから、この期間の収入は5100万円を下らない。
 したがって、被告らが、本件被告錠剤の輸入販売又はその輸入代行によって得た利益は、この合計額である8684万2440円である。
イ ヨシダコーポレーションは、平成10年4月から本件被告錠剤を販売しているところ、本件被告錠剤1錠の推定卸売価格は約6ドル(720円)であり、被告らがヨシダコーポレーションに支払う商品代金は最低でも1366円であるから、本件被告錠剤1錠当たりの利益は少なくとも600円を下らない。したがって、同社は1か月当たり少なくとも360万円の利益を得たものであり、平成10年4月1日から平成12年7月7日まで、少なくとも9801万2903円の利益を得た。
 ヨシダコーポレーションと被告らは、実質的に一体であり、独立した法人格を否定すべきであるから、被告らは、原告らからのヨシダコーポレーションの得た利益にかかる損害賠償請求に対し、ヨシダコーポレーションの利益であることを理由に拒むことは許されない。
ウ 原告らは、被告らの行為によって本件訴訟の提起を余儀なくされ、原告訴訟代理人らに弁護士費用の支払を約し、本訴の提起追行を依頼せざるを得なかった。原告らは、これにより、少なくとも1848万5534円の損害を被った。
エ 原告らの間の約定によると、本件においては、上記損害賠償金の6割に当たる1億1985万5140円につき原告ファイザー・プロダクツが損害賠償請求権を有し、これを控除した額である7990万3427円につき原告ファイザー製薬が損害賠償請求権を有する。
オ これらの内金として、原告ファイザー・プロダクツは各被告に対し5677万8081円、原告ファイザー製薬は各被告に対し、3785万2055円を請求する。
(被告らの主張)
 損害の発生及び額については争う。
 本件被告錠剤は、米国法人であるピルボックス又はオールインタナショナルが、ファイザー・インクから購入したものを直接輸入しているものであるから、ファイザーグループとして見る限り、被告らの行為によって、なんら損害は発生していない。
 被告らは、手数料収入を得るために経費を要しており、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの1年間に本件被告錠剤の輸入代行を含む営業の経費として3763万6595円を要し、被告ら取扱商品のうち7割が本件被告錠剤であるから、本件被告錠剤の輸入代行には、1か月当たり219万5468円(3763万6595÷12×0.7)の経費を要した。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 証拠(甲34ないし36、39ないし41、77、92、乙3、9、12、13、24(枝番をすべて含む)、26(枝番をすべて含む)、乙28の1、2、乙32、35、被告A本人)と弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる(なお、以下の事実のうち、平成11年9月1日に被告Aから被告会社に安井堂インターナショナルの営業が譲渡されたものと認められることは、後記3(1)のとおりである。)。
 被告Aは、平成7年ころ、本件店舗において、輸入ランジェリーショップであるパンテーラを開店し、平成8年10月15日ころ、屋号を安井堂インターナショナルとし、ランジェリーやアダルトグッズ等の販売等をするようになったものであるが、平成10年5月ころから、弟であるBが米国に在住していたこともあって、本件被告錠剤を取り扱うようになった。
 本件被告錠剤の取扱いは、日本においては、被告Aが、米国においては、Bが、それぞれ役割を分担して行うこととし、被告Aが、日本において、本件被告錠剤の「輸入代行依頼」を受けて、それを、米国にある、Bが実質上の代表者を務めるヨシダコーポレーションに取り次ぎ、ヨシダコーポレーションが、本件被告錠剤を、米国において入手していた。
 当初取り扱っていたのは、100ミリグラム30錠入り、100ミリグラム10錠入り、50ミリグラム30錠入りの3種類であり、このうち、100ミリグラム10錠入りは、ファイザー・インクの製品には存在しないものであった。遅くとも平成11年5月ころには、PTPパッケージに包装し直したものも扱うようになったが、これは、15錠入りのPTPパッケージに包装し直したものである。その後、PTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになり、3錠、6錠又は15錠に小分けをしてPTP包装したもののみを扱うようになった。
 平成11年6月ころ、株式会社衣舞という会社を買い取って、同月30日、社名を株式会社ライフボートと変更し、被告Aが同社の代表取締役となった。これが被告会社である。同年9月1日から、安井堂インターナショナルは、同社が営業譲渡を受けて営業主体となり、安井堂インターナショナルという名称で、従前どおりの営業を続けた。
 同社は、平成12年6月30日に、現在の社名(被告会社)に変更したが、その際、被告Aは同社の代表取締役を退任し、Bの友人であるDが同社の代表取締役に就任したが、同人は名目上の代表者で、実質上の代表者は、Bである。
 被告会社もヨシダコーポレーションも、被告AやBの親族や友人を役員とする小規模な同族会社である。
(2) 以下の証拠と弁論の全趣旨によると、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになった後における安井堂インターナショナルの営業形態は、次のとおりであることが認められる。
ア 顧客からの注文を受け、代金を受領する方法
(ア) 本件店舗における申込みの場合(乙4の1ないし3、乙16、乙20の1ないし4、乙32、被告A本人)
 初回注文者には、個人輸入代行申込書及び個人輸入代行委任状に氏名、住所等を記入させ、個人輸入と商品の説明をし、その説明が記載された書面に署名させ、輸入代行代金お預かり書を発行してして代金を受領する。再注文者には、個人輸入代行申込書に氏名、住所等を記入させ、輸入代行代金お預かり書を発行して代金を受領する。
 代金は、本件被告錠剤を顧客に送付する場合、その全額を申込時に受領する。本件被告錠剤を顧客が本件店舗に受取りに来る場合、注文数量が多いときは、一定額のみを申込時に受領し、商品引渡時に残額を受領するが、注文数量が少ない場合、その全額を申込時に受領する。
(イ) 郵便、ファックスによる申込みの場合(甲7、37、38、乙14、15、17、32、被告A本人)
  初回注文者の場合、顧客に、「バイアグラ個人輸入代行サービスのご案内」(本件案内書)、輸入代行依頼書(本件依頼書)を郵送又はファックスし、顧客が輸入代行依頼書に氏名等を記入して安井堂インターナショナルに郵送又はファックスする。再注文者の場合、顧客に、輸入代行依頼書を郵送又はファックスし、顧客が氏名等を記入した輸入代行依頼書を安井堂インターナショナルに郵送又はファックスする。
  代金は、初回注文者は全額前金で銀行振込又は現金書留によって支払い、再注文者は、来店引取りの場合は来店時に支払い、それ以外の場合は全額前金で支払う。
(ウ)  インターネットによる申込みの場合(甲5の3ないし7、乙19、32、被告A本人)
 初回注文者は、個人輸入の説明等をしたページを見ることになっており、そこにある「理解しました」と記載されたバナーをクリックすると、申込フォームが表示されるので、申込フォームに入力する。このバナーの記載は、平成12年11月16日に、「理解しました」から「理解して代行を委任しました」に変更された。再注文者は、リピーター用ページから申込フォームに行くか、又はeメールで申し込む。
 代金は、初回注文者は全額前金で銀行振込又は現金書留によって支払い、再注文者は、来店引取りの場合は来店時に支払い、それ以外の場合は全額前金で支払う。
(エ) なお、いずれの申込みにおいても、顧客に対し、本件被告錠剤の購入元がオールインタナショナルであることの開示はされない。また、顧客は、手数料と商品価格を区別して金額が示されていない一定額を、代金として日本円で支払うのみであったが、その後、3錠、6錠の場合は、手数料と商品価格を区別して金額が示されていない一定額を、15錠と30錠(15錠PTP包装2個)の場合は、手数料と商品価格を区別して金額が示されている合計額である一定額を、代金として日本円で支払うようになり、さらにその後、3錠、6錠の場合も、手数料と商品価格を区別して金額が示されるようになった。いずれの場合も、顧客は、為替差損を負担しない。
(上記(ア)ないし(ウ)の各証拠、乙21の1ないし4、乙29)
イ 安井堂インターナショナルがヨシダコーポレーションに取り次ぐ方法(乙6の1及び2、乙32、被告A本人、弁論の全趣旨)
 安井堂インターナショナルは、ヨシダコーポレーションに対し、週2回程度、顧客の氏名、商品の種類等を、宛名シールとして使うことができる一定のフォームの用紙に記入して、ファックスで送信している。
 安井堂インターナショナルは、ヨシダコーポレーションに対し、顧客から受領した個人輸入代行委任状、輸入代行依頼書等の書類を送付していないし、これらは、オールインタナショナルに示されていない。
ウ ヨシダコーポレーションが、オールインタナショナルから本件被告錠剤を受け取って日本へ発送する方法(甲91の3、甲112の1、乙5、32、35、被告A本人)
 ヨシダコーポレーションは、米国にある医薬品販売業者であるオールインタナショナルの中に部屋を借りている。ヨシダコーポレーションは、オールインタナショナルから、ボトルに入った本件被告錠剤を受け取り、それをボトルから出して、3錠、6錠又は15錠に小分けしてPTP包装し、それを個々の顧客ごとに封筒に入れて、上記イの宛名シールを貼るなどして日本に発送している。その封筒には、発送者について「ALL INTERNATIONAL INC C/O YOSHIDA CORP」と記載されている。
 顧客が直接自宅に送付することを希望する場合は、上記発送において、直接自宅宛てに発送する。顧客が安井堂インターナショナルにいったん送ったのち安井堂インターナショナルからの送付を希望する場合及び本件店舗での受取りを希望する場合には、安井堂インターナショナルに発送する。大部分の顧客は、直接自宅に送付することを希望しないので、直接自宅宛てに送付される例は少ない。
 ヨシダコーポレーションは、オールインタナショナルに、週1回程度、まとめて代金を支払っている。
 なお、オールインタナショナルのウェブページには、同社が個人向けの販売をしない旨及び注文者の氏名や住所を明確に記載することを要求する旨が記載されている。
エ 顧客に本件被告錠剤を引き渡す方法(甲37、甲91の3、甲130の4、乙5、18、32、被告A本人)
(ア) 米国から直接顧客に送付する場合
 上記ウのとおり、米国から直接各顧客に送付される。
(イ) 顧客が安井堂インターナショナルにいったん送ったのち安井堂インターナショナルからの送付を希望する場合
 上記ウのとおり、米国から安井堂インターナショナル宛に送付され、それを安井堂インターナショナルが顧客の希望する場所に送付する。その際に、安井堂インターナショナルは、封筒を開けて、内容物がまちがいないか、破損していないかを確認した後、顧客の希望する場所に送付する。
(ウ) 本件店舗における受取りの場合
 上記ウのとおり、米国から安井堂インターナショナル宛に送付され、顧客は、申込受付書と、初回注文者は安井堂インターナショナルが郵送した住所確認はがきを持参して、本件店舗で受け取る。その際に、安井堂インターナショナルは、封筒を開けて、内容物がまちがいないか、破損していないかを確認した後、顧客に渡す。
(エ) 以上いずれの場合にも、「バイアグラご愛用のしおり」(本件しおり)が、本件被告錠剤と共に、送付又は渡される。 
 また、不足分や破損品があった場合、その分は、安井堂インターナショナルが有する他の本件被告錠剤を顧客に交付する。
(3) 上記(1)、(2)認定の事実によると、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになった後においては、ヨシダコーポレーションは、オールインタナショナルから、ボトルに入った本件被告錠剤を受け取り、それをボトルから出し、小分けしてPTP包装し、それを封筒に入れて、日本に発送していること、オールインタナショナルは、ヨシダコーポレーションに本件被告錠剤を交付する際、安井堂インターナショナルの顧客についての情報を実質的には受領していないこと(この点について、被告Aは、本人尋問において、事後的には、個々の顧客についての情報がオールインタナショナルに知らされていると供述するが、同供述に証拠(甲91の3、乙6の1)を総合すると、上記のとおり知らされているとしても、宛先が日本語で記載された郵送の控えが、日本語を解する者がいないオールインタナショナルに渡されているのみであると認められるから、オールインタナショナルが、個々の顧客についての情報を管理できるような形で渡されているとは考えがたい。)、安井堂インターナショナルが顧客から受領した輸入代行委任状等も、オールインタナショナルには示されていないこと、オールインタナショナルは、ヨシダコーポレーションから、週1回程度、まとめて代金を受け取っており、顧客ごとに代金を受け取っているわけではないこと、オールインタナショナルのウェブページにおいて同社が個人向けの販売をしない旨や販売の際注文者の氏名や住所を明確に記載することを要求する旨が記載されていること、安井堂インターナショナルの個々の顧客も購入元がオールインタナショナルであることの認識はないこと、不足分や破損品があった場合、安井堂インターナショナルがこれを顧客に提供していること、安井堂インターナショナルから顧客に示される商品価格と輸入代行手数料との金額の区別は明確でなかったし、為替差損を個々の顧客が負担することもないこと、以上の事実が認められる。また、オールインタナショナルが安井堂インターナショナルの個々の顧客に対して、本件被告錠剤の説明書や能書はもとより、何らかの書類を発行していることを認めるに足りる証拠はない。以上述べたところからすると、安井堂インターナショナルの個々の顧客がオールインタナショナルから本件被告錠剤を輸入して買い受けているものと認めることはできない。ヨシダコーポレーションが、オールインタナショナルから本件被告錠剤を買い受けているものと認められる。
 さらに、上記(1)、(2)認定の事実によると、本件被告錠剤の取扱いは、日本においては、被告Aが、米国においては、Bが、それぞれ役割を分担して行うこととして始められたものであって、平成12年6月30日からは、日本においても、米国においても、Bが経営する小規模な同族会社が行っていること、大部分の場合、本件被告錠剤は、いったん安井堂インターナショナルに送付され、そこで、内容を確認した後、顧客に渡されること、以上の事実が認められる。また、被告A又は被告会社からヨシダコーポレーションへの代金の送金がどのようにしてされているかについて、被告Aの陳述書(乙32)には、商品代金を米国のヨシダコーポレーションへ送金するほか、Bに手渡したり、指定された国内口座に振り込む旨の記載があるが、その事実を裏付ける送金関係等の書証は何ら提出されていないから、真にどのようにして支払がされているか明らかではない。これらのことに、不足分や破損品があった場合、安井堂インターナショナルがこれを顧客に提供していること、商品価格と輸入代行手数料との金額の区別が明確に示されていなかったことや為替差損を個々の顧客が負担することはないこと等の上記(1)、(2)認定の他の事実を総合すると、被告A又は被告会社(安井堂インターナショナル)は、ヨシダコーポレーションと一体となって、ヨシダコーポレーションがオールインタナショナルから買い受けた本件被告錠剤を米国から輸入して顧客に販売しているものと認めることができる。
 なお、被告Aの陳述書(乙32)には、ヨシダコーポレーションがオールインタナショナルに対し、個人輸入申込者の情報を提示して配送を依頼しているとする記載があるが、上記認定の事実に照らすと、これを信用することができない。
 また、上記(1)、(2)認定の事実によると、安井堂インターナショナルは、顧客の依頼があって初めてヨシダコーポレーションへ取り次ぐこと、本件被告錠剤は、個々の顧客ごとに封筒に入れて日本に送付されること(この点について、原告らは、米国において、個々の契約とは無関係に、被告ら宛に本件被告錠剤がまとめて送付され、被告らにおいて、これを個々の顧客に分別していると主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。)、安井堂インターナショナルは、顧客から、輸入代行に関する書類を受け取っていること、以上の事実が認められるが、顧客の依頼があって初めて取り次ぐことや本件被告錠剤が個々の顧客ごとに封筒に入れて日本に送付されることは、被告らの行為が輸入と売買であることと矛盾するものではないし、安井堂インターナショナルは、顧客から、輸入代行に関する書類を受け取っているからといって、上記のような実態を有する被告らの取引が輸入と売買ではなく輸入代行となるものではないというべきである。
(4) 上記(1)、(2)認定の事実に証拠(乙24(枝番をすべて含む)、26(枝番をすべて含む)、32、被告A本人)と弁論の全趣旨を総合すると、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになる前の時期においては、ヨシダコーポレーションが、米国において、本件被告錠剤を入手し、必要な小分け等を行った後に、それを封筒に入れて、日本に発送していたこと、顧客が申し込む方法や本件被告錠剤を顧客に引き渡す方法は、上記(2)ア及びエで認定したところと基本的には変わりないこと、米国における本件被告錠剤の入手先とヨシダコーポレーション及び安井堂インターナショナルとの関係は、上記(3)で認定した、オールインタナショナルとヨシダコーポレーション及び安井堂インターナショナルとの関係と同様のものであったこと、ヨシダコーポレーションと安井堂インターナショナルとの関係については、上記(3)で認定したところがあてはまること、以上の事実が認められるから、被告A又は被告会社(安井堂インターナショナル)が、ヨシダコーポレーションと一体となって、ヨシダコーポレーションが米国で入手した本件被告錠剤を米国から輸入して顧客に販売していたものと認めることができる。
2 争点(2)について
(1) 本件被告錠剤が、本件各商標権の指定商品である「薬剤」に該当することは当事者間に争いがない。
(2) 前記第2の1(5)の事実に前記1(2)認定の事実と証拠(甲113)と弁論の全趣旨を総合すると、本件ウェブページ、本件看板、本件案内書に被告標章を付し、本件案内書を交付する行為は、本件被告錠剤に関する広告に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為、本件申込フォーム、本件依頼書、本件しおりに被告標章を付し、本件依頼書、本件しおりを交付する行為は、本件被告錠剤に関する取引書類に被告標章を付して展示し、又は頒布する行為、本件取扱商品に被告標章を付し、これを交付する行為は、本件被告錠剤に関する定価表に被告標章を付して頒布する行為に当たるものと認められる。
 したがって、以上の行為は、業として商品(本件被告錠剤)を輸入販売する者である被告A又は被告会社(安井堂インターナショナル)がその商品について被告標章を使用したものということができる。
(3) 原告は、被告標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた本件被告錠剤を輸入し、顧客に被告標章が表示された本件しおり等の書類を添付して販売する行為は、本件被告錠剤に被告標章を付したものを譲渡し、引き渡し、輸入する行為に当たると主張する。確かに、前記1(2)認定のとおり、顧客に本件被告錠剤が渡される際には、本件しおりが共に渡されているものと認められるが、それのみで、本件被告錠剤に被告標章が付されていると認めることはできないし、被告標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた本件被告錠剤を輸入しているからといって、本件被告錠剤に被告標章が付されていると認めることはできない。また、その他、本件被告錠剤に被告標章が付されているというべき事実は認められない。
(4) 前記1認定の事実によると、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになった後は、本件被告錠剤は、そのすべてがヨシダコーポレーションによってPTP包装に包装し直されたものであるから、本件被告錠剤の輸入販売行為は、真正商品の輸入販売として違法性が阻却されないものというべきである。
 また、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになるより前の時期については、その商品の具体的な入手経路は証拠上明らかではなく、証拠(甲46ないし50の各1、2、甲51、72、甲96の1、2)によると、ファイザー・インク製でない「バイアグラ」と称する錠剤が、ファイザー・インクが販売しているのと同じボトルに入れられて販売されていたことがあったこと、被告会社は、ホームページで、バイアグラの偽物が広く出回っている旨の警告をしていること、以上の事実が認められることをも総合すると、いまだ、本件被告錠剤が、ファイザー・インク製の商品であったとまでは認められない。また、仮に、本件被告錠剤が、ファイザー・インク製の商品であったとしても、前記1認定のとおり包装し直されたものがあったうえ、それ以外のものについても、それがファイザー・インクが出荷してから顧客に渡されまでの間に変更が加えられていないことを認めるに足りる証拠はない。したがって、安井堂インターナショナルがPTPパッケージに包装し直したもののみを扱うようになるより前の時期についても、本件被告錠剤の輸入販売行為が、真正商品の輸入販売として違法性が阻却されるものとは認められない。
3 争点(6)及び(7)について
(1) 被告Aから被告会社に対する営業譲渡について
ア 証拠(甲37、38、乙4の3、乙12、13、15、乙24の6の1、2、乙28の1、2)によると、被告会社の平成11年4月11日から平成12年3月31日までの決算報告書には、2608万2250円の売上げが計上されていること、被告会社は、平成11年11月12日に預金通帳を作成していること、被告会社名を表示した本件依頼書や輸入代行申込書や輸入代行代金お預かり書が存すること、以上の事実が認められ、これらの事実に証拠(乙32、被告A本人)と弁論の全趣旨を総合すると、平成11年9月1日に被告Aから被告会社に安井堂インターナショナルの営業が譲渡されたものと認められる。
イ 証拠(甲5の2、3、4、甲7、34、35、125ないし127、被告A本人)と弁論の全趣旨によると、被告Aから被告会社に営業譲渡の対価が交付されたり、譲渡契約書が作成されたりしていないこと、平成11年9月1日以降も「ヤスイドウA」名義の銀行口座を本件被告錠剤の代金の振込口座として使用されていること、平成11年9月1日以降も本件店舗の賃借人名義は被告Aであること、平成11年9月1日以降も安井堂インターナショナルの営業にかかるeメールアドレスとして表示されているeメールアドレスの登録名義人は被告Aであること、以上の事実が認められる。しかし、前記1(1)認定のとおり、被告会社は被告Aを代表者とする小規模な会社であったのであり、被告会社は安井堂インターナショナルの名称を引き続き使用して従前と同じ形態で営業を行っていることからすると、上記のとおり対価が交付されたり譲渡契約書が作成されたりせず、銀行口座等が変更されないとしても、直ちに上記アの認定を覆すに足りるものではない。
(2) 被告Aと被告会社の同一性について
 上記(1)イ認定のとおり、被告会社は被告Aの財産を利用しているということができるが、これのみで直ちに被告会社の法人格が形骸化しているということはできず、その他、被告会社の法人格が形骸化しており、法人格が否認されるとまでいうべき事情は認められない。
 したがって、本件商標権侵害によって生じた損害賠償債務は、平成11年9月1日に被告会社が被告Aから営業譲渡を受けるまでは、被告Aが、営業譲渡ののちは、被告会社が、それぞれ負うものと認められる。
(3) 被告会社の商法26条1項の基づく責任について、
 前記1(1)認定のとおり、被告会社は、平成11年9月1日に被告Aから営業譲渡を受けたのちも、安井堂インターナショナルの名称を引き続き使用して従前と同じ形態で営業を行っていたのであるから、商法26条1項により、被告Aが、営業譲渡前の営業によって負った債務につき弁済の責めを負うものと解される。したがって、被告会社は、被告Aが本件商標権侵害によって負った損害賠償債務につき弁済の責めを負う。
(4) 営業譲渡後の被告A個人の責任について
 被告Aは、平成12年6月30日まで被告会社の代表者であって、営業譲渡の後の被告会社の本件商標権侵害行為は、少なくとも同日までは被告会社代表者の地位にあった被告Aによって行われたものと認められるから、同日までの被告会社による本件商標権侵害について損害賠償債務を負う。
 なお、被告Aが、平成12年7月1日以降についても、被告会社の実質上の代表者であるものと認めるに足りる的確な証拠はない。
4 争点(8)について
(1) 前記1及び3認定のとおり、被告Aは、平成10年5月ころから本件被告錠剤の輸入販売を始め、平成11年9月1日からは、被告会社が本件被告錠剤の輸入販売をしているものと認められる。
 証拠(甲128、乙2、13)と弁論の全趣旨によると、被告会社の本件被告錠剤にかかる収入は、以下のとおり、平成11年9月1日から平成12年7月7日までで、3584万2440円であることが認められる。
 平成11年9月  308万7600円
       10月  326万3400円
       11月  349万5450円
       12月  354万6400円
 平成12年1月  354万8700円
        2月  297万9900円
        3月  326万3400円
        4月  356万7900円
        5月  395万9550円
        6月  391万3190円
        7月  121万6950円(7日まで)
 また、この期間の収入は、上記のとおり、平均すると1か月当たり300万円を上回っていることからすると、平成10年5月1日から平成11年8月31日までの被告Aの収入も、平均すると1か月当たり300万円を下らなかったものと認められる。したがって、この期間の本件被告錠剤にかかる収入は4800万円を下らないことが認められる。
(2) 証拠(乙12)によると、被告会社の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの期間における決算報告書には、収入合計は2608万2250円である旨、経費として、従業員の給与手当として1359万7923円、店舗の賃借料として368万2500円、広告宣伝費として412万5669円をそれぞれ支出した旨の記載があるものと認められるところ、証拠(乙12、13)によると、被告会社の上記収入2608万2250円は、平成11年9月1日から平成12年3月31日までの7か月間における収入であると認められるから、上記経費の合計額を7で除すると、1か月当たりの経費合計は、305万8013円であると認められる。
 上記(1)認定にかかる平成11年9月1日から平成12年3月31日までの期間における本件被告錠剤にかかる収入は、被告会社における上記収入合計2608万2250円の約88パーセントに当たる。また、被告らは、被告ら取扱商品のうち7割が本件被告錠剤であると主張している。これらのことからすると、上記経費合計の2分の1に当たる152万9006円は、他の売上げに加えて本件被告錠剤にかかる収入を得るために必要であった経費であると認められる。したがって、これについては、上記(1)の被告らの収入から控除することとする。
 証拠(乙12)によると、被告会社の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの期間における決算報告書には、上記認定にかかる経費以外にも経費として記載されているものがあるが、これらは、その内容が不明であるか、内容が明らかであっても、他の売上げに加えて本件被告錠剤にかかる収入を得るために必要であった経費であるとまでは認められないから、上記(1)の被告らの収入から控除しないこととする。
(3) 上記(1)認定の事実によると、平成10年5月1日から平成12年7月7日までの間における本件被告錠剤にかかる収入額は、平成10年5月1日から平成12年6月30日までが8262万5490円、平成12年7月1日から同月7日までが121万6950円であると認められるから、これから、上記(2)認定の経費の額を控除すると、平成10年5月1日から平成12年6月30日までが4287万1334円(8262万5490−3975万4156)、平成12年7月1日から同月7日までが87万1691円(121万6950−34万5259)であると認められる。
(4) 原告ファイザー製薬は、原告ファイザー・プロダクツから、本件各商標権について独占的通常使用権の設定を受け、日本国内において本件原告バイアグラ錠を販売しているのであるから、商標法38条2項の類推適用により、上記(3)の利益額は同原告が被った損害額であると推定される。
 弁論の全趣旨によると、原告らの間での約定により、原告ファイザー製薬は、本件各商標について第三者から受領した金員の6割を原告ファイザー・プロダクツに支払わなければならないものと認められるから、上記4287万1334円のうち、1714万8534円が原告ファイザー製薬の損害額、2572万2800円が原告ファイザー・プロダクツの損害額であり、87万1691円のうち34万8676円が原告ファイザー製薬の損害額、52万3015円が原告ファイザー・プロダクツの損害額であると認められる。
 なお、被告らは、本件被告錠剤は、ファイザー・インクからオールインタナショナル等が購入したものであるから、被告らの行為によって損害は発生していないと主張するが、仮に、本件被告錠剤が、ファイザー・インクからオールインタナショナル等が購入したものであるとしても、それを小分けする等して、我が国において輸入販売したことによる商標権侵害による損害は、ファイザー・インクの上記販売とは別個に考えることができるから、被告らの行為によって損害が発生していないということはない。
(5) 原告らは、このほかに、ヨシダコーポレーションの得た利益が、原告らの損害に当たると主張する。
 しかしながら、
ア 証拠(甲92、被告A本人)と弁論の全趣旨によると、ヨシダコーポレーションは、米国の法人であって、被告らとは別個の法人格を有し、米国で活動しているものと認められ、ヨシダコーポレーションの法人格が否認されるとまでいうべき事実を認めるに足りる証拠はない。
イ したがって、ヨシダコーポレーションの得た利益を、原告らが被告らの本件各商標権損害行為によって受けた損害であると推定することはできない。前記1(3)(4)認定のとおり、被告らは、ヨシダコーポレーションと一体となって、ヨシダコーポレーションがオールインタナショナルから買い受けた本件被告錠剤を米国から輸入して顧客に販売しているものと認めることができるのであるが、そうであるからといって、上記アで述べたところによると、ヨシダコーポレーションの得た利益を、原告らが被告らの本件各商標権損害行為によって受けた損害であると推定することはできないというべきである。
(6) 証拠(甲134ないし137(枝番をすべて含む))に本件事案の内容、認容額、本件訴訟の経過等を総合すると、本件各商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、原告ファイザー製薬につき250万円、原告ファイザー・プロダクツにつき400万円と認めるのが相当である。
5 よって、原告らの請求は、次の限度で理由がある。
(1) 差止請求について
ア 原告ファイザー・プロダクツの請求について
(ア) 商標権に基づく請求について
 原告ファイザー・プロダクツが、被告らに対し、バイアグラ錠と称する錠剤について、ウェブページ、看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類に、被告標章一(1)ないし(3)、二(1)及び(2)並びに三記載の各標章を使用することの差止めを求める請求は理由がある。
 原告ファイザー・プロダクツが、被告らに対し、上記各標章を記載したウェブページを閉鎖し、上記各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告並びに申込書、しおりその他の取引書類を廃棄することを求める請求は、ウェブページから上記各標章を削除し、上記各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類を廃棄することを求める限度で理由がある。
 前記2(3)で述べたところからすると、原告ファイザー・プロダクツが、被告らに対し、上記各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた上記錠剤を輸入し、上記各標章を記載した取引書類を添付して上記錠剤を引き渡す行為の差止めを求める請求は、理由がない。
(イ) 不正競争防止法3条による請求について
 上記各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた上記錠剤を輸入し、上記各標章を記載した取引書類を添付して上記錠剤を引き渡す行為は、不正競争防止法が規定する「商品等表示を使用した商品を輸入し、引き渡す行為」に当たると認められるところ、上記各標章は、原告ファイザー・プロダクツを含むファイザーグループの著名な本件各商標と類似するから、原告ファイザー・プロダクツが、被告らに対し、上記各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた上記錠剤を輸入し、上記各標章を記載した取引書類を添付して上記錠剤を引き渡す行為の差止めを求める請求は理由がある。
イ 原告ファイザー製薬の請求について
 前記第2の1(5)記載の行為は、原告ファイザー製薬を含むファイザーグループの著名な本件各商標と類似のものを使用する行為に当たるから、原告ファイザー製薬が、被告らに対し、バイアグラ錠と称する錠剤について、ウェブページ、看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類に、被告標章一(1)ないし(3)、二(1)及び(2)並びに三記載の各標章を使用することの差止めを求める請求は理由があり、原告ファイザー製薬が、被告らに対し、上記各標章を記載したウェブページを閉鎖し、上記各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類を廃棄を求める請求は、上記各標章を記載したウェブページからこれらの標章を削除し、上記各標章を記載した看板、チラシ類その他の広告及び申込書、しおりその他の取引書類を廃棄を求める限度で理由がある。
 上記各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた上記錠剤を輸入し、上記各標章を記載した取引書類を添付して上記錠剤を引き渡す行為は、不正競争防止法が規定する「商品等表示を使用した商品を輸入し、引き渡す行為」に当たると認められるから、原告ファイザー製薬が、被告らに対し、上記各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた上記錠剤を輸入し、上記各標章を記載した取引書類を添付して上記錠剤を引き渡す行為の差止めを求める請求は、理由がある。
ウ なお、被告らは、原告らの不正競争防止法に基づく請求は時機に遅れたものであり却下されるべきであると主張するが、原告らが不正競争防止法に基づく請求を追加した時期において、商標権侵害の有無についての審理や損害についての審理はいまだ終了していなかったうえ、商標権侵害の主張と不正競争防止法違反の主張は、主張として重なる点も多いから、この請求の追加が著しく訴訟手続を遅滞させるものとは認められない。
(2) 損害賠償請求について
 商標権侵害について、それぞれ次の限度で理由がある。なお、不正競争防止法4条による請求の認容額が、次の各金額を上回るとは認められない。
ア 原告ファイザー・プロダクツの請求について
(ア) 被告会社に対する請求について
 3024万5815円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
(イ) 被告Aに対する請求について
 2972万2800円及びこれに対する平成12年7月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(上記(ア)の被告会社の債務と不真正連帯の関係)
イ 原告ファイザー製薬の請求について
(ア) 被告会社に対する請求について
 1999万7210円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
(イ) 被告Aに対する請求について
 1964万8534円及びこれに対する平成12年7月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(上記(ア)の被告会社の債務と不真正連帯の関係)

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 岡口基一
 裁判官 男澤聡子


別紙
被告目録(12(ワ)20905事件訴状添付のもの及び原告準備書面(4)添付のもの)
原告目録(12(ワ)20905事件訴状添付のもの)
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