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【事件名】「超時空要塞マクロス」の著作権確認事件
【年月日】平成14年2月25日
 東京地裁 平成13年(ワ)第1844号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成13年11月6日)

判決
原告 株式会社スタジオぬえ
原告 株式会社ビックウエスト
原告ら訴訟代理人弁護士 新保克芳
同 國廣正
同 五味祐子
被告 株式会社竜の子プロダクション
訴訟代理人弁護士 大野幹憲
同 窪木登志子
同 塩谷崇之
同 千代田有子


主文
1 原告らが、別紙目録1ないし41記載の各図柄について、著作権を有することを確認する。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、3分して、その2を被告の、その余を原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主文1項同旨
2 被告は、別紙目録1ないし41記載の各図柄を使用した映画を自ら制作し、又は第三者に制作させてはならない。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、別紙目録1ないし41記載の各図柄(以下「本件各図柄」という場合がある。)の著作権を取得したとして、著作権の確認等を求めた事案である。
 なお、映画の著作物である後記テレビアニメの著作権の帰属に関して、原告らと被告との間で争いがあり、別件訴訟(当庁平成13年(ワ)6447号著作権確認等請求事件)が係属している。
1 前提となる事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨より認められる事実)
(1) 原告株式会社スタジオぬえ(以下「原告スタジオぬえ」という。)はアニメーションの企画、制作等を、原告株式会社ビックウエスト(以下「原告ビックウエスト」という。)は広告代理業等を、被告は映画、動画の企画、制作等を、それぞれ業としている。
(2) 昭和57年10月3日から昭和58年6月26日までの間、訴外株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)をキー局として、別紙アニメーション目録記載の連続テレビジョン放送用アニメーション「超時空要塞マクロス」全36話(以下「本件テレビアニメ」という。)が放映され、原告らと被告は、それぞれ、何らかの形で、本件テレビアニメの制作、放映に関与した。
(3) 本件テレビアニメは、地球に落下した全長1200メートルに及ぶ巨大な宇宙艦「マクロス」を旗艦とする統合軍と、文化を持たない身長10メートルの巨人宇宙人ゼントラーディ軍との激しい宇宙戦闘を背景に、民間人から志願して軍に入った「一条輝」、マクロス艦内でアイドル歌手となる「リン・ミンメイ」及びマクロスの主任管制官「早瀬未沙」らの活躍を描いている。また、本件テレビアニメには、宇宙艦の内部に5万人を超える民間人が居住することや、使用される戦闘メカが、合体等によらず、飛行機からロボットの形態に変形するといった特徴がある。
2 争点及び主張
(1) 請求原因
ア 原告スタジオぬえ
 原告スタジオぬえは、本件各図柄について、その業務に従事する者が職務上著作したことにより、著作権を取得したか。
イ 原告ビックウエスト
 原告ビックウエストは、原告スタジオぬえから、本件各図柄の著作権について持分権の譲渡を受けたか。
(原告らの主張)
ア アニメーション作品企画の経緯
 原告スタジオぬえの代表者(当時)であるM、並びに従業員であるK及びLことWは、巨大な宇宙艦の中に民間人を住まわせ、宇宙艦の内外で巨大宇宙人軍との宇宙戦争を行うことを内容とするアニメーション作品の制作を企画し(以下「本件企画」という。)、Kの友人であるNことSを加えて、登場人物の図柄、性格付け等の作成作業等を進めていた。
 原告スタジオぬえは、昭和56年2月ころ、本件企画を原告ビックウエストに持ち込み、原告らは、原告ビックウエストがスポンサー探し及びテレビ局の放送枠の確保を、原告スタジオぬえがアニメーションの制作をそれぞれ行うこと、著作権については原告スタジオぬえから原告ビックウエストが持分を譲り受けて、共有とすること、著作権表示は原告ビックウエストとすることを合意した。
 原告ビックウエストは、上記合意に基づき、本件企画をテレビ局及び玩具等のメーカーに持ち込み、その結果、昭和57年1月ころ、毎日放送が本件企画をテレビアニメーションとして放映すること、玩具、プラモデル、文具等を製造する数社がそのスポンサーとなることが決定された。
イ 本件各図柄の原図柄の作成
 Kは、本件企画の初期段階から、飛行機、ロボット及びその中間形態に変形することのできる「バルキリー」と呼ばれる戦闘メカに関する図柄の作成作業を行い、昭和56年12月ころまでに、別紙目録1ないし16記載の原図柄を作成した。またWは、昭和57年3月ころまでに、別紙目録17ないし27記載の各図柄の原図柄を作成した。同人らは、同年3月から4月にかけて、スポンサーであるプラモデルメーカー等に、登場メカの三面図等を交付した。
 Sは、原告スタジオぬえと協力関係にある訴外株式会社アートランド(以下「アートランド」という。)に所属していたが、本件テレビアニメの制作に参加し、人物に関する図柄の作成を担当した。Sは、人物の性格を描写した説明文、人物の基本的なイメージを伝えるためのストーリー設定ボード及び人物の設定画を作成し、昭和57年3月ころまでに、別紙目録28ないし41記載の原図柄をほぼ完成し、同年5月までに、M、K、Wの意見を参考にして、人物の図柄を修正した。
 Kは、本件テレビアニメのストーリー構成をも担当し、原告スタジオぬえの企画会議で出されたアイデアを基に、昭和57年2月までに、全39話のストーリー構成表を作成した(制作開始後にストーリー構成に変更が加えられ、全36話となった。)。
ウ 被告の関与の時期及びその程度
 原告らは、当初、本件企画をアニメーション化する作業のすべてを、アートランドに委託しようとしたが、アニメーターの人員が不足することから、被告にもこれを委託することとし、被告は、これをその関連会社である訴外株式会社アニメフレンド(以下「アニメフレンド」という。)に更に委託した。被告及びアニメフレンドが、本件テレビアニメの制作に関与するようになったのは、昭和57年4月27日以降である。
エ 本件各図柄の作成経緯
 アニメーションの制作は、前記の原図柄を基にして、作画作業の基本となる「アニメ設定画」(以下単に「設定画」という。)を作成し、次に、設定画を基に、アニメーションとして画面上で動かすための「原画」及び「動画」を作成する手順で進める。本件テレビアニメにおいては、K、W及びS(以下この3名を「Kら3名」ということがある。)が作成した前記原図柄等に基づいて、Kら3名が別紙目録1ないし41の各上段記載の設定画を作成した(一部、原告らの従業員が、Kら3名の指揮監督下に作成したものも含まれる。)。さらに、原告スタジオぬえ、アートランド、アニメフレンドに所属するアニメーターらが、原告スタジオぬえの指揮監督の下に、各設定画に基づいて原画又は動画を作成して、別紙目録1ないし41の各下段記載のとおりアニメカットを作成した。
 なお、被告は、Kら3名が、被告のスタッフとして被告の業務に従事する過程で本件各図柄を作成した旨主張する。しかし、Kら3名が被告の業務に従事したことはないし、被告から、報酬又はデザインに対する対価を受領したこともない。
オ 結論
(ア) 原告スタジオぬえ
 本件各図柄は、いずれもKら3名が、原告スタジオぬえの発意に基づき、その業務に従事する過程で創作したので、原告スタジオぬえは、本件各図柄に係る著作権を取得した。
(イ) 原告ビックウエスト
 原告らの間では、本件テレビアニメ制作の過程で取得した著作権について、原告スタジオぬえから原告ビックウエストが持分権の譲渡を受け、共有とする旨の合意がある。原告ビックウエストは、本件図柄に係る著作権(持分権)を取得した。(なお、原告ビックウエストの著作権表示がされている。)
(被告の反論)
ア 本件企画の性格
 否認する。原告スタジオぬえは、企画を大手のアニメーション製作会社に持ち込んだり、大手のアニメーション製作会社の制作の補助をする企画会社の一つであり、原告ビックウエストは広告代理業者であって、いずれも、アニメーション映画を制作する経験もスタッフも持ち合わせていない。被告は、数々の著名なアニメーション映画の制作を手がけ、現在のアニメブームの草分け的存在というべきアニメーション映画製作会社であって、「タツノコプロ」の名で親しまれている。
イ 本件図柄の原図柄の作成
 否認する。Kら3名は、被告が本件テレビアニメの製作を開始した後に、被告又は被告が選任したプロデューサーの指示に基づき、本件各図柄を制作した。Kら3名がそれ以前に制作していた原図柄は、ラフスケッチにすぎず、本件各図柄との同一性もない。
ウ 被告の関与の時期、程度、本件図柄の作成
 否認する。原告ビックウエストは、遅くとも昭和57年1月ころまでに、本件企画のテレビアニメ化を被告に持ち込んだ。原告ビックウエストは、同原告においてテレビ局の放送枠の確保とスポンサー探しを行うので、被告において、S及びKの発案に係る登場人物や登場メカを中心としたアニメーション映画を制作するよう提案した。この時点では、登場人物の性格付け及び物語の端緒についての大まかな設定が存するにとどまり、後に本件テレビアニメで使用された登場人物や登場メカの図柄及び詳細なストーリー構成は作成されていなかった。
 被告は、原告ビックウエストの提案を契機として、その発意と責任において本件テレビアニメを制作することを決め、被告の従業員を担当プロデューサーに選任してテレビ局やスポンサーとの連絡調整を行わせ、制作スタッフへの報酬等の制作費用を捻出するなどして、本件テレビアニメを制作した。
エ 結論
 Kら3名は、被告が本件テレビアニメを制作するという業務の過程で、本件各図柄を作成した。また、本件各図柄を含む本件テレビアニメは、その放映時に被告の名義の下に公表された。したがって、本件各図柄は被告の法人著作物であり、原告スタジオぬえは著作権を有しない。
 なお、被告とKら3名との間に雇用関係がなかったとしても、Kら3名は、被告の業務に従事し、その報酬も被告が負担したのであるから、著作権法15条の適用が妨げられるものではない。
(2) 抗弁
(被告の主張)
 被告は、本件テレビアニメを制作する過程で、原告スタジオぬえが負担すべき費用を支払った。また、原告スタジオぬえは、被告が本件テレビアニメを制作するに当たり、制作に参加することを約束した。このような経緯に照らすならば、原告スタジオぬえは被告に対して、明示又は黙示に、本件各図柄に係る著作権を譲渡する旨の意思表示をしたとみるべきである。
(原告らの反論)
 否認する。
 原告スタジオぬえは、被告から本件各図柄に係る著作権の譲渡の対価を受け取ったことはないし、著作権譲渡の意思表示をしたこともない。Kら3名は、被告から報酬又はデザインに対する対価を受領したことはないし、被告の業務に従事したこともない。被告及びアニメフレンドは、原告らがストーリー構成や原図柄を完成した後に、アニメーションの制作作業に関与したにすぎず、スポンサーの獲得等も原告らにおいて行っているのであるから、本件テレビアニメが、被告の発意と責任により制作されたということもできない。
第3 争点に対する判断
1 請求原因について
 Kら3名が、原告スタジオぬえの発意に基づき、その業務に従事する過程で、本件各図柄を創作したことにより、原告スタジオぬえが本件各図柄に係る著作権を取得したと認められるかについて判断する。
(1) 事実認定
 前記前提となる事実、証拠(甲1ないし3、5ないし10、12ないし19、乙1ないし3、6、12ないし14。枝番号の表示を省略する。ただし乙6及び14のうち後記認定事実に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件企画の立案
 原告スタジオぬえは、昭和55年ころ、巨大な宇宙艦の中に民間人を住まわせ、宇宙艦の内外で巨大宇宙人軍との宇宙戦争を行うことなどを内容とし、戦闘の主役となる戦闘機に、従来のものとは異なる変形メカを使用することなどを特徴とする新しいアニメ作品の制作を企画して、代表者であるM、並びに従業員であるK及びWらがチームを組んでその制作に着手した。またKは、友人のSが行った人物キャラクターの作画に注目し、Sを、原告スタジオぬえと協力関係にあるアートランド在籍のまま、前記企画の実施を担当させた。
 原告スタジオぬえは、当初、第三者と共同して、玩具メーカー等に企画の説明を行ったが、採用されなかったため、その後は単独で本件企画の実施をすることとし、昭和55年後半から、Kが、全体のストーリー案の作成及び戦闘機を中心とする登場メカの図柄等を、Wが、登場メカのうち宇宙艦や敵軍の図柄等を、Sが、登場人物の図柄等を作成して、本件企画のストーリー構成及び登場人物等の図柄の制作を進めた。
 昭和56年2、3月ころ、原告スタジオぬえが原告ビックウエストに本件企画を持ち込んだところ、原告ビックウエストの代表者であるOは、その斬新性に着目して、本件企画をテレビアニメ作品として放映することを考えた。
 Oは、本件企画を成功させるためには、テレビ放映開始と同時に関連するキャラクター製品や雑誌等を販売する必要があり、また、戦闘機がロボットに変形する玩具等の開発には困難が予想されることから、早くから玩具メーカー等の協力を得る必要があると考え、昭和56年8月ころから、玩具メーカー及びプラモデルメーカーに対し、Kら3名が作成した登場メカの図柄や手作りの見本を示して、変形する玩具等の販売の可能性について協議し、テレビ放映時にスポンサーとなるよう要請した。また、幼児誌及び学年誌を発行する出版社に対しても、テレビ放映開始と同時にマンガや小説の連載をすることができるよう交渉した。
 Oは、当初、昭和57年4月の放映開始を考えたが、適当な放送枠が得られずにいたところ、同年1月ころ、毎日放送の放送枠を同年10月以降確保できる見通しが立ち、また、そのころまでに、玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から本件企画のスポンサーとなる承諾が得られ、放送費用を調達する目途が立ったことから、本件企画のテレビアニメ化を進めることを決めた。また、Oは、その題名を「マクロス」と名付けた。
イ 本件各図柄の原図柄の作成
 Kは、昭和56年11月ころまでに全39話分のおおまかなストーリーメモを作成し、昭和57年2月までに、このストーリーメモを基ににストーリー構成表を作成した。その後、放送枠の決定に伴い、エピソードを減らすなどして26話のストーリー構成とし、これに基づいてMがシリーズ全体の構成を行った(放映開始後に延長が決定され、最終的に全36話の構成となった。)。
 Kは、登場メカの図柄も担当し、昭和56年以降、主人公らが使用する、「バルキリー」と呼ばれる変形可能な戦闘メカの図柄の作成作業を進め、同年12月ころまでに、飛行機の形態及びロボットの形態の「バルキリー」について、原図柄を作成した。飛行機とロボットの中間形態の「バルキリー」やその他のメカについても、昭和57年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、玩具メーカー等から、同一の金型を使用して複数の玩具を製造したいとの要望があったことから、仕様や装備が異なる複数の「バルキリー」の図柄を作成し、同年4月には、玩具やプラモデルの制作に必要な三面図をメーカーに交付した。
 Wは、宇宙艦「マクロス」やその他の登場メカの図柄及びマーク類について作成を担当し、同年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、同年4月には、各種メカの図柄のサイズの対比表や「マクロス」等の三面図を作成して、メーカーに交付した。
 Sは、Kが制作したストーリー構成を基に、「一条輝」、「リン・ミンメイ」、「早瀬未沙」等の登場人物の図柄の作成を担当し、昭和56年12月ころまでにはそのラフ・スケッチを多数作成し、昭和57年1月ころまでには、「一条輝」を除く登場人物の原図柄を作成し、同年2月から3月に掛けて、登場人物について様々な表情、姿勢、衣装を変えたラフ・スケッチを多数作成し、同じころ、人物像の設定やストーリーの設定を行うためのストーリー設定ボードのラフスケッチを多数作成した。なお、「一条輝」については、当初作成した図柄について、Kらから、作品の主人公としては弱いとの指摘を受けたため、修正を加えた上で、同年5月に原図柄を作成した。
ウ 被告関与の時期、程度
 原告スタジオぬえは、当初、本件企画のアニメーション化の作業を、協力関係にあるアートランドに委託することを予定していた。しかし、Oは、アートランド1社ではアニメーターの数が不足すると考え、昭和56年12月末ころ、多数のアニメーターを擁する被告に協力を打診し、昭和57年4月、アニメーション制作作業への参加を正式に依頼した。被告は、本件テレビアニメの担当プロデューサーとしてIを選任し、その子会社であるアニメフレンドに対し、アニメ化の作業を担当させることとした。被告側を交えての最初の打合せは、昭和57年4月27日に行われ、アニメフレンド側の担当プロデューサーとなるHがこれに出席し、M、W、K、Sらから、本件企画の内容やメカの特徴等についての説明を受けた。アニメフレンドは、同年5月以降、本件テレビアニメの制作作業に関与した。
エ 本件各図柄の作成経緯
 本件テレビアニメを制作するための作業としては、Kが作成したストーリー案に基づいて脚本及び絵コンテを作成する作業、並びに原図柄に基づいて設定画を作り、設定画を基に原画及び動画を描く作画作業その他の作業があるが、各回の制作が並列的に進められるため、脚本、絵コンテ、演出等の担当者は放映回によって異なる。基本となる設定画の作成作業については、以下のとおり、Kら3名が自ら、又はKら3名の指揮監督を受けたアニメーターがこれを担当した。
(ア) 別紙目録1ないし16上段記載の各図柄は、「バルキリー」等の登場メカの設定画である。Kが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はKの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させた。
(イ) 別紙目録17ないし27上段記載の各図柄は、「マクロス」等のメカ及びマークの設定画である。Wが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はWの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させた。
(ウ) 別紙目録28ないし41上段記載の各図柄は、登場人物の設定画である。Sが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、S自身がすべて完成させた。
(エ) 上記設定画を基に原画及び動画を描く作画作業が、主としてアートランド及びアニメフレンドにおいて行われ、別紙目録1ないし41下段記載の各アニメカットを含む、本件テレビアニメのアニメーション部分が作成された。またSらは、作画作業等を行うスタッフらの間に誤解が生じないよう、登場人物の人物像や登場人物相互の関係等を説明するストーリー設定ボードを多数作成して、作業を進めた。
 Iの陳述書(乙6、14)には、被告が本件テレビアニメの制作に関与するまでの間に、Kらによって作成された原図柄は、ラフスケッチ程度のものや、他のアニメ作家の作風に酷似した創作性のないものであったこと、Kら3名がIの指示に沿って作業した結果、本件各図柄が完成した旨の記載部分がある。しかし、S及びKの陳述書(甲15、16)には、原図柄の作成過程において、また、これに基づく設定画の作成及びその後の作画作業の過程において、被告側から特段の指示等を受けたことはなかった旨が陳述記載されていることに照らすならば、前記Iの陳述記載は、具体性に乏しく、採用することはできない。
オ 制作費の支払及び利益の配分
(ア) 原告ビックウエストは、本件テレビアニメのスポンサーである玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から広告料の支払を受け、本件テレビアニメの放映期間中、毎日放送に対し月額4800万円(制作費2405万円、電波料2244万5000円、マイクロ費150万5000円。ただし原告ビックウエストの手数料524万2600円を控除する。)を支払い、その支払の保証として、毎日放送に5000万円を預託した。また、毎日放送と被告との契約に基づき、毎日放送は被告に対し、本件テレビアニメの制作費として1話につき550万円を支払い、毎日放送は、最終話の放送終了から2年を経過するまでの間、本件テレビアニメの独占的放送権を取得した。これによって、アニメーション制作に従事するアニメフレンド等は、形式的には、被告から制作費の支払を受けることとなったが、これは、毎日放送が、アニメ制作に関する長年の実績を有する被告との契約を希望したことから、原告ビックウエストがアニメフレンド等に直接制作費を支払うのではなく、毎日放送と被告を経由して支払ったためである。
(イ) 被告は、本件テレビアニメの放映開始前に、原告ビックウエストに対し、当初の予定よりも制作に費用が掛かり、毎日放送を通して支払われる前記制作費では不足する旨を訴えた。このため原告らと被告は、制作費の不足分に充当するために、昭和57年10月1日、商品化事業の利益の一部並びに海外における番組販売権及び商品化権を被告に与えることなどを内容とする覚書(乙3)を作成した。
 上記覚書により、キャラクター等の商品化権及び国内再放送のための番組販売については原告ビックウエストが、小学6年生までを対象とする出版物、音楽並びに海外における番組販売権及び一般商品化権については被告が、中学生以上を対象とする出版物については原告スタジオぬえが、それぞれ窓口となって権利行使をすること、また、対象ごとに、原告らと被告の間で利益を配分する比率が定められた(国内の商品化権については毎日放送にも利益が配分され、海外における商品化権行使等による利益は、被告がすべて取得した。)。
カ 著作権等の表示
(ア) 本件テレビアニメ放映前の昭和57年7月から同年10月に掛けて、本件テレビアニメの内容等を紹介する記事が学習雑誌等に掲載されたが(乙15ないし20)、これらすべてに、原告スタジオぬえと被告連名の著作権表示がある。また本文中に、原告スタジオぬえが原作を作成したこと、シリーズ構成はM、キャラクターデザインはSがそれぞれ担当したことなどを説明したものもある。
(イ) 本件テレビアニメ放映時のオープニングクレジットでは、企画はO、原作は原告スタジオぬえ、キャラクター・デザインはS、メカニック・デザインはW及びKであることなど、企画、原作、原作協力、シリーズ構成、チーフディレクター、設定監修については、原告ら及びアートランドの関係者が担当したことが表示され、プロデューサーとして、被告のI及びアニメフレンドのHが表示されている。また、オープニングクレジット及びエンドクレジットの双方において、製作は、毎日放送、被告及びアニメフレンドであることが表示されている。
(ウ) 昭和58年8月から10月に掛けて、本件テレビアニメの制作時の資料やスタッフの回想等を集めた書籍(甲1、2、9、14)が多数発行され、そのすべてに、原告ビックウエストと毎日放送の連名の著作権表示がある。また本文中には、原告スタジオぬえが原作を担当したこと、シリーズ構成はM、キャラクターデザインはSであることなどが記載されている。
(エ) 平成5年4月に、被告の30周年記念全集(甲18)が発行された。同書中、被告が制作した他のテレビアニメを取り上げた部分には、著作権表示は存しないが、本件テレビアニメを取り上げた部分には、原告ビックウエストの著作権表示がある。また、本文中には、原告スタジオぬえによる独創的な物語であること、Sがキャラクターデザインを担当したこと、メカニックデザインはW、Kが担当したこと、Kは、演出、脚本にも参加したことなどが記載されている。
(オ) 平成10年2月に発行された被告監修に係る被告のアニメ大全史(甲3)は、アニメ作品を年代順に整理した部分、一連のギャグ・アニメシリーズを取り上げた部分、及びそれ以外の作品を集めた部分に大別され、前2者に収録された作品には、すべて、単独又は連名で被告の著作権表示があるのに対し、後者に属する作品は、被告の著作権表示のないものが大部分である。本件テレビアニメは後者に分類され、原告ビックウエストの著作権表示のみがある。また、本文中には、原告スタジオぬえ原作による初のオリジナル作品であること、メカニックデザインのKは演出や脚本にも加わったこと、キャラクターデザインのSその他若手が活躍したことなどが記載されている。
(2) 判断
ア 原告スタジオぬえ
 上記認定したとおり、Kら3名は、原告スタジオぬえの従業員又は担当者として、本件テレビアニメのストーリーに対応する登場人物、登場メカの原図柄を作成したこと、同図柄の原図柄に基づいて、アニメーション制作作業の基本となる設定画である別紙目録1ないし41各上段記載の各図柄を作成したこと、また、同目録下段記載の各図柄は、アニメーターらが、Kらの指揮監督の下に、前記設定画に基づき作画作業を行って、作成したものであることが認められる。
 そうとすると、本件各図柄は、Kら3名が、原告スタジオぬえの発意に基づき、原告スタジオぬえの業務に従事する過程で職務上作成した著作物であるから、原告スタジオぬえは、本件各図柄に係る著作権を取得した。
イ 原告ビックウエスト
 前記認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らの間では、本件テレビアニメ制作の過程で取得した著作権について、原告スタジオぬえから原告ビックウエストが持分権の譲渡を受け、共有とする旨の合意があると認められる。
2 抗弁について
(1) 被告は、本件テレビアニメを制作する過程で、原告スタジオぬえが負担すべき費用を支払ったこと、原告スタジオぬえが、被告の本件テレビアニメ制作に関して参加することを約束したこと等の経緯に照らすならば、原告スタジオぬえは、被告に対して、本件各図柄の著作権を、明示又は黙示に譲渡する旨の意思表示をしたものとみるべきである旨主張するので、この点について検討する。
(2) 以下のとおり、被告の主張に係る事実を認めることはできない。
ア 前記1のとおり、Kら3名は、原告スタジオぬえ又はアートランドから給与等の支払を受け、原告スタジオぬえの業務である本件テレビアニメの制作に従事していたこと、本件各図柄は、Kら3名が、原告スタジオぬえの発意に基づいて作成したことによって、原告スタジオぬえがその著作権を取得したことが認められる。
 本件全証拠によるも、Kら3名が被告から給与等の支払を受け、あるいはその指示に服するなど、被告の業務に従事していたと認めることはできず、また、原告スタジオぬえが、被告から、本件各図柄に係る著作権の譲渡の対価を受け取ったり、著作権譲渡の明示又は黙示の意思表示をしたと認めることもできない。
イ 前記1認定のとおり、原告スタジオぬえは、本件各図柄(原著作物)に対する二次的著作物に当たる本件テレビアニメの制作について、被告と共同して関与したか、あるいは、被告が制作するに当たって、積極的に参加した。しかし、原告スタジオぬえが、共同して制作し又は参加したことは、本件各図柄を本件テレビアニメに利用することについて、被告に許諾を与える意思表示をしたとみることはできるけれども、本件各図柄の著作権を被告に譲渡する意思表示をしたと推認することは到底できない。したがって、被告のこの点の主張は採用できない。
3 結論
 以上によれば、本件各図柄の著作権は原告らの共有に属すると認められる。他方、被告は、本件各図柄の著作権は自己に帰属するとして争っているのであるから、その著作権の確認を求める原告らの訴えには、確認の利益がある。
 なお、本件全証拠によるも、将来、被告が本件各図柄の二次的著作物に当たる新たな映画を製作し、又はこれを第三者に許諾しようとするおそれがあると認めることはできないから、差止請求は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 谷有恒
 裁判官 佐野信
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日本ユニ著作権センター
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