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【事件名】Nシステムの肖像権侵害事件(2)
【年月日】平成13年9月19日
 東京高裁 平成13年(ネ)第1113号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第5272号)

判決


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由    
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、各控訴人に対し、それぞれ金100万円及びこれに対する平成10年3月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件事案の概要は、当審における控訴人らの主張を次の二のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」欄中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における控訴人らの主張
1 Nシステムにおいて、車両の運転者及び同乗者が撮影されたとしても、被控訴人主張のように、それが人目に触れることなく処理され、運転者等の容ぼう等の画像が記録、保存されることがないということはあり得ない。このことは次の事実からも明らかである。
(一) ストロボの照射範囲の変遷
 Nシステムが車両のナンバーデータの取得を目的とするものであるならば、その装置により車両のナンバープレートを照射することで足りるはずであり、現に初期のものは、専ら車両先端部にあるナンバープレート付近を照射していた。ところが、その後、Nシステムに改良が重ねられるにつれて、運転席、助手席を含む車両全体に赤外線を照射する型式のものが増えてきた。これは、Nシステムの対象がナンバープレートから運転者及び同乗者へと変化していることを示している。
(二) 自動車盗で検挙された犯人1人当たりの車両窃取台数の変化
 自動車盗で検挙された犯人1人当たりの車両窃取台数は、平成4年までは1人平均2.32台であったものが、平成5年からはそれが3.0台を超え、同年から平成10年までの1人平均窃取台数は3.4台に達している。これは、Nシステムに運転者の容ぼう等の画像データが含まれるに至ったため、1人の犯人を検挙したときの余罪捜査が容易になったためと考えられる。
(三) 警察が様々な方法で画像データの活用を意図していること
 Nシステムと同様の末端を使用し、画像の記憶装置をも備えた車両の速度取締装置について、現在、特許請求がなされており、また、警察とコンビニエンスストアをオンラインでつなぎ、コンビニエンスストア側の操作によって監視カメラの画像を警察に送る実験も開始されている。更に、警察では、運転免許証の書替え時に撮影された顔写真のデータ化など、人の顔を識別するためのデータ収集を積極的に推進している。
 以上に鑑みると、もともと、画像の撮影、記録、保存機能を備えるハイテクカメラを主要な構成要素とするNシステムが、画像の記録、保存を敢えて行わないということは、著しく不自然である。
2 Nシステムの目的が、盗難車両や、自動車使用犯罪における被疑者の車両を速やかに捕捉し、犯人を検挙することにあるとすることは、あくまでも被控訴人の建て前であり、Nシステムは、現実には、諜報、公安、場合によっては警察の内部監視を目的として使用されているものである。
 また、Nシステムに記録されたナンバーデータについて、被控訴人は、一定期間保存された後消去されることになっていると主張するが、一定期間とは具体的にどの程度の期間かの明示がなく、データの廃棄方法も不明であり、現実に廃棄されていることを示す証拠の提出もないことからみると、上記主張のような方法が取られているとは認められない。
3 Nシステムは増殖を続けており、本訴提起時には全国で400箇所強の設置であったものが、控訴提起時には680箇所を数えるに至り、国民の権利、自由に対する制限が強まっている。
4 以上からみるならば、Nシステムの設置が違法なものであることは明らかである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人らの本件請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由については、当審における控訴人らの主張に対する判断として次の二のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における控訴人らの主張について
1 当審における控訴人らの主張1(一)の事実(Nシステムにおいて、運転席、助手席を含む車両全体に赤外線を照射する型式のものが増えていること)及び同1(三)のうち、画像記憶装置を備えた速度取締装置の特許請求がなされている事実については、それらが、直ちに、Nシステムにより運転者等の画像が記録、保存されていることを示すものとはいえず、このことは前記引用に係る原判決において説示するとおりである。
2 また、当審における控訴人らの主張1(二)の主張事実(自動車盗の犯人1人当たりの車両窃取台数)については、甲23(Aの陳述書)中にそれに沿う記載があるが、仮にそのとおりであるとしても、そのことから、直ちに、Nシステムにおいて車両運転者等の画像が記録、保存されている事実を認めることは困難であり、同1(三)の特許請求以外の主張事実についても、仮にそのような事実があるとしても、同様に解される。
3 Nシステムの目的及び方法についても、当審における控訴人らの主張2のように解すべき根拠はなく、かえって、前記引用に係る原判決掲記の証拠によると、それらについて原判決認定のとおり認めることができる。
 同3についても、仮にNシステムの設置箇所について控訴人らの主張を前提としても、その程度からみて、控訴人ら主張の情報コントロール権に関する前記引用の原判決の判断を左右するものではない。
4 なお、控訴人らが当審において提出した甲33(新聞記事)によると、刑事事件の被疑者の乗用車が京都市内の交差点に設置された「交通監視カメラ」に撮影、記録されていた旨の記事が平成13年6月18日付の新聞に掲載されたことが認められるが、その「交通監視カメラ」がNシステムに該当するものであるか否かは必ずしも明らかではなく、また、その記事内容も、被疑者自身の姿、容ぼう等が撮影、記録されていたとするものでもないから、それが、Nシステムにおける運転者等の画像の記録、保存の事実を裏付けるものとはいえない。
第四 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第67条第1項、第61条、第65条1項を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第5民事部
 裁判長裁判官 魚住庸夫
 裁判官 飯田敏彦
 裁判官 持本健司
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