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【事件名】VシネマのBGM無断使用事件(2)
【年月日】平成13年7月12日
 東京高裁 平成12年(ネ)第3758号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁 平成11年(ワ)第3101号)
 (平成12年5月17日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 山川博光
同 中川康生
控訴人補助参加人 【A】
訴訟代理人弁護士 露木琢磨
被控訴人 日本映像株式会社
訴訟代理人弁護士 那須克己
同 本間伸也
同 南栄一


主文
1 原判決(ただし、当審における請求の減縮により減額された金18万1121円及びこれに対する平成11年2月25日から支払済みまでの年5分の割合による金員の支払請求に対する部分を除く)を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金2825万6336円及びこれに対する平成11年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
4 この判決の第2、3項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文と同旨
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)との間で著作権信託契約を締結し、その著作権の管理を行っている控訴人が、補助参加人が背景音楽を担当したビデオの制作者である被控訴人に対し、同音楽の無断複製による著作権侵害を理由とする損害賠償を請求したという事案であり、控訴人の請求を全部棄却した原判決に対して、控訴人がこれを不服として控訴を申し立てた事件である(なお、控訴人は、当審において、「2843万7457円及びこれに対する平成11年2月25日から支払済みまでの年5分の割合による金員」の請求を「2825万6336円及びこれに対する平成11年2月25日から支払ずみまで年5分の割合による金員」の請求に減縮した。)。
 当事者及び補助参加人の主張の要点は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」の一(争いのない事実等)及び二(争点)のとおりであるから、これらを引用する。なお、当裁判所も、「本件信託契約」、「本件楽曲」、「本件著作権」、「本件ビデオ」、「本件支払金」の用語を、原判決の用法に従って用いる。
1 当審における控訴人及び補助参加人の主張の要点
(1) 補助参加人の被控訴人に対する本件楽曲の複製許諾の有無について
 原判決は、被控訴人は補助参加人から本件楽曲の複製の許諾を受けた、と認定し、この認定を前提に、被控訴人は、控訴人の著作権登録原簿への登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者である、と判断した。しかし、原判決の、上記認定は誤っており、したがって、これを前提とする上記判断も、誤っている。
ア 補助参加人が、被控訴人に対し、本件楽曲の複製許諾をした、という事実はない。
 著作物の利用許諾は、第三者に著作物の使用を認める旨の著作権者の単独の意思表示を構成要素とする法律行為(単独行為)であるから、補助参加人による複製許諾があったか否かの検討においては、まず、本来の著作権者である補助参加人が、同人の作品の著作権管理団体である控訴人を介さずに、自ら複製許諾をする意思そのものがあったと認められるかどうかが問題となる。補助参加人は、被控訴人の依頼に基づき、ビデオ用の背景音楽として本件楽曲を作曲したものの、本件楽曲の複製使用につき、被控訴人に対し、控訴人を介さずに、自ら複製許諾をする意思は、全く有していなかった。補助参加人は、本件楽曲を作曲するに当たり、控訴人の会員として、被控訴人が、控訴人から、その複製許諾を得て、複製許諾料を控訴人に支払い、控訴人が、補助参加人に対し、複製許諾料の分配をすることを当然の前提としていた。
 このことは、補助参加人が、被控訴人から依頼された作曲を完了した時点で、その都度、控訴人に対し、作品届を提出していたこと、同じころ、補助参加人が東映ビデオ株式会社のためにビデオ用の背景音楽を作曲した件においては、複製許諾料についての明示の合意が行われないまま、同社が控訴人に対し複製許諾申請を行って複製許諾料を控訴人に支払い、控訴人が補助参加人に対し複製許諾料を分配していたことからも明らかである。
イ 一般に、ビデオ制作者は、ビデオ商品の製造に当たっては、本来の著作権者に対する委嘱料の支払とは別途に、著作権管理団体である控訴人から複製使用の許諾を得たうえで複製使用をし、控訴人に複製許諾料を支払っている。被控訴人の代表者は、関連会社である株式会社日本映像音楽出版の代表取締役でもあること、同社が控訴人と著作権信託契約を締結して著作権委託契約を締結していること、過去に、被控訴人と控訴人との間において、背景音楽の著作権処理についての問題があり、その時点においても、控訴人側から被控訴人側に、控訴人による著作権の管理の内容についての説明がなされたことなどから、被控訴人は、本件楽曲の複製行為時において、控訴人による著作権管理の内容を十分知っていた。
 仮に、被控訴人が、本件楽曲を使用するためには、控訴人に対して複製許諾申請をし、複製本数に応じた複製許諾料の支払をしなければならないことを知らなかったとしても、そのことにより、被控訴人がこれらの手続をとらずに本件楽曲を利用することができることになるものではないことは、当然である。
ウ 被控訴人が補助参加人に支払った金員は、作曲に対する報酬及び作曲に必要な経費(テープ制作のためのスタジオ使用料、機器使用料、文具代等)のみを含むものとして支払われた委嘱料であって、複製許諾料ではない。上記支払金が複製許諾料を含むものとして合意されたということはあり得ない。
エ 著作権者に対して控訴人が行う使用料の具体的分配は、現実の使用から1年以上経過した後にされることも珍しくないから、補助参加人が被控訴人に対し複製許諾料の支払を請求した時期が、作曲後相当期間を経過した平成8年9月26日に至ってからであるとしても、それは少しも不自然なことではない。
オ 被控訴人は、上記のとおり、本件楽曲の複製使用の許諾を受けないまま、不法に複製行為を行った不法行為者であるから、本件楽曲の著作権につき、著作権法77条の登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には該当しない。
(2) 損害について
 原判決8頁10行ないし11行に記載された原告(控訴人)の主張を、次のとおりに訂正する。
 控訴人は、本訴において、著作権法114条2項に基づき、「著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額」をその損害として請求する。
 控訴人の著作物使用料規程によると、本件楽曲の複製許諾料は別紙のとおり合計金2825万6336円であり、その算定の内訳は、別紙使用料算定内訳記載のとおりである。
 このようにして算出された上記額を上記「著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額」に該当するものとみるべきことは、当然である。
2 当審における被控訴人の主張の要点
(1) 補助参加人の被控訴人に対する本件楽曲の複製許諾の有無について
補助参加人は、本件楽曲につき、被控訴人との間で、補助参加人の有する著作権をすべて被控訴人が買い取るとの契約(以下、この種の契約を「買取契約」という。)を締結し、これにより、被控訴人に対し、その複製の許諾をした。
ア 買取契約の慣行の存在
 ビデオプログラムに使用するための背景音楽については、買取契約をすることによって、ビデオの販売本数に応じた複製許諾料を支払う必要がないようにするのが業界の慣行である。
 控訴人自身も、その正会員向けに月1回送付している会報(2001年1月号 JASRAC NOW、乙第17号証)において、このような買取の商慣行の存在を認めている。
 被控訴人が製作した「少年アシベ」の背景音楽について、被控訴人の会員である著作権者との間で買取契約が締結され、作曲手数料と著作物使用料の両方が報酬に含まれるとの契約がされた事実もある。
イ 補助参加人自身が本件ビデオ以外のビデオの背景音楽につき買取契約を締結していること
補助参加人は、他のビデオ(「ワイルドタッチ」(乙第5号証の1、2)、「霊媒ダンサー」(乙第10号証)、「雀狼伝2・3」(乙第11号証の1ないし3)、「メイクアップ」(乙第12号証)、「小島武夫物語」(乙第13号証)、「トビッ娘紀香のイカせてアゲル」(乙第14号証)、「井出洋介の麻雀の真髄」(乙第15号証))につき、製作会社との間で、作曲を依頼された背景音楽の買取契約を締結した。補助参加人は、この際、ビデオ製作会社に対し、控訴人の会員であることを告知せず、複製許諾につき、別途、控訴人に対し利用許諾申請を行うことが必要である旨も述べなかった。
ウ 買取契約の経済合理性
 本件ビデオのうちには、ヒットしたものもあるが、赤字のものもある。例えば、控訴人が170万円余りの複製許諾料相当額を請求している「あばよ白書」については、2000万円以上の赤字が出ている。被控訴人は、長年映像製作を行っており、数多くのヒット作の陰に失敗作があることを熟知している。被控訴人と補助参加人との力関係は、いうまでもなく被控訴人の方が優位にある。このような被控訴人が、こうした赤字の場合にまで、このような許諾料の請求を認めるような合意をするはずがない。
 補助参加人の担当した背景音楽によってビデオの成否はほとんど影響を受けないといっても過言ではない。報酬は、成功への貢献度に比例するものであり、貢献度が低い者の報酬が低いのは当然である。
 以上からすれば、本件楽曲について買取契約がなされることは、経済的にみて極めて合理的である。
(2) 損害について
 別紙記載の複製個数のうち、番号1ないし3、5、7ないし9、11、13のビデオテープの複製個数は認め、番号4、6、10、12のビデオテープの複製個数は否認する。
 損害についてのその余の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件紛争の背景について
 本件紛争の背景についての当裁判所の事実認定は、原判決「第三 争点に対する判断」の一(9頁6行〜17頁6行)と同一であるから、これを引用する。
2 補助参加人の被控訴人に対する本件楽曲の複製許諾の有無について
(1) 控訴人及び補助参加人は、補助参加人が、被控訴人に対し、本件楽曲の複製許諾をした事実はない旨主張する。
 前記1で認定したとおり、補助参加人は、被控訴人に対して、本件楽曲につき、本件支払金のほかに、本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思表示を明示的にはしておらず、被控訴人も、補助参加人に対し、上記複製許諾料の支払を行う旨の意思表示を明示的にはしていない。しかし、同時に、補助参加人は、被控訴人に対して、本件支払金のほかに上記複製許諾料の支払を求めない旨の意思表示を明示的にはしておらず、被控訴人も、補助参加人に対し、本件支払金の支払は上記複製許諾に対する対価をも含むものである旨の意思表示を明示的にはしていないことも、弁論の全趣旨で明らかである。
 したがって、本件において次の問題となるのは、本件楽曲につき、補助参加人が、被控訴人に対し、本件支払金以外の対価を支払うことなく複製することを許諾する旨の黙示の意思表示をしたと認めることができるかどうか、すなわち、上記のように、この点についての明示の意思表示のない状態の下で、それにもかかわらず明示の意思表示があったのと同様に扱うべきであると評価することを正当化する事情があったかどうか、ということである。
(2) 当事者間に争いのない事実、前記認定事実及び証拠(甲第3、第4、第11、第13、第14号証、第16号証の1ないし13、丙第1号証、原審証人【A】(以下「証人【A】」という。))を総合すると、次の事実が認められる。
ア 控訴人と補助参加人は、平成3年1月1日、補助参加人が有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として控訴人に移転し、控訴人は、補助参加人のためにその著作権を管理することを内容とする本件信託契約を締結した。
イ 補助参加人は、本件信託契約を締結した後、今日に至るまで、その作曲に係る多数の作品(平成12年8月30日現在合計190曲)について、作品届を控訴人に提出している。このうち、補助参加人が、平成4年ころ、本件楽曲の場合と同様、東映ビデオ株式会社のオリジナルビデオの背景音楽のために作曲した作品については、同社が、控訴人に複製許諾を求めたうえで、複製許諾料を控訴人に支払い、控訴人から補助参加人に対し複製許諾料が分配された(被控訴人は、東映ビデオ株式会社が控訴人に対し複製許諾料を支払っていない旨主張し、原審における被告(被控訴人)代表者の尋問の結果中にはこれに沿う供述があり、乙第2号証にも同主張に沿う記載があるが、甲第11、第13号証及び証人【A】の証言に照らし採用できない。)。
 補助参加人は、本件楽曲についても、最終的には、すべて控訴人に作品届を提出しており、うち、別紙番号1ないし10のビデオの音楽については、平成7年12月末までに作品届を提出し、その余のビデオの音楽は、番号11については平成9年に、番号12、13については平成10年に、それぞれ作品届を提出した。
 上記認定によれば、補助参加人は、控訴人の会員となってからは、自らの作曲に係る、本件楽曲を含む多数の作品の作品届を控訴人に提出し、現に、これに基づき、本件楽曲の場合と同様の場合につき控訴人から複製許諾料の分配を受けた例もあることになる。被控訴人が補助参加人の黙示の意思表示により、本件支払金以外の対価を支払うことなく複製許諾を得たとするためには、上記事実の下でもなお、補助参加人が上記複製許諾の意思表示を明示的にしたのと同様に扱うことを正当化するに足る事情が認められなければならないことになるのである。
(3) そこで、本件において、このような事情が認められるか否かについて検討する。
 前記1で認定した事実によれば、被控訴人は、本件楽曲の作曲につき、補助参加人に対し、1件当たり、約10万円から50万円の金員を支払ったことが認められる。被控訴人は、右金員は複製許諾料をも含むものとして支払ったものである旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲第12、第14号証)によれば、バンダイビジュアル株式会社及び東映ビデオ株式会社は、ビデオ用に作曲された背景音楽については、作曲者に対し、複製許諾料とは別個に創作委嘱料として一定額の金員を支払っていること、東映ビデオ株式会社は、ビデオの背景音楽の作曲を補助参加人に依頼した際、同人に対し、複製許諾料とは別個に、委嘱料として1件当たり、60万円から150万円の金員を補助参加人に支払ったことが認められ、これらの事実と、被控訴人が補助参加人に支払った金員が、ビデオの販売本数にかかわらず一定額であるうえ、別件で支払われた委嘱料に比べても低額であることを総合すると、本件楽曲につき被控訴人が補助参加人に支払った金員は、いわゆる委嘱料であるとみることが十分可能であり、複製許諾料を含むものであると認めるには足りないものといわざるを得ない。
 被控訴人は、ビデオに使用するための背景音楽について、ビデオの販売本数に応じた複製許諾料については、これを支払わないのが業界の慣行である旨主張し、乙第3、第4、第6号証にはこれに沿う記載がある。
 しかしながら、前記認定のとおり、少なくともバンダイビジュアル株式会社及び東映ビデオ株式会社がビデオの背景音楽につき複製許諾料を支払っている事実があることに照らすと、右主張及び記載を直ちに信用することはできず、支払わない例があることまでは認められても、支払わないのが慣行であるとまでは認めることができない。
 被控訴人は、乙第17号証中の控訴人の信託契約約款改正委員会での発言内容を引用して、控訴人自身が上記慣行を認めていると主張する。しかし、乙第17号証に記載されているのは、著作権者が控訴人に管理を委託した著作物の管理範囲を一定の場合に留保又は制限することができるとする信託契約約款8条及び経過措置につき、著作権者の立場が弱く、依頼者との力関係により使用料が支払われない事例があるので、同規定を撤廃すべきであるとの意見に対し、同規定により留保、制限が可能な場合があることは既に商慣習化しているので撤廃は困難であるとする控訴人の執行部の意見が出され、最終的に留保、制限の範囲を現行から拡大しないことを確認したというものであって、同号証の記載から、控訴人が複製許諾料を支払わない慣行があることを認めたなどとは、到底いうことができない。
 被控訴人は、控訴人と信託契約を締結している著作権者が作曲した「少年アシベ」と題するビデオプログラムの背景音楽につき、買取契約がなされたことを、上記慣行が存在することの根拠として挙げる。しかし、上記主張事実は、それだけでは、控訴人と信託契約を締結している者であっても、買取契約をする事例があることを示すにすぎず、このことから、直ちに、買取契約の慣行の存在を認めることができるものではないことは、いうまでもないことである。
 被控訴人は、補助参加人が買取契約を締結した事例があると主張し、証拠(乙第5号証の1、2、第10号証、第11号証の1ないし3、第12ないし第15号証、丙第2号証及び証人【A】の証言)及び弁論の全趣旨によれば、補助参加人は、株式会社コダイが製作した「ワイルドタッチ」と題するビデオの背景音楽を担当し、その対価として42万円の支払を受けたこと、この背景音楽については控訴人に作品届を提出しておらず、別途複製許諾料の支払を受けたことがないこと、補助参加人は、同人が背景音楽を担当した乙第10号証、第11号証の1ないし3、第12ないし第15号証の各ビデオについても、控訴人に作品届を提出せず、複製許諾料の支払を受けていないことが認められる。
 しかしながら、仮に、上記各ビデオの背景音楽として用いられた楽曲が補助参加人の作曲に係るものであり、かつ、補助参加人が、これらの楽曲につき、買取契約を締結した事実があったとしても、そのことから、直ちに、控訴人に作品届がなされている本件楽曲につき、補助参加人が被控訴人との間で買取契約を締結したことまでは認めることはできないというべきである。
 被控訴人は、本件のように、劇場公開を予定せず、最初からビデオの製作を目的としているビデオについては、収入、製作費が低いので、販売本数に応じた複製許諾料を支払うことには、経済合理性がない旨主張する。しかしながら、ビデオ製作による収入は、その販売本数に応じて増加するものであるから、製作費が低いことは、いわゆる委嘱料を低額とする理由とはなり得えても、販売本数に応じた複製許諾料の支払をしないことの根拠には直ちにはなり得ない。
 被控訴人の主張する事情は、その個々のものを採り上げた場合、上記のとおり、前記事情としていずれも採用することができず、これらを総合しても、同事情とするに足りないものというべきである。
 なお、前記1の認定事実によれば、補助参加人は、被控訴人に対し、本件楽曲の作曲後相当期間を経過した平成8年9月26日になって、初めて被控訴人に複製許諾料の支払を請求したことが認められる。しかし、前記認定の、補助参加人が控訴人に対して作品届をした時期や、これまで、補助参加人が、他の作品について、控訴人から複製許諾料の分配を受けていたことに照らすと、被控訴人に対する支払請求が上記の程度遅れたとしても、そのことから直ちに、補助参加人が当初は複製許諾料の支払請求の意思を持っていなかったとすることはできない。
 他にも、前記事情に該当する事実は、本件全証拠によっても認めることができない。
(4) 以上述べたところによれば、結局のところ、補助参加人が、被控訴人に対し、本件支払金以外の対価を支払うことなく本件楽曲を複製することを許諾した、と積極的に認めることはできないのである。
3 付言するに、本件紛争の根本の原因は、補助参加人と被控訴人との間で複製許諾に関する明確な意思表示ないし合意がされなかったことに求められる。補助参加人が、作曲の依頼を受けるに当たって、被控訴人に対し、自分が控訴人の会員であること、被控訴人は控訴人に対して複製許諾料を支払う必要があることを明示していれば、このような紛争は避けられたということができ、その意味では、補助参加人にも本件紛争を発生させたことについての責任の一端はあるというべきである。特に、本件楽曲は、ビデオ製作用のものとして、多数複製されることが当初から予定されていたものであることを考えると、なおさらである。
 しかしながら、同じことは、被控訴人についてもいえることである。
 甲第14号証、原審における被告(被控訴人)代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は控訴人の存在を以前からよく知っていたこと、被控訴人と控訴人の間で、過去にもビデオの背景音楽の複製許諾料の支払をめぐって紛争があったことが認められるから、被控訴人において、このような不利益を避けるため、作曲の依頼に当たり、補助参加人に対し、控訴人との契約の有無や複製許諾の意思の有無を明らかにする等の紛争防止の措置をとることは十分に可能であったということができる。特に、被控訴人と補助参加人との力関係において被控訴人の方が優位にあること(被控訴人の自認するところである。)を考慮に入れると、このことはより一層強くいうことができる。したがって、上記の結論を、被控訴人にとって酷なものとすることはできない。
4 以上によれば、被控訴人が本件楽曲の複製許諾を得ていたとは認められず、被控訴人は、本件信託契約に基づく、補助参加人から控訴人への本件著作権の移転についての著作権登録原簿への登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には当たらないものというべきである。そうすると、被控訴人は、本件楽曲につき、控訴人の複製許諾を得るべきであったのに、少なくとも過失により許諾を得ないまま複製行為をしたことになり、控訴人に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償の責任を負う。
5 損害について
 甲第6号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律3条に基づき、著作物使用料規程(甲第6号証)を定め、文化庁長官の認可を受けていることが認められ、この著作物使用料規程に基づき算出される使用料の額は、平成12年法律第56号による改正前の著作権法114条2項にいう「著作権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額」に該当するものというべきである。もっとも、本件において適用されるのは、上記改正後の著作権法114条2項(平成13年1月1日施行)であるものの、上記損害が、同項にいう「著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」の範囲内にあることは明らかである。
 甲第6号証によれば、控訴人の著作物使用料規程は、著作物を録音したビデオグラム(ビデオテープ、ビデオディスクなどに影像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう。)を使用する場合の使用料は、基本使用料(ビデオグラムの個数にかかわらず、著作物の使用時間1分までごとに800円)と複製使用料を合算して得た額に消費税相当額を加算した額とされており、複製使用料とは、ビデオグラム1個につき、著作物の使用時間1分までごとに次の算式によって算出した額又は4円のいずれか多い額であることが認められる(算式のうち、「総再生時間」とは、当該ビデオグラムの再生に要する時間(1分未満切上げ)を、「著作物の合計使用時間」とは、当該ビデオグラムに収録されている各著作物の使用時間をそのまま合計し、1分未満を切り上げたものを、「著作物の累計使用時間」とは、当該ビデオグラムに収録されている各著作物それぞれの使用時間の1分未満を切り上げたうえ累計したものを、いう。)。
           4・5         1         著作物の合計使用時間
小売価格 × ──── × ───── × ───────────
          100      総再生時間     著作物の累計使用時間

 本件各ビデオテープの別紙記載の複製個数のうち、番号1ないし3、5、7ないし9、11、13のビデオテープの複製個数については、当事者間に争いがなく(弁論の全趣旨によれば、いずれも本訴提起日である平成11年2月12日までに複製された本数であると認められる。)、証拠(甲第18、第19号証の各1ないし13、第20号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオの著作物の使用時間、小売価格、総再生時間、合計使用時間、累計使用時間、本訴提起時までの番号4、6、10、12のビデオテープの複製個数(弁論の全趣旨によれば、いずれも本訴提起日である平成11年2月12日までに複製された本数であると認められる。)は別紙記載のとおりであること、本件ビデオの基本使用料、複製使用料の計算は、別紙使用料算定内訳に記載のとおりであること、消費税相当額、総合計額は別紙のとおりであり、その合計額は2825万6336円であることが認められる。控訴人は、著作権法114条2項に基づき、同金額を自己が受けた損害の額として、被控訴人に請求することができるものというべきである。
第4 結論
 以上によれば、上記不法行為に基づく損害の賠償として、金2825万6336円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成11年2月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の請求(当審において減縮された後の請求)は理由がある。これと結論を異にする原判決(ただし、当審における請求の減縮により減額された金18万1121円及びこれに対する平成11年2月25日から支払済みまでの年5分の割合による金員の支払請求に対する部分を除く)を取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条、66条、61条を、仮執行の宣言につき同法259条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 宍戸充
 裁判官 阿部正幸

別紙
別紙 使用量算定内訳 
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