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【事件名】在宅介護に関する書籍7種の著作権帰属事件(2)
【年月日】平成10年11月26日
 東京高裁 平成9年(ネ)第1885号、平成10年(ネ)第2451号 書籍発行差止等、同反訴請求、同附帯控訴事件
 (一審・東京地裁平成5年(ワ)第155527号 書籍発行差止等請求事件
 /平成6年(ワ)第19283号 書籍発行差止等請求事件
 /平成7年(ワ)第2786号)
 (平成10年10月6日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(附帯被控訴人) 甲野花子(以下「控訴人」という。)
右訴訟代理人弁護士 山下江
右訴訟復代理人弁護士 目片浩三
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社乙山館(以下「被控訴人乙山館」という。)
右代表者代表取締役 丙川一子<ほか2名>
右被控訴人3名訴訟代理人弁護士 津川哲郎


主文
一 控訴人の控訴及び被控訴人乙山館の附帯控訴(当審における新請求を含む。)に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人乙山館及び被控訴人丁原は、別紙目録一記載の書籍を、発行し、販売し又は頒布してはならない。
2 被控訴人乙山館及び被控訴人丁原は、その占有する別紙目録一記載の書籍を廃棄せよ。
3 被控訴人乙山館、被控訴人丁原及び被控訴人丙川は、別紙目録四及び五記載の書籍を、発行し、販売し又は頒布してはならない。
4 被控訴人乙山館、被控訴人丁原及び被控訴人丙川は、その占有する別紙目録四及び五記載の書籍を廃棄せよ。
5 被控訴人乙山館及び被控訴人丁原は、控訴人に対し、各自6万7928円及びこれに対する平成5年9月4日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 被控訴人乙山館、被控訴人丁原及び被控訴人丙川は、控訴人に対し、各自13万4643円及びこれに対する平成7年9月22日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
7(一) 被控訴人乙山館の控訴人に対する公立学校共済組合関係の書籍販売(別紙目録三記載の書籍)に関する主位的請求及び予備的請求その一を棄却する。
(二) 控訴人は、被控訴人乙山館に対し、300万円及びこれに対する平成10年6月23日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
8 控訴人のその余の請求及び被控訴人乙山館のその余の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人に生じた費用の2分の1を被控訴人乙山館、被控訴人丙川及び被控訴人丁原の連帯負担とし、控訴人に生じたその余の費用及び各被控訴人に生じた費用は、各自の負担とする。
三 この判決は、一項1、3、5、6、7(二)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
 (以下、別紙目録一ないし七記載の各書籍を、それぞれ目録の番号に対応して「書籍一」ないし「書籍七」という。)
一 控訴人の控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人乙山館及び被控訴人丁原は、既に発行し、販売し又は頒布した書籍一(その占有するものを除く。)を回収し、廃棄せよ。
3 被控訴人乙山館、被控訴人丁原及び被控訴人丙川は、既に発行し、販売し又は頒布した書籍四及び五(その占有するものを除く。)を回収し、廃棄せよ。
4 被控訴人乙山館及び被控訴人丁原は、控訴人に対し、各自173万7420円及びこれに対する平成5年9月4日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人乙山館、被控訴人丁原及び被控訴人丙川は、控訴人に対し、各自149万7928円及びこれに対する平成7年9月22日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 被控訴人乙山館の請求を棄却する。
7 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
8 原判決主文二項及び四項並びに右2ないし5及び7項につき仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
三 被控訴人乙山館の附帯控訴の趣旨
1 原判決の被控訴人乙山館敗訴部分中、次の2項記載の金員の支払請求を棄却した部分を取り消す。
2 控訴人は、被控訴人乙山館に対し、500万円及びこれに対する平成7年2月18日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
4 右2項につき仮執行宣言
四 附帯控訴の趣旨に対する控訴人の答弁
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は被控訴人乙山館の負担とする。
第二 事実関係
 次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決の事実摘示「第二 事案の概要」(7頁1行ないし43頁4行)と同一であるから、これを引用する。
一 事案の要約及び前提事実関係
1 原判決9頁9行の「している」の次に、「(ただし、当審では、書籍三についての内金請求額を500万円とするとともに、予備的請求その二として、商法512条に基づく報酬請求を主張している。)」を加える。
2 原判決10頁3行の「代表者である。」を「代表者であった。」と改める。
二 争点関係
1 原判決16頁8行の末尾に、「また、乙野及び控訴人の著作権ないし共有著作権は、それぞれ被控訴人乙山館に譲渡されたか。」を加える。
2 原判決17頁4行の次に、「また、被控訴人乙山館は、商法512条に該当する行為を行ったか。」を加える。
三 争点についての当事者の主張関係
1 原判決35頁6行の「乙野から原告への」を削除し、同頁10行の次に、改行して、「乙野及び控訴人が、書籍三初出部分の著作権を被控訴人乙山館に譲渡したことはな  い。」を加える。
2 原判決36頁1行の次に、改行して、「乙野及び控訴人は、書籍三初出部分の著作権を被控訴人乙山館に譲渡したものである。」を加える。
3 原判決37頁9行の次に、改行して、以下のとおり加える。
 「控訴人は、書籍二を作成するために書籍三用の版下、原版用フィルムの手直しが必要であったため、その作業を被控訴人乙山館に依頼した。被控訴人乙山館は、何ら異議を述べることなくその作業を行い、その作業の代金を控訴人に請求した。この事実は、被控訴人乙山館が本件著作物の著作権が控訴人に属することを認めていたことを示すものである。」
4 原判決40頁7行ないし43頁4行を次のとおり改める。
 「7 争点7(公立学校共済組合に書籍三を売り渡したのは、控訴人か被控訴人乙山館か。被控訴人乙山館は、商法512条に該当する行為を行ったか。)
(一)被控訴人乙山館
(1)(主位的請求)被控訴人乙山館は、平成4年11月6日、東京都在宅介護研究会名義で、公立学校共済組合との間で、書籍三を8万0200部、7271万8000円で売り渡す契約を締結し、同年12月ころ、書籍三を8万0200部公立学校共済組合に納品した。被控訴人乙山館は、右契約の実質的当事者であるが、書籍の出版等についての社会福祉・医療事業団等による助成団体の認定が、個人や営利企業である株式会社はその対象とはされないことへの配慮等から、東京都在宅介護研究会の名義を使用したものである。
 したがって、公立学校共済組合から送金された7271万8000円は、すべて被控訴人乙山館に帰属するものである。
 被控訴人乙山館は、控訴人に対し、主位的に、不法行為に基づく損害賠償として、公立学校共済組合から送金された書籍三の販売代金7271万8000円から控訴人が勝手に引き出して着服横領した6071万8000円の内金2000万円の更に内金500万円の支払を求める。
(2)(予備的請求その一)仮に右主張が認められないとしても、予備的請求その一として、著作権等侵害に基づく損害賠償として、書籍三の販売代金7271万8000円につき被控訴人乙山館が有する著作権割合に相当する金額(少なくとも4295万3068円)の内金2000万円の更に内金500万円の支払を求める。
(3)(予備的請求その二)仮に右予備的請求その一が認められないとしても、被控訴人乙山館は、書籍三の製作につき公立学校共済組合との間で、全面的にかつ頻繁に打合せを行い、書籍三の製作を行い、下請や紙の販売業者との間で、価格や下請条件等につき折衝した上で発注し、下請会社等からその代金の請求を受け、合計1332万3045円を支払ったものである。したがって、被控訴人乙山館には、商法512条に基づき、製作代金相当額として、公立学校共済組合への販売額の25%相当額である1817万9500円の報酬額が認められるべきである。
 よって、被控訴人乙山館は、控訴人に対し、予備的請求その二として、右1817万9500円から受領済みの1200万円を控除した617万9500円の内金500万円の支払を求める。
(二)控訴人
(1)控訴人は、公立学校共済組合と書籍三を売り渡す契約を締結して、平成4年12月ころ、書籍三を公立学校共済組合に納品した。
 したがって、公立学校共済組合からの入金7271万8000円は、すべて控訴人に帰属するものである。
(2)書籍三について、被控訴人乙山館は、何ら著作権等を有していないし、仮に著作権等を一部有していたとしても、少なくとも、控訴人は、書籍三の出版、発行について、被控訴人乙山館から本件著作物の使用許諾を受けているものである。
(3)書籍三の売買については、被控訴人乙山館は、これに関する印刷、製本等の業務依頼を控訴人から受けようとして、控訴人が公立学校共済組合に行く際に同行する程度のことをしたのみであり、売買契約の締結は控訴人自ら行っている。そして、控訴人は、最終的には、被控訴人乙山館に業務を依頼することを一切断ったものであり、商法512条の報酬請求権が発生する余地はない。
 なお、控訴人が被控訴人乙山館口座あてに合計1200万円を振り込んだのは、離婚状態にあることを取引先に知られて、被控訴人丙川がみっともない思いをすることがないようにとの配慮からである。」
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、控訴人及び被控訴人乙山館からの各書籍の発行差止め及び損害賠償の請求については、本件著作物の著作権、編集著作権は控訴人に一部帰属するとともに、被控訴人乙山館にも一部帰属するが、被控訴人乙山館は、控訴人に対し、書籍三及び書籍二の出版、発行につき、本件著作物の使用許諾をしたと判断するものであり、また、公立学校共済組合へ販売した書籍三に関する被控訴人乙山館から控訴人に対する請求については、被控訴人乙山館が実質的な売主であった等の主張は認められないが被控訴人乙山館は商法512条に基づく報酬請求権を有すると判断するものである。
 その理由は、2項以下で、付加、訂正、削除するほか、原判決の理由「第三 当裁判所の判断一ないし四」(43頁6行ないし163頁7行)と同一であるから、これを引用する。
二 誤記等の訂正
1 原判決43頁6行の「証人戊田」を「証人甲田」と改める。
2 同52頁7行の「甲五六」を「甲五六の1・2」と改める。
3 同52頁9行の「原告」を「被控訴人乙山館」と改める。
4 同54頁9行の「清掃」を「清拭」と改める。
5 同58頁6行の「五五、五六の1・2」を「五五、五六の各1・2」と改める。
6 同69頁10行の「修了者四一人」を「終了者四十一人」と改める。
7 同73頁8行の末尾に、「(甲五三)」を加える。
8 同80頁10行の「元に」を「基に」と改める。
9 同81頁1行及び82頁4行の「持った方」を「もった方」と改める。
10 同94頁4行の「書籍六」を「書籍七」に、「検乙一」を「検乙三」にそれぞれ改める。
11 同95頁9行の「甲二三の3」を「乙二三の3」と改める。
12 同97頁3行の「分かりました」を「わかりました」と改める。
13 同99頁3行の「甲内美術」(二箇所)をいずれも「甲村美術」と改める。
14 同115頁10行の「これ」を「これを」と改める。
15 同119頁1行の「したこと」を「したことを」と改める。
三 原判決44頁末行の次に、改行して、「ただし、被控訴人丙川は、現在、病気のため被控訴人乙山館の代表者の地位を退いている。」を加える。
四 同79頁1行から80頁5行までを削除する。
五 同98頁11行の「この原版用フィルムを原告に渡したため、」を「その版下及び原版用フィルムを控訴人に渡したため、」と改め、同99頁4行「右原版用」から5行(ママ)までを次のとおり改める。
 「右版下及び原版用フィルムを管理している。また、控訴人は、平成5年1月ころ、被控訴人乙山館に対し、書籍二を発行するために書籍三用の版下、原版用フィルムの手直しを依頼し、被控訴人乙山館は、その作業を行い、その代金として15万4500円を控訴人に請求した。
 被控訴人らは、右版下は、控訴人が、平成5年1月ころ被控訴人丙川との夫婦仲が決定的に悪化して被控訴人乙山館を退職した際、不法に搬出したものである旨主張し、原審における被控訴人丙川本人尋問の結果中にはそれに沿う部分があるが、前記認定のとおり、被控訴人丙川は、書籍三印刷用の原版用フィルムを控訴人に引き渡す意思であったのであるから、いまだ完成していない原版用フィルムの作成に必要な版下の引渡しを行っても不自然ではないこと、及び反対趣旨の甲第九五号証(控訴人の平成9年9月24日付け陳述書)に照らすと、右被控訴人丙川本人尋問の結果は採用することができず、被控訴人らの右主張は理由がない。」
六 同101頁3行「平成4年」から7行までを、「右三社に対し、平成5年1月までに、合計1332万3045円が支払われた。」と改める。
七 同106頁8行ないし108頁8行<同134頁1段19行目〜2段25行目>を削除する。
八 同108頁11行「書籍六及び七」から109頁4行を、「控訴人が発行した書籍三そのものを複写して印刷用の原版用フィルムを作成し、印刷製本したものである。」と改める。
九 同128頁1行ないし129頁2行<同137頁2段1行目〜23行目>を、次のとおり改める。
 「4 争点4(書籍三初出部分についての著作権の譲渡)について
 乙野が書籍三初出部分のイラスト等を作成したのは、被控訴人乙山館を退職した後であるが、乙野が被控訴人乙山館に勤務していた当時書籍七初出部分のイラスト等を作成したことがあったとの経緯から、控訴人の希望により乙野にイラスト等作成の依頼が行われ、控訴人の指示を受けて自宅で作成したものであり、しかも、乙野に対し東京都在宅介護研究会の名義で控訴人から支払われた額も10万2000円と、作成したイラストの量等に比して決して低くない額が支払われているものであるから、控訴人と乙野との間には、書籍三初出部分のイラスト等の著作権を譲渡することにつき黙示の合意があり、右の支払はその対価の支払として行われたものと認めるべきである。これに反する被控訴人らの主張は、右に説示したところに照らし、採用することができない。
 なお、控訴人が書籍三初出部分の著作権を被控訴人乙山館に譲渡したことを認めるに足りる証拠はなく、前記争点3(書籍六初出部分及び書籍七初出部分の控訴人の著作権の譲渡の有無)についての判断において説示したところと同様に、書籍三初出部分の控訴人の著作権が被控訴人乙山館に譲渡されたものと認めることはできない。」
一〇 同133頁1行ないし135頁1行を、次のとおり改める。
 「したがって、被控訴人乙山館から控訴人への著作権の譲渡をいう控訴人の主張は、理由がない。」
一一 同137頁1行の「乙野が」を「乙野から譲渡を受けた控訴人が」と改める。
一二 同137頁8行から139頁9行<同138頁3段22行目〜4段30行目>までを、次のとおり改める。
 「三 公立学校共済組合との契約当事者、出版発行の許諾、商法512条に基づく請求について
1 公立学校共済組合との書籍三の売買契約は、東京都在宅介護研究会名義でされているが、東京都在宅介護研究会は、権利能力なき社団にも当たらないため、右契約を締結したのは、被控訴人乙山館か控訴人かについて、次に判断する。
 前記認定のとおり、被控訴人丙川ないし被控訴人乙山館は、公立学校共済組合との交渉の前面に出ていた時期はあるものの、被控訴人丙川は、平成4年10月ころ、控訴人に対し、「公立学校は残念です。但し、製版アップまでは責任を持って管理します。」、「新しいフィルムは貴方に渡します。」などと記載した手紙を送り、その後、同年11月6日、「東京都在宅介護研究会甲野花子」名義で公立学校共済組合との契約が締結され、被控訴人乙山館は、書籍三の原版用フィルム及び版下を控訴人に渡し、書籍三の印刷、製本等のその余の作業は、控訴人から甲村美術に移ったのであるから、公立学校共済組合との契約を締結したのは、被控訴人乙山館でなく、東京都在宅介護研究会こと控訴人であったと認められる。
 したがって、被控訴人乙山館の附帯控訴における主位的請求(控訴人の着服横領を理由とする損害賠償請求)は失当である。
2 また、右のような事実経過にかんがみると、被控訴人乙山館は、控訴人に対し、公立学校共済組合に納入するために書籍三を製作することについては、許諾をしていたというべきであるから、被控訴人乙山館の附帯控訴における予備的請求その一
(著作権等侵害に基づく損害賠償請求)は理由がない。
3 さらに、右1に説示の事実経過、及び控訴人が平成5年1月ころ被控訴人乙山館に対し書籍二を発行するために書籍三用の版下、原版用フィルムの手直しを依頼し、被控訴人乙山館はその作業を行い、その代金15万4500円を請求していることなどに照らすと、被控訴人乙山館は、書籍三のみならず、書籍二の出版発行についても許諾をしていたというべきである。
4 附帯控訴における予備的請求その二(商法512条に基づく報酬請求)の点について判断する。
 前記認定の事実によれば、被控訴人乙山館は、印刷物の作成、企画、デザイン等を業とする会社であるが、その代表者であった被控訴人丙川は、平成4年5月ころから同年10月上旬ころに夫婦仲が悪化して別居するまでの間は、参議院議員選挙や父の看病で多忙であった控訴人に代わって公立学校共済組合と書籍三の販売についての見積りや打合せを行い、用紙、印刷等の手配を行い、書籍三の納入後も、乙石屋紙株式会社、株式会社戊海製版及び株式会社甲村美術の三社からの請求に基づき、紙代金等として合計1332万3045円を支払ったものである(なお、控訴人は、書籍三についての紙代金等の支払に充てるため、被控訴人乙山館の銀行口座に1200万円を振り込んでいる。)。
 そして、これまでの書籍六及び書籍七についての取引(前記認定のとおり、書籍六については、東京都在宅介護研究会が被控訴人乙山館からその販売価額の約半額(印刷・製本等の費用を大きく超える)で仕入れたものとする会計処理をして被控訴人乙山館に対し費用、利益を支払っており、また、書籍七については、被控訴人乙山館は、東京都在宅介護研究会に対し、そのデザイン・レイアウト料、イラスト料、写植・文字代、印刷・製本代等合計399万6000円を請求し、東京都在宅介護研究会から右金員の支払を受けている。)も被控訴人乙山館と東京都在宅介護研究会等との商取引として行われてきた事実からすると、同様の商取引に結びつく公立学校共済組合との取引の交渉等は、夫婦間の相互扶助としてではなく、飽くまで商人である被控訴人乙山館の立場で行われたものと認めることができる。
 さらに、控訴人が被控訴人丙川の関与を拒絶するまでに被控訴人乙山館の代表者であった被控訴人丙川が行った公立学校共済組合との打合せ等は、控訴人の意思に反するものとは認められず、また、前記のように、乙石屋紙株式会社ら三社への支払は、それらの会社からの請求に基づき行われ、しかも、控訴人は、被控訴人乙山館の銀行口座に1200万円を振り込んでいるものであるから、被控訴人乙山館の乙石屋紙株式会社らへの支払も、控訴人の意思に反するものとは認められない。したがって、被控訴人乙山館が行った公立学校共済組合との打合せ等及び乙石屋紙株式会社らへの支払は、委託がなかったとしても事務管理の要件を満たすものである。
 そして、被控訴人乙山館が商法512条に基づく請求権を放棄した等の事情もうかがわれない。
 したがって、被控訴人乙山館は、控訴人に対し、その営業の範囲内においてした公立学校共済組合との打合せ等及び乙石屋紙株式会社らへの支払につき経費を含む報酬の請求をすることができるところ、前記認定の事実関係によれば、経費を含む相当報酬額を1500万円(販売代金の約20%)と認めるのが相当である。そうすると、控訴人は、被控訴人乙山館に対し、その残額300万円及びこれに対する附帯控訴状が控訴人に送達された日の翌日である平成10年6月23日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。」
一三 同144頁8行ないし145頁5行<同139頁3段22行目〜4段5行目>を削除する。
一四 同150頁4行ないし末行<同1頁2段29行目〜3段10行目>を削除する。
一五 同154頁7行<同141頁1段16行目>の次に、改行して、「なお、参考文献をそのまま切り張りして複製した部分についての編集著作権は、全体の中において寄与する割合は低いと認められるので、右貢献度の割合の認定に影響を与えないものである。」を加える。
一六 同159頁末行ないし161頁5行<同4段19行目〜142頁1段13行目>を、次のとおり改める。
 「そして、アンケート部分の文章部分は第三者の著作、その余の説明部分は控訴人の単独著作、アンケート部分及びその余の説明部分におけるイラスト部分は乙野の単独著作であるが、右乙野の権利は控訴人に譲渡され、全体の編集著作は、控訴人であることは、前記のとおりである。
 以上によれば、書籍三初出部分に占める控訴人の著作権ないし編集著作権の貢献度の割合は、全体を10とすると、9.65(6×32÷34(文章部分)+2(イラスト部分)+2(編集著作))となる。」
一七 同162頁1行ないし163頁7行<同25行目〜2段22行目>を、次のとおり改める。
 「したがって、本件著作物全体を100とすると、これに占める控訴人の著作権の割合は、48.52(29×0.2+55×0.496+16×0.965)である。
 そして、控訴人は、本件著作物全体に占める自己の権利の割合に応じてその損害賠償を請求することができるところ、控訴人は、被控訴人乙山館及び被控訴人丁原に対し、書籍一の製作発行による損害金6万7928円(14万×0.4852)の損害賠償を、被控訴人らに対し、書籍四及び書籍五の製作発行による損害金13万4643円((26万7500+1万)×0.4852)となる。」
第四 結論
 以上によれば、控訴人の甲事件及び乙事件の請求、並びに、被控訴人乙山館の丙事件の請求は、主文第一項1なし6及び7(二)掲記の限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。
 なお、甲事件及び乙事件において、いずれも既に第三者に販売、頒布した書籍一、四及び五について回収の上廃棄を求める請求があるが、右各書籍が在宅介護研に関する書籍であり、その作成について被控訴人乙山館関係者以外の者が協力した部分も大きく、本件が控訴人と被控訴人乙山館代表者(当時)被控訴人丙川の夫婦間の争いに端を発するものであることにかんがみると、第三者に迷惑を掛けてまで、これを回収して廃棄させる必要はないというべきである。
 よって、これと異なる原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項、61条、64条本文、65条1項を、仮執行の宣言につき同法259条1項(主文三項掲記の限度で相当と認め、その余の部分については付さないこととする。)をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳

別紙 目録〈略〉
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