判例全文 line
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【事件名】ダリ展覧会事件
【事件名】平成9年9月5日
 東京地裁 平成3年(ワ)第3682号 著作権侵害差止等請求事件

判決
原告 デマート・プロ・アルテ・ビー・ブイ
右代表者 口べール・デシャルネ<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 株式会社朝日新聞社
右代表者代表取締役 中江利忠
右訴訟代理人弁護士 原井龍一郎
同 占部彰宏
同 小原正敏
同 上田卓哉
被告 株式会社 大丸
右代表者代表取締役 下村正太郎
右訴訟代理人弁護士 栗原良扶
同 水野武夫
同 飯村佳夫
同 田原睦夫
同 増市 徹
同 木村圭二郎
同 森田英樹
同 印藤弘二
同 宮下尚幸
同 服部 敬
右訴訟副代理人弁護士 北川鑑一


主文
一 被告株式会社朝日新聞社は、別紙第一目録記載の絵画を、別紙第二目録記載のカタログに複製してはならない。
二 被告株式会社朝日新聞社は、別紙第一目録記載の絵画を掲載した別紙第二目録記載のカタログを頒布してはならない。
三 被告株式会社朝日新聞社は、別紙第二目録記載のカタログの印刷用原版中別紙第一目録記載の絵画の印刷用原版及び別紙第二目録記載のカタログを廃棄せよ。
四 被告株式会社朝日新聞社は、原告に対し、金二〇万円及びこれに対する平成三年四月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告の被告株式会社朝日新聞社に対するその余の請求及び原告の被告株式会社大丸に対する請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、原告と被告株式会社朝日新聞社との間においては、原告に生じた費用の四分の一と被告株式会社朝日新聞社に生じた費用の二分の一とを被告株式会社朝日新聞社の負担とし、その余は原告の負担とし、原告と被告株式会社大丸との間においては、全部原告の負担とする。
七 この判決の一項ないし四項は、仮に執行することができる。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告株式会社朝日新聞社は、別紙第一目録記載の絵画を、別紙第二目録記載のカタログに複製してはならない。
2 被告らは、別紙第一目録記載の絵画を掲載した別紙第二目録記載のカタログを頒布してはならない。
3 被告株式会社朝日新聞社は、別紙第二目録記載のカタログの印刷用原版中別紙第一目録記載の絵画の印刷用原版を廃棄せよ。
4 被告らは、別紙第二目録記載のカタログを廃棄せよ。
5 被告らは、連帯して、原告に対し、金一二五万円及びこれに対する平成三年四月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の権利
(一)著作権
 スペイン国民であるサルバドール・ダリ(以下「ダリ」という。一九八九年(平成元年)一月二三日死亡)は、別紙第一目録記載の絵画(以下「本件絵画」という。)の著作者である。
(二)本件契約の締結(著作権の譲渡)
(1)ダリは、一九八六年(昭和六一年)六月一三日、当時、設立準備中のオランダ法人であった原告の代表者ロベール・デシャルネと、スペイン国フィゲラス(へローナ)市トレ・ガラテアにおいて、次の趣旨の条項を含む契約(以下「本件契約」といい、その契約書である甲第三号証を「本件契約書」という。)を締結した。
第一条 著作者の権利の暫定譲渡
 サルバドール・ダリは、ここに、全世界を対象として、原告に対し、現時点で知られているといないとに拘らず、また、その種類−文学、美術、戯曲、音楽、映画その他−を問わず、同人の全作品につき現に存し当該作品より由来する一切の知的財産権の完全かつ円満な行使を譲渡し、原告はかかる譲渡を受諾する。かかる権利は以下の権利を含むものである。
1.(省略)
2.一切の態様、根拠、方法又はメディアによる作品の複製及び出版を許可又は禁止する権利
3.債権の回収の権利(後略)
第三条 譲渡期間
 上に定義、記載された権利は、二〇〇四年五月一一日に終了する期間まで取り消されることなく(解除されることなく)、原告に譲渡される。書面による別段の合意がない限り、本契約期間満了時に、かかる権利はダリ又は同人の相続人もしくは他の承継人に帰するものとする。
 本書により原告に暫定的に譲渡された権利は何ら負担がないものと了解されている。
第九条 停止条件
1.本契約は、管轄スペイン行政庁よりの明示的な認可を得ることを条件に効力を発する。
2.加えて、本契約は、原告が、本契約から六か月以内の期間に然るべく完全に設立され、口べール・デシャルネ氏が、かかる期間内に、ダリ及び管轄諸庁に前述の会社の最終的な設立及び正式な資格並びに口べール・デシャルネ氏が原告の代表者として本契約を調印するに充分な権限を有していることを証明し、本契約の一部をなすものとして添付されるべき相応する公的書類を発行することを条件に効力を発する。
第一〇条 準拠法及び仲裁
1.当事者間に本契約の解釈又は履行の結果生じる紛争又は訴訟又は本契約から生ずる紛争又は訴訟はスペイン法によるものとする。(後略)
(2)本件契約第九条に規定された各条件は、本件契約締結後、間もなく成就した。
(三)原告は、本件契約に基づき、本件絵画についての著作権を取得した。
2 被告らの行為
 被告株式会社朝日新聞社(以下「被告朝日」という。)が主催して被告株式会社大丸(以下「被告大丸」という。)の左記四店舗内の会場で「スペインの幻想『ガウディとダリの世界展』」との名称で開催した展覧会(以下「本件展覧会」という。)の各会場で頒布するため、被告朝日は、本件絵画を複製、掲載した別紙第二目録記載のカタログ(以下「本件カタログ」という。)を少なくとも一万部制作し、被告朝日の委託により、被告大丸が本件展覧会開催中、各会場において、本件カタログとアントニオ・ガウディの作品のカタログの二分冊を一体として販売した。

 (一)会場 大丸ミュージアム東京
 会期 平成二年九月二七日から同年一〇月八日まで
 (二)会場 大丸ミュージアム梅田
 会期 平成二年一〇月一〇日から同年一〇月二二日まで
 (三)会場 大丸ミュージアムKYOTO
 会期 平成二年一〇月二五日から同年一一月六日まで
 (四)会場 天神大丸
 会期 平成二年一一月一五日から同年一一月二〇日まで
3 被告らの故意、過失、知情
 被告朝日は、原告が本件絵画の著作権者であることを知りながら、かつ、著作権者である原告からその許諾を受けるべき旨の通告を受けながら、これを無視して、本件絵画を本件カタログに複製、掲載したものであり、著作権侵害について故意があり、被告大丸は、本件カタログが原告の著作権を侵害して作成された物であるとの情を知って販売したものである。
 仮にそうでないとしても、展覧会の展示作品を複製、掲載してカタログを制作し、これを販売しようとする者は、当該作品の著作権者が誰であるかを確かめ、著作権者より当該行為についての許諾を得るべき注意義務を負っているのに、被告らは、本件カタログに本件絵画を複製、掲載し販売するについて、原告が著作権を有するか否かの照会すらせず、右注意義務を怠った過失がある。
 右被告らの行為は共同不法行為を構成する。
4 損害
 被告大丸は、本件展覧会開催中、各会場において、本件カタログとガウディの作品のカタログの二分冊を一体として、定価二五〇〇円で少なくとも一万部販売した。本件カタログ一部の価格は、右定価の半額である一二五〇円であるというべきであるから、本件カタログの売上高は一二五〇万円を下らない。
 ところで、本件絵画の複製による損害賠償額の算定の際の売上高の計算においては、本件カタログに占める本件絵画の重要性に照らし、本件絵画の本件カタログヘの複製、掲載は、本件カタログに複製、掲載された全作品の複製、掲載と同視すべきものであるから、本件カタログの価額相当額の全額に本件カタログの売上部数を乗じて得られる本件カタログの売上高をもって、本件絵画の複製、掲載によって得られた販売額とすべきである。
 また、原告が、著作物の使用を許諾する場合において通常徴する使用料率は、カタログの小売価格の一〇パーセントであるから、原告が被告らの本件カタログの複製、販売による著作権侵害行為により被った損害の額は、前記本件カタログの売上高に一〇パーセントを乗じて得られる額である一二五万円である。
5 よって、原告は、本件絵画の著作権(複製権)に基づき、被告朝日に対し、本件絵画の複製の差止め及び本件カタログの印刷用原版中本件絵画の印刷用原版の廃棄を、被告らに対し、本件カタログの頒布の差止め及びその廃棄並びに損害賠償として連帯して金一二五万円及びこれに対する不法行為の後である平成三年四月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否及び被告らの主張
1 請求原因1(一)は認める。
2 請求原因1(二)(本件契約の締結)は否認する。
 本件契約の法的性質は譲渡契約ではなく、委任契約であるから、原告の地位は、委任契約に基づく受任者にすぎない。したがって、原告が、そもそも著作権等の権利主体として本件訴訟の当事者となり得るかについて疑問があるが、その点をおいても、スペイン国民法一七三二条三項の規定により、同契約は、一九八九年(平成元年)一月二九日のダリの死亡に伴い終了している。
 すなわち、本件契約は、本件契約書(甲第二号証)に加えて、ダリと原告と間で一九八七年(昭和六二年)二月九日付で締結された契約(以下「補足契約」といい、その契約書である乙第二一号証を「補足契約書」という。)を一体として判断されるべきものである。
 そして、右契約は、スペイン国民法に従い解釈されるべきところ、同国民法においては、@「当事者がどのような文言を使用したかではなく、その契約がどのような内容をもっているか判断すべし」との同国裁判所において確立した契約の解釈原則が存在し、かつ、A「委任」と「譲渡」とは、前者が本人(委任者)の利益のために行為するもので、当事者が別段の意思を表示した場合又は代理人に事業目的がある場合を除き、委任者から受任者に対し対価が支払われることなく(無償で)成立するのに対し、後者は、譲受人は自らの名と利益のために行為をするもので、譲渡人への対価の支払い(有償で)若しくは譲渡人の遺言の方法による贈与のみによって成立するという点において峻別されているとの二点が本件契約を解釈するうえで重要である。右の点から本件契約をみると、本件契約書の第一条、第二条一項には、停止条件付(第九条)で原告のためにダリの有する著作権等が譲渡されたかのごとき文言が存するが、他方、その後に締結された補足契約においては、第一条で本件契約に基づく著作権の運用と使用から生ずる利益は全てダリ本人またはガラ・サルバドール・ダリ財団(以下「ダリ財団」という。)に帰属することが明らかにされており、本件契約において譲受人から譲渡人への対価が支払われないことが明らかであるから、贈与の遺言が存しない限り(本件では存しない。)、本件契約を譲渡契約とみると無効な契約ということになる。
 したがって、本件契約及び補足契約に基づく原告の契約上の地位は委任契約に基づくものにすぎないことは明らかである。
 スペイン国民法一七三二条三項によれば、委任契約は委任者の死亡により終了することが明定されており、その例外として商事代理の場合と当事者がこれと異なる意思を明示した場合にのみ限定的に認められる撤回不能の「委任」の場合があるが、本件契約の内容はそのいずれでもないから、委任契約である本件契約は、一九八九年一平成元年)一月二三日のダリの死亡により終了している。
3 請求原因2(被告らの行為)のうち、被告朝日が主催した本件展覧会の各会場で頒布するため、被告朝日において本件絵画を複製、掲載した本件カタログを制作し、被告大丸が被告朝日の委託により、本件展覧会開催中、各会場において、本件カタログとガウディの作品のカタログの二分冊を一体として販売したこと、並びに本件展覧会の会場及び会期は認め、本件カタログの制作部数を八○○○部の限度で認め、その余の事実は否認する。
4 請求原因3(被告らの故意、過失、知情)の主張はすべて争う。
 仮に原告が、本件絵画についての著作権者であり、被告朝日の本件絵画の複製、掲載行為が、原告の有する右著作権を侵害するものであったとしても、以下の事情に照らし、被告朝日には右侵害について過失がなく、また被告大丸は、本件カタログが著作権を侵害する行為によって作成された物であるとの情を知っていたわけではない。
(一)被告朝日は、総合美術研究所所長である訴外瀬木慎一(以下「瀬木」という。)を通じて、スペイン側と連絡をとって本件展覧会の準備をしたものであるが、そのなかで、著作権、カタログ作成、頒布についても了解を得て本件カタログの編集、発行をしたものである。
 しかも、被告らは、本件展覧会を開催するにあたり、スペイン大使館、カタロニア自治州政府の後援を受けていたものである。
 スペイン国はダリの遺言によって全てのダリの遺産について遺贈を受けた当事者であるから、日本国内においてスペイン国政府を代表する機関である同国大使館が本件展覧会を後援することは、ダリの遺産の相続人であるスペイン国政府が本件展覧会を後援し承認しているものと考えるのが自然である。
 またスペイン国には、ダリの著作権を管理する委員会が設置されており、スペイン国政府も同委員会のメンバーであるが、カタロニア自治州政府のプジョール首相はその委員会を代表する立場にあったものであり、同首相の同意と承認を得て本件展覧会が開催されたことから、本件展覧会はスペイン国大使館及びカタロニア自治州政府の後援を受けることができたのである。
 このようにスペイン国と同国カタロニア自治州政府の承認を得て開催された本件展覧会用の本件カタログヘの本件絵画の複製、掲載が、その作品についての著作権等を侵害することについて被告らに過失があったとはいえない。
(二)被告らは、本件展覧会の開催前に、原告代理人からダリの作品に関する著作権を管理しているのは原告であるとして、ダリの作品の複製利用について原告の承諾を得るべきだという申入れを受けたが、スペイン側との協議の結果表明される公的見解に従い、終始その時点の状況に応じて誠実に対応してきたものである。
 一方、原告は、原告自身が、原著作者でないにもかかわらず、その申し入れにおいて、権利の性格やその取得原因について明確に説明しなかったばかりか、権利を主張するのは本件カタログ中、一部であるとしながらその対象とする絵画の範囲が不明確であったうえ、原告とスペイン側との交渉結果の資料や、権利者であることについての根拠資料すら提示しなかった。
 しかも、被告らや瀬木がスペイン側から得た多くの回答において、ダリの作品についての著作権がスペイン国政府に帰属していることが繰り返し主張され、異議を述べる原告がスペイン側に問い合わせるように求められおり、原告にその旨伝えたにも関わらず、原告は自らスペイン側と連絡をとろうともしなかった。
 著作権がスペイン国に帰属するとの前提のもとにスペイン側から後援を受けているなか、原告から必ずしも十分な説明がないまま権利者であるとの申入れを受けたからといって、その都度スペイン側から被告らの取扱いに問題がない旨の回答を得ている状況において、被告らとして、あえてスペイン側の見解に反して自らが権利者であるとの原告の主張を受け入れることは到底できないことであった。
(三)なお、本件紛争以前に、被告朝日は、次のとおり、ダリの作品の著作物利用の許諾を原告に求めたことがある。
(1)複製許諾を求めた作品「聖アントニウスの誘惑」(ベルギー王立美術館所蔵)
 目的 単行本「世界名画の旅」第五巻(昭和六二年六月三日)への掲載のため
 著作権使用料 一〇万円
(2)複製許諾を求めた作品
 右(1)に同じ目的
 右(1)の全集の文庫本(平成元年七月二〇日発行)への掲載のため著作権使用料 一〇万円
 このように被告朝日が、原告にダリの著作物の利用の許諾を求めたのは、ダリが従前加盟していたフランスの著名な著作権管理団体であるSPADEMを脱退していたことに加え、右(1)の当時はダリが生存中であったし、右(2)の当時もダリが死亡した直後であって、遺言による著作権の帰属の問題は日本国内でさほど知られていなかったことによる。
 このように過去二回、被告に複製許諾を求めたのも、被告朝日としては、あくまで著作権を尊重する立場からその時々に真正な許諾権を有すると客観的に判断されるような者に許諾を求めたものであって、その事実をもって直ちにダリの死後その遺言によりスペイン国がその著作権を承継していた事実を前提とする本件にあてはめることは出来ないし、また被告朝日が原告の権利について悪意であったとする根拠とすることは出来ない。
5 請求原因5(損害)のうち、被告大丸が、本件展覧会開催中、各会場において、本件カタログと、ガウディの作品のカタログの二分冊を一体として定価二五〇〇円で、少なくとも七三七四部販売したこと、本件カタログ一部の価格が一二五〇円であることは認め、その余の事実は否認する。
 原告は、本件カタログの売上高の一〇パーセントをもって本件絵画の使用料相当の損害であると主張するが、本件絵画が本件カタログの一部にすぎないこと(年譜を除く図版総点数にして五一点中四点、頁数にして四六頁中四頁)、年譜引用図版と他の図版の複製に対する実施料率を同一とみてよいのか否か等の事情があり、単純にカタログの売上高に一〇パーセントを乗じるのは相当でない。原告は、本件絵画が本件カタログ中に一部を占めるものにすぎないことを認めながら、本件カタログに占める本件絵画の重要性に照らし、複製、掲載された全作品の複製、掲載と同視すべきものである旨主張している。
 しかし、本件カタログは、本件展覧会の観覧者にダリの作品を解説、紹介するため、瀬木がスペイン国カタロニア自治州政府と協議のうえ、総合監修したもので、同カタログに掲載された作品は、いずれもダリの作品を解説、紹介するにふさわしいものとして選定されたものである。
 したがって、仮に原告が主張するように掲載作品の価値、評価に若干の相違が存したとしても、そのことをもって本件カタログの価格が本件絵画の価格のみで構成されているかの如き主張は失当である。
三 抗弁(展示著作物の解説又は紹介目的の小冊子)
 本件カタログは、各展覧会場の観覧者のために、本件展覧会において展示された本件絵画を解説または紹介することを目的として、各会場においてのみ販売された小冊子であるから、本件カタログに本件絵画を複製する行為は、著作権法四七条により許されている。
四 抗弁に対する認否及び反論
 展覧会のカタログが著作権法四七条の「小冊子」に該当するためには、書籍の構成において著作物の解説が主体となっているかまたは著作物に関する資料的要素が多いことを必要とし、この要件を備えないものは「小冊子」にあたらない。また、たとえ、観覧者に頒布されるものでありカタログの名を付していても、紙質、規格、作品の複製形態等により、鑑賞用の書籍として市場において取引される価値を有するものとみられるような書籍は「小冊子」にあたらない。
 本件カタログは、年譜を含め本文が六五頁あり、著作物の解説らしいものは本件カタログに掲載された展示作品の幾つかについて簡単な由来の説明の如きものがあるのみにすぎず、また資料的要素としては、掲載された展示作品についての種類、題号、製作年、技法、サイズ等の簡単な記載があるのみにすぎず、何ら資料的要素の記載されていない展示作品が一三点も複製されており、他方、紙面の大半は展示作品の複製に用いられている。
 したがって、本件カタログは、展示著作物の解説が主体となっているものでもなく、展示著作物に関する資料的要素が多いものでもないから、著作権法四七条にいう「小冊子」に当たらない。さらに、本件カタログは大きさが縦約二七センチメートル、横約二二センチメートルであり、上質アート紙を用い、装丁はフランス装、表裏表紙は厚手の上質紙を用いた装丁であり、上質アート紙を用いたカバーを付してあり、また本件絵画1ないし4を含め展示作品は大部分紙面のほぼ全部または三分の二位の大きさで複製されており(中には見開き二頁にわたり、複製されている展示作品もある。)、本件カタログは実質的に鑑賞用の画集と何ら異なるところはないものであるから、本件カタログが「小冊子」にあたらないことはこの点においても明白である。
第三 証拠〈略〉
理由一 請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがなく、日本及びスペイン国は、いずれも文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の締結国であるから、同条約三条(1)項a及び我が国の著作権法六条三号により、スペイン国民であったダリの著作物である本件絵画は、我が国の著作権法による保護を受けるものである。
二 請求原因一(二)(本件契約の締結)について
1〈証拠略〉によれば、ダリは、一九八六年(昭和六一年)六月一三日、当時、オランダ法のもとで設立準備中であった原告の代表者としての口べール・デシャルネ(現在の原告代表者)と、スペイン国フィゲラス(へローナ)市トレ・ガラテアにおいて、本件契約を締結したこと及び本件契約書には請求原因1(二)(1)のとおりの趣旨の条項が含まれていたことが認められる。
 さらに〈証拠略〉によれば、本件契約を補足するものとして、ダリと原告との間で、一九八七年二月九日に、補足契約書に基づき補足契約が締結されたこと、同契約は、本件契約に「定められた取決めのうちいくつかにつき、その内容および解釈を完全なものとし、かつ明確にする」趣旨の契約であり、左記の趣旨の条項を含んでいたことが認められる。

 第一条 本件契約の著作権の運用と使用から生じる正味の果実または利益はすべてダリ本人またはダリ財団を唯一の受益者とするものであるとの意味で、その契約の「第四」条はあらゆる場合に解釈されなければならないものとする。
 上記の規定は、この著作権の運用によって利益が生じる限りにおいて原告が著作権経費の一部として、ダリ財団の利益のために同財団がその目的をよりよく遂行できるような取引、事業または研究のための資金調達を援助すること、あるいはその仲介によってダリ本人の物質的維持の経費を援助することを、妨げるものではない。
 第二条 原告が発行することになっている、本件契約の「第五条1」にいう定期報告書の一部は、スペインの経済大蔵省内の適宜決定される担当者または部局にも送付されるものとする。
 第三条 本件契約の締結は、スペイン国政府が現在所有しているダリの作品および将来所有者となるかもしれない作品について、文化的な目的で展示および作品の陳列に関わる目録または書類の編集と刊行の権利を行使できることを妨げるものではない。
 そして、〈証拠絡〉によれば、本件契約及び補足契約は一九八七年(昭和六二年)二月一九日、スペイン国政府経済財務省により認可され、また、原告は一九八六年(昭和六一年)九月三日に設立され、ロベール・デシャルネがその代表者に就任し、同年一〇月七日、原告は本件契約を含むロベール・デシャルネの全ての行為を追認する等、本件契約第九条に・規定された各事項が達成されたことが認められ、本件契約は、一九八七年(昭和六二年)二月一九日、その停止条件が成就した。
2 なお、原告が本件において行使している権利は、我が国の著作権法上の著作権であるが、この権利を他国の法律を準拠法として譲渡等の処分をすることは可能であるところ、本件契約第一〇条には準拠法をスペイン法とする約定があるから、契約当事者が本件契約の準拠法をスペイン法とすることを合意したことは明らかである。そして補足契約も、前記のとおり、本件契約を補足したものにすぎないから、本件契約及び補足契約の準拠法は、法例七条一項に従いスペイン法である。
3 原告は、本件契約に基づき、本件著作物の二〇〇四年五月一一日までの著作権を譲り受けた旨主張するので検討する。
(一)本件契約書の文言についてみると、(1)〈証拠略〉によれば、本件契約書には、「著作者の権利の暫定譲渡」(契約書の表題)として「著作者の権利の暫定譲渡」(第一条見出し)、「著作者の権利の譲渡の性質」(第二条見出し)、「前条に定義、記載された権利は…譲渡される」(第二条第一項)、「譲渡期間」(第三条見出し)、「暫定的に譲渡された権利」(第三条)、「譲渡の対価」(第四条見出し)、「譲渡された権利にかかわる活動、契約、交渉及び事柄」(第五条第一項)、「当該会社に譲渡された権利」(第一一条第二項)などの箇所に「譲渡」という用語が用いられていることが認められる。
(2)また、〈証拠略〉によれば、本件契約書には、「サルバドール・ダリ著しくは同人の代理人の同意を得ずして不当になされた著作物利用行為」(第二条第二項)、「サルバドール・ダリ又はその代理人によって本件契約締結以前に締結された現在有効な契約を同人の利益のために監督し、引続き実行する義務並びに引続き相応する金員の受領及び回収する義務を伴う。」(第四条第三項)との規定があると認められるところ、〈証拠略〉によれば、右規定につき「代理人」と訳された部分は「受任者」と訳されていることが認められるから、右両規定は、結局、本件契約締結前にダリによりされた代理権授与又は委任契約の効果について定めた規定であると解される。
 そうすると、本件契約を締結した当事者は、譲渡と代理権授与あるいは委任との相違を明確に認識していたことが認められる。
(3)さらに、前記のとおり、本件契約の第三条には、「書面による別段の合意がない限り、本契約期間満了時に、かかる権利はダリ又は同人の相続人もしくは他の承継人に帰するものとする。」旨の定めがあり、本件契約の当事者は、二〇〇四年五月一一日までの間にダリが死亡しても契約は終了せず、契約期間満了時にダリの相続人もしくは他の承継人に帰することを、明らかに予定していたことが認められる。
(二)また、本件契約第九条には、前記のとおり「管轄スペイン行政庁よりの明示的な認可を得ること」を本件契約の停止条件とする旨の定めがあるところ、〈証拠略〉によれば、右認可とは、一九八○年一〇月一〇日の国王令第二四〇二号三条一項の「以下の行為には事前の承認を要する。…5a.スペイン国の居住者がスペイン国内に有する有形無形の資産、権利の非居住者による取得、但し居住者の死亡による取得の場合を除く。」との規定に基づく経済財務省の承認をいうものと認められ、現に、〈証拠略〉によれば、一九八七年(昭和六二年)二月一九日、スペイン国政府経済財務省国際取引局長が、本件契約及び補足契約が認可された旨をダリに通知したこと、〈証拠略〉によれば、同年二月二七日、スペイン国経済財務大臣が、ダリに対し、原告に対する著作権の一時的譲渡を許可することを確認する旨通知した事実が認められる。
 右事実によれば、本件契約の当事者は、本件契約が、スペイン国非居住者である原告がスペイン国の居住者であるダリが有している無形の資産である著作権を取得をする効果を生じるものであることを明確に認識していたことが認められる。
(三)右(一)、(二)に認定した事実及び〈証拠略〉によれば、本件契約は、契約の効力の発生した日(一九八七年二月一九日)から二〇〇四年五月一一日までと期間を定めた著作権の一部譲渡契約であると認められる。
 右のような著作権の時間的一部の譲渡は、我が国の著作権法上も認められるものであり、譲渡人が譲受人に著作権の管理を委ねる目的で行われたとしても委任契約ではなく、その目的を達成する手段として著作権を譲渡するという方法を選択し、本件契約を締結したことは明らかであって、著作権は定められた一定の期間、完全に譲受人に移転するものである。
4 被告らは、本件契約は委任契約にすぎず、ダリの死亡により終了している旨主張するので検討する。
(一)まず、被告らは、譲受人から譲渡人への対価が支払われない譲渡契約は無効となるから、本件契約は、その「譲渡」の文言に関わらず委任と解すべきと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、補足契約には、その第一条に「本件契約の著作権の運用と使用から生じる正味の果実または利益はすべてダリ本人またはダリ財団を唯一の受益者とするものであるとの意味で、その契約の第四条はあらゆる場合に解釈されなければならないものとする。上記の規定は、この著作権の運用によって利益が生じる限りにおいて原告が著作権の運用経費の一部として、ダリ財団の利益のために同財団がその目的をよりよく遂行できるような取引、事業または研究のための資金調達を援助すること、あるいはその仲介によってダリ本人の物質的維持の経費を援助することを、妨げるものではない。」旨の条項があるところ、右条項の趣旨は、本件著作権により得られる利益を譲渡人であるダリあるいはダリの指定する第三者であるダリ財団に帰属させるというものであるから、譲渡人が、本件契約の対価を得ないとの主張はあたらない。
(二)〈証拠略〉によれば、スペイン国政府の本件契約への対応について、以下の事実が認められる。(1)被告朝日は、一九九一年(平成二年)四月一〇日付けで、カタロニア自治州政府文化大臣宛に、被告朝日が本件訴訟の応訴準備のため、ダリ財団の理事長であるボイシャドス氏と連絡をとった旨、大臣において、同氏に対し被告朝日の立場を説明し、本訴における被告朝日への支持を頼んで欲しい旨の書簡を送付した。
(2)カタロニア自治州政府官房長官アルベルト・ビラは、一九九一年(平成三年)五月二四日付けで、被告朝日宛に、原告代表者の行動に遺憾の意を表するとともに、ダリの遺産全体の相続人はスペイン国政府であるということを表明する旨の内容の書簡を送付した。    
(3)スペイン国政府文化省歴史的遺産保存局副局長ルイス・ヒメネスークラベリア・イグレシアスは、後記五1(二四)記載の被告朝日からダリ財団宛のダリの作品の著作権に関する問い合わせに対し、一九九一年(平成三年)六月六日付けで、ダリ財団の決定で、被告朝日からの質問について、同省から伝えるとして、@原告は、一九八七年二月九日付け追加資料を付した一九八六年六月一三日付け著作権一時譲渡契約(本件契約)に基づき二〇〇四年五月一一日まで、ダリの全作品の知的財産権を運用する権利の現在の譲受人である、Aスペイン国は、一九八二年九月二〇日付けのダリの遺言書により、ダリの全財産、権利、芸術作品の全世界で自由な相続人と指定された、B原告とダリの@の契約は、正当な手続を踏んだものであり、現時点で有効であり、ダリの知的所有権のいかなる利用も原告の承認が必要である旨の回答をした。
(4)カタロニア自治州政府文化大臣エドワルド・カルボネル・イ・エステレルは、一九九一年(平成三年)六月一四日付けで、被告朝日に対し、スペイン国政府文化省より、原告の通告が有効との回答を得たとの書簡を送付した。
(5)スペインでは、一九九一年一〇月六日、新聞紙上で、日本におけるダリ展の予定及びこれに対する本件紛争の影響に関連して、スペイン国政府文化省及びカタロニア自治州政府とも、原告が、ダリの著作権の受託者であり、その権利行使が合法であるとの認識を有している旨が報道された。
(6)スペイン国とダリ財団は、原告との間で、一九九四年(平成六年)七月五日から、本件契約の期間を繰り上げて解除し、年内に権利を政府に返還する方向で話し合いを開始した。
(7)スペイン国政府文化省次官エンリケ・リンデ・パニアグアは、一九九四年九月一三日付け書面をもって、原告に対し、本件契約は委任契約であり、スペイン民法一七三二条の三の規定により、ダリの死亡により消滅したものであるから、スペイン国がダリの著作権を引き受ける旨を通告し、同年九月二〇日、文化省美術局長が、原告代表者の原告運営の乱脈ぶりを非難するとともに、本件契約を正式に終了させることを正式発表した。
(8)原告は、同年九月一六日、スペイン国政府文化省次官宛に、前記九月一三日付け書面の内容が、同年七月五日にされた協議中の合意内容に反し、従前のスペイン国政府と原告との間の関係に反する旨を抗議する内容の書面をファックスにて送付し、同年一〇月七日、スペイン国政府の対応を非難する記者発表を行った。
(9)被告朝日が、同年一〇月七日付けで、ダリ財団宛に、前述の原告とスペイン国政府間の紛争の新聞報道に当惑しており、現在、スペイン国政府、ダリ財団と原告との契約関係はどうなっているのか財団の公的見解を教えてほしい旨の書面を送付したところ、ダリ財団は、同年一〇月二一日、被告朝日に対して、スペイン国政府がダリの死亡により本件契約が消滅していることを公式の見解としていることを回答した。
(10)スペイン国政府文化省歴史遺産保護局副局長ルイス・ヒメネス・クラベリアは、本件訴訟に関して、被告らのために、同年一二月二四日付け文書で、文化省としては、本件契約及び補足契約は、知的所有権の運用と行使の委託、すなわち委任契約であり、同契約はダリの死亡により終了しているとの見解であることを証明した。
(11)スペイン国政府文化省は、一九九五年七月二五日付けで、ダリ財団に、ダリの作品に関する知的財産権の管理、運用についての権限の行使を認める文化省省令を定めた。 
(12)原告は、スペイン国において、国家高等裁判所に対し、右省令の取り消しを求める訴訟を提起し、一九九六年(平成八年)二月二二日、国家高等裁判所は、右通達の効力を一時的に停止する裁判をした。
(三)以上によれば、スペイン国政府文化省は、現在のところ、本件契約は委任契約であり、ダリの死亡時に終了したという本件における被告らの主張に沿う解釈を公式見解としているものであることが認められる(勿論、スペイン国政府文化省の見解に被告らが依っているものであろう。)。
 スペイン国が、我が国同様、民主主義的法体制の整備された法治国家であることは当裁判所に顕著であるから、同国政府が自国法を解釈して本件契約に適用して示した見解は、それ自体尊重されるべきことは当然である。
 しかし、前記乙第二六号証及び弁論の全趣旨によれば、スペイン国はダリの一九八二年九月二〇日付けの遺書により、ダリの全財産を相続したものであると認められるから、本件契約が著作権の一部譲渡契約で、その対象となった著作権はダリの死亡当時既にダリの財産に属していなかったのか、委任契約でダリの死亡によって終了しているのかは、スペイン国が産んだ世界的美術家の一人であるダリの著作権が当面(二〇〇四年五月一一日まで)スペイン国に帰属するのか、原告に帰属するのかを左右するものであり、スペイン国政府は本件契約を巡る私法上の法律関係の一当事者として本件契約の解釈について利害関係を有する者であり、前記(二)(7)、(8)、(12)のとおり、現在、スペイン国において本件契約の趣旨を巡って原告とスペイン国政府が紛争状態にある。
 そして、スペイン国の法制度上、オランダ法人である原告とスペイン国の間の私法上の紛争について、裁判所ではなく、スペイン国政府文化省あるいは文化大臣が公権的裁定をする権限を有することを認めるに足りる証拠はないから、前記の見解は公式見解といっても、私法上の法律関係を巡る紛争の一当事者としてのスペイン国の文化省の見解にすぎないものと解される。
 しかも、スペイン国政府文化省の高官は、前記(二)(3)のとおり、当初原告がダリの作品の著作権者であることを認め、被告朝日に対し、原告が適法な権利譲受人であることを表明していたものであり、一旦は、原告が著作権を有することを前提として原告と本件契約を合意解約して権利の返還を受けるための協議を始めたこと、ところがその後になって現在の解釈を公式見解とし、あわせて原告代表者の乱脈経営ぶりを強く非難し始めたものである。これらの事実及び前記(二)認定の諸事実に照らすと、現在、スペイン国政府文化省が本件契約について、被告らの解釈を支持する立場にあることを考慮しても、当裁判所は、本件契約は前記3のとおり著作権の時間的一部の譲渡契約と認定するのが相当であると判断する。
 乙第二二号証(スペインの弁護士資格を有するエンリク・ピカニョールの小原正敏弁護士宛の本件契約についての法的見解書)には被告らの主張にそう記載があるけれども、前記3(一)、(二)に認定した事実及び〈証拠略〉に照らし信用できない。
(四)なお、〈証拠略〉によれば、アメリカ合衆国連邦著作権局に、ダリの包括相続人としてのスペイン国政府を代表して文化大臣ホルヘ・センブルン・マウラが一九九一年二月二一日付けで作成した文書が登録されていることが認められるところ、その内の英文文書には、原告が「current licensee」、すなわち「現在のライセンシー」であると表現されている事実が認められる。
 しかしながら、右英文の原文とみられるスペイン語で記載された文書には、前記の「licensee」に相当する語は「cesioneria」と記載されており、〈証拠略〉によれば、「cesioneria」の英訳は、「cessioary」あるいは「assignee」、すなわち「譲受人」であると認められるから、右英文文書を根拠に、一九九一年(平成三年)二月の時点ですでにスペイン国政府が、原告が単なるライセンシーの地位しか有していないものと認識していたと直ちに認めることはできない。
5 以上のとおり、本件契約は、著作権の時間的一部の譲渡契約と解すべきであり、前記4(二)(3)のとおりダリの全財産、権利、芸術作品の全世界で自由な相続人、すなわち包括受遺者としての地位を有するスペイン国は、ダリの死亡時におけるダリの財産、すなわち、ダリの作品についての著作権の時間的一部が原告に譲渡された状態の財産を承継したものであり、原告は、本件契約の効果として、なおダリの作品の著作権の譲受人の地位を有するものである。
三 請求原因2(被告らの行為)について
 本件展覧会を主催した被告朝日が、各会場で頒布するため、本件絵画を複製、掲載した本件カタログを制作し、被告大丸が、被告朝日の委託により本件展覧会開催中、各会場において、本件カタログとガウディの作品のカタログの二分冊を一体として定価二五〇〇円で販売したこと、本件展覧会の会場及び会期は当事者間に争いがなく、本件カタログの制作部数は八○○○部の限度で、その販売部数は七三七四部の限度で当事者間に争いがない。成立に争いのない丙第一号証によれば、残りの六二六部は寄贈され又は資料用とされたことが認められ、これを超える数の本件カタログが制作、販売された事実を認めるに足りる証拠はない。
四 抗弁(展示著作物の解説又は紹介目的の小柵子)について
1 著作権法四七条に規定する観覧者のために美術の著作物又は写真の著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子とは、観覧者のために展示された著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小型のカタログ目録又は図録等を意味するものであり解説または紹介を目的とするものである以上、内容において著作物の解説が主体になっているか又は著作物に関する資料的要素が相当にあることを必要とするものと解すべきであり、また、展示された原作品を鑑賞しようとする観覧者のために著作物の解説または紹介をすることを目的とするものであるから、掲載される作品の複製の質が複製自体の鑑賞を目的とするものではなく展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を視覚的に明らかにする程度のものであることを前提としているものと解され、たとえ、観覧者に頒布されるものであっても、紙質、判型、作品の複製態様等からみて、複製された作品の鑑賞用の図書として市場において取引されるものと同様の価値を有するものは、実質的に画集にほかならず、同条所定の小冊子に該当しない。一定の主題の展覧会の機会に、日本全国あるいは世界各地から貸与を受けた作品、個人所蔵の作品等、一般人には日常は接することのできない作品の質の良い複製を掲載したカタログを発行し、観覧者が後日これを鑑賞検討し、原作品を想起するために供することは文化的、学術的には意義のあることではあるけれども、そのことをもって市販の鑑賞用の画集と同様のものを著作権法四七条所定の小冊子として複製権が及ばないものとするのは相当でない。
2 これを本件カタログについてみると、「スペインの幻想『ガウディとダリの世界展』」と題するカタログであることに当事者間に争いがない検印第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件カタログについて、次の事実が認められる。
 すなわち、本件カタログは、作品リストを含め本文は六七頁からなる。ダリの作品とされるものが掲載されているのは一一頁から五五頁までの四五頁であり、その前に被告朝日の挨拶、瀬木慎一名義の「サルバドール・ダリ−その芸術の精神」との表題のダリの生涯とその各時期における作品の傾向の概略についての解説(本件カタログに掲載された個々の作品についての言及はない。)、ダリの肖像写真、ダリの言葉を掲載した頁があり、作品掲載頁の後に、毛皮を着用したダリの写真と八頁の年譜、二頁の出品作品リストがある。作品掲載頁には、ブロンズ彫刻一〇点(各頁一点)、タペストリー五点(見開き二頁に一点掲載のもの一点、他は各頁一点)、油彩四点(各頁一点)、水彩七点一各頁一点)、素描一点(各頁一点)、版画四点と一五点からなる一シリーズ(四点は各頁一点、シリーズのものは一頁一点の頁と二点の頁がある。)、陶皿四点(各頁一点)が掲載されている(水彩の内四点、版画の内一点とシリーズのもの全部(計一四頁)がモノクローム印刷である外はカラー印刷)が、本件絵画は、その内の油彩三点、素描一点であり、全てカラー印刷である。説明的事項としては、当該作品の種類、題号、製作年、画材、サイズの簡単な記載が付されているにすぎないものが一五点あり、解説が付された作品であっても、半数近くのものは、二、三行の解説であり、本件絵画の内、別紙第一目録1のものについては一六行の説明があるが、他の三点については説明が付されていない。本件カタログの判型は縦約二七センチメートル、横約二二・五センチメートルで、各掲載作品は、大部分が各頁のほぼ全部又は三分の二位の大きさで複製、掲載され、中には二頁にわたり掲載されている作品もあることは前記のとおりである。本件絵画の内別紙第一目録1のものは、縦、横共約一五センチメートル、同2のものは縦二一センチメートル、横一七センチメートル、同3のものは縦約二一センチメートル、横約一五・五センチメートル、同4のものは縦約一九センチメートル、横約一四・五センチメートルで掲載されている。本件カタログの形態は、本文部分は上質アート紙が用いられ、表裏の表紙は厚手の上質紙を用いた装丁であり、上質アート紙を用いたカバーが付され、ガウディの作品のカタログとの二冊で一揃いとして一つの外函に納められた状態で販売された。
 右認定の事実によれば、本件カタログは、展示作品についての資料的要素が乏しく、掲載された作品の複製を鑑賞することを主眼としていることはその掲載態様から明らかで本件カタログの紙質カラー印刷か多いこと、判型、掲載された作品の大きさ等の体裁においても、作品の複製による鑑賞用の画集として市中に販売されるものとなんら遜色がないものということができるから、著作権法四七条にいう「小冊子」に当たるものとはいえない。
3 したがって、被告らの抗弁は認めることができない。
五 請求原因3(被告らの故意、過失、知情一について
1〈証拠略〉によれば、被告らの故意、過失、知情に関係する事実として以下の事実が認められる。
(一)ダリが一九八九年(平成元年)一月二三日に死亡した事実は、翌日日本国内でも新聞でも大きく伝えられた。また同年一月末から二月初めにはスペインの雑誌等の報道を引用して、ダリの遺産がスペイン国政府に遺贈される旨の簡単な記事が朝日新聞等に掲載された。
 また、平成二年五月、別の展覧会のオープニングパーティに出席のため来日したカタロニヤ自治州政府首相、文化局長、学芸員等は、被告らの担当者に対し、ダリの著作権はスペイン政府にある旨を口頭で伝えた。
(二)本件における原告訴訟代理人でもある古木睦美弁護士(以下「古木弁護士」という。)は、従前、原告の日本国内における代理人として、ダリの作品の著作権の管理を行っていたが、被告朝日の出版局は、昭和六二年四月三日付けで古木弁護士に対し、ダリの油彩を同年六月発行の図書に掲載することの著作権者の許諾を求めてその許諾を得、ダリの死亡後になっても平成元年七月発行の図書に掲載することの許諾を求めて許諾を受けた。なお、平成二年八月二七日付けでも、被告朝日の出版局から、古木弁護士に対しダリの作品を図書に掲載することに関して著作権者の許諾が申し込まれているが、甲第六号証の作成日付は一九九〇年八月二七日であるものの、ファックスのタイムスタンプは一九九一年(平成三年)八月二七日であり、作成日付は誤記の疑いがあり、その場合は本件展覧会後の申し込みである。
(三)古木弁護士は、平成二年五月頃、原告代表者から、被告朝日が秋にダリの展覧会を開催するらしいが、展覧会の期日、場所、展示作品を聞いて、カタログを作るなら複製の許諾を申請してもらうよう指示を受け、被告朝日に連絡したところ、担当者から同展覧会の企画委員である瀬木から連絡があるとの回答を得た。
 間もなく瀬木から、古木弁護士に電話があり、展覧会の概要の説明があったので、同人に対し、展覧会の場所及び日程の詳細、贋作が展示されるといけないから展示作品の詳細を知らせるよう、ダリ作品についてのカタログを作成するならば、複製利用の許諾を得るように伝えたところ、展示作品と展覧会の日程の詳細は、後に連絡するとのことであり、古木弁護士は、同月二九日、その旨を原告にファックスで連絡した。なお、瀬木の主宰する総合美術研究所は、昭和六三年九月に古木弁護士に対し、ダリの作品をカレンダーに複製することの許諾を求めたことがあった。
(四)瀬木は、平成二年八月一五日付けで、カタロニア自治州政府首相ジョルディ・ブジョールに対し、本件展覧会が開催される予定であり同政府の後援を依頼する旨の書簡を展示作品のリストを同封して送付するとともに、同趣旨に加えて、展示される作品について展示と出版にともなう権利に対して配慮と保護を依頼する旨の書簡を同政府官房次官アルベルト・ビラ・イ・リュシリャ宛にも送付した。
(五)被告朝日は、平成二年九月二〇日付けのカタロニア自治州政府首相からの書簡を受け取ったが、その内容は、「ダリとガウディの芸術作品を様々な側面から展示するという、大丸と朝日の発案による企画を知り、非常に嬉しく思います。」、「このガウディ・ダリ展が日本に高まりつつあるカタロニアヘの関心に応えるものと確信しておりますとともに、その成功を心よりお祈り申し上げます。」との趣旨であり、本件カタログに関する記載はない。
(六)瀬木は、前記(三)の古木弁護士からの問い合わせに対し、ようやく平成二年九月一九日付けで、本件展覧会が、外務省、文化庁、スペイン大使館、カタロニア自治州政府の後援を得ている旨、ダリの死亡により、スペイン国に遺贈されたダリの全作品と全権利を管理する委員会の主要メンバーをカタロニア自治州政府首相がつとめており、今回のダリ作品の展示は、カタロニア自治州政府の承認を得て、全て同政府の意向にしたがって行う旨、問い合わせは、直接同政府にしてほしい旨の返答を書面でし、た。また、同書面には、本件展覧会の会期と会場を記載した開催要領が同封されていた。
(七)瀬木は、平成二年九月二五日付けで、古木弁護士に対し、カタロニア自治州政府から、ポスター、カタログ、広告等、展覧会に必要なものの制作が承認されている旨、著作権問題についても、同政府が対応すると伝達されているので原告において、直接、同政府首相に照会してほしい旨の内容の書簡を送付した。
(八)原告代理人古木弁護士は、平成二年九月二六日、瀬木に対し、展覧会の開催自体はスペイン国政府及びカタロニア自治州政府が許可しているが、カタログ、ポスター、絵はがき等の複製物の著作権使用料の支払い及びクレジット表示を免除した事実はないとの認識を原告が有している旨、複製物の著作権使用料として七パーセントを請求する旨を内容とする書簡をファックスで送付した。
(九)瀬木は、本件展覧会の開催初日である平成二年九月二七日、古木弁護士に対し、本件展覧会は、カタロニア自治州政府の指導を受けて行っており、申出の件に関しては原告代理人において、同政府首相と交渉してほしい旨、同政府の指示がない限り、当方としては原告の申出に対し対応できない旨、原告の申出は同政府に伝えてある旨を伝える書簡をファックスで送付した。
(一○)瀬木は、一九九〇年(平成二年)一〇月一日付けで、カタロニア自治州政府官房次官宛に、原告から著作権使用料の支払請求を受けていることを伝えるとともに、(1)スペイン国政府は、ダリの遺産執行代理人として、原告代表者を任命したのか、(2)ダリの死後、誰がダリの作品に関する著作権を有しているのかの二点を問い合わせる書簡を送付した。
(一一)原告代理人古木弁護士及び佐藤弁護士は、同年一〇月三日、被告朝日(大阪本社企画部)及び瀬木に対し、被告らのカタログ、入場券におけるダリの作品、写真、署名の使用行為が著作権侵害となる旨警告するとともに、複製、販売の停止を求め、被告らが、カタロニア自治州政府首相から著作権使用の許諾を得ているとの主張をするのなら、その事実を書面で提示されたい旨を内容とする書簡をファックス及び郵便で送付した。
(一二)右書簡を受けた瀬木は、同日、原告代理人ら宛に、被告らは、原告代理人が、カタロニア自治州政府と交渉した結果に従うことにしている旨、同政府からは指示は何もない旨を内容とする書簡をファックスで送付するとともに、カタロニア自治州政府と連絡をとり、@カタロニア自治州政府は、原告及び原告代理人から何も連絡を受けていない、A要求があれば同政府宛に提出してほしい、瀬木からは回答しなくてよい、B一九八七年の神戸新聞社主催のダリ展に際しても同様であった等の事実を確認し、これを即日、原告代理人宛にファックスで送付した。
(一三)原告代理人古木弁護士、同佐藤弁護士は、同年一〇月四日、被告朝日及び瀬木宛に、右(一二)の最初の瀬木からの書簡について@原告がダリの著作物の著作権を有しており、カタロニア自治州政府は、右権利を有していない、したがって同政府による複製についての許諾はありえない、A原告代表者が、同政府及び同政府文化委員会に照会したところ、一般論として、展覧会の場合、カタログの制作及び頒布は認めるが、本件展覧会については、被告朝日からそのような提示がないから許諾した事実はない、もしそのような主張をするのなら証拠を提出させるようにとの回答を得ている、B原告代理人古木弁護士が、瀬木に対し、カタロニア自治州政府との交渉に関して何らかの口頭の約束をしたことはない、二つ目のファックスについてC神戸新聞社が開催した展覧会の際には、同社は、原告代理人を通じて原告代表者に展示作品の真贋の鑑定を求めたうえ、著作権使用料も支払っている旨をファックス及び郵便で回答した。
(一四)被告朝日は、同年一〇月一九日、原告代理人らに対し、原告代理人らの同年一〇月三日及び四日付けの各書簡への回答として、本件カタログの制作、頒布については、ダリの遺言によりその全作品の著作権を承継したスペイン国とカタロニア自治州政府の承認と後援のもと、同政府と連絡、協議をして作成している旨、瀬木が、カタロニア自治州政府から、原告代理人らにおいてカタロニア自治州政府と交渉すべきとの回答を得ている旨、被告朝日は、その交渉の結果に従うので、原告代理人らにおいて同政府と交渉されたい旨の回答をした。
(一五)被告朝日の出版局週刊百科編集部は、平成二年一〇月二六日付けで、原告代理人古木弁護士宛に、ダリの作品の複製、掲載についての許諾を得るための申し入れをした。
(一六)カタロニア自治州政府文化大臣エドワルド・カルボネール・イ・エステレルは、一九九〇年(平成二年)一〇月二九日付けの書簡で、瀬木に対し、本件展覧会を、これまでの展覧会と同様にカタロニア自治州政府が後援していること、これに関連して生じる法律上の不都合を処理するためには、自治州政府文化局文化遺産部宛に連絡しなければならない旨を回答した。
(一七)原告代理人らは、同年一一月一三日、被告ら宛に、本件カタログヘのダリの作品の複製掲載が複製権侵害になること、本件カタログの制作部数、販売部数、在庫部数及び販売単価の報告を求める内容証明郵便を送付した。
 なお、そのなかで原告は、ダリの作品の著作権の「管理者」であると表現されていた。 
(一八)被告朝日は、同年一一月一五日付けで、原告代理人ら宛に、右通知書に対し、被告朝日は、スペイン国及び同国カタロニア自治州から、ダリの全著作物につきスペイン国が著作権を承継した旨の説明を受け、その承認の下にカタログを制作、頒布しているものである旨、原告代理人らからダリの作品の著作権に関する管理権が原告に帰属することについて、充分首肯し得るに足る根拠を示されていない現段階では、スペイン国との関係上、被告朝日としては独自の判断をできない、したがって原告においてスペイン国と直接協議し、被告朝日は、その結果に従う旨の回答をした。
(一九)被告大丸は、本件展覧会が終った平成二年一一月二〇日付けで、原告代理人らに対し前記(一七)の通知書に対して、被告大丸は、被告朝日から、ダリの全著作物の著作権をスペイン国が承継した旨の説明を受けている旨、被告朝日の委託により本件カタログを販売している、したがって被告大丸として回答する立場にない旨を回答した。
(二○)被告朝日大阪本社企画部長石津定雄と瀬木は、同年一二月一〇日、スペインヘ赴き、カタロニア自治州政府ヴィラ官房長官及びカルボネール文化局長と面談し、本件紛争についての協力を要請し、被告朝日に不利にならない回答が出せるとの確約を得るとともに、本件展覧会を支援する政府の方針には変わりがない、休止中のダリ財団が近く再出発するので、原告のダリの著作権管理は否定されるであろうとの説明を受けた。
(二一)原告代理人らは、平成三年三月一二日付けで、被告らに対し、本件カタログの制作、販売が、原告が有する著作権を侵害し、本件カタログにダリの署名を用いていることが原告が有する署名に関する権利を侵害すると主張して、本件カタログの販売停止、損害賠償として一〇〇万円の支払い、本件カタログの印刷部数、在庫部数、販売部数、原価、販売単価の開示、本件カタログの在庫の廃棄のための引渡を要求する最終警告書と題する文書を内容証明郵便で送付した。
(二二)被告大丸は、平成三年三月二五日付けで、前記(二一)の最終警告書に関して、原告代理人らに対し、前記(一九)記載の回答と同旨の内容の回答をした。
(二三)被告朝日の代理人である原井龍一郎弁護士らは、平成三年三月二六日付けで、前記(二一)の最終警告書に関して、原告代理人らに対し、著作権の帰属については原告とスペイン国政府との間の協議結果に従う旨、最終警告書では原告が著作権を有するとされており、これまでの「著作権の管理者」という主張との関係を判断しかね、原告の権利がいかなるものか判断を下すのが困難になったので、原告の権利の正当性が確認されない以上は(一四)、(一八)の書簡で示した立場を維持する旨、他の国においてダリの著作権の帰属についての紛争が生じていることを知っているが、被告朝日としては、スペイン国政府の公式見解及び他の国における紛争についての判断結果を踏まえたい旨の回答をした。
(二四)被告朝日は、一九九一年一平成三年一四月八日付けで、ダリ財団宛に、本件訴訟が提起された旨と、被告朝日は、デマートの主張が正当なものでなく、同様の紛争が他の国々の法廷で争われていることを私的な筋から聞いており、このような中で原告の主張に同意したならば本件訴訟だけでなく他の国々の判決に影響することを考慮して本件展覧会を進行させた旨、被告朝日のダリの著作権についての知識は断片的で法的裏付けに欠けているので、次の質問に答えてほしい旨の書簡を送付した。その質問としては、@ダリの作品の著作権はダリの死亡までダリ自身によって所有され、ダリの遺言によりスペイン国政府に遺贈されたと理解しているが、これは正しいか、Aダリの作品及びその著作権とダリ財団、スペイン国政府の関係、Bカタロニア自治州政府の許可を得て本件カタログを作成、配布したが、同政府の許可は、スペイン国政府またはダリ財団の許可と同等と理解してよいか、C本件契約が、第三条の二〇〇四年五月一一日まで有効」との規定にかかわらず無効とされる根拠はなにか、等が上げられていた。
(二五)被告朝日は、一九九一年(平成三年)四月一〇日、カタロニア自治州政府文化大臣宛に、被告朝日が訴訟準備のため、ダリ財団の理事長宛に手紙を出したこと、貴殿が理事長に被告朝日の立場を説明して、被告朝日の立場の支持を頼んでほしい旨の書簡を送付した。
(二六)被告朝日の文化企画局は、平成六年一月二五日付けで、同名古屋企画部は、同年四月二六日付けで、それぞれ原告代理人古木弁護士に、ダリの著作物の複製利用に関する許諾を申し入れた。
 被告朝日の出版局は、同年一二月二〇日付けで、原告代理人古木弁護士に、ダリの作品の複製許諾の申入れをしたが、右申入れは、翌年二月、撤回され、名作品を掲載した書簡の発行は白紙に戻された。
2(一)被告朝日の本件カタログ制作による複製権侵害についての過失の存否は、その侵害行為終了前までの事実について判断すべきところ、本件カタログの制作時期がいつであったかを的確に認めるに足りる証拠はないが、本件展覧会で販売するという本件カタログの目的上、少なくとも本件展覧会初日の前日である平成二年九月二六日までに、その複製行為を終了したものと推認される。したがって、その時点までの事実関係に基づいて、被告朝日の過失を判断すべきものである。
(二)本件絵画についての一九八七年(昭和六二年)二月一九日から二〇〇四年五月一一日までの期間における著作権が原告に帰属していることは前記二認定のとおりである。右1(三)の事実によれば、被告朝日は、本件展覧会の開始の約四か月前の平成二年五月頃原告代理人古木弁護士から、カタログ作成等においてダリの絵画を複製使用する場合は原告から利用の許諾を得るよう求める連絡を受けながら、結局、その許諾の手続をとることなく本件絵画を複製して本件カタログを制作したものである。
 古木弁護士から被告朝日への連絡の際、どの程度具体的に用件の説明があったかは明かではないが、弁護士が依頼者の指示によって連絡し、連絡事項としては単純なものである以上、原告がダリの著作物の著作権者であること、本件展覧会のためのダリの作品のカタログヘの複製の許諾を受けることを求める件であることの説明はあったものと推認されるし、仮にその際にはそのような説明がなかったとしても、被告朝日の担当者が本件展覧会の企画委員である瀬木から連絡がある旨回答し、現にその後間もなく瀬木から古木弁護士に連絡があったのであるから、本件展覧会に関する原告との交渉について瀬木は被告朝日の代理人あるいは使者の立場にあったものと認められ、被告朝日は瀬木を通じて古木弁護士からの前記1(三)の連絡を受けたものである。
 これに対し、被告朝日及びその代理人又は使者である瀬木は、本件展覧会の開始の一週間余り前になってようやく1(六)のような回答をし、開始の二日前に1(七)のような回答をしたものであるが、この聞、三か月半もの間被告朝日あるいは瀬木が、原告の申し出の内容、特に原告がダリの作品の著作権を有しているか否かについてどのような調査をしたのかについては全く証拠がないのみか、1(一○)のとおり、平成二年一〇月一日付けで、カタロニア自治州政府の高官に対し、原告あるいは原告代表者の権限について問い合わせをしていることからすれば、それまでの間、原告がダリの作品の著作権について何らかの権利、権限を有しているのか否かを調査していなかったことが疑われる。
 そして、古木弁護士から平成二年九月二六日、1(八)のような書簡を受けたのに対し、本件展覧会の初日である同年九月二七日に1(九)のように、カタロニア自治州政府の指示がない限り、当方としては原告の申出に対応できない旨回答しているが、それまでの間、被告朝日又は瀬木がカタロニア自治州政府から受けた連絡で証拠により認定できるのは、1(五)の極めて抽象的、儀礼的な内容の書簡のみであり、これには同政府が、被告朝日が独自に原告と交渉することを禁ずる記載は一切ない。
 被告朝日の出版局は1(二)認定のとおり、原告の代理人古木弁護士に対し、ダリの生前の昭和六二年六月発行の図書、ダリの死亡後の平成元年七月発行の図書へのダリの作品の掲載の許諾を求め、その許諾を得ていたものであり、また、1(三)認定のとおり、瀬木の主宰する総合美術研究所も昭和六三年九月に古木弁護士にダリの作品の複製の許諾を求めていたのであるから、被告朝日も瀬木も自社内あるいは自らの主宰する研究所内で調査するのみで、原告が少なくとも最近においてダリの作品の著作権について何らかの権利、権限を有していたものであり、古木弁護士は原告の日本における代理人であったことを知ることができたものと認められる。1(一)認定のとおり、平成元年一月末から二月初めにかけてダリの遺産がスペイン国政府に遺贈される旨のスペインの雑誌等を引用した簡単な報道が我が国でも行われ、また、平成二年五月にカタロニア自治州政府関係者からダリの作品の著作権はスペイン政府にある旨を聞いていたこととの関係で、被告朝日及び瀬木がダリの作品の著作権についての原告の権利、権限に疑念を抱いたのであれば、古木弁護士を介して原告に質問するというのが最も簡単な調査方法と考えられるところ、本件展覧会の開始までそのような質問がされたことを認めるに足りる証拠はない。
 以上認定判断したところによれば、被告朝日は、本件展覧会の開始の約四か月前に原告の代理人である古木弁護士から、カタログの制作等でダリの作品を複製する場合は原告から利用許諾を得るように連絡を受けながら、特段の調査をすることもなく原告の許諾を受ける必要はないと判断し、原告の許諾を得ることなく、本件カタログに本件絵画を複製した過失により、原告の本件絵画についての複製橋を侵害したものと認められる。
(三)被告朝日は、瀬木を通してスペイン側と連絡をとって本件カタログの制作、頒布について了解を得ていたものであり、また、被告朝日としてはスペイン側と協議の結果表明される公的見解に従い誠実に対応してきて注意義務を尽くしたものであり、結果として権利侵害となったとしても無理からぬ事情がある旨主張する。しかし、本件カタログが作成されたと推認される本件展覧会の開始日までに被告朝日又は瀬木がスペイン側とした交渉とは、証拠上前記(一)、(四)、(五)しか認められず、本件展覧会の終了日である平成二年一一月二〇日までの間でも、前記1(一○)、(一二)、(一六)の事実を加えるにすぎず、結局、本件展覧会が終了するまでの、被告朝日は、瀬木を通じてカタロニア自治州政府と連絡、交渉していたのみで、1(四)のようなダリの作品の利用許諾の要請に対し、これを許諾する旨の回答も得ておらず、1(一)のような口頭の説明があったといっても、書面による責任ある説明はなく、1(一○)のダリの著作権の帰属や、原告の権限についての問い合わせに対しても、1(一二)、(一六)のようなあいまいな回答しか得ていなかったものというほかない。被告朝日は、平成二年一〇月一九日付けの回答で「スペイン国と同国カタロニア自治州政府の承認と後援」といい(前記1(一四))、同年一一月一五日付けの回答で「スペイン国及び同国カタロニア自治州から、ダリの全著作物につきスペイン国が著作権を承継した旨の説明を受け、その承認のもとにカタログを制作、頒布している」とし(前記1(一八))、いずれもスペイン国政府からダリの作品の複製利用について許諾が得られたかのように説明しているが、本件展覧会開始前にスペイン国政府から同国がその時点でのダリの作品の著作権を有していることの説明を受け、ダリ作品の複製利用の許諾を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
 〈証拠略〉によれば、本件展覧会は、在日スペイン大使館の後援において開催された事実が認められるが、在日スペイン大使館との交渉において、本件カタログヘのダリの作品の掲載の許諾があったこと、在日スペイン大使がそのような許諾をする権限をスペイン政府から授与されていたことを認めるに足りる証拠はない。また、本件展覧会をスペイン大使館あるいはカタロニア自治州政府が後援することが当然に展覧会の際の作品の複製に許諾の意思表示を含むものと解することはできない。
 被告朝日はスペイン側の公的見解に従ったと主張するが、本件展覧会の開始までの間にスペイン側から示された見解として認定できるものは、1(一)のカタロニア自治州政府関係者の口頭の説明と1(五)のカタロニア自治州政府首相の一般的、儀礼的な挨拶のみであり、(一)の説明はその後のカタロニア自治州政府高官の書簡でも確認されていなかったもので、公的見解という程の根拠あるものとは認められない。その程度の説明があったからといって、それに従ったため、原告の要求の根拠を調査し、原告の主張する権利が理由ありそうかどうか確認することもできなかったというのは、自己の調査不足を隠すいいのがれとしか考えられない。
 前記1(二四)認定のとおり、被告朝日は、本件訴訟が提起された後ダリ財団宛の書簡において、原告の主張が正当なものでなく、同様の紛争が他の国々の法廷で争われていることを私的な筋から聞いており、このような中で原告の主張に同意したならば本件訴訟だけでなく他の国々の判決に影響することを考慮して本件展覧会を進行させた旨記載しておりながら、本件訴訟では「私的な筋」とは誰かも、その際入手した具体的証拠も明らかにしていないことによれば、被告朝日は私的情報源から具体的証拠もなく聞いた信頼するに足りない情報に頼り、原告代理人からの連絡を無視したものではないかと疑われる。
 被告らは、原著作者でない原告が、自己の有する権利の性質や取得原因を明らかにしなかったと主張するが、前記1(二)、(三)のとおり、被告朝日の出版局も瀬木の主宰する総合美術研究所もそれまで古木弁護士を通じて原告にダリの作品の利用の許諾を求めていたのであり、原告代理人の古木弁護士が特段の説明をしなかったことをもって被告朝日の無過失の根拠や過失相殺の事由とすることはできない。被告朝日が、ダリの遺産のスペイン国への帰属との関係で原告の権利、権限に疑念を抱いたのであれば、古木弁護士を通じて原告に質問すべきであり、その段階でダリの遺産のスペイン国への帰属と原告が一定期間の著作権を有することが何ら矛盾するものでないことについて原告から具体的な説明がされなかったというのであれば格別、そもそも被告朝日は原告の右のような質問による調査をしていないのであり、被告らの主張は理由がない。
 また、被告らは、被告朝日、瀬木から、原告側でスペイン側に問い合わせるように伝えたにもかかわらず、原告はスペイン側と連絡をとろうとせず、連絡したとしてもスペイン側との交渉結果の資料を提出しなかった旨主張し、前記1(六)、(七)、(九)、(一二)、(一四)、(一八)のとおり被告朝日、瀬木から、原告あるいは原告代理人がスペイン側に問い合わせるよう求めていたものであるが、本件カタログを制作し、本件絵画を複製したのは被告朝日であり、その被告朝日がスペイン側や原告との交渉の矢面に立つことを逃れ、原告にスペイン国政府と交渉するよう求め、原告がそれに従わなかったからといって被告朝日の過失を否定し、あるいは責任を減殺する根拠にすることは虫のいい話であり、右主張は失当である。
(四)以上のとおり、被告朝日は、過失により本件絵画を複製し、原告の著作権を侵害したものと認められるが、前記1に認定した諸般の事実を総合すると、原告代理人からの申入れを受けた際も本件展覧会開催中も、スペイン国がダリの著作権を承継したものと考え、原告が著作権者であると認識していなかったものと認められるから、原告代理人の申入れを無視して本件カタログに本件絵画を複製した行為が故意による著作権侵内行為と認めることはできないし、本件カタログの頒布の際、被告朝日が、本件カタログが著作権侵害行為によって作成された物との情を知っていたものとも認められない。
3 本件展覧会は、被告大丸の経営するデパートを会場として開催され、被告大丸はその開催中各会場で本件カタログとガウディの作品のカタログを一体として販売したものであるが、それは前記三のとおり、被告朝日の委託により販売したものにすぎず、本件カタログの制作を被告朝日と共同で行ったこと及び被告大丸が本件カタログ制作による本件絵画の複製権侵害につき被告朝日と共同不法行為責任を負うことを基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。
 前記1(一七)のとおり、被告大丸は本件展覧会の開催期間中に原告代理人らから本件カタログヘのダリの作品の複製が複製権侵害である旨の警告を受けているが、〈証拠略〉によれば、被告大丸は、瀬木及びカタロニア自治州政府関係者のダリの作品の著作権はスペイン政府にある旨の説明を信用していたものと認められ、被告大丸が、本件カタログが著作権侵害の行為によって作成された物であるという情を知って頒布したことを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、著作権を侵害する行為によって作成された物を過失により知らないで販売した場合も不法行為責任を負う旨主張するが著作権法一一三条一項二号の規定に照らせば、過失により情を知らなかった場合を著作権侵害ということはできない。
六 詰求原因4(損害)について
1 本件カタログが一部一二五〇円相当であること、被告朝日が、本件カタログを八○○○部制作し、被告大丸が、本件展覧会各会場において、合計七三七四部販売し、その残部六二六部は寄贈され又は資料用とされたことは前記三のとおりである。
2(一)原告は、著作権法一一四条二項に基づき著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額を自己が受けた損害として、その賠償を請求しているところ、複製利用を許諾する場合は、複製利用した複製物が頒布されるか否かにかかわらず、その制作数に応じて使用料を徴収するのが通常であると考えられるから、本件においては、本件カタログの制作部数に価格相当額を乗じて得られる一〇〇〇万円を基準とし、さらに本件カタログ中に占める本件絵画の複製の寄与度を勘案したうえで、著作権使用料率を乗じて、通常の使用料相当額を認定するのが相当である。
(二)原告は、本件絵画の重要性に照らし、掲載全作品の複製、掲載と同視すべきであり、本件カタログの価格相当額の全額を基準とすべき旨主張する。
 原告の主張のうち個々の掲載作品の重要性に軽重があるという点はそのとおりであって、ダリがそのシュールレアリズムと呼ばれる特異な表現の油彩画で広く知られていることは公知の事実であり、したがって本件カタログにおいて油彩三点を含む本件絵画が、カタログ購入者の購入の動機付けという点で他の作品よりも重要性が大きいであろうということは推認されるけれども、本件カタログは本件絵画以外の作品が掲載されているほか、作品解説、年譜等を含めて構成されているものであり、購入者は、本件絵画の複製ばかりではなく、そのような内容を総体的にみて本件カタログを購入するものと考えられるから、本件絵画の複製部分のみで本件カタログの価値が決定されるとまではとうてい認められない。
 本件カタログに掲載されている作品は、すべて写真撮影により複製されているが、その体裁は、前記四認定のとおりであり、本件カタログの六七頁からなる本文中、作品掲載頁は四五頁であり、作品が三六点(うち、油彩四点、水彩七点、彫刻一〇点、タペストリー五点、陶皿四点、素描一点、版画四点と一五点からなる一シリーズ)掲載され、そのうちカラー印刷であるものが三一頁、白黒印刷が一四頁であり、本件絵画は、いずれもカラー印刷で一頁に一点が掲載されている。以上のような諸点を斟酌すれば、本件絵画の複製が本件カタログの価値全体に寄与する割合は、二割と認めるのが相当である。
(三)また、〈証拠略〉によれば、本件訴訟前、原告代理人は本件カタログにおけるダリの作品の複製を許諾する場合の著作権使用料率を全体の七パーセントとして交渉していた経緯が認められる。さらに〈証拠略〉によれば、一九九一年(平成三年)一〇月から一九九二年(平成四年)四月にかけて日本放送協会が主催し、株式会社三越が全国六か所で開催した「ダリ展」の際にも、一九九二年(平成四年)四月一日から七月三一日までの間、朝日生命保険相互会社が東京都内二か所で開催した「サルヴァドール・ダリ リトグラフ&エッチング展」の際にも、カタログヘのダリの作品の複製利用料として販売価格総額の七パーセントと約定した事実が認められるが、これらはカタログに掲載された全作品の許諾料であり、ポスター、絵葉書への複製許諾料も同じ割合と約定されているほか、展覧会開催料も別に支払われている場合の料率である。他方、〈証拠略〉によれば、被告朝日は、昭和六二年六月発行の発行部数八○○○部、定価二四〇〇円の図書にダリの作品である絵画一点を一頁大で掲載する利用料として一〇万円を支払ったことが認められる。
 これらのダリの作品についての利用許諾料の実情を考慮すれば、本件カタログヘの本件絵画の利用についての通常の使用料を算定するための使用料率は一〇パーセントと認めるのが相当である。
3 以上によれば、被告朝日の著作権侵害行為によって原告が受けた損害は、本件カタログ一部の価格相当の二五○円に制作部数八○○○部を乗じた一〇〇〇万円に本件絵画の寄与割合である○.二を乗じ、さらに使用料率である○.一を乗じて得られる二〇万円と認められ、これを超える損害を認めるに足りる証拠はない。
七 差止請求等について 
1 被告朝日は、本件カタログに本件絵画を複製するという著作権侵害行為をしたものであり、本件カタログの印刷用原版を廃棄した事実を認めるに足りる証拠はないから現在なお右原版を所持しているものと推認され、具体的証拠を示されてもなお原告の著作権をかたくなに否認する態度に照らし、その原版中本件絵画の印刷用原版を用いて本件絵画の複製を含む本件カタログを制作し、頒布するおそれがあるものと認められる。
 〈証拠略〉によれば、本件カタログは本文三頁の被告朝日名義の挨拶と奥付頁の展覧会の会期、会場、主催者、後援・協賛・協力者の記載を改変、削除するのみで本件カタログと実質的同一性を維持した一般図書となり得るから、本件展覧会が既に終了していることを理由に被告朝日が本件カタログを複製し頒布するおそれが全くないということはできない。
 被告朝日が本件展覧会開催期間中に、本件カタログが著作権を侵害する行為によって作成された物である情を知って本件カタログを頒布したものと認められないことは前記五2に判断したとおりであるが本件判決の言渡し後間もなく確実に行われる送達によって未確定とはいえ裁判所の判決による本件カタログヘの本件絵画の複製が著作権侵害であるとの判断を知り、これによって本件カタログが著作権侵害行為によって作成された物であるとの情を知ることになる。
 したがって、著作権法一一二条一項及び一一三条一項二号に基づく、被告朝日に対する、本件絵画を本件カタログに複製する行為及び本件カタログを頒布する行為の差止請求(頒布差止については本件判決送達時以後の将来請求の限度で)には理由がある。
 また、同法一一二条二項に基づく、被告朝日に対する、本件カタログの印刷用原版中本件絵画の印刷用原版の廃棄請求、本件カタログの廃棄請求も理由がある(本件カタログのうち販売された分以外の六二六部が寄贈され又は資料用とされたことは前記三認定のとおりであり、現在なお被告朝日が本件カタログを所持しているものと認められる。)。
2 被告大丸は、被告朝日の委託を受けて本件展覧会の各会場で本件カタログとガウディの作品のカタログとを合わせて販売したものであるが、被告大丸に著作権侵害行為が認められないことは、前記五3のとおりである。被告大丸も本件判決の送達により、本件カタログが著作権侵害行為によって作成された物であるとの情を知ることになるけれども、本件展覧会の終了後時を経た今日、被告大丸が本件カタログを頒布するおそれがあるものとは認められないし、また被告大丸が本件カタログを、現在もなお所持していると認めるに足りる証拠はない。
 よって、被告大丸に対する本件カタログの頒布差止請求及び本件カタログの廃棄請求はいずれも理由がない。
八 結論
 以上のとおりであるから、被告朝日に対する請求中、右六、七1で理由があものと判断した請求を認容しその余の請求を棄却し、被告大丸に対する請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 西田美昭
裁判官 高部眞規子
裁判官 森崎英二は転補のため署名押印できない。
(裁判長裁判官 西田美昭)
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