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【事件名】偽商標運動靴の購入・販売事件(刑)
【年月日】平成9年6月10日
 大阪地裁 平成9年(わ)第58号

平成9年6月10日宣告 裁判所書記官 石井宏幸

判決
本店の所在地 大阪市(以下住所略)
法人の名称 有限会社Y
代表者の住居 同市(以下住所略)
代表者の氏名 A
本籍 兵庫県(以下住所略)
住居 大阪市(以下住所略)
職業 会社役員
氏名 A
年齢 昭和35年(以下略)生

 右両名に対する各商標法違反被告事件について、当裁判所は検察官川越弘毅、弁護人奈良橋隆各出席の上審理し、次のとおり判決する。


主文
 被告法人有限会社Yを罰金50万円に、被告人Aを懲役10月に処する。
 被告人Aに対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告法人有限会社Y(以下「被告会社」という。)は、大阪市(以下住所略)に本店を置き、衣料品、服飾雑貨、靴等の販売業を営むもの、被告人A(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、商標の使用に関し何ら正当な権限がないのに、平成8年7月8日、大阪市(以下住所略)所在の大日本倉庫株式会社大阪営業所において、株式会社日経に対し、いずれもアメリカ合衆国ナイキインコーポレーテッドが履物等を指定商品として商標権の登録を受けた商標である別紙目録@ないしB記載の各商標に類似する商標を付した運動靴8足を代金合計8万円で販売譲渡し、もって、右ナイキインコーポレーテッドの商標権を侵害したものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(乙9、10)及び司法警察員(乙6)に対する各供述調書
一 有安文雄の検察官に対する供述調書の謄本(甲75、77)
一 吉川順子、片桐千代子、飛田文子、山岸克也、芳賀美江子、田中久美子、濱田光伸、古川一彦、曽我勲(甲7)及び亀岡勝(甲78)の司法警察員に対する各供述調書の謄本
一 司法警察員作成の捜査報告書(13通・甲4、64、70は原本、その余は謄本)
一 司法警察員作成の写真撮影報告書(8通・甲52、60は謄本)
一 曽我勲作成の鑑定書の謄本(8通)
一 登記官作成の商標登記簿謄本(甲66)
(法令の適用)
 被告人両名の判示所為は、別紙@ないしB記載の各商標に対する侵害行為として、平成8年法律第68号附則20条により同法による改正前の商標法78条、82条、37条1号に該当するが、右は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条により一罪として犯情の最も重い別紙A記載の商標権侵害の罪の刑で処断することとし、被告人に対しては所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で懲役10月に処し、被告会社に対してはその所定金額の範囲内で罰金50万円に処し、被告人に対しては情状により同法25条1項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
 本件犯行は、被告人が、自己の経営する被告会社の業績が悪化し経営が苦しくなってきたことから、安易に利得を得ようと、偽物商品であることを知りながら、人気商品であるナイキインコーポレーテッド社の登録商標に類似する商標を付した運動靴を韓国のブローカーから購入した上、偽物であることを告知することなく、その一部を株式会社日経に販売譲渡したというものであり、その動機において酌量すべきものはなく、偽物商品を社会に流通させて商標の価値を破壊させる犯行はそれ自体悪質であるし、被告会社は本件によって不当な利益を得たほか、被告人両名の犯行が社会に与えた影響は大きく、信用が重視される流通市場に混乱を引き起こしたものであり、また、偽物商品を購入した消費者や、信用を害された商標権者の処罰感情が強いことなどに鑑みると、被告人両名の刑事責任は重いと言わなければならない。
 しかし、被告人両名には前科がないこと、犯行を認めて自白していること、当公判廷で反省の情を示し更生を誓っていること、被告人の妻による監督が期待できることなど被告人両名にとって酌むべき事情も存在する。
 以上の事情を総合考慮すると、被告人両名を主文掲記の各刑に処し、被告人については今回に限りその刑の執行を猶予するのを相当と思料する。
 よって、主文のとおり判決する(求刑・被告人に対し懲役10月、被告会社に対し罰金50万円)。

平成9年6月10日
新潟地方裁判所刑事部
 裁判長裁判官 姉川博之
 裁判官 島村路代
 裁判官 福士利博は差支えにより署名押印することができない。
裁判長裁判官 姉川博之
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