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【事件名】つくば市内パブの音楽著作権侵害事件(刑)
【年月日】平成9年4月4日
 土浦簡裁 平成8年(ろ)第14号 著作権法違反被告事件

判決文
平成9年4月4日宣告
 裁判所書記官堀江揚子
平成8年(ろ)第14号 著作権法違反被告事件

判決
国籍 中華人民共和国
住居 茨城県(以下住所略)
 飲食店経営 aことA 1956年(以下略)生


主文
 被告人を罰金20万円に処する。
 右罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用中、証人H・H、同M・K及び同土井一彦に支給した分は、被告人の負担とする。

理由
(犯罪事実)
 被告人は、茨城県(以下住所略)において、飲食店「ファッションパブらりるれろ」を経営しているものであるが、社団法人日本音楽著作権協会の許諾を得ず、かつ、法定の除外事由がないのに、平成6年12月13日、同店店舗内において、同店従業員をして、同協会が著作権を有する音楽著作物である別表記載の「津軽平野」ほか14曲を、同店設置のビデオカラオケ装置を操作させて演奏させ、同店従業員及び飲食客等をして、右演奏を伴奏として歌唱させ、これを店内の客に聞かせることによって、前記音楽著作物を公に演奏し、もって、同協会の著作権を侵害したものである。
(証拠)
一 被告人の公判廷における供述
一 被告人の検察官(2通)及び司法警察員(3通)に対する各供述調書
一 証人土井一彦、同M・T、同H・H及び同M・Kの公判廷における各供述
一 土井一彦(2通)、B及びC・Yの司法警察員に対する各供述調書
一 社団法人日本音楽著作権協会東京支部副支部長近藤正美作成の上申書
一 司法警察員作成の検証調書及び平成7年2月13日付け捜査報告書2通
一 社団法人日本音楽著作権協会作成の著作権信託契約約款
一 検察事務官作成の捜査報告書
一 著作権信託証書対照表の写し
一 賃貸人株式会社くいだおれ、貸借人A及びM・T、連帯保証人H・K作成の店舗賃貸借契約書
一 賃貸人株式会社くいだおれ、貸借人M・T作成の店舗賃貸借契約書
一 張水粉作成の念書
一 社団法人日本音楽著作権協会東京支部長加藤正彦作成のM・T及びBあての催告書の写し並びに土浦郵便局作成のM・T及びBに対する郵便物配達証明書の写し各1通
一 右支部長加藤正彦作成のM・T及びBあての送付状(送付状に表示の送付書類を含む。)の写し
(事実認定についての補足説明)
 弁護人は、本件カラオケの演奏をした「ファッションパブらりるれろ」(以下「本件店舗」という。)の経営者は被告人の夫であるM・Tであって被告人ではなく、また、仮にその経営者が被告人であったとしても、被告人はカラオケの演奏をするのについて社団法人日本音楽著作権協会(以下「著作権協会」という。)の許諾を必要とすることを知らず、著作権協会も被告人に対して許諾を求めることをしなかったのであって、被告人には右演奏について違法性の意識がなかった旨主張するので、これらの点についての判断の要旨を補足して説明する。
一 本件店舗の経営者について弁護人は、証人H・H及び同M・Tの各供述並びに前掲証拠のうちの賃貸借契約書2通を挙げて、本件店舗の所有者は同店舗を外国人に貸すことはできないということから、同店舗はM・Tが借り、その営業権も同人が譲り受けたものであり、同店舗営業についての保健所への届出もM・Tがしていることなどから、同店舗の経営者はM・Tである旨主張する。
 しかし、証拠によると、次の事実を認めることができる。
1 本件店舗の営業は被告人が前営業主H・Kないしは張水粉から被告人の同人に対する貸金の代償として引き継いだものであり(証人M・Tの供述、被告人の公判廷における供述、被告人の検察官(2通)及び司法警察員(3通)に対する各供述調書及び張水粉作成の上申書)、また、本件店舗は、被告人がその所有者から借り受けたものであること(被告人の公判廷における供述、被告人の検察官に対する供述調書2通及び証人H・Hの供述(同証人の本件店舗の借主は誰かについての供述は一貫性に欠けるところがあるが、結論的には本件店舗は主体的には被告人が使うものと思ったとの旨を述べている。))。
2 本件店舗に購入設置したカラオケセットは、被告人が営業上の利益を考慮して、リースから購入に切り替えたものであり、その購入代金についてはもっぱら被告人が販売業者と交渉して決定し、代金全額を被告人が支払ったこと(証人M・Tの供述、被告人の公判廷における供述及びC・Yの司法警察員に対する供述調書)。
3 本件店舗の従業員は全員被告人あるいは本体店舗に出て働いていた被告人の母であるBが採用し、従業員の給与も被告人とBが決定したこと(証人M・Tの供述、被告人の司法警察員に対する平成7年10月4日付け供述調書(9枚つづりのもの)及び同年12月6日付け検察官に対する供述調書)。
4 本件店舗の売上金の管理は被告人がしていたこと(証人M・Tの供述及び被告人の司法警察員に対する平成7年10月4日付け供述調書(9枚つづりのもの))。
 以上の事実からすると、本件店舗の借主の名義や同店舗営業についての保健所への届出名義がM・Tになっていても、これらは単に名義上のものにすぎず、本件店舗の経営者は被告人であると認められる。
 なお、被告人は、公判廷において、本件店舗の営業に関し、ホステスの採用や給与の決定、カラオケ料金の回収や売上金の管理などはまったくしたことがなく、同店舗の経営者はM・Tである旨を述べて、自分が経営者であることを否定し、なお、被告人の検察官に対する平成7年12月6日付け供述調書については自分が述べていないことが自分の供述として書かれているところがある旨を述べているが、自分が経営者であることを認める前掲証拠中の被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の供述は首尾一貫していて不自然なところはなく信用することができるのに反し、右公判廷における供述は、証人M・Tの供述や前掲証拠中のBの司法警察員に対する供述調書の供述とも矛盾するなどして信用性は認められない。また、証人M・Tは、平成6年12月ごろ本件店舗は自分が経営していたとか、自分たち夫婦で経営していたという趣旨の供述をしているが、同人は、警察及び検察庁における取調べの際には、その経営者は被告人である旨を供述していたことが同人の公判廷での証言によって認められ、これに前記被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の供述を併せて考えると、同証人の右経営者は自分であるとの趣旨の供述は信用できない。
二 被告人の違法性の意識について弁護人は、著作権協会は、最初はM・Tが本件店舗の経営者であるということで同人を告訴し、その間、カラオケの使用についての契約をM・Tあるいは被告人の母に対して求めていて、被告人に対してはそれをまったく求めておらず、証人土井一彦が被告人に対し電話で契約に関する催告をしたというのも嘘であり被告人はその話は聞いていない、被告人はM・Tが経営者と思っているから自分自身が処罰の対象となるとは考えず、違法性の意識を持つ余地はまったくなかった旨主張する。
 しかし、証拠によると、次の事実を認めることができる。
1 著作権協会の職員である証人土井一彦が、平成5年10月14日、Bもいた本件店舗から、被告人と思われる者に対して、電話で、「パブらりるれろは、再三注意したにもかかわらず無断演奏している、これは法律違反なので説明に来た」という趣旨の話をし、相手は書いたものを置いていってくれという返事をしたので、適法に利用するようにと再三注意警告したのに無断使用しているのでこれを解決するために来会を求めるなどの旨を記載した証人の名刺と、ファッションパブらりるれろ経営者あての警告書を置いて来たこと(同証人の供述。同証人は、この電話について、その相手を電話で呼び出した台湾人のホステス「エミ」という者が初め「チイメイ」という人と話していたようであり、「チイメイ」というのは被告人の名前である「**」の中国語の発音であると述べ、被告人は、「チイメイ」というのは台湾人が台湾人を呼ぶ場合の「**」の発音ではないからその証言は嘘であって、被告人はそのような電話は受けていない旨を公判廷で供述し、弁護人もそのように主張するが、その呼び名の発音の部分に関しては疑問はあるけれども、同証人は、右エミが証人に対して「ママ」、「ママ」と電話の相手が被告人であるかのように言って証人に受話器を渡した旨供述しているのであって、同証人が被告人と思われる者に対して右のような話をしたとの供述が嘘であるとするのは相当でない。)
2 M・T及びBあてに送付された催告書及び送付状に添付の著作物使用料規程(抜率)(前掲証拠)に、スナック等で音楽著作物を無断で演奏等をすると刑事上の責任を負わなければならない場合がある、あるいは、著作権法違反として3年以下の懲役又は100万円以下の罰金の責任を負うことになる旨の記載があること。
3 被告人は、一で述べたとおり本件店舗の経営者であり、カラオケ料金の回収などにM・Tと一緒に同店舗に行っていたこともあること(被告人の公判廷における供述、証人M・Tの供述)。
4 被告人は、昭和53年に台湾から日本に来て、昭和58年1月12日にM・Tと結婚し、同人や被告人の母、子らと同居しており、M・Tは台湾語ができず、家庭内の会話は日本語であり、被告人は、日常会話であれば日本語で差し障りがなく、新聞やテレビの内容は大体理解できるということが認められること(証人M・Tの証言、被告人の公判廷における供述)。
 以上の事実からすると、被告人は、捜査段階から違法性の意識のあったことを否定しているけれども、証人土井一彦からの電話による説明のほかに、前記警告書、催告書等を見たり、あるいは、同居し、ときには一緒に本件店舗に行ったりしていた夫のM・Tから聞くなどして、著作権協会の許諾を得ないでカラオケの演奏をすることが違法であることを本件当時知っていたと推認することができる。したがって、被告人には違法性の意識に欠けるところはなく、故意を認めることができる。
(法令の適用)
罰条 包括して著作権法119条1号(平成8年法律第117号による改正前のもの。行為時においては右改正前の著作権法同条同号に、裁判時においては右改正後の同法律同条同号に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから、刑法6条、10条により、軽い行為時法の刑による。)
別種の選択 罰金刑
労役場留置 刑法18条(平成7年法律第91号による改正前のもの)
訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文(証人H・H、同M・K及び同土井一彦に支給した分について)
(出席した検察官 高須司江)

平成9年4月4日
土浦簡易裁判所裁判官 飯塚樹


(別表)
番号/曲名/作詞者名/作曲者名
1/津軽平野/吉幾三/吉幾三
2/影法師/荒木とよひさ/堀内孝雄
3/いい日旅立ち/谷村新司/谷村新司
4/そしてめぐり逢い/荒木とよひさ/中村泰士
5/恋の街札幌/浜口庫之助/浜口庫之助
6/居酒屋/阿久悠/大野克夫
7/安奈/甲斐よしひろ/甲斐よしひろ
8/サライ/谷村新司/弾厚作
9/なごり雪/伊勢正三/伊勢正三
10/くちなしの花/水木かおる/遠藤実
11/ジョニイへの伝言/阿久悠/都倉俊一
12/酒よ/吉幾三/吉幾三
13/抱擁/荒川利夫/山岡俊弘
14/小樽のひとよ/池田充男/鶴岡雅義
15/ 群青/谷村新司/谷村新司
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