判例全文 line
line
【事件名】永禄建設事件(2)
【年月日】平成7年1月31日
 東京高裁 平成6年(ネ)第1610号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成3年(ワ)第12736号)

判決
控訴人 株式会社サンドケー
右代表者代表取締役 X
右訴訟代理人弁護士 田中榮治郎
同 武井伸八
被控訴人 永禄建設株式会社
右代表者代表取締役 Y
右訴訟代理人弁護士 高橋治雄


主文
 原判決を取り消す。
 被控訴人は、別紙目録(一)記載の会社案内を出版、配付してはならない。
 被控訴人は、控訴人に対し、金一二七万一〇〇〇円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人(第一審原告)
 主文と同旨の判決及び仮執行の宣言
二 被控訴人(第一審被告)
 「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決
第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、原判決「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるからこれを引用する(但し、控訴人は、予備的に請求していた不法行為に基づく損害賠償請求部分を当審において取り下げたので、この部分を除く。)
第三 証拠(略)

理由
一 控訴人が別紙目録(二)記載の会社案内(以下、「控訴人作成の会社案内」という。)を平成三年二月頃作成し、被控訴人が別紙目録(一)記載の会社案内(以下「被控訴人会社案内」という。)を同年三月頃作成、配付した事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 控訴人作成の会社案内が著作権法一二条の編集著作物に該当するか否かについて以下、検討する。
 いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、
 控訴人作成の会社案内は、A四版サイズで表及び裏表紙並びに本文二二頁の合計二四頁からなるものであり、本文は、概略、企業理念を表す社長挨拶(二頁)、被控訴人会社各部門(ワンルームマンション、戸建住宅、ファミリーマンション、賃貸事業、建設事業及び海外事業の六部門)の事業内容の紹介(五ないし一〇頁)、過去の事業実績の紹介(一二ないし一六頁)、社屋の外景及び内部の紹介(一八頁)、売上高及び資本金等の推移等の統計資料(一九、二〇頁)並びに沿革、組織及び役員構成等の会社の概要の紹介(二一、二二頁)の六部構成からなるものである。そして、控訴人作成の会社案内の表現手法の概要についてみると、表紙には、右上に「PLOFILE」「EIROKU CONSTRUCTION」と縦方向に前者を後者の約二倍の大きさで上下二段に横書きで表すとともに中央部やや下段寄りに縦約三・五センチメートル、横約四・五センチメートルの大きさの長方形をしたイメージ写真を上下二段に各三個ずつ配したものである。表紙裏の一頁には、ほぼ中央部に、一辺約六センチメートルの正方形をしたイメージ写真を配し、他を余白としたものである。続く二頁には、右側約三分の一の空間に、上段に社長の上半身を写した一辺約六センチメートルの正方形をした写真を、その下に企業理念を表す挨拶文をそれぞれ配し、その余は空白としたものである。三、四頁は、両頁を見開きで一体として使用したもので、その上端から下方に向かって全体の約四分の三以上に、洋室の隅をそのほぼ中央部方向から見た構図において、白色をした壁の左上方の二箇所の窓を通した陽光が明るい茶系色の略三角形状をしたフローリング葺きの床に射し込んでいる状態が右床面を見開き頁の中央部に大きくとって表わされ、その部屋隅には白い鉢に入った観葉植物を配したイメージ写真である。そして、前掲甲第二号証(控訴人会社作成の被控訴人会社宛「会社案内パンフレット制作に関する企画のご提案」と題する書面)には、右両頁の趣旨に関し、「いきなり事業内容に入るのではなく、ここでは後のページ展開をスムーズに進めていくためのポイントとなるイメージ写真を見開きで大きく扱います。」との記載が認められ、これによれば、右両頁は、五頁以下の前記の業務内容の紹介記事等への導入ないしは緩衝的な役割を果たすものと認められる。続く、五頁ないし一〇頁の前記六部門の事業内容の紹介においては、全頁共、上部約三分の一の範囲に各事業内容に対応したイメージ写真(なお、このイメージ写真は、大きさは異なるが、表紙に配した六枚のイメージ写真と同一内容のものである。)を配し、その下方に紹介文及び執務状態等の業務との関連性を有する数枚の写真を配し、最下段の一方隅方向に各部門の名称を横書きに表したものである。続く一一頁には、一頁と同様の手法で、ほぼ中央部に、縦約五・三センチメートル、横約五・八センチメートルの大きさで、草原にある大きく繁った木の写真を配し、他を余白としたものである。そして、一二頁から一六頁までは被控訴人会社の過去の事業実績の紹介として、マンションや戸建住宅及び住宅団地等の写真をほぼ全頁に配したもので、次の一七頁には、再度前記一頁及び一一頁と同様の手法で、ちぎれ雲の浮かぶ青空を写した写真を配し、他を余白としたものである。一八頁は被控訴人会社の受付や執務状況等の写真と同社のイメージアップを図る記事を配し、また、一九頁は上段三分の二にマリオンワンルームマンションの売買、賃貸の手続の流れと下段約三分の一に庭園様の風景を写した写真を、二〇頁は売上高及び資本金等の推移を棒グラフ等で表し、最後の二一、二二頁で営業内容、沿革及び役員構成等をそれぞれ表しているものである。そして、裏表紙には、中央部の上段に「M」をロゴタイプ化して表し、中段に「永禄建設株式会社」と、下段にひときわ小さい字で本支店の住所地等を横書きしたものである。
 以上によれば、控訴人作成の会社案内の特徴は、企業理念、業務内容、実績、企業の概要等を通じて企業の実態を表現するに当たり、イメージ写真を右認定のような記事内容を展開して行く上のつなぎ目場面において(一頁、三、四頁、一一頁及び一七頁)、また、記事内容自体を象徴するものとして(五ないし一〇頁及び一九頁)それぞれ使用し、さらに、空白部分(一、二頁、一一頁及び一七頁)ないしは白(三の壁部分)を多く用いることにより、前記のような情報を開示しながら、全体として、優しさと簡素を基調とした会社案内としての特徴を顕現しているものと評価することができるものであり、殊に、前記三、四頁及び五頁ないし一〇頁に配された各イメージ写真は、その全体の構成中に占める位置及び記事内容の重要性等に照らして、控訴人作成の会社案内の前記の特徴を決定づける中心的な役割を果たしているものということができるものであって、このような素材の選択及び配列に創意と工夫が存するものと認めることができるから、著作権法一二条の編集著作物に当たるものというべきである。
 もっとも、この点について、<証拠略>中には、控訴人作成の会社案内に用いられた表現内容ないしは手法は、いずれも会社案内に用いられる極めて常套的なものであって、何ら独創性の認められるものではない旨の証言及び記載部分があるが、本件全証拠を検討しても、控訴人作成の会社案内の前記認定の素材の選択と配列等の表現手法がこの種の会社案内における常套的なものであり、何ら創作的要素がないとの事実を認めるに足りる証拠はない(唯一、他社の例として提出されている株式会社大京の会社案内である<証拠略>と対比してみても、両者の表現手法に相当の差異が存することが認められこそすれ、前記認定のような素材の選択と配列が常套的なものであることを認めることはできない。)から、右証言及び記載部分は採用できない。
 なお、前掲甲第一号証によれば、控訴人作成の会社案内に使用された文字部分については、その多くが未完成であり(例えば五、六頁等の文章参照)、また、明らかに他からの借用と認められる部分があり(例えば二頁、四頁等の文章)、これらの箇所に適切な文章を挿入しなければ被控訴人会社の会社案内として直ちに実用に供することができないものであるが、甲第一号証の全体の体裁においても、一個の会社案内として十分に認識可能であることは前記認定のとおりであり、そこに素材の選択と配列に創意と工夫が見られることも前述のとおりであるから、右事情は何ら編集著作権の成立の妨げとなるものではない。
三 そこで、以下、被控訴人会社案内が控訴人作成の会社案内の複製といえるか否かについて検討する。
 ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、同一性を有するものを再製することをいうものと解するのを相当とする(最高裁昭和五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)から、以下、このような観点から検討する。
(一)まず、被控訴人会社案内の概要について、以下、検討する。
 いずれも<証拠略>によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、
 被控訴人会社案内は、A四版サイズで表及び裏表紙並びに本文二二頁の合計二四頁からなるもので、本文における記事の配列順序及び各記事に対する配当頁数は前記認定の控訴人作成の会社案内のそれと全く同一である。もっとも、両者の一八頁についてみると、前掲甲第一号証及び同乙第一号証の各一八頁の記載からその記載内容の意図を的確に把握することは必ずしも容易ではないが、<証拠略>によれば、両者は被控訴人会社内の受付、執務状況等の写真と会社のイメージアップを図る記事を主体として構成されている点で共通していると認めることができるから、前記の各頁についてもその記事内容の配列、割当に差異はないということができる。そして、被控訴人会社案内の表現手法の概要についてみると、表紙には、ほぼ中央部に、上段にロゴタイプ化した欧文字「M」とその下に「MULLION」を一体に、中段に黒太字で「PLOFILE」と、最下段に「永禄建設株式会社 会社案内」とそれぞれ表し、上半分に白抜き線で形成した正方形による逆階段状の模様を左右均等に配したものである。表紙裏の一頁には、ほぼ中央部に縦約七・五センチメートル、横約六・五センチメートルの長方形に永禄銀座ビルの正面図を配し、他を余白としたものである。続く二頁には、右側約三分の一の空間に、上段に社長の上半身を写した縦約六・五センチメートル、横約六センチメートルの長方形をした写真を、その下に企業理念を表す挨拶文をそれぞれ配し、その余は空白としたものである。三、四頁は両頁を見開きで一体として使用し、そのほぼ全体に、洋室の隅をそのほぼ中央部方向から見た構図において、白色をした壁の右上方の窓を通した陽光が明るい茶系色の略三角形状をしたフローリング葺きの床に射し込んでいる状態が右床面を両頁の中央部に大きくとって表され、その部屋隅近くに淡い色調をした花の絵を描いたキャンバスが台に置かれ、その斜め手前には花を置いた椅子が配されたイメージ写真である。そして、前掲乙第五号証(訴外株式会社ソフト商品開発研究所(以下「株式会社ソフト」という。)作成の被控訴人会社宛「会社企画案内案」と題する書面)には、右両頁の趣旨について、「イントロダクションとなります。豊かな生活空間の創造をイメージさせるために、アットホームな空間の写真を前面にビジュアル化し、永禄建設が提供する商品の確かさとそこに流れるポリシーを表現します。そして、各商品群へのアプローチとします。」との記載が認められ、これによれば、右両頁は、これに続く五頁以下の前記の業務内容の紹介記事等への導入ないしは緩衝的な役割を果たすものであると認めることができる。続く、五頁ないし一〇頁には、マンションの一般分譲販売、戸建住宅の分譲、資産運用型不動産の販売、不動産流通事業、建設事業、海外事業の六部門の事業内容が順次紹介されているところ、全頁共、上部約三分の一強の範囲に各事業内容に対応したイメージ写真を配し、その下方に紹介文と執務状態等の業務と関連性を有する数枚の写真を配し、最下段の中央部に前記の各部門の名称を横書きに表したものである。続く一一頁には、ほぼ中央部に、直径約八センチメートルの円形の中に高層ビルと木立を見上げた写真を配し、他を余白としたものである。そして、一二頁から一六頁までは被控訴人会社の過去の事業実績の紹介として、マンションや戸建住宅及び住宅団地等の写真をほぼ全頁に配したもので、次の一七頁には、ほぼ中央部に、一辺が八センチメートルの正方形の中にビルディングの入口の写真を配し、他を余白としたものである。一八頁は被控訴人会社の受付や社内の執務状況等の写真と同社のイメージアップを図る記事を配し、また、一九、二〇頁は両頁を見開きで一体として使用し、日本地図上に各営業所の所在地を営業所の写真と共に示すと同時に売上高等の推移を棒グラフ等で表し、最後の二一頁の上段約三分の一に瀬戸大橋の写真を配し、その下段に会社概要として、営業内容及び本支店所在地等を、また、二二頁には上段約五分の一に関連会社のホテルの写真を配し、その下段に沿革及び役員構成等をそれぞれ表しているものである。そして、裏表紙には、下段のほぼ中央部に、上段に冒頭の「M」をロゴタイプ化して一回り大きく、その余を太字で MULLIONと、その下方にひときわ小さい字で各種の所属協会名等を、次いで太字で「永禄建設株式会社」と、その下段にひときわ小さい字で本支店の住所地等を横書きしたものである。
(二)そこで、以上に認定した両会社案内を比較対照する。
 控訴人作成の会社案内の特徴が、企業理念、業務内容、実績、企業の概要等を通じて企業の実態を表現するに当たり、イメージ写真をこれらの記事内容を展開して行く上のつなぎ目場面や記事内容自体を象徴するものとして使用することにより、また、余白部分ないし白色を多用することにより、全体として、前記のような情報を優しさと簡素を基調として表現した点にあり、この中で、殊に、三、四頁の部屋のイメージ写真及びこれに続く五頁ないし一〇頁の各事業部門の紹介箇所におけるイメージ写真は右特徴を決定づける上で決定的な役割を果たしているものであり、しかも、右各頁の構図の意図も極めて類似することは既に認定したところから明らかというべきである。
 これに対し、被控訴人会社案内をみると、前項に認定したところによれば、被控訴人会社案内は、本文における記事の配列順序及び各記事に対する配当頁数は前記認定の控訴人作成の会社案内のそれと全く同一である上、三、四頁の部屋のイメージ写真についてみると、両者にはその大きさや室内に置かれた物品、窓の形状や射し込む陽光の形状等において前記認定の差異があるものの、両者は、画面構成上最も広い範囲を占めるとともに中心に位置して、見る者に最も強く訴える茶系色をしたフローリング葺きの床の形状とこれに接続する窓のある白い壁及び右床に射し込む陽光の配置において酷似しているため、これらの基本的な構成要素が優しさと簡素という共通する印象をもたらすものであって、前記の差異はこのような印象の共通性を何ら妨げるものではないというべきである。さらに、五頁ないし一〇頁のイメージ写真についてみると、両者は事業部門の配列において若干の相違はあるものの、両者共、見る者に前記のような強い印象を与える三、四頁に続くもので、かつ、同一頁にわたり、しかも、右各頁の殆ど同一の場所に配置されていて、その下方に記載された記事及び写真も類似したものであるということができる。確かに、両者のイメージ写真の被写体自体は異なるものであるが、両者はイメージ写真を選択した点においてまた、両者共、日常的な物品を被写体とする点でも(この点は前掲甲第一号証及び同乙第一号証を対比すれば明らかである。)共通する上、両者共イメージ写真であるが故に、その与える印象は優しさないしは柔らかさといったものであり、被写体自体の差異は、これを見る者に対して、右のような印象を大きく異ならせるに足る程のものではないというべきである。
 さらに、控訴人作成の会社案内は、既に認定したように、余白部分ないし白地を多く活用することにより簡素な印象を与えるものであるが、この点を被控訴人会社案内についてみると、被控訴人会社案内は、控訴人作成の会社案内と同一頁のほぼ同一箇所で極めて類似した空間ないし白地を形成しているものであって、両者間に円形か正方形かといった差異はあるものの、その与える印象は共通するといわざるを得ない。
 以上によれば、両会社案内は、記事内容の配列及び各種記事に対する配当頁数の同一という基礎的な共通性に立脚した上で、同一頁の同一箇所におけるイメージ写真の選択及び特徴的イメージ写真(三、四頁)の強度の類似性並びに同一頁及び同一箇所における余白ないし白地部分の活用といった両会社案内を特徴づける構成の類似性からみて、具体的な素材の選択及び配列に強度の共通性があるのであって、これを単なるアイデアの共通性に過ぎないというのは相当ではなく、これによれば、両会社案内の間に編集著作物としての同一性が存することを肯定して差し支えがないというべきである。
 確かに、両会社案内を子細に検討すると、前記認定の表及び裏表紙の構成の差異があり、また、前掲甲第一号証及び同乙第一号証によれば、例えば、過去の事業実績等を示す写真等に端的に見られるように個々の写真や文章が相互に異なることは明らかである。しかしながら、これらの写真や文章はいずれもこの種の会社案内に見られる常套的な表現手段であって、これらの差異が、前述したような共通性に基づく両会社案内の顕著な類似性を越えて両者の同一性を損なう程のものとまで認めることは到底できないというべきである。
(三)そこで、進んで、被控訴人会社案内が控訴人作成の会社案内に依拠したものであるか否かについて検討する。
 まず、控訴人作成の会社案内が製作されるに至った経緯について検討する。
 <証拠略>によれば、控訴人会社の営業担当社員であるP(以下「P」という。)は、平成二年一月中旬、広告の企画立案や印刷物制作等の仕事の受注を得るべく被控訴人会社東京支社を訪問し、当時、被控訴人会社の広報宣伝部部長であったQ(以下「Q」という。)と始めて面会し、以後、同年夏頃までは毎月約一回、同年夏頃からは毎月二回程度同支社を訪問するうちに、被控訴人会社で会社案内を作り替える意図があることを知った。そこで、Pは、会社案内の企画、立案を受注するべく、同年夏頃までに会社案内の見本品であるところの写真やコピー(会社案内等の写真の間等に狭み込む文章をいう。)等の割り付けをしたラフ案(甲第六号証や同第九号証のもの)や企画書等を提案するなどしたが、これらはいずれもQの要望するところと合致せず、採用とならなかった。その後もPは、時には、控訴人会社のデザイナーを伴うなどして、Qと面会しながら、同人の会社案内に対する要望等を聴取し、平成三年二月頃までに控訴人会社で作成した新たなラフ案(甲第一号証)と企画書(同第二号証)を完成し、これらを同月二六日、Qに提出した(甲第一号証が平成三年二月頃、被控訴人に提出された事実は当事者間に争いがない。)。Qは、Pに対し、右ラフ案と企画書について、社内の稟議にかけた後、採否の返事をするから一週間ないし一〇日程度待って欲しい旨述べ、その後、Pからの数回の催促にも返事を引き延ばしていたが、同年三月に入り、見積金額が高いことを理由に制作を依頼しない旨通告した。Pは、同年三月頃から四月始め頃の間に前記ラフ案や企画書の返還を受けた。
 以上の事実を認めることができ(る。)
<証拠判断略>
 次に、被控訴人会社案内が成立した経緯について検討する。
 <証拠略>によれば、右A(以下「A」という。)が代表取締役を務める株式会社ソフトは、被控訴人会社の東京支社が開設された昭和六〇年末以来、被控訴人会社と取引関係があり、被控訴人会社から、主に、ワンルームマンションのパンフレット、新聞及び雑誌への販売物件の広告並びに小冊子等の制作等を依頼されて担当してきた。そして、株式会社ソフトは、Qの依頼を受けて、平成三年三月頃に、被控訴人会社案内の企画案を完成し、この企画案に基づいて乙第一号証の被控訴人会社案内が完成したとの事実(平成三年三月頃に被控訴人会社案内が完成した事実は当事者間に争いがない。)を認めることができる。
 しかしながら、右企画案の完成に至る経緯は、以下の点からみて必ずしも明確ではないといわざるを得ない。すなわち、前掲乙第八号証(Aの平成五年五月一三日付け陳述書)には、被控訴人会社案内の作成経緯について、要旨、以下の記載がある。すなわち、右書面には、@Aは、平成二年五月、新宿の高層ビル内でQと食事をした際、当時利用していた被控訴人会社の会社案内(乙第二号証)を作り替えることが話題となり、その際、Qから企画案の提出を求められたこと、AAは、Qの右依頼に応じて、新しい会社案内の企画案として乙第五号証と同一内容の書面を提出したこと(Aは、原審において、乙第五号証については、フロッピーに残っていたと述べている。)、Bその後、何度か電話で企画上の打合せをしたが進展しないでいたこと、C平成二年一二月に入り、Qから、前記企画案に沿ったコピー案の作成を要望され、平成三年二月頃、乙第七号証のコピー案をQに届けたこと(前記陳述書の「二、」項、もっとも、右コピー案の提出時期については、乙第八号証の「八について」と題する項では平成二年の一二月頃であるとの記載もあるが、Aは、原審において、右コピー案の提出は平成三年一月か二月であると、述べている。)、Dコピー案提出後、ラフ案をQに提出したが、その日付は特定できないこと、E受注後は一〇日間程度で前記の企画案を完成したこと(なお、乙第八号証には、受注時期の記載はなく、Aの前記証言中においても、明確に述べられていない。)、以上の諸点が指摘されている。
 一方、前掲乙第四号証(Qの平成三年八月八日付け書面)には、要旨、以下の記載がある。すなわち、右書面には、@平成三年に入り、控訴人を含む複数の広告制作会社に対し、新会社案内の企画、見積もりを依頼したこと、A右依頼に当たり、新会社案内の企画立案上、留意すべき事項として、骨子、(a)文章を簡潔にして、写真を大きく取り扱うことによって視覚に訴える編集にすること、(b)生活空間(アットホーム)的な面を強調したイメージ写真で纏め、全体を統一すること、(c)各部門の事業内容を平均して取り扱うことによって会社の現況が一目で理解できるものとすること、(d)頁数は二四頁とすること、等の指示をしたこと、B平成三年二月下旬、各社からイメージ写真の取扱方において酷似した企画案が提出されたこと、C見積金額、納期等を考慮して、発注先を決定したこと、以上の諸点か指摘されている。
 そこで、右の各記載を対比してみると、一般にラフ案の作成提出はコピーの作成よりも先行する作業である(このことは、既に認定した控訴人の控訴人作成の会社案内作成過程に照らしても明らかであるし、Aも原審調書三六項に対する質問に対して認めているところである。)上、被控訴人会社においては、新たな会社案内は、文章、すなわちコピーよりも写真等を多用して視覚に訴えることに重点を置いているところからみても、株式会社ソフトにおいて、敢えて通常の作業順序を変更した合理的な理由は不明といわざるを得ない。このことは、前記の乙第五号証の企画案に即して検討しても、文章で記された右企画案の内容からイメージ写真等の内容が一義的に確定されるものとは到底いえないし、既に認定したように、被控訴人会社案内において選択された素材と配列が常套化された誰でも思いつく程度のものであることを認めるに足りる証拠がないことからみても、企画案を視覚的に理解する上で最も重要なラフ案の提出時期がコピー案の提出よりも遅れた合理的な理由を見いだすことができない。もっとも、この点について、Aは、当時使用されていた被控訴人の会社案内である乙第二号証を制作する際、株式会社ソフトが提案したラフ案のようにすればよい旨をQに提案した旨証言するが、他方で、乙第二号証の会社案内を作成した当時、Qは会社案内の制作担当者ではなかったというのであるし、Aは、Qに右ラフ案を提出したことはないと述べているのであるから、Qが右ラフ案の内容を認識していたものと認めることはできず、乙第二号証の会社案内制作時のラフ案の存在は新規制作時におけるラフ案提出の遅れを正当化する事情とはいえない。
 また、ラフ案提出の前記のような時期を前提とすると、ラフ案が株式会社ソフトから被控訴人会社に提出された時期は平成三年二月ないし三月となり、前記認定のとおり被控訴人会社案内の完成時期が同年三月頃である(この点は当事者間に争いがない。)ことからすると、ラフ案の提出により始めて前記乙第五号証の企画案が視覚的に確認可能となった後、完成までが極めて短期間であったことになる。そして、Aの証言によれば、株式会社ソフトと被控訴人会社の会社案内作成に関する打合せは全てAと営業担当社員のRだけで行い、デザイナーは直接打合せ等を一切行っていない旨証言していることをも勘案すると、AとQの打合せだけで、被控訴人会社案内の中心的な内容であるイメージ写真等を選択したとすることには重大な疑問が残らざるを得ない。なお、この点については、成立に争いのない乙第九号証にも同様の記載が認められるが、この記載をみても合理的な理由が示されているとはいい難く、右疑問を解消するに足りないというべきである。
 以上のように、被控訴人会社案内の企画案を株式会社ソフトがその独自の企画案に基づいて確定したとする点には重大な疑問が残るといわざるを得ない。
 してみると、控訴人作成の会社案内である甲第一号証がQに提出された時期からみて、株式会社ソフトにおいて被控訴人会社案内の企画案を確定するまでの間にこれを参照する時間的余裕は十分にあり、被控訴人会社と株式会社ソフトとの間には密接な関係があり、かつ、株式会社ソフトにおける被控訴人会社案内作成の経緯に関する説得的な説明に欠ける上、さらに、前項に説示した両会社案内相互間の特徴的部分の一致を総合的に勘案するならば、被控訴人会社案内は被控訴人のQの指示に基づいて株式会社ソフトが控訴人作成の会社案内を参考にして作成したものと推認するのが相当というべきである。
 したがって、以上によれば、被控訴人会社案内は控訴人作成の会社案内に依拠したものというべきである。
(四)以上の次第であって、結局、被控訴人会社案内は控訴人作成の会社案内の複製物というべきであるから、その出版、配付は控訴人の前記編集著作権の侵害に当たるというべきである。
四 進んで、損害について検討すると、控訴人会社作成の案内の完成に至る前記認定の経過事実に前掲乙第三号証を総合すると、控訴人が企画立案した編集著作物である控訴人作成の会社案内を被控訴人に利用させることにより通常受けるべき金額は、企画料二四万円、デザイン料七二万円、ディレクション料三一万一〇〇〇円の合計一二七万一〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、前記編集著作権の侵害が被控訴人の被用者であり、被控訴人の広報宣伝の担当者であったQがその業務を行うに当たり、故意になしたものであることは明らかであるから、著作権法一一四条二項により、控訴人は被控訴人に対し、右と同額の損害賠償金及びこれに対する不法行為後の日であることが明らかな平成三年八月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の損害賠償請求権を有するというべきである。
 また、被控訴人が被控訴人会社案内の出版、配付を継続していることは弁論の全趣旨により認めることができるから、控訴人は被控訴人に対し、前記の編集著作権に基づき被控訴人会社案内の出版、配付の差止請求権を有するというべきである。
五 よって、本訴請求はすべて理由があるからこれを認容すべきところ、これと異なる原判決は相当ではないから、民事訴訟法三八六条に基づいてこれを取消し、仮執行の申立てについては相当ではないからこれを付さないこととし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

 裁判長裁判官 竹田稔
 裁判官 関野杜滋子
 裁判官 田中信義


別紙 目録(一)(二)省略
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/