判例全文 line
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【事件名】城の定義事件
【年月日】平成6年4月25日
 東京地裁 平成4年(ワ)第17510号 損害賠償請求事件

判決
原告 X1
原告 雄山閣出版株式会社
右代表者代表取取役 X2
原告両名訴訟代理人弁護士 物部康雄
被告 株式会社 学文社
右代表者代表取締役 Y
右訴訟代理人弁護士 猪瀬敏明


主文
1 被告は、原告X1に対し、金96万円及びこれに対する平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告雄山閣出版株式会社に対し、金5万3000円及びこれに対する平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを5分し、その1を被告の、その余を原告らの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実
第1 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、金300万円及びこれに対する平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告雄山閣出版株式会社(以下「原告雄山閣」という。)に対し、金200万円及びこれに対する平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一)原告X1は、多年城郭の研究に携わり、日本及び海外の城につき幾多の書物、評論を発表してきている研究者であり、財団法人日本城郭協会の常任理事を務める者である。
(二)原告雄山閣は、歴史、民族、美術等の分野を中心とする教養図書の出版、販売会社である。
(三)被告は、主として、通信教育用資料の製作、出版及び図書の通信販売を行っている会社である。
2 原告らの権利
(一)原告X1は、昭和53年頃、別紙著作物目録(一)1ないし8記載の各図面(以下、個々の図面を「本件図面1」、「本件図面2」のようにいい、本件図面1ないし8を「本件図面」と総称する。)を、イラストレーターAの助力を得て創作し、これらの著作権を取得した。
(二)原告X1は、昭和47年頃、別紙著作物目録(二)記載の域を定義した文(以下「本件定義」という。)を創作し、その著作権を取得した。
(三)原告雄山閣は、昭和52年、原告X1から、本件図面1ないし8及び本件定義を含む「城」についての総合的な解説書「日本の城の基礎知識」(以下「原告書籍の旧版」という。)の出版権の設定を受けて、昭和53年6月、原告書籍の旧版を出版し、続いて平成2年1月に同書の全訂版(以下「原告書籍」という。)を出版した。
(四)本件図面1ないし8は、いずれも原告X1のこれまでの城郭についての研究の成果を図面の形として表した独創的な作品である。
 また、本件定義は、原告X1の昭和18年から昭和47年に至る30年間の日本の城の研究成果及び昭和33年から昭和47年に至る15年間の世界の城の研究成果を総合して、昭和47年に初めて公表したものであり、それ以前もそれ以後も、原告X1以外に城の定義をした者は皆無である。
(五)原告X1は、昭和45年頃、多大の労力を費やして、日本の各地の城につき、その城に触れた小説その他の資料を整理し、別紙著作物目録(三)記載の資料一覧表(以下「本件一覧表」という。)を創作し、その著作権を取得した。本件一覧表は、昭和45年に朝日新聞社から発行された書籍「日本の城と文学と」中に掲載された。
3 被告の著作権法違反行為
(一)被告は、東洋文化学院名で、平成3年9月頃から、「城と城下町 見方講座」(全6巻)という書籍(以下「被告書籍」という。)を作成し、その著作者となったうえ発行し、これを販売している。
(二) 被告書籍第1巻及び第2巻に掲載されている別紙侵害著作物目録(一)1ないし8記載の図面(以下、個々の図面を「被告図面1」、「被告図面2」のようにいい、被告図面1ないし8を「被告図面」と総称する。)は、それぞれ本件図面1ないし8と酷似しており、本件図面1ないし8の複製物であって、原告X1の本件図面1ないし8についての著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害するとともに、原告雄山閣の右各図面についての出版権を侵害するものである。
 本件図面は、その解説記事とともに理解すべきものであるが、被告図面の解説記事は本件図面の解説記事と酷似しており、この点からも複製の事実が明らかである。
(三)被告書籍第1巻に掲載されている別紙侵害著作物目録(二)において赤枠で囲まれた範囲に記載された城を定義した文(以下「被告定義」という。)は、本件定義とほぼ同一であり、かつ、誤った変更をしており、本件定義の複製物であって、原告X1の著作権を侵害するとともに、原告X1の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害し、かつ、原告雄山閣の本件定義についての出版権を侵害するものである。
(四)被告書籍第3巻に掲載されている別紙侵害著作物目録(三)記載の資料一覧表(以下「被告一覧表」という。)は、原告X1が作成した本件一覧表と大部分同一であり、本件一覧表の複製物であって、原告X1の本件一覧表についての著作権を侵害する。
(五)被告書籍は、通信教育の一環のごとく装いながら、購入者に対し、「城郭考証士」なるあやしげな称号の付与をちらつかせるといった方法で販売されている物であり、原告X1の学者としての名誉、声望を著しく損う方法により原告の著作物を利用した点でも、原告X1の著作者人格権を侵害するものである。
(六)右侵害に関する原告、被告各書籍における掲載箇所は、別紙複製・模倣部分比較表のとおりである。
4 故意・過失
 被告の右3の侵害行為は故意によるものである。
 仮に、被告書籍第1巻ないし第3巻に登載されている被告図面、被告定義、被告一覧表が、株式会社実践実務教育協会及び株式会社実践実務制作センターの作成したもので、被告がその著作権を買い取ったものであるとしても、被告書籍の企画は被告が行い、その完成品を被告の名前(東洋文化学院)のみで販売し、かつ豪華な執筆陣による制作と銘打っている以上、被告は被告書籍に著作権法違反がないかにつき相当の注意を払うのが当然であり、被告には、複製権、出版権の侵害につき右注意を怠った過失又は未必の故意がある。
5 損害額
(一)原告X1
(1)原告書籍の実質的な改変物である被告書籍に対し、原告が本件著作物の複製を許可することは考えられないことであるが、もしこれを一般化して検討すれば、本件著作物の使用料は一括払いとして金200万円が相当である。
(2)原告X1は、被告による前記著作者人格権の侵害により、城の研究の第一人者としての立場に著しい打撃を受け、甚大な精神的損害を受けたものであり、これを金銭で慰謝するとすれば、金300万円が相当である。
(3)原告X1が、本件に関し、通常必要とする弁護士費用相当額は金50万円である。
(二)原告雄山閣
(1)被告書籍は販売価格が1部6巻で3万8000円であり、既販売部数は少なくとも3600部は下らないから、売上総額は少なくとも1億3680万円である。売上額に占める原価及び経費は、広告費を含めて約5割と判断されるから、利益率を5割として、被告が被告書籍の販売により得た利益は金6840万円である。
 原告書籍の主眼は、現存しない過去の城をテーマとすることから、城にまつわる図面は非常に重要な要素を占め、場合によっては文章は図面の解説文となっているほどである。このような、被告書籍における城の図面の重要性を考慮すると、被告が本件図面の掲載により受けた利益は、右利益の5パーセントを下ることは考えられず、被告が原告雄山閣の出版権を侵害し、違法複製により得た利益は少なくとも342万円である。
(2)原告雄山閣が、本件に関し、通常必要とする弁護士費用相当額は金50万円である。
 6 よって、原告X1は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、前記損害額550万円の内金300万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告雄山閣は、被告に対し、同じく不法行為による損害賠償請求権に基づいて、前記損害額392万円の内金200万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成4年10月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)、(二)の事実は知らない。同(三)の事実は認める。
2 請求原因2(一)の事実は知らない。同(二)の事実は否認する。同(三)の事実は知らない。同(四)の事実は否認する。同(五)の事実のうち、本件一覧表の配列の著作物性は認めるが、その余の事実は否認する。
3 請求原因3(一)のうち、被告が、東洋文化学院名で、平成3年9月頃から、被告書籍の著作者となったうえ発行したことは認め、その余の事実は否認する。同(二)ないし(六)の事実はいずれも否認する。
4 請求原因4の事実は否認する。
5 請求原因5(一)(1)ないし(3)の事実はいずれも否認する。同(二)(1)のうち、被告書籍の販売価格が1部6巻で一括払いの場合代金3万8000円であることは認め、その余の事実は否認する。同(二)(2)の事実は否認する。
6 請求原因6は争う。
三 被告の主張
1(一) 本件図面のうちの卑弥呼の王宮、石運びの図、環濠集落、豪族の居館、チャシに対応する本件図面については遺跡、遺物、考古学等について公知性があり、著作者らの創造性、独占性はない。
(二) 本件定義うち、城が1区画の土地に設けられ、その選定にあたっては、住居、軍事、政治目的をもって行われることは公知の事実であり、原告の独創性は全くない。また、城が防御目的であることも公知の事実であり、攻撃的なものはめったにない。
(三) 本件一覧表に記載されている参考作品、参考文献は公知の著作物であり、本件一覧表はその配列に創作性があるにすぎない。
2(一) 被告書籍によって構成される被告の通信講座「城と城下町 見方講座」の特徴は、一般大衆向けに、@古代から近世までの全国600余りの城とその城下町に深い造詣をもって探訪できる歴史講座であること、A各藩の歴史を充分に把握しながら、その城と城下町で戦った武士の姿、庶民の生活を史実に基づいて解説したものであること、B全国の主要城跡、城下町の情報が一目瞭然であり、探訪のポイント、所在地、交通手段、現状、年中行事などが詳述されていることである。被告は、右講座の完成までに1年余りの調査をしたほか、古代の城から近世の城郭までの紹介をするため、全国の市町村、博物館、教育委員会、観光協会から資料の提供を受け、これらをもとに作成したものであって、原告書籍とは全く別個独立の異なった構成、内容である。
(二) したがって、被告書籍に使用した本件図面を含む図版は、既に辞書、辞典などに公開されているものに独自の考案を加えて全て書き起こしたものである。また、本件定義は人工的なものに限定しているが、被告定義は、自然を利用した城もあることから、かっこ書きで人工的及び自然的の両方を上げている点及び本件定義は「構築物」よりも広い「構造物」をも城の範疇に含めている点において被告定義と異なっている。さらに、被告一覧表は本件一覧表の選択、配列とは全く別個のものとなっている。
3 被告書籍の原稿の執筆にあたったのは、株式会社実践実務教育協会及び株式会社実践実務制作センターのスタッフであり、被告は完成された著作物を買い取ったにすぎない。
4 被告は、原告らとの紛争を回避するため、原告らが指摘している複製、模倣部分比較表の箇所をいずれも全面削除し、平成4年2月14日、被告書籍の改訂版を印刷し、以後改訂版を販売、頒布している。
5 被告は、被告書籍を1セット3万8000円で1635名に販売し、その売上高は6213万円となった。しかし、制作費に約2050万円、カタログ、広告費に約3940万円、原告書籍のテキスト中第1ないし第3巻破棄分及び再版テキスト印刷費に約310万円を要し、約87万円の赤字となっており、原告が主張するような利益は存しない。
 また、被告は、講座会費として一括払いで金3万8000円(分割払いでは2800円の14回払い)を受領しているが、その中には、被告書籍代のほかに、講座入会者の知識確認のための添削指導料、質問回答の指導料、広告費用、案内書作成代が含まれており、講座会費がそのまま書籍代金と一致しない。
第3 証拠
 本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由
一 弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第4号証、原告の書籍であることについて争いのない検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(一)及び(二)が認められ、同(三)は当事者間に争いがない。
二 本件図面の著作物性
 前記甲第4号証及び検甲第1号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第5号証の1、2、甲第6号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 原告書籍は、平成2年1月20日、原告雄山閣が発行したもので、原告X1が城とは何かという疑問に解答を提出し、城の本質と城の基本知識を明確に説明することを目的として、一般史学、考古学、建築史、土木史、戦史等の諸学問との関連と世界的視野に基づいて、日本の城の発生から終焉までを、多様な角度から系統的、総合的に研究、解説したものであり、「城とは何か 城の定義」、「城のはじまり」、「日本の城 その発達」、「日本の城 その種類と分類」、「日本の城 その構想と技術」、「日本の城 その機能」、「日本の城 その構造」、「日本の城 その攻城と守城」の章からなる本文164頁、城の用語事典、参考文献、城郭年表、図版、索引等によって構成されるもので〈「ので」が重複〉のである。
 本件図面は、原告書籍における記述の説明内容の理解を助けるために、学問的知識に基づいて、概念的に作成された想像図である。
 本件図面は、いずれも、白黒の2色で、文中に挿絵風に描かれているが、ハイライト版の網が、水面、屋根ばかりではなく、地表、樹木、陰影等に用いられているため、輪郭線は幾分目立たない。その下図は原告X1が作成し、原告から依頼を受けたイラストレーターAが、原告の指示の下に、右下図に基づいて作成したものである。
 以下、順次図面の内容を検討する。
(一)別紙著作物目録(一)1記載の図面(以下「本件団面1」という。)は、「古代の城」と題する図面で、「日本の城 その発達」の章の古代の城についての記述部分に掲載されたものである。
 手前を低く、奥を高く、3段の段状に構成された地面の1段目の2段目へ上る石段のそばには、直刀を腰に差し、長柄の矛を地上に立てて持った兵士が直立して警備にあたっている。1段目から2段目に上る石段を上った所には両側に立てた丸太の上部にもう1本の丸太を渡した形式の門と木製の両開きの門扉が設けられ、門扉は右側だけが開けられている。門の両側には2段目の縁部に沿って木の棚が続いている。この門のすぐ右隣には丸太を組み上げた物見櫓風の建物がある。門から3段目への石段に通じる通路上には、同様の装備の兵士が一人歩いている。2段目から3段目への石段を上った所には、2段目と同じ門が設けられているが門扉はない。この門の両側には3段目の縁部に沿って木の柵が設けられている。3段目には中央に千木と鰹木を有する切妻屋根で妻入り高床式の大きな建物とその左右に小さな切妻屋根の建物が建っており、これらは木立に囲まれている。大きな建物は周囲に回廊があり、建物の中にいる女主人風の者に対して、回廊上及び3段目の門のそばにいる人物がひざまずいて頭を垂れている。
(二)別紙著作物目録(一)2記載の図面(以下「本件団面2」という。)は、「石搬びの図」と題する図面で、「日本の城 その構想と技術」の章の土木工事についての記述部分に掲載されたものである。
 画面の両側には、高さが人間の5倍位、幅が高さの2倍位ある大きな石が、丸太状のころの上の修羅に載せられている。石には太い綱が縦2条、横1条に結びつけられ、綱は石から右上方に長く延びて画面右側の丘の上に設けられた南蛮ろくろの太い軸に巻きつけられている。南蛮ろくろの軸には長い棒が水平方向に十字状に取り付けられており、多くの人間が棒を押して軸を回転させ、綱を巻き取って、石を引こうとしている。石の後部にも多くの人が取りつき、石を丘の方向へ動かそうとしている。石の背後には、材木や丸太が置かれ、周囲には、荷車やもっこで資材を運ぶ人夫、大小を差した武士、裃をつけた従者を従えた上級武士等様様の人がおり、旗指物や高張提燈も掲げられている。背後の霞の切れ間からは、家々の屋根や松の木が見え、背景には山が連なっている。
(三)別紙著作物目録(一)3記載の図面(以下「本件図面3」という。)は、「弥生時代集落図」と題する図面で、「日本の城 その構造」の章の住居防御系の城の構造についての記述部分に掲載されたものである。
 全体が鳥瞰図であり、周囲を環濠で囲まれ、その内側に木の柵を設けた、隅の丸い方形に近い形状の敷地内には、中央に切妻屋根の高床式の建物(以下「中央の建物」という。)が柵に囲まれて建っている。中央の建物の右方、下方及び左下方には、上部に煙出しを設け略円錐状に草葺屋根を地上まで葺き下ろし、周囲に溝を設けた建物が2戸ずつ一組になって瓢箪形に形作られた柵に囲まれている区画がある。また、中央の建物の上方には円形に形作られた木の柵に囲まれた右同様の草葺の建物が1戸ある区画があり、中央の建物の左上方には、同じく木の柵に囲まれ、中に2戸の右同様の草葺の建物と高床式の建物がある区画がある。
(四)別紙著作物目録(一)4記載の図面(以下「本件図面4」という。)は、「豪族の居館」と題する図面で、本件図面3と同じ記述部分に掲載されているものである。
 林の中の、濠に囲まれ、方形に盛土された敷地の周囲は柵がめぐらされており、その四隅には2層の建物が建てられている。前面には濠を渡る橋と門が設けられ、門の両脇には塀に沿うようにそれぞれ細長い建物が建てられている。敷地の前面左隅には見張り櫓風の建物が建っている。木立に囲まれた敷地の中央部には主人の居館と思われる横長の大きな建物があり、そこからやや距離を置いて、右側に1戸、左側に2戸の建物がある。
(五)本件図面5ないし8は、いずれもチャシを描いた図面で、まとめて「チャシの四形体」との題が付され、「日本の城 その構造」の章の戦闘防御系の城の構造についての記述部分に掲載されたものである。チャシとは、アイヌ語で砦、館等の意味をもつ言葉である。
 本件図面5は、「丘先形チャシ」と題する図面である。海、川又は湖と思われる水面へ向けて半円状に突き出した台地状の土地の根元の部分に弧を描く濠を堀削し、台地の周囲を木立や木の柵で囲み、チャシは、根元の陸地部分とは道路と橋によってつながっている。チャシ内には道路が縦横に走り、中に数戸の建物が建っている。
 本件図面6は、「丘頂形チャシ」と題する図面である。円錐台状の小高い丘の麓の周囲には濠が掘られ、上部の平面部分の縁は円形状に柵で囲まれ、その左端近くに設けられた門から平地へ向けて下る傾斜した通路と濠を渡る橋が設けられている。木の柵の中には、木立の間に数戸の家が建っている。画面の右奥の遠景には同様の丘頂チャシが小さく描かれている。
 本件図面7は、「孤島形チャシ」と題する図面である。水面に囲まれたほぼ円形の島の岸から少し上がった位置に柵が設けられ、その柵の中に木立に囲まれて、数戸の家が建っている。柵の1か所に門が設けられ、そこから岸まで下る階段があり、階段のそばの水面には舟が3叟浮かんでいる。
 本件図面8は、「接崖形チャシ」と題する図面である。切り立った崖の上の手前へ半円形に突き出した平地部分の崖とは反対側の部分を柵で仕切って敷地とし、柵の中央部分1か所に門が設けられている。柵の中には、木立や数戸の家が点在している。
2 右認定の事実によれば、本件図面1ないし8は、いずれも、歴史上の建物、集落、各種のチャシ、城の建設工事等を概念的に描いた想像図であり、そこには作者の歴史学、考古学等についての学職に基づいて、描かれた対象の特徴をわかりやすく表現する創意が看取でき、著作物と認めることができる。そして、本件図面自体は、原告がイラストレーターのAに依頼して描いて貰ったものであるが、Aは、原告の下図に基づいて原告の指示下に作図したものであるから、本件図面は原告の著作物であると認めるのが相当である。
三 本件定義の著作物性
1 前記検甲第1号証によれば、本件定義は、原告書籍の本文の最初の、「城とは何か 城の定義」と題する章で、日本の城の定義がなかったことを指摘し、城の基礎知識のはじめに必要なことは「城とは何か」を理解するための城の定義であろうと述べ、既刊の辞典、事典類における説明的な意味での「城」の字義や解釈を列挙した上で、城を発生論的に観察し、発達、推移の状態を広く世界に追った結果を城の定義として成文すると次のとおりであるとして、記載されているものであり、その後に、本件定義の個々の要素についての説明が加えられていることが認められ、前記甲第4号証によれば、原告は、長年の調査研究の成果として、本件城の定義と基礎理論を確立し、城の学術的な体系を理論化したものと自負していることが認められる。
2 右認定の事実及び本件定義自体によれば、本件定義は、原告が長年の調査研究によって到達した、城の学問的研究のための基礎としての城の概念の不可欠の特性を簡潔に言語で記述したものであり、原告の学問的思想そのものと認められる。そして、本件定義のような簡潔な学問的定義では、城の概念の不可欠の特性を表す文言は、思想に対応するものとして厳密に選択採用されており、原告の学問的思想と同じ思想に立つ限り同一又は類似の文言を採用して記述する外はなく、全く別の文言を採用すれば、別の学問的思想による定義になってしまうものと解される。また、本件定義の文の構造や特性を表す個々の文言自体から見た表現形式は、この種の学問的定義の文の構造や、先行する城の定義や説明に使用された文言と大差はないから、本件定義の表現形式に創作性は認められず、もし本件定義に創作性があるとすれば、何をもって城の概念の不可欠の特性として城の定義に採用するかという学問的思想そのものにあるものと認められる。
 ところで、著作権法が著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって、……」と規定しているのは、思想又は感情そのものは著作物ではなく、その創作的な表現形式が著作物として著作権法による保護の対象であることを明らかにしたものと解するのが相当であるところ、右に判断したところによれば、本件定義は原告の学問的思想そのものであって、その表現形式に創作性は認められないのであるから、本件定義を著作物と認めることはできない。
 学問的思想としての本件定義は、それが新規なものであれば、学術研究の分野において、いわゆるプライオリティを有するものとして慣行に従って尊重されることがあるのは別として、これを著作権の対象となる著作物として著作権者に専有させることは著作権法の予定したところではない。
四 本件一覧表の著作物性
1 本件一覧表の配列が著作物性を有することは当事者間に争いがない。
 本件一覧表を掲載した図書であることについて争いのない検甲第2号証によれば、以下の事実が認められる。
(一)本件一覧表は、日本の城を素材とした多数の文学作品の1節を、その城又は城跡等の写真と組み合わせて編集した原告X1著作の書籍「日本の城と文学と」(昭和45年10月20日朝日新聞社発行)の末尾に掲載されたものである。
(二)本件一覧表は、「日本の城と作品と作者一覧」との表題が付され、上段を城名欄、中段を作品名欄、下段を作者欄とし、各段の間を実線の罫線で区切り、城名欄に日本全国に実在する城の名称及び架空の城を、作品名欄にこれらの城を舞台、題材とする江戸時代以降現代までの歌舞伎、小説、戯曲、詩、短歌、紀行文、随筆等著名な作者による著名な作品ばかりではなく、大衆的には必ずしも文学者として著名でない作者の作品を含む文芸作品の題名を、作者欄に右文芸作品の作者名を、一覧表形式で記述してまとめたものである。
 その内容は、城名欄には、日本全国に実在する著名な城92箇所が、北海道に所在する五稜郭から鹿児島県に所在する鹿児島城まで北から南へ順に配列され、最後に架空の城が配置されており、作品名欄、作者欄には、城名の同じ行から文芸作品名延べ217篇とその作者名が記載され、原告書籍の本文で取り上げた作品名の頭部には○印が付され、本文との関連が示されている。
 一つの城について挙げられた作品数は、最も多い江戸城が19篇で、5篇以上挙げられた城は10箇所にのぼっている。
2 右認定の本件一覧表に記載されている実在の城名、城を舞台として著述された文芸作品名及びその作者名は、それぞれ単なる事実であって、思想又は感情を創作的に表現したものとは認められず、これらを一覧表形式でまとめること自体はアイデアであって、著作物として著作権法上保護されるものではない。
 しかし、江戸時代以降、主として明治時代から現代までの多様なジャンルの、しかも文芸作品の中から、日本の実在の城、架空の城を舞台とするもの217個を作者名と共に選択し、これを舞台となった城ごとに分類、配列し、これを城の所在地によって概ね北から南の順に配列し、我国における城と文芸作品との関係を一見して分かりやすくまとめた一覧表とした本件一覧表は、編集物であって、その素材の選択及び配列によって創作性を有するものと認められるから、本件一覧表は著作物と認められる。
五 原告雄山閣の出版権
 弁論の全趣旨及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第1号証によれば、原告X1と原告雄山閣とは、昭和52年2月1日、原告書籍の旧版についての出版契約を締結して、原告X1が原告書籍の旧版についての出版権を原告雄山閣に設定し、その後、原告X1はその全訂版である原告書籍についても、その出版権を原告雄山閣に設定したことが認められる。
六 本件図面についての著作権侵害及び出版権侵害の有無について
1 被告書籍であることについて争いのない検乙第1号証ないし検乙第6号証によれば、次の事実が認められる。
(一)被告書籍は、全6巻からなり、被告図面は、被告書籍の第1巻「城の変遷」及び第2巻「城をつくる」において、その説明内容の理解を助けるために掲載されているものであり、いずれも、白黒の2色で、文中に挿絵風に描かれているものであるが、ハイライト版の網の用い方が、水面や屋根に限られているため、線画の輪郭を鮮明に認識することができる。
 被告図面の近傍はもとより、被告書籍中のどこにも、被告図面が原告書籍中の図面に依拠したものであることや、その作者としての原告の氏名は表示されていない。
(二)被告図面1は、「卑弥呼の王宮」と題する図面で、被告書籍第1巻の第1章城のはじまり中の女王・卑弥呼の宮殿についての記述部分に掲載されたものである。
 その構図、内容は、3段目中央の大きな建物を幾分大きく描いたため、その建物の右手の小さな建物と立木が描かれていないこと、木の柵の縦の柱の数や横棒の位置等の相違の外は、前記二1(1)に認定した本件図面1の構図内容と極めて似ている。
(三)被告図面2は、「石運びの図」と題する図面で、被告書籍第2巻の第1章城づくり中の石の運搬についての記述部分に掲載されたものである。
 その構図、内容は、前記二1(二)に認定した本件図面2の構図、内容に極めて似ている。
(四)被告図面3は、「環濠集落」と題する図面で、被告書籍第1巻の第1章城のはじまり中の環濠集落についての記述部分に掲載されたものである。
 その構図、内容は、前記二1(三)に認定した本件図面3の構図、内容に極めて似ている。
(五)被告図面4は、「豪族の居館」と題する図面で、被告書籍第1巻の第2章城についての基礎知識中の居館の守りについての記述部分に掲載されたものである。
 その構図、内容は、前記二1(四)に認定した本件図面4の構図、内容に極めて似ている。
(六)被告図面5ないし8は、被告書籍第1巻の第3章城の発達中の北海道のチャシについての記述部分に掲載されたものである。
 被告図面5は、「丘先形チャシ」と題する図面であり、その構図、内容は、前記二1(五)に認定した本件図面5の構図、内容に極めて似ている。
 被告図面6は、「丘頂形チャシ」と題する図面であり、その構図、内容は、画面の右上の遠景に小さく描かれた丘頂チャシの位置が本件図面6よりも、幾分左上方へ寄ったこと以外は、前記二1(五)に認定した本件図面6の構図、内容に極めて似ている。
 被告図面7は、「孤島形チャシ」と題する図面であり、その内容、構図は、前記二1(五)に認定した本件図面7に極めて似ている。
 被告図面8は、「接崖形チャシ」と題する図面であり、その内容、構図は、前記二1(五)に認定した本件図面8に極めて似ている。
 2 前記二及び右1認定の事実によれば、被告図面1ないし8と、本件図面1ないし8とを対比すると、ハイライト版の網の用い方の差に起因する輪郭線の鮮明さの違いがあるけれども、具体的な構図、内容は微細な点を除けば極めて似ているものであり、しかも、本件図面1ないし8は学問的知識に基づいて概念的に作成された想像図であるから、被告図面は本件図面と関係なく作成されたものが偶照に本件図面と似たものとはとうてい解することができず、被告図面1ないし8は、それぞれ、本件図面1ないし8に依拠して作成されたものと推認することができる。そして、被告書籍中には、本件図面に依拠したものであることも、著作者である原告X1の氏名の表示もない。
 したがって、被告は、被告書籍に被告図面を掲載、発行することにより、原告X1の本件図面についての複製権、氏名表示権、同一性保持権及び原告雄山閣の出版権を侵害したものということができる。
 原告X1は、被告の本件図面の利用は原告の名誉、声望を著しく損う方法による利用である旨主張し、成立に争いのない甲第8号証によれば、被告は講座の修了者に城郭考証士という称号を授与する旨広告していることが認められるところ、右称号は法的根拠もなく、社会的に評価されるものとも認められず、原告X1としては、そのような講座の教材である被告書籍に原告図面が利用されたことに不快を感じたことは理解できるが、右1に認定したとおり、被告図面はその内容に対応した記述の箇所に掲載されているものであり、しかも、被告書籍は学術書とはいえないものの、一般読者の知識、教養を高める目的で出版されているものであり、かつ、原告の氏名が表示されているわけでもないことからすれば、被告図面の利用が、原告X1の名誉、声望を著しく損う方法による利用であるとは認めるに足りない。
七 本件一覧表についての著作権侵害の有無について
1 被告一覧表は、被告書籍第3巻「城の攻防と合戦」の巻末に「城と文学」との表題で、日本全国に実在する著名な城の名称とその城を舞台、題材とする一部江戸時代のものを含むが明治以降現代までの大衆的にも著名な作者の小説を中心とし、例外的に一部の戯曲、詩、紀行文などの著名な文芸作品と題名とその作者名を列挙してまとめたものであり、その表現形式及び表現内容は、まず、城の名称として、日本全国に実在する著名な城のうち31が、北海道に所在する五稜郭から鹿児島県に所在する鹿児島城まで北から南へ順に配列され、最後に架空の城が配置されており、そして、右各城の名称の次行から文芸作品合計52篇とその作者名が1行に記載されているが、一つの城について挙げられた作品数は、最も多い大坂城が5篇、これに次ぐ江戸城が4篇で、その他の城については3篇以下であることが認められる。
2 そこで、本件一覧表と被告一覧表とを対比すると、両者はいずれも日本全国に実在する城が取り上げられ、北海道に所在する五稜郭から鹿児島県に所在する鹿児島城まで北から南へ順に配列され、最後に架空の城が配置されている点、各城ごとにその城を舞台、題材とする文芸作品、その作者を記述している点で共通しているが、他方、本件一覧表では、日本全国に実在する城92箇所と架空の城が選択されているのに対し、被告一覧表では、日本全国に実在する著名な城31箇所と架空の城のみが選択されている点、本件一覧表では、江戸時代以降現代までの多様なジャンルの、大衆的には必ずしも文学者として著名でない作者の作品を含む文芸作品延べ217篇とその作者が取り上げられていて、一つの城に5篇以上取り上げられた城も江戸城の19篇を筆頭に10箇所にのぼっているのに対し、被告一覧表では、一部の例外を除けば、明治時代から現代までの大衆的に著名な作者の小説を中心とした、文芸作品合計52篇及びその作者が取り上げられていて、一つの城に5篇取り上げられたのは大坂城のみで、江戸城が4篇、他の城は3篇以下の作品が取り上げられている点において相違しており、被告一覧表の中には本件一覧表には掲載されていない会津若松城の「会津士魂」(早乙女貢)、躑躅ケ崎館の「武田信玄」(新田次郎)、上田城の「真田太平記」(池波正太郎)、名古屋城の「江戸三国志」(吉川英治)、大垣城の「武州公秘話」(谷崎潤一郎)の5作品が含まれていることに照らすと、被告一覧表は、初心者向けに、限られた数の城について、大衆になじみのある作品、作者を少数選択したものであるのに対し、本件一覧表は、高度の知識を求める読者を対象として、対象とする城も3倍近く、取り上げた作品のジャンルの幅も広く、一般になじみのない作品、作者も取り上げるなど、選択の基準や実際に選択された作品を異にするもので、被告一覧表が本件一覧表と同一又は類似するものとは認められず、被告一覧表を含む被告図書の出版が、原告X1の本件一覧表についての著作権、著作者人格権及び原告雄山閣の出版権を侵害するものということはできない。
八 被告書籍の発行者及びその故意、過失
 被告が、東洋文化学院名で、平成3年9月頃から、被告書籍の著作者となったうえ発行したことは当事者間に争いがない。
 前記甲第8号証、証人Bの証言により真正に成立したものと認められる乙第2号証、被告書籍であることに争いのない検乙第1号証ないし検乙第6号証及び証人B一の証言によれば、被告書籍は、被告の営む通信教育講座の一つである「城と城下町 見方講座」の教材として被告が発行するものとして被告によって企画されたものであること、実際の原稿の執筆、図版の作成、編集の作業は、被告がかねてから教材等の制作を下請けさせていた株式会社実践実務教育協会のスタッフやイラストレーターに下請けさせて行ったものであるが、著作権は被告に帰属し、被告の名義で発行するものであることは同社との契約の前提となっていたこと、被告書籍作成の資料の一部となった全国の地方公共団体、観光協会等から収集された各地の城についての資料は被告が提供を依頼して集めたものであること、被告は、株式会社実践実務教育協会のスタッフと打合せを重ねて、被告書籍を作成したものであることが認められる。
 前記六に認定判断したとおり、被告は被告書籍に被告図面を掲載発行することにより、原告X1の本件図面についての複製権、氏名表示権、同一性保持権を侵害し、原告雄山閣の出版権を侵害したものであるが、右認定のとおり、被告書籍を企画、発行した被告としては、制作を下請けさせた株式会社実践実務教育協会のスタッフが他人の著作権を侵害するような方法で原稿や図版を作成することのないよう契約上これを要求し、納入された原稿、図版が他人の著作権を侵害するものでないか点検すべき義務があるのにこれを怠った過失があるものと認められる。
九 原告らの損害について
1 原告雄山閣の損害
(一)(1)原告書籍が1部6巻で一括払いの場合代金3万8000円であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第3号証及び証人Bの証言によれば、被告が、被告書籍を販売開始した平成3年4月25日から平成4年2月13日までに、被告書籍を通信販売講座用の教材として1635部販売し、一括払いの場合のその代金は3万8000円であること、その売上高は6213万円であることが、被告書籍の改訂版であることに争いのない検乙第7号証ないし検乙第12号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成4年2月14日以降は、被告書籍の改訂版を販売しており、右改訂版においては、被告図面は全て削除されていることが、それぞれ認められる。
 被告は、右代金の中には添削指導料が含まれているから、講座会費と書籍代金とは一致しないとも主張するが、前記甲第8号証、検乙第1号証ないし検乙第6号証によって認められる被告書籍の内容、体裁からしても、また、修了後に授与されるのが城郭考証士なる法令上の根拠もなく、社会的に評価されるものとも認められない称号であることからしても、添削指導がそれ程多いものとは認められず、現に乙第3号証に添付された収支表にも添削指導経費が独立の項目として上げられていないことからしても、被告の講座は実質的には被告書籍の販売をその内容としているものと推認され、被告の主張は理由がない。
 前記甲第8号証、乙第3号証、証人Bの証言によれば、被告書籍は、一般の書籍のように取次店、書店を経て販売されるものではなく、通信教育講座として、新聞、雑誌で広告し、案内書の送付を希望した者に案内書を送り、それを見て受講を申し込んだ者に教材として送付され、講座費用として代金が支払われるものであり、経費としては広告費、案内書の作成、送付のための費用が大きいけれども、取次店や書店の利益分等の流通経費を見込む必要はないこと、前記売上期間に支出された被告書籍関係の経費は約6300万円であるが、そのうち、被告書籍(6巻組み)1部当たり2902.6円の1635部分の474万円余とその送料130万8000円が厳密に右売上分のみに対応する経費で、その余の教材製作費、広告費等の営業関係費は、右期間以後の売上げ分にも対応すべきものであることが認められ、その他の一般経費を考慮しても、被告書籍の前記売上げによる被告の純利益の割合は売上高の20パーセントと認めるのが相当であり、したがって、被告の純利益は1242万6000円となる。
(2)ところで、前記検乙第1号証ないし検乙第6号証によれば、被告書籍6巻の総頁数は577頁であるところ、そのうち被告図面の占める割合は、被告図面1が約2分の1頁、被告図面2ないし4がいずれも約3分の1頁、被告図面5ないし8が合わせて約3分の1頁であり、合計約2頁であることが認められる。そして、被告書籍における図面と文字部分との売上げに寄与する割合には特段差異を認めることができないから、被告の純利益に占める侵害部分の割合は、577分の2となる。
 そうすると、侵害部分により被告が得た利益は、次の計算式のとおり、4万3000円となる。
 12,426,000×2÷577≒43,000
 よって右4万3000円が原告雄山閣の被った損害と推定される。
(二)弁護士費用
 右損害の認容額及び本件事件の性質等を考慮すると、原告雄山閣について本件出版権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は1万円と認めるのが相当である。
(三)右(一)、(二)の合計は5万3000円となる。
2 原告X1の損害
 (一)前記二に認定した本件図面の性質、内容、同六に認定した被告図面の利用の状況及び右1(一)で認定した事実によれば、原告X1が本件図面の利用により通常受けるべき許諾料の額は、本件図面1ないし4がそれぞれ8万円、本件図面5ないし8が合わせて8万円の合計40万円と認めるのが相当である。
(二)また、前記甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は日本における城の研究の第一人者であるとの自負をもち、その長年の研究の成果に基づいて本件図面を作成したものであること、そのため被告が原告X1に無断で本件図面の一部を改変し、作者である原告X1の氏名を表示することなく利用したことにより、精神的損害を受けたものと認められ、原告X1の氏名表示権、同一性保持権の侵害による精神的苦痛を償うに足りる慰謝料は40万円と認めるのが相当である。
(三)右損害の認容額及び本件事件の性質等を考慮すると、原告X1について本件と相当因果関係のある弁護士費用の額は16万円と認めるのが相当である。
(四)右(一)ないし(三)の合計は96万円となる。
一〇 よって、原告X1の請求は金96万円及び不法行為の日以後である平成4年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、原告雄山閣の請求は金5万3000円及びこれに対する不法行為の日以後である平成4年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条、93条1項を、仮執行宣言につき同法196条1項を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 西田美昭
 裁判官 大須賀滋
 裁判官 宍戸充は差支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官 西田美昭
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